第7号 2005.12.1発行 by 稲垣 清
    華南における自動車メーカーの進出と
部品メーカーの対応
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稲垣 清編著『中国華南ビジネスハンドブックー自動車市場の発展と日系企業の進出』(2005年12月、非売品)より、抜粋要約。
 華南に集積する自動車メーカー
 華南に進出している自動車メーカーは進出順でみると、ホンダ(1999年)、日産(2003年)、トヨタ(2004年)の日系3社そして2005年に進出を決定した韓国の現代自動車の4社である。現代自動車は商用車の生産であるが、日本メーカーはいずれも乗用車生産である。なお、日本のいすゞも広州汽車との合弁でバス製造会社を持っている。4社のうち、ホンダ、日産はすでに生産を開始しているが、トヨタは2006年生産開始の予定であり、現代は2010年までに20万台の生産を計画しているほか、研究開発センターを設置するという。なお、フランスルノーの広州(花都)進出もうわさされているが、2005年9月現在では、まだ中央の認可を得ていない。このほか、広州汽車傘下の羊城汽車はマイクロバスを年産2,000台の規模で生産している。
 2005年1月からトヨタは、南沙のエンジン工場でエンジン部品の生産を開始、10月にはエンジンの本格生産、2006年初めには乗用車工場が生産開始の運びとなる。2005年中には、ホンダの第二工場がスタート、東風日産もエンジン工場と研究開発センターがスタートできる見込みである。また、日産は2006年から現在の生産能力の1.5倍、2008年までに50万台体制を計画するなど、各社ともに今後5年の生産能力アップに意欲的である。

 部品メーカーの進出推移と特徴
 華南への日系自動車メーカーの進出に伴って、部品メーカーの進出も急増している。販売競争の激化、価格引下げ競争の中で、現地調達率のアップの必要性が部品メーカーの進出要請となっている。また、生産量と車種の拡大によって、部品メーカーは一次、二次、三次メーカーの進出も促しており、国内での取引が中国市場に持ち込まれているといってもよい。
 自動車部品メーカーの華南進出はこれまでは、ホンダ系を中心としていた。三大メーカーの中では、ホンダが1999年から進出していることによって、ホンダ系のみならず、その他の部品メーカーの進出を促している。また、ホンダの場合には、「アコード」の生産に始まり、「オデッセイ」「フィット」への車種の拡大とともに、部品メーカーが増加している。
 日産は2003年の包括合弁(合弁会社の設立)から生産を始めているが、本格化したのは2004年の花都工場での生産からであり、その年に日産系の部品メーカーの中国進出も本格化した。2005年からは、これまでの「サニー」「ブルーバード」に加え、「ティーダ」の生産開始に伴って、部品メーカーも花都を中心に2005年だけで14社の進出が行われている。
 トヨタ系部品メーカーの動きも2004年9月の広州トヨタの正式認可を受けて加速化しており、2004年に4件、2005年に6件の進出があった。トヨタ系部品メーカーの中国進出はそれまでは天津が大半であり、その後は上海などにも進出しているが、広州への進出によって、中国内での「三極体制」ができつつある。


