第10号 2010.06.04発行 by 稲垣 清
    華南自動車市場
日系メーカーの牙城に食い込む欧州勢
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 2009 年、中国はついに米国を抜いて、世界最大の自動車市場になった。2009年の自動車生産は前年比48%増の1379万台を記録した。ここ数年の中国の自動車産業の発展には目を見張るものがある。しかも、乗用車の伸びが著しく、中国のモータリゼーションは始まったといってよい。この巨大市場に主要な外国の自動車メーカーがこぞって進出しており、かつ複数事業拠点、複数ブランドの車種を生産している。外資メーカーはこれまでは、OEM ブランド(外資メーカーブランド)の生産であったが、今後、中国市場向けのオリジナルブランドを打ち出す段階に入っており、そのための研究開発拠点(R&D)の設立も相次いでいる。さらに、環境対応車(ハイブリッド)や電気自動車(EV)の普及も始まっている。中国市場に外資系自動車メーカーが進出する時代から、中国の民族系自動車メーカーが海外の有力自動車メーカーを買収する時代、そして中国の自動車メーカーがオリジナルブランドを引き下げ、欧米市場に参入する、という中国自動車産業をめぐる新たな時代がいま始まろうとしている。その舞台のひとつが華南(広東省)である。
 中国第一汽車集団と独フォルクスワーゲン(VW)の合弁会社・一汽大衆はこのほど、広東省に完成車2工場を新設することを決定した。仏山市順徳、広州市増城などが候補地であり、年産能力は1工場20万台規模と言われる。生産車種は、VW傘下のアウデイーの中高級車あるいは、同じく傘下のスペインの自動車メーカー「セアト(西亜特)」の小型車が有力視されているが、詳細はVW本部の最終的な決定を待つ段階になっているという。国内では上海、南京、長春、成都に続く5番目で、VWにとっては華南地区初の生産拠点となる。VWに続いて、フランスプジョーシトロエングループ(PSA)は、重慶を本社とする長安自動車集団と乗用車生産の合弁に合意、PSAも広東省に工場進出することを発表した。長安自動車は深圳に吸収したハルピン哈飛自動車の工場を活用することが検討されている。これまで、ホンダ、日産そしてトヨタの日系自動車メーカーの牙城であった華南に欧州メーカーが相次いで参入を発表したことで、華南地区が一躍脚光を浴びることになった。
 迎える日系メーカーも相次いで増産体制を発表している。まず、日産自動車は広州花都工場に第二工場を新設、これまでの36万台の生産能力に加え、花都の能力は60万台まで拡張することになるが、さらに、将来は80万台まで可能という。広州ホンダは、増城の第二工場の能力をこれまでの12万台から2倍の24万台に引き上げることを決定した。これにより、2012年には、ホンダの中国における生産能力は83万台の規模に達する。また、ホンダは、2010年から、「自主ブランド」の発売を計画している。
 広州トヨタは、2009年から、第三車種のSUV「ハイランダーラインを増設し、年産能力36万台としている。既存の日系3社に加え、欧州メーカーの参入そして民族系自動車メーカーのBYD(比亜迪)の参入は、華南の産業地図を大きく塗り替える可能性がある。日系3社の能力132万台に、VW(40万台)やPSA(10万台)そしてBYD(西安とあわせて80万台)の生産能力を合わせると、華南の自動車市場は一挙に、「200万台体制」となり、上海(華東)のVW、GMの規模に肉薄するだけでなく、世界的にも有数の自動車産業基地が形成される。まさに、中国の自動車産業政策の方向を示している。

