第83号 2014.11.23発行 by 矢吹 晋
    中共政権の爛熟・腐敗③
金持ちがますますリッチに、貧乏人はますますビンボーに
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 北京大学中国社会科学調査中心による『中国民生発展報告2014』(2014年7月25日発表)を紹介しよう。これは「中国家庭追跡調査」(China Family Panel Studies)の結果であり、プロジェクトの責任者は、北京大学「千人計画」講座の謝宇教授である。
 2013年報告と比べて2014年報告は、富と経済的不平等をよりいっそう浮き彫りにして話題を呼んだ。この調査は内蒙古、新疆、チベット、青海、寧夏、海南、香港・マカオ・台湾地区を除く全国25省・直轄市・自治区を対象としたサンプリング調査である。2010年以来、全国約1・5万戸家庭の約5万人を対象として長期間、追跡調査を行うものだが、国家統計局のサンプル調査が全国ベースで約2万戸だから、これよりも優れた調査と評してよい。
 主な内容は以下のごとくである。

1.家庭資産2012年全国家庭の純資産の平均値は43・9万元、全国の「私人保有総資産額」は188・4兆元であった。2010年から2012年にかけて中国家庭の「平均純資産」は、17%増えた。このうち、不動産は家庭財産の主要部分であり、2010〜2012年の伸びは、「総資産」の伸びの半分以上を占める。
 他方で財産の不平等度は激化した。1995年に中国の資産ジニ系数(Wealth Gini)は0・45であったが、2002年には0・55に高まった。ちなみにこれは「所得ベースのジニ係数(Income Gini)」とは異なる。すなわち「フローベースの格差」と「ストックベースの格差」である。
 2012年の中国家庭純資産のジニ系数は0・73であり、所得階層の上位1%の家庭が全国3分の1以上の財産を独占し、下位25%の家庭の保有する資産総額はわずか1%程度にすぎなかった。
 中国の「資産(ストック)不平等度」は明らかに「所得(フロー)の不平等度」よりも甚だしい。都市・農村格差と地域格差という構造要因が資産格差の重要な原因であるが、家庭レベルで資産の不平等およびその変化を見ると、次の二つの特徴がある。
 一つには、「体制内工作」の家庭財産水準は「体制外工作」家庭をはるかに上回り、「体制内工作」家庭の資産の伸びは「体制外家庭」の資産の伸びを上回り、「体制内外」の家庭資産の格差を拡大している。
ここでいう「体制内外」とは、国有企業(機関)、集団所有制(機関)という「公有制」部分と私有制(農民、自営工商業など)部分を対比したものである。
 二つには、「中等所得家庭」の資産の伸び率が大きく、この階層内部の格差は小さいことだ。この特徴は、2013年『中国民生発展報告』のフロー変動の特徴と一致している。

2.消費モデル中国家庭の消費モデルは五つのタイプに分けられる。
①貧しく病気もち型――消費水準と消費財保有が最低で、その医療費支出の比重は高い。
②アリ型――消費水準と消費財保有の比率は比較的低く、働きアリに似ている。
③カタツムリ型――負担の重い家庭である。その総消費は低くないが、大部分の支出を住宅、教育、医療方面に用いているので、この負担が生活を楽しむ消費を制約している。
④穏健型――中等消費の家庭である。これらの家庭の支出水準は総体としては中流だが、消費財の保有は平均より上。とはいえ医療と住宅支出の比率は平均より低い。
⑤享楽型――マイカーとマイホームの比率が高く、各種消費財の保有と各種消費水準が高い。特に教育・娯楽支出が明らかに高く、反面医療支出の比重は低い。
 全国分布を見ると、中国家庭の消費モデルは両極分化している。一方面ではアリ型のように消費を抑制する家庭あるいはカタツムリ型のような医療、教育、住宅負担の重い家庭が大多数を占める。
 他方、一部の家庭は豊富な物質生活を享受している。都市・農村の消費モデルは格差が大きい。農村では「貧しく病気もち型」が多く、城鎮(都市)では、享楽型、穏健型の家庭が多い。

