第1号 2004.5.15発行 by 稲垣 清
    香港は将来「人民元経済圏」? <目次>戻る
 1997年7月1日午前零時、香港が中国に返還された日、タクシー料金の支払いの際、冗談半分に「人民元でいいか?」と聞いた。もちろん、タクシーの運転手は「ダメ」の一言。あれから、7年、香港で人民元が通用する場所も急速に広がっている。もちろん、「一国両通貨」が原則であり、人民元と香港ドルは同じではない。香港の銀行や両替所では、公式交換レート(100香港ドル=106人民元)あるいはそれよりも安いレートで交換しているが、中には中国人の購買力を誘うかのように、クリスマス時や春節時に時限付で1対1の優遇レートを適用する貴金属店もある。最近ではその時限もなくなり、「年中、人民元支払い可能」という店も増えてきた。 
 2004年に入り、中国から香港に来る観光客は月間100万人以上におよび、北京、上海、広東からだけではなく、福建、江蘇などさらに開放されることになった。この大陸からの観光客の増加が香港の景気を押し上げる要因となっている。
 かつては、日本人の女性客でにぎわった安売り化粧品チェーンの莎莎(Sasa)も、いまでは日本語ではなく、中国語(普通話)が飛び交い、人民元ないし「銀聯カード」での支払いが普通になっている。貴金属店は大陸からの旅行者で活況を呈している。
 筆者も春節前に中国人に人気の、ある貴金属店で小さな買物をした。そして、代金の一部を初めて人民元で支払った。店員に聞くと、そのお店の中国人の一人当たり消費は10,000ドル前後という。小生の買物の10倍である。隣の中国人夫婦は、子供を寝かせたまま、金製品の品定めに余念がない。
 これだけ、中国からの人が増えると、おのずと人民元の取扱量も急速に増えており、また、2004年1月から、人民元のクレジットカードの使用が解禁となった。大陸からの旅行者は大金を持ち歩かなくてもすみ、かつ富裕層は高額商品を買うことができ、香港の消費をさらに押し上げる効果が期待されているのである。また、2月25日からは人民元預金が始まり、筆者も早速、預金口座を開設した。5,000元(約7.5万円)以上預けると、金利が年率0.45%つく。香港もゼロ金利であるから、人民元預金は中国株と同様に人気を呼んでいる。
 このように、香港社会は「中国化」が進行していると同時に、人民元経済が広がりをみせており、将来は香港で人民元が自然と浸透する形となり、1対1の交換(同一価値)となり、香港ドルを使う機会、見かける機会が徐々に少なくなっていくかもしれない。通貨の面でも、「一国一制」に近づいていく可能性がある。
 ところで、最近の香港のもっぱらの話題は、2007年以降の政治改革論争であり、具体的には行政長官と立法議会選挙制度をめぐって、直接選挙を訴える民主派に対し、親中派はこれを阻止すべく、選挙法などを盛り込む「香港基本法」の解釈を北京の全人代にゆだねることを支持している。民主派からみると、「一国両制」の危機というわけである。
 中国はCEPA(「経済緊密化協定」であり、関税の引き下げ、サービス業の開放などを織り込んだ香港と中国とのFTAである)の実行や香港への観光客の開放などを通じ、香港経済へのてこ入れを強化し、その影響もあって、香港経済は急回復している。経済支援を行っていることで、政治的自治には口を挟むな、ということなのであろうか。「一国両制」「高度自治」への試練は続く。

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