 
写真:生産ライン増強する広汽ホンダの増城工場
生産ライン増強する広汽ホンダの増城工場
 

 ところで、中国の自動車産業の業界構造は、大手メーカーによる寡占化が進みつつある。2009年の販売台数の上位10社が6割のシェアを占めているが、同時に中小メーカーもひしめき合うという構造である。生産量だけをみると、世界トップであるが、生産性の悪いメーカーも多く、2008年、金融危機に伴って打ち出された自動車産業振興計画(「汽車産業調整和振興規画」)は、構造調整、業界再編計画でもある。この計画にみる、2011年までの自動車産業の目標とポイントをまとめると、以下のとおりである。
  • 2009年の生産目標 1000万台、2011年までの3ヵ年の平均伸び率10%
    (2009年実績、1379万台、前年比48%増)
  • 排気量1.5リッター以下の乗用車40%以上、うち1.0リッターは15%以上、重型トラックのシェアは25%以上とする。
  • 統合政策により、年産200万台以上の大型自動車企業集団を2-3社、同じく100万台以上の集団を4-5社とし、市場の90%以上を支配するトップメーカーを現在の14社から10社に絞る。
  • 乗用車の自主ブランド比率を40%、うちセダンを30%、輸出車を10%まで引き上げる。
  • ハイブリッド車を年産50万台とし、省エネ車(新エネルギー車)の販売比率を5%とする。

 自動車産業における振興策のポイントは、小型車中心、大型メーカーの集約、自主ブランド比率のアップ、省エネ車の普及、環境基準の国際化、重要部品の国産化などであるが、特に、大型自動車集団を10社に統合する方針が注目される。「振興規画」においては、10社のうち、「年産200万台」(Tier 1)対象として、第一汽車(吉林省長春)、東風汽車(湖北省武漢)、上海汽車(上海市)そして長安汽車(陝西省西安)の4社に、「100万台」(Tier 2)を、北京汽車(北京市)、広州汽車(広東省広州)、奇瑞汽車(安徽省)、重慶汽車(重慶市)の4社と指定している。10社の残る2社は、2008年の販売実績からいえば、浙江省の民営企業吉利汽車、華晨、哈飛等が有力候補となろう。
 いま、中国の自動車産業基地は「200万台クラブ」に向かって、企業誘致と生産能力の拡大、さらに部品産業の誘致が起こっている。「振興策」では、具体的な合併プランは示されていないが、トップ10すべてのメーカーに合併・再編を「奨励」しており、当面各社に判断を委ねてはいるが、大型合併の実現が予想される。合併・統合の際のポイントは「新エネルギー車」(ハイブリッド)、「自主ブランド」である。今後、中国の自動車市場では、この二つの重要課題をクリアするメーカーだけが生き残れるのであり、それは外資系メーカーも同様である。

 ところで、外資メーカーの中国自動車市場への参入をめぐっては、依然として厳しい制限が課せられている。まず、合弁が条件であり、そのパートナーは2社までとなっている。合弁の出資比率が「50%以下」(外資がマジョリティーを取れない)の制限もまだ緩和されていない。パートナーの選定も事実上、中国政府の決定事項であり、進出にあたっての地域選定も外資の判断ができにくいのが現状である。こうした厳しい制限は、しばらく続くものと思われるが、同時に市場が拡大傾向にある中で、外資メーカーも新たな合弁事業による地域戦略ではなく、中国国内での複数工場設置という観点から、多角展開を行う段階に入っているといえる。VWはこれまで、国有企業(第一自動車・上海)との華北での事業展開が中心であった。南部での新工場の設置は政府の方針と矛盾するものではない。この伝でいえば、これまで、上海地区には日系自動車メーカーが南京のマツダ・フォード連合しかなく、反対に華南には日系3社だけが存在するという勢力図は、今後大きく塗り替えられる可能性がある。VWの「南下」に対抗して、広州トヨタが「上海工場」を立ち上げることもありうる。自動車メーカー日系乗用車メーカーにとっては、VWやPSAの新規参入は競争激化として厳しい環境を迎えることになるが、部品産業やサポーテイングインダストリーにとっては、販路や取引拡大のチャンスであり、新規参入は朗報であろう。
 2009年、世界最大の自動車販売台数を記録した中国は、所得向上や「汽車下郷」(農村に自動車を)、小型車減税の継続などもあり、2010年の自動車市場も堅調に伸びるものと思われる。自動車各社は強気の見通しの中で、小型車を中心としつつ、自主ブランド、環境対応車そして将来の電気自動車の開発も視野に入れ、厳しい対応を余儀なくされる。華南にとっては、上海との地域競争がより厳しくなることが予想されつつも、さらなる産業発展のチャンスであり、自動車分野だけではなく、その他の産業への波及効果も期待される。 

 
華南自動車市場をめぐる日欧・民族系自動車メーカー勢力図
華南自動車市場をめぐる日欧・民族系自動車メーカー勢力図
 
以上

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