第11号 2011.08.04発行 by 稲垣 清
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 4年前に「広州:都市の品格」について論じたことがある。当時、広州の一人当たりGDPが「1万ドル」を達成したかどうかの議論があり、「達成した」ことを誇る反面、発展途上をも強調する、という複雑な面を示していた。しかし、このほど訪問した広州は、アジア大会の開催を契機に、名実ともに、「1万ドル」の都市に変貌を遂げていた。
◆消費都市広州―「H&M」VS「ZARA」

 
珠江新城ビジネス街
 

 1年ぶりに広州を訪問した。2010年のアジア大会開催を機に街はさらに発展を遂げていた。いま、広州の新名所となっているのが、珠江新城である。珠江沿いの海珠区にできた高さ600メートルの「広州タワー」、ビジネス街そしてショピング街でもある。ぞくぞくと建つ高層ビル、その一角に、2012年にはマンダリンホテルやフォーシーズンズがオープンする。いまや、中国の大都市は、「フォーシーズンズなくして、都市にあらず」といわんばかりである。
 消費の都市としての広州も注目されつつあり、これまで華南に拠点のなかったスウエーデンのアパレルメーカー「H&M」が、2010年5月、「中華広場」(China Plaza)にオープンした。対抗するスペインの「ZARA」も、2010年10月、天河地区に初出店した。「H&M」と「ZARA」そして「ユニクロ」の進出と店舗展開は、中国の消費動向を見る定点観測場所だけではなく、消費都市として広州が注目されるメルクマールである。

◆ 広州地下鉄網の充実―ハードもソフトも
 広州の地下鉄網の充実がめざましい。3年前は、わずか3路線であった地下鉄網がいまや9路線、プラス軌道電車(モノレール)も加え、広州市内の縦横に接続、さらに内陸武漢や珠江デルタの珠海間の高速鉄道の普及により、内陸と沿海、デルタ内を結ぶ交通の要衝としての広州が一段とその機能を充実させていた。
 今回は、初めてマルチカード「嶺南通」を利用した。これは、広州版オクトパスであり、購入時、デポジットは30元、50元分のカードである(注:北京地下鉄のマルチカードのデポジットは10元、チケット代は自己申告制)。このカードで、地下鉄とバスが利用できるが、香港のように、まだマネーカードにまでは至っていない。しかし、いずれは、香港・マカオとの相互乗り入れも可能になるという。

 
広州地下鉄2号線昌崗駅構内
(2011年6月8日 稲垣撮影)
 


 広州地下鉄は、2011年6月現在9路線、「APM」(珠江新城と天河を結ぶ旅客自動輸送システムーモノレール)を加えると、230キロあまりの輸送距離であり、中国では、北京、上海に次ぐ地下鉄普及都市である。広州地下鉄の延長はこれにとどまらず、2012年には仏山路線や花都の新白雲空港までもつながり、郊外との接続がより充実する。また、南北のみならず、東西がつながり、その利便性はますます高まる。2020年までには、さらに10本以上の新路線が加わる予定である。
 以前は、「駅ナカ」も貧弱であったが、コンビニなどミニショップも充実し始めた。

◆ 車内は綺麗、しかし...
 これまでの乗車経験は3、4号線のみであったが、今回は乗り換えのためもあるが、2,3,4,5,8号線に乗車した。車内アナウンスは、標準語(普通話)、広東語そして英語の順であり、車内はチリ一つ落ちていない。以前は、掃除人が床を掃いていたが、今回は見かけなかった。北京の一部地下鉄車内のように、物乞いもいない。しかし、5号線であったか、どこか臭い、トイレのにおいである。あるいは、失礼ながら、乗客の体臭かもしれない。夏でもあるが、背広姿の乗客はゼロ、筆者のように、ジャケット姿もいない。農村や工場からそのままで出てきた人たちばかりであり、そのファッションぶりは見事(!)というほかない。
 車両はおそらく、「中国製」(南車)と思われるが、2号線の安全扉の開閉は「PANASONIC」であった。4号線はシーメンスであり、地下鉄ビジネスにおいても、各社が競い合っている様子が伺える。


 
2010年広州地下鉄路線図
 

 
2011年広州地下鉄路線図
 


 
広州地下鉄4号線車内(地上)
(2011年6月8日 稲垣撮影)
 

