第5号 2005.2.10発行 by 稲垣 清
    汎珠江デルタの中核広東省21市の特徴と広東省人事 <目次>戻る
 珠江デルタの対象と広東省の経済格差
 前回は汎珠江デルタ構想を報告した。構想は実務段階に移り、インフラ整備などが具体化しつつある。ところで、話が前後するが、今回は汎珠江デルタの中核である広東省の最近の政治経済について報告する。
 中国南部の有力地方である広東省は香港・マカオに隣接し、華僑の出身地という地理的条件を得て、中国の対外開放の窓口として君臨している。広東省は深圳、珠海、汕頭の三つの経済特区を抱え、外資導入を積極的に推進し、対外輸出の重要な拠点となっていると同時に、「世界の工場」としての地位を築いてきた。
 広東省は上海(華東)と並んで、中国経済の機関車の役割を担っている。中国の輸出の3割を稼ぎ、外資の受け入れもトップである。2004年の経済成長は中国9.5%を大きく上回る14.2%であり、トップである。しかし、広東省は広い、省内にも発展した沿海部と内陸山間部があり、経済格差も大きい。広東省の面積は、中国全土の1.9%であるが、日本の半分であり、人口は約8,000万人(中国の6%)である。広東省の行政組織は1図にあるように、21の地級市からなる。
 一般に珠江デルタと呼んでいるのは、図の青線に囲った広州、珠海、中山、仏山、江門、恵州、肇慶、東莞そして深圳の9市からなる。この珠江デルタこそが広東省経済の担い手である。広東省の人口の約半分、GDPの8割、輸出の9割と圧倒しており、珠江デルタイコール広東省、イコール「世界の工場」ともなっている。日系企業も委託加工工場(香港の子会社)を含め3,000社以上があるといわれる。しかし、珠江デルタに経済が集中しているということは、その他の市との格差が大きいということを意味している。
 21市の対外経済関係を示す輸出と外資導入の実績は1表に示すとおりである。21の地方のうち、輸出と外資受け入れの上位は、省都の広州を中心として、深圳、恵州、東莞、中山、仏山(順徳)、江門など珠江デルタの市であり、これらの地方が広東経済の中核となっている。なかでも、21地方のうち、深圳、広州、東莞の3市は、輸出の71%、外資受け入れの53%を占めるという圧倒的な経済力を示している。輸出、外資受け入れのトップを行く深圳と両指標では最下位の雲浮市との「格差」はそれぞれ225倍、121倍である。深圳と雲浮とは、一人当たりGDPでは6.27倍であるが、対外経済では沿海で、香港に隣接し、かつ経済特区の深圳と広東省の内陸で、外資の進出も限られている雲浮では大きな格差となっているのである。広東省は中国の中ではトップを行く地方であるが、省内格差も大きいのも実態である。こうした指標を例として、3市以外の地方がいかに3市にキャッチアップできるかどうか、それぞれの書記と市長の手腕が試されているのである。

1図  広東省行政地図




 広東省人事の特徴
 広東省の場合は、2002年の党大会人事を受けて、前書記の李長春が政治局員・広東省書記から中央政治局常務委員に昇格したことを受けて、2002年12月に新書記として、張徳江が就任した。張徳江は党大会で政治局員に選出されたが、その時点では浙江省書記であった。張徳江は浙江省の前任地東北吉林省が長い。前任の李長春も広東の直前は河南省であったが、遼寧省の勤務が長く、二代続けて、東北勤務の長い人物が広東のナンバーワンに就任している。
 広東省は文革以来、「南下幹部」(北から派遣された幹部)がトップ(書記)の地位に就いている。1985年に初めて、地元出身幹部林若が就任、その後も広東出身の謝非が書記に就いた。謝非は1998年に全人代常務副委員長に転任したが、1999年に病気のため死去した。1985年に省長に就任した葉選平以来、現省長の黄華華まで、4期連続で地元出身者が省長に就任しており、広東省の人事は、ナンバーワンの書記が「南下幹部」、ナンバーツーの省長は「地元幹部」の登用という不文律が基本的に踏襲されている。