1図 華南の自動車生産基地
1図 華南の自動車生産基地


 三大メーカーの部品調達体制の特徴
 こうした結果、三大メーカーの部品調達体制は2図のような3社それぞれが異なる形態を示すことになった。まず、日産型は、自動車工業団地である花都の「汽車城」内に中核部品メーカーを抱え込む体制をとっている。巨大な敷地を誇る「汽車城」であるが、日産系大手部品メーカーは東風日産に近い幹線道路沿いに大きな敷地を確保し、現地政府の手厚い優遇を受けている。「電力荒」(電力不足)の広東ではあるが、ここでは例外的に、優先的に電力が供給されている。物流も「ミルクラン」とよばれ、メーカー(東風日産)による集荷が行われており、部品メーカーにとってはコスト節約につながっている。
 「汽車城」以外にも花都周辺に部品メーカーが集積しており、日系も含め100社近くになる。部品メーカーからみれば、主取引メーカーへの供給を第一としつつも、その他系列以外のメーカーへの供給にも食指を示しており、実際に「汽車城」内の大手部品メーカーの供給シェアは日産7割に対し、ホンダに3割を収め、今後、上海GMにも供給する方針という。
 トヨタ型も日産と同様に、中核部品メーカーを乗用車工場のある南沙に集中させている。「かんばん方式」を重視し、品質に対するこだわりをもつトヨタは、デンソー、アイシン精機、トヨタ合成など有力メーカーの南沙進出を強く要請し、部品メーカーもそれにこたえ、2006年の生産稼動に備えて工場を建設中である。
 しかし、南沙開発区への進出と同様に、南沙からわずか30キロの仏山(順徳・南海)にもトヨタ系をはじめとする部品メーカーが集積している。仏山の隣の中山にもホンダ系を中心として部品メーカーが集積している。トヨタ型の日産型と異なる点は、南沙と仏山に大きく供給拠点を持っている点である。南沙開発区に進出するとなれば、トヨタへの配慮から他メーカーへの供給を大胆に行えない、との判断が一部の部品メーカーにあるからである。その中にはトヨタ直系ともいうべきデンソー、アイシン精機、東海理化なども含まれている。しかし、これらの主要メーカーは系列企業というよりも、グローバル企業であり、すでに日本その他でもトヨタ以外のホンダや日産に供給しており、メーカーからみても、もはや系列重視から世界的最適調達という方針に切り替えている。
 ホンダの調達方針はまさに、最適調達を徹底している。また、ホンダの進出場所は、開発区ではなく、かつ1999年という他の2メーカーに比べ古くことが、部品の供給体制にも影響を与えている。中国地元企業も含め、一部はタイからも調達する、という地道な努力が「アコード」などの現地調達率70%以上を支えてきたのである。ホンダの部品メーカーは中国全土で160社以上といわれ、うち華南が64社と主となっているが、華東地域や華北からも調達している。
 ホンダが他の2社と異なる点はまだある。2005年から開発区に輸出専用工場(別会社)を設け、すでに欧州向け乗用車の輸出を開始したこと。さらに、広州の近郊増城に第二工場を設けたことである。ホンダの華南地域における生産台数は2007年ごろに50万台近くとなる。4年をサイクルとする新車種対応のためにも、更なる部品メーカーの進出を誘発することが予想される。