◆ 1年ぶりの「黄閣汽車城」―「最後の1キロ」
 広州に出掛けると、定点観測する場所がある。広州市内から地下鉄4号線で、約30分のところにある「黄閣汽車城」駅である。文字通り、広州トヨタの最寄駅であり、ここからトヨタまでは20分のところにある。但し、トヨタ関係者が乗り降りするわけではなく、トヨタに行くために、この駅を利用する人はおそらく、筆者を除いて、皆無であろう。
 毎年、ここで下車するが、周辺の木々が伸びた分、時間の変化は感じるが、そのほかは3年前とほとんど変わらない。駅前にコンビニができたわけでもなく、3年前に比べ、変わったことといえば、オートバイタクシーがたむろしているだけである。
 オートバイタクシー、おそらく広東省独特のものであろう。距離にもよるが、1回の乗車10元、普通のタクシーよりやや安いが、危険でもある。地元の人は、女性でもよく利用する。広東省の都市部ではあまり見かけないが、郊外ないし、工業開発区などに多い。東莞のある町には、オートバイタクシーしかないところもある。ところが、最近、このタクシーオートバイが“黒車”として摘発されている。免許もなしに、スピードを出し、町の景観を損ねているからとの当局の判断である。しかし、庶民にとっては、利便性がある。というのは、広州でも、地下鉄、軽軌道車の普及が目覚しいが、立派な駅舎ができても、その先の足がない。「黄閣汽車城」駅も指摘したように、目的地であるトヨタまでの足がないのである。「あと1キロ」「最後の1キロ」をつなぐのが、オートバイタクシーというわけである。
 筆者自身は、タクシーとして利用したことはないが、先導車として利用したことはある。市内タクシーは工業開発区の地理に不案内であり、これを先導して目的場所に効率よく着くためには、10元は安いといえる。
 それにしても、地下鉄の普及は経済社会を大きく変えている。かつて、この4号線が開業する前は、広州市中心部からトヨタまでタクシーで400元(約5000円)かかっていた。ところが、いまは、乗り換えもあり時間はやや要するが、わずか9元(100円)で最寄駅である「黄閣汽車城」にたどり着く。「最後の1キロ」がどうなるか。定点観測を続けていこうと思う。


 
「黄閣汽車城」駅
(2011年6月8日 稲垣撮影)
 


 
広州地下鉄4号線(「黄閣汽車城付近」)
(2011年6月8日 稲垣撮影)
 


 
黄閣汽車城」駅からみた広州トヨタ
(2011年6月8日 稲垣撮影)
 

◆ 広州南駅―内陸と結ぶ高速鉄道ターミナル
 初めて、広州南駅を見学した。広州地下鉄2号線は、広州駅(在来線)からまっすぐ南に伸びる線であり、現在の終点が「広州南駅」、内陸武漢と沿海珠海を結ぶ高速鉄道ターミナルでもある。地下鉄がそのまま、高速鉄道ターミナルに接続しているが、上海の虹橋ターミナルと同様に、巨大な駅舎である。


 
広州南駅から出発する珠海行き「和諧号」
(2011年6月8日 稲垣撮影)
 

珠海までの高速鉄道
 広州から、香港に戻るに当たって、これまではほとんど、往路と同様に、「九広鉄道」(在来線)を利用していたが、今回、初めて、広州南駅から珠海までの高速鉄道(城際軌道鉄道)を利用し、珠海からはフェリーで香港に戻った。広州―珠海間は93キロ、途中、順徳、中山北駅に停車、珠海までは平均150キロのスピード(最高は190キロ)で40分足らずである。料金は一等で44元、二等が36元である。昨年、乗車した上海―蘇州間(84キロ)とほぼ同様の距離であるが、料金は蘇州まで65元(一等)に比べると、安い。


 
広州南駅をターミナルとする高速鉄道網
 

 広州南駅では自動券売機を設置されているが、身分証明書を読み取るシステムであり、外国人のパスポートを読むことは出来ない。そのため、外国人は広いターミナルの外にある窓口(下写真)でチケットを購入せざるを得ない。外国人には利便性は半分である。
 チケットを購入し、2階の待合ロビーで待機する。このロビーが上海駅ターミナルと同様に、巨大なスペースである。待合ロビーには、書店、飲み物売り場などが徐々に出来上がっている。


 
広州南駅自動券売機
(2011年6月8日 稲垣撮影)
 



 
広州南駅切符売り場(窓口)
(2011年6月8日 稲垣撮影)
 


 
広州南駅待合室ロビー
(2011年6月8日 稲垣撮影)
 

 広州南駅を発車した「和諧号」は、8両編成、2両が一等、食堂車もついていたが、利用する時間はなし。一等車内は、ほぼ埋まっているが、途中の駅でも下車。あっという間に、珠海北駅に滑り込んだ。珠海北駅は建設途上であり、周辺はまだ埋め立て中、市内まではタクシーもあるが、今回は公共バス(小型)で九州港(香港行きフェリーターミナル)に向かう。料金は3元、時間は40分。高速鉄道の乗車時間分かかる。
 2011年7月、中国共産党設立90周年に合わせて、北京―上海(1318キロ)の高速鉄道が開業した。これまでの10時間が半分の4時間48分に短縮された。1979年、広東省経済特区に掲げられた「時間是金銭、効率是生命」が30年を経て、時間をお金で買える、という意味での前段のスローガンは実現の運びとなった。しかし、「列車で2時間、駅降りて4時間」という「効率」(ソフト)はまだこれからである。


 
珠海北駅到着ホーム
(2011年6月8日 稲垣撮影)
 


以上

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