3.不動産保有と住居費負担不動産保有は中国の都市家庭の資産保有の主要部分であり、資産の約8割を占める。これは近年の不動産価格上昇と関わる。農村では、家庭資産に占める不動産保有の位置は約6割である。農村では自分で建てて自ら居住する形であり、土地のコストと建設コストが低いので、不動産価格も安い。
 マクロから見ると、一人当たりGDPが高いほど、家庭資産に占める不動産価値は高い。家庭レベルから見ると、所得の高い家庭ほど、家庭資産に占める不動産のシェアは高い。都市家庭の場合、商業、サービス業従事者の住宅費用が高く、専業技術人員、国家機関・企業事業単位の幹部層の住宅費用は低い。

4.自営か被雇用者か2012年中国では78%の農村家庭が「家庭経営」であり、10%の家庭が「非農業の家庭経営」に従事している(都市家庭では13%、農村家庭では8%)。大多数の家庭経営企業は規模が小さく自営であり、雇用者は少ないが、「非農業経営家庭」は所得が多い。
 全国平均水準で見ると、非農業家庭の一人当たり純所得は、農業家庭と比べて1・68倍であり、2012年に、中国13%の非農業家庭は雇用労働者を用い、都市では18%、農村では10%であった。
 業種別に見ると、およそ半分の自営者は卸小売業で、その平均年齢は被雇用者より高く、教育程度は被雇用者より低い。自営者は中学・高校卒に集中している。ただしその教養程度はより高い教育を受けた者に劣るともいえない。被雇用者と比べて、自営者の毎月の労働日数は多いが、労働時間は弾力的である。
 総じて、自営者の生活への満足度は被雇用者よりも高い。ただし老齢自営者の安心感は被雇用者よりも低い。これは、社会保障・医療保障と関わる。

5.医療費支出と負担2012年に全国家庭一人当たり医療保健支出は1187元であり、中位数は333元であった。家庭医療保健支出の家庭消費支出に占める比重は11%であり、世界の主要発達国の医療保健支出の比重よりも大きかった。2010年に比べて2012年の家庭医療支出は、絶対値では上回るが、総消費支出に占める比率は減った。経済発展水準の高い省ほど、一人当たり家庭医療支出は高い。これらの地区の居民の「医療消費負担能力」が強いからだ。
 同時に、これらの省の家庭医療支出の消費支出に占める比重は小さいので、医療負担は相対的に軽いことが分かる。城鎮家庭の一人当たり医療支出、入院費用は農村家庭より多いが、家庭医療支出の比重や入院費用の自己負担分は、農村家庭よりも少ない。

6.生活への満足度住民の総体的「生活満足度」は「中の上」である。自己認識における「社会的地位」は「中の下」と見ている。家庭資産(例えばマイカーとマイホーム)の個人生活への満足度は自己認識の「社会的地位」に大きく影響する。
 家庭資産のほかに、個人の所得水準も生活満足度と社会的地位の自己認識に影響する。この場合、客観的所得水準よりは主観的所得水準、すなわち本人がどのように自己認識しているかがより重要だ。生活への満足度と社会地位の主観的認識においては、女性の影響力のほうが男性の影響力よりも大きい。
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  さて、以上の北京大学流の資産調査から読み取れるのは、持続的に発展する中国において、これまではフロー、すなわち所得の大小に関心が向けられていたのに対して、いまやストックすなわち資産の貯まり具合に関心が向けられるに至った現実である。
 由来「恒産なくして恒心なし」といわれてきたが、この恒産こそがまさにストックである。
 そして、その恒産の格差は、フローの所得格差よりもはるかに大きいことが明らかになっている。調査プロジェクトの提唱者・謝宇教授は「金持ちがますますリッチになり、貧乏人はますますビンボーになる」悪循環が進んでいると警告しているが、この問題を習近平体制はどう扱うのか? それは「虎退治」や「蠅叩き」で解決できないことは明らかだ。
 

               
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