2図 華南における自動車メーカーの部品調達体制の特徴
2図 華南における自動車メーカーの部品調達体制の特徴

 ホンダ・日産・トヨタの華南進出と部品調達体制の特徴
 (1)ホンダ
 ホンダの四輪における中国事業は広州ホンダ(「広州本田汽車有限公司」)、東風ホンダ(「東風本田汽車(武漢)有限公司」)、「本田汽車(中国)有限公司」(輸出専用工場)の三つであり、このほかエンジンの「東風本田発動機有限公司」、エンジン部品の「東風本田汽車零件有限公司」がホンダの出資による主要部品工場である。ホンダのパートナーは乗用車が広州汽車、エンジンが東風汽車そして輸出工場は広州汽車と東風汽車両社を合弁相手としている。
 ホンダの部品調達の特徴は分散型であり、珠江デルタ、広東省内はもとより、華東、華北そして一部はタイからも調達しているといわれる。車種ごとの国産化率(現地調達率)は新型アコード(Accord)で70%、多目的乗用車オデッセイで60%、フィットサルーン(Fit Saloon)で81%という(いずれも、2004年1月現在、ホンダ提供資料による)。
 3社の中ではいち早く、1999年から広州で生産を行っているホンダの華南事業の特徴は複数工場(輸出工場を含め3工場)をもっていること、輸出専用工場を持っていることで、他の2社と異なる。日産、トヨタが開発区内に工場をもっているのに対し、ホンダは主力工場が開発区の外、第二工場も広州市外の増城にあり、輸出工場だけが広州開発区内にある。
 こうした工場が分散されていることやすでに生産開始から5年を経ていることもあり、ホンダの部品供給パターンは日産やトヨタと異なる。一次メーカーは主として開発区内にあるが、同時に有力一次メーカーや二次メーカーは主として珠江デルタの南西部、中山、仏山などにある。また、日産の拠点花都にも今仙電機、本郷・ヒラタなど有力企業が進出している。ケーヒンは湛江で気化器を生産、ヒラタ・本郷は花都からさらに50キロ北にある清遠市に第二生産拠点を設置するなど、ホンダおよびその系列メーカーの中国事業は他社と異なる特徴をもつ。「ホンダイズム」の真骨頂といえる。
 しかし、ホンダの部品調達の特徴は「系列」を重視しつつも、よりグローバルな展開を行っており、ホンダの説明によると、中国各地から調達しており、一部はタイからも輸入しているという。また、最近では部品調達のポイントを、「QCD」(品質・コスト・デリバリー)においている。そのひとつの例は照明器具の調達である。照明器具におけるホンダのメインサプライヤーはこれまでスタンレー電気であったが、2003年1月から発売された新型アコードのメインサプライヤーとなったのは、大連松下汽車電子システムであった。また、ホンダはラジエターを天津のデンソーから、同じくカーエアコンを煙台のデンソーから調達している。デンソーのように、もはや「トヨタ系列サプライヤー」というよりも、「グローバルサプライヤー」となっていることから、特別に目新しいことではない。
 ホンダ系部品メーカーはかなりの数にのぼっているが、有力メーカーの中で、いまだ華南に進出していないメーカーに、ホンダ向けエンジン部品メーカー田中精密工業(本社:富山)、電子制御噴射燃料システムのミクニ(本社:東京)、ピストンリングのリケン(本社:東京)などがある。田中精密は広州進出を検討中といわれる。また、ミクニは中国の天津、成都など7事業所を設立しているが、まだ華南にはない。ホンダをふくめほとんどの自動車メーカーと取引のあるリケンはホンダの進出する武漢と廈門に生産拠点がある。

 (2) 日産自動車
 乗用車の工場は襄樊と花都の2ヶ所であるが、襄樊工場では、高級セダン「ティアナ」や「ブルーバード」を年産7万台で生産しているが、主力工場は花都の「汽車城」(自動車産業工業団地)である。花都では最新車種「ティーダ(TIIDA)」を中心に年産15万台の生産能力を持っているが、最近の報道では、2008年までに倍増の年産30万台に増強し、襄樊と花都を合わせた年産能力は2008年には40~50万台とする計画である。との合弁会社の花都工場の「東風日産汽車有限公司(乗用車公司)」を支える部品群は、主要サプライヤーは同じ「汽車城」の自動車部品区に集結している。カルソニックカンセイ、ユニプレス、ヨロズ、日立ユニシア、アルファなど日産系の一次メーカーから、鋼材センター、金型、部品など二次メーカーも「汽車城」内あるいは周辺に集積しているのが特徴である。また、桐生、鬼怒川ゴムの例にみるように、日産系部品メーカーは台湾の有力メーカーとの連携による進出が行われている点も特徴のひとつである。
 日産自動車は、一時期系列メーカーからの資本を引き上げるなど、系列調達を一部放棄し、部品調達コスト削減の一環として、グローバル最適調達(ルノーとの共同購買)の方針に切り替えたが、ここにきて再び系列調達に戻しつつある。中国広州についてみると、他のメーカー以上に系列化を推進していると同時に、「汽車城」内に集中させている点が特徴である。東風日産および一次メーカーへの供給を主とする有力部品メーカーはカナソニックカンセイはじめ概ね、花都ないし華南に出揃っているといってよい。日産系の一次サプライヤーの中では、トランスミッションなどの部品メーカーであるフジユニバンス(本社:静岡)、変速機メーカーのジャトコ(本社:静岡)がまだ中国に進出していないが、フジユニバンスはすでに進出のためのFS(可能性調査)を始めており、また、ジャトコも2005年9月には本社幹部が花都を視察しており、両社とも近く、花都ないし華南に進出するものと思われる。さらに、自動車キー大手のアルファの花都進出に伴って、一緒に進出した第一金属、星ダイカストの例にみるように、二次、三次メーカーの同時進出が一部で行われている点も大きな特徴である。東風日産へのサプライヤーの中で、ドアサッシなどの部品を広州開発区で生産するシロキ工業はやや異色である。トヨタが大株主であるが、東風日産向けであり、系列を超えている。しかし、2006年からは生産開始予定のトヨタ向けの納入も始まるものと思われる。
 東風日産の協力工場が「汽車城」内に集結しているため、物流は「ミルクラン」(注)であり、東風日産、風神物流のトラックが集荷に来る。なお、完成車の物流は住友商事などが手がける物流合弁会社が担っている。
 しかし、東風日産においても、必要な部品の調達は華南だけではない。華南に進出していない重要部品には、ガラス、タイヤがある。東風日産の最新車種である「TIIDA-ティ-ダ」のガラスは上海のピルキントンから、タイヤは無錫のブリジストンから調達している。