 広州、深圳、仏山市がキャリアコース
 広東省管轄の21の市(地級市)の指導部を分析してみると、中央と同様に、指導者の世代が大きく若返っており、市の書記クラスは1950年代(50歳代)が中心であるが、市長クラスは1960年代(40歳代)の台頭も一部に見られる。学歴も高く、大学卒が一般的で、大学では中山大学、華南師範大学卒が多い。21書記・市長のうち、3人が博士号をもっている。
 出身地は広東省が圧倒的であるが、書記は省ないし複数の市を経験しているのに対し、市長は地場出身で一貫してその地の勤務というケースが多い。昇進のパターンでみると、広東省の場合、省都の広州、仏山、深圳、恵州など主要都市での書記、市長経験者が省のリーダーに昇格するケースが多い。また、客家(ハッカ)の出身地として知られる梅州市出身の幹部の台頭が目立っている。客家出身であり、現省長の黄華華は梅州市書記から省に昇進している。
 「地元幹部」が登用される省長の場合、主要市の書記ないし市長そして副省長から省長に昇格するのが通常のパターンである。市レベルでも同様である。広東省の場合、前省長の廬瑞華の場合、仏山市長から省常務副省長に昇格し、その後省長に就任している。
 現省長の黄華華の場合には、広州市書記から常務副省長となり、その後省長に昇格するという、廬瑞華のケースと同じである。そして、中国32の省・市・区の地方書記と省長はほとんどの場合、中央委員ないし中央委員候補に選出され、かつ広東省の場合には、謝非以来、政治局員のポストを得ている。なお、広州市と深圳市の両市の書記はいずれも中央委員候補になっており、広東省の中でも重要な都市と位置付けられている。16期中央委員および中央委員候補のうち、広東省は8人が選出されており、もっとも多い地方となっている(1表)。
 しかし、市レベルにも中央からの「南下幹部」が派遣されている。たとえば、深圳市の場合には、経済特区に指定されて以来、外資を積極的に招致した結果、広州市もうらやむほどの経済発展を遂げている。しかし、新興都市および開放都市ゆえに、監視の意味もあって、国務院の公安部、司法部あるいは中国人民銀行などから、局長、次長クラスが主要都市の副市長に派遣されているケースがある。1998年に、広東省国際信託投資公司の倒産問題(GITIC事件)が発生したが、その事件が発生する前、国務院は王岐山人民銀行副行長(現北京市長)を金融担当の広東省副省長として派遣し、金融改革と整頓を命じた人事を行ったことがある。
 最近は、書記を除いて、広東省あるいは広州、深圳、仏山、汕頭、恵州など主要都市に「南下幹部」を派遣することなく、地元幹部の登用を奨励しているが、上記主要都市がいわば広東省のキャリアコースでもあり、市レベルでの功績をひきさげて、省および中央へのステップアップとしているのである。 
 政治的には、前述したように、歴史的に、広州、仏山、深圳、恵州などで経験を積んだ指導者が有力市そして広東省への昇進を決めているが、最近ではやや異なる傾向が出始めている。広東省の場合、省、市ともに政府機関の幹部は地元出身が多いが、最近目立つのは、書記である張徳江の出身である東北吉林省および広東の前任地であった浙江省出身の幹部の登用が目立っている。2004年1月に広東省委常務委員兼宣伝部長に就任した朱小丹の出身は浙江省温州である。また、同じく常務委員兼秘書長に就任した蕭志恒は張徳江が長く勤めた吉林出身といわれる。
 張徳江は2007年の党大会まで、書記の地位に留まるものと思われるが、省市レベルの副省長、市長クラスは党大会前に異動が行われる。2005年1月、深?市書記の黄麗満が広東省人大の常務委員会主任に就任した。黄麗満は1980年代、江沢民が電子工業部長時代の秘書であった。深圳への派遣は江沢民の指示ともいわれたが、江沢民が完全引退(2004年9月に最後の地位であった中央軍事委員会主席を退任、3月には国家軍事委員会主席を辞任予定)したいま、その影響力が薄れ、書記辞任との説が有力であった。後任書記には、李鴻忠市長が横滑りし、その後任市長には、胡澤君省委常務委員・組織部長が就任するとの情報もあるが。胡澤君は北京司法部副部長出身であり、しかも女性の市長就任ははじめてのこととなる。しかし、別の情報では、省委常務委員兼秘書説である蕭志恒の市長就任説が浮上している。蕭志恒は張徳江書記と同じ吉林大学の出身であり、また同じ吉林大学出身の李鴻忠現市長とともに恵州でコンビを組んでいたことがある。この情報が確かすると、深圳で再び李鴻忠―蕭志恒コンビが実現することになる。張徳江人事以外の何者でもない。
 ところで、日系自動車関連有力企業が相次いで広州周辺に進出している。トヨタは広州管内の南沙開発区に、日産は広州市花都区への進出である。1998年に先行して進出し、好調な生産を持続しているホンダも広州であるが、この三大メーカーを囲むように、中山、珠海、東莞などに自動車部品メーカーが集積し、メーカーへの供給体制を整えつつある。
 しかし、周辺の地方あるいは広東省の内陸部への波及効果はまだ小さいように思われる。インフラの整備や広州へのアクセスが充実すれば、内陸市の事業機会も増えていくであろうし、外資の招致も可能となろう。この意味でも、21市のリーダーの手腕が問われるところである。他方、外資からみると、広州や珠江デルタ中心部への進出は労働力調達、コストなどからみて、これまでのように容易にはいかないかもしれなお。すでに、華南では「労働力不足」が伝えられている。広東省の内陸部への進出も課題となる時代であり、内陸都市のリーダーの特徴やその政治力を十分理解しておく必要がある。市レベルから、さらには、区レベルの人脈の把握も今後の華南ビジネスにとって不可欠である。

2図  広東省の党・政組織図―イメージ図


1表  広東省21都市の対外経済実績(2002年)
単位:100万米ドル
注:外資は実行ベース、万ドル。日米企業の進出件数は中国情報センターデータベース(対象外資企業数13万社)による。
資料:「広東省統計年鑑」(2003年版)。



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