3図 東風日産を支える日系自動車部品メーカー群
3図 東風日産を支える日系自動車部品メーカー群

 (3)トヨタ
 トヨタの広州進出の特徴は、「かんばん方式」を徹底するため、アイシン精機、デンソーなど中核一次部品メーカーを生産工場のある南沙開発区内あるいは仏山に集結させていることである。開発区内にはトヨタ自らが出資する部品工場を含めグループの中核会社であるアイシン精機、デンソーなど5社が進出しているが、このほか、アイシン精機やデンソーは開発区以外にも仏山、増城など周辺にも進出し、2006年生産開始予定の南沙工場を支える体制をとっている。一次サプライヤーを、カーメーカーの周りに集結させる方式は、天津トヨタのやり方を踏襲している。しかし、この方式は、トヨタに限らず日本メーカーの特徴であり、最近では、韓国の現代自動車も北京で同様の方式を採用している。しかし、トヨタ系部品メーカーにしても、トヨタを主取引先としつつ、他メーカーへの供給も増やしたいところであり、そのため、一部のメーカーはトヨタ本体や中核メーカーが進出する南沙にはあえて進出せず、南沙のトヨタも、広州のホンダそして花都の日産を視野に入れた仏山場所に進出を求めている。また、南沙開発区には、GE、BASFなど欧米化学大手が、中山にはデユポンやドイツヘンケルも進出しており、今後、トヨタの本格稼動にあわせ、自動車向け供給を開始していくものと見られる。
 トヨタ系有力部品メーカーではマニュアルクラッチのエクセディー(本社:大阪)は上海、重慶には拠点を持つが、華南にはない。アイシン精機との業務提携を行っているエクセディーが中国における第三拠点として華南に進出するかどうか関心事である。なお、エクセディーの2003年度の取引はトヨタ14.6%に対し、日産が23.5%、フォードが16.1%といずれもトヨタを上回っている。
 トヨタの中国における乗用車生産拠点は天津が最初であり、中国最大に自動車メーカーである第一汽車の傘下にある天津汽車との合弁企業(「天津一汽豊田汽車有限公司」)である。現在の生産能力は「ヴィオス」(威馳)、「カローラ」(花冠)を中心に5万台であるが、近く、クラウン(皇冠)も生産を始めるという。
 この天津のトヨタを支える部品群は、デンソーなどの主力サプライヤーを含め10社25拠点に及んでいる。このうち、華南に進出しているのは、社数ではほぼ同じであるが、拠点数では半分の12拠点にとどまっており、広州トヨタの生産能力(当初10万台)からみれば、さらに部品メーカーの進出、拠点増が見込まれるであろう。

以上

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