第06号 2004.10.04発行 by 中村 公省
    外来流動人口 <目次>へ戻る
    *本論には欠陥がある。「流動人口再論」(第08号2004.11.30)を参照されたい。

 2000年に実施された第5次人口センサス結果に対する論評で(「第5次人口センサスに見る人口流動化」『中国情報ハンドブック』2001年版所収)、私は1年間に500万の流動人口が発生すると見込んでいたが、現実はそんな甘いものではなかった。その実態を調査した報告書を見てみて驚愕した。21世紀に入ってからの数年間に、中国全土で予想を超えた民族の大移動が巻き起こっている。
 報告書とは、中国公安部治安管理局編の『全国暫住人口統計資料匯編』2002年版と2003年版である。2002年版は2002年6月30日24時現在の、2003年版は2003年6月30日24時現在の、各省の「暫住人口」を調査したものである。「暫住人口」とは、農村戸籍をもつ者が、都市に臨時に住む(暫住)ための戸籍(暫住戸籍)を取得した者のことである。外地から都市にやって来て臨時に合法的に居住するためには当該都市の暫住戸籍を取らなくてはならない。例えば、北京市では満16歳以上の外地人で、北京に暫住時間が1カ月を越える者、あるいは北京市で仕事、商売に従事する者は、北京に到着後3日以内に暫住登記の申請を義務付けられている(暫住人口登記表参照)。この「暫住人口」が、当該都市にとっては、外来流動人口に相当する(『全国暫住人口統計資料匯編』では、暫住時間が1カ月を越える者を調査対象にしている**)。
 前置きはさておき、『全国暫住人口統計資料匯編』の主要数字を整理した原表1、原表2とグラフを見ながら、注目すべき数字を列挙していってみよう。
    **下線部訂正:『全国暫住人口統計資料匯編』では、暫住時間が3日以上の者を調査対象にしている

(1)  外来流動人口は、全国で7000万人近い(6993万人)。ちなみに、フランスの人口は5950万人、ドイツは7830万人、ベトナムは8040万人である。外来流動人口7000万人のうち3分の1が広東に集中している。その数2130万人。また同じく3分の1が長江デルタに集まっている。その数2063万で、うち上海390万、江蘇775万、浙江898万である。北京は広東、長江デルタに比較して労働力の吸収力が劣り、20分の1、5%程度だが、それでも実数は365万人である。以上の広東、長江デルタ、北京のほかに天津、山東を足した沿海部で70%を占め、沿海部を中心に人口の激変が起こっていることが明らかである。(グラフ1)
  
グラフ1:2003年の外来流動人口

[ 長江経済圏(上海・浙江・江蘇)29.5% 2063万人 ]

      
(2) 以上はストックであるが、フローはどうか。2002-2003年の1年間における変化を見てみると、全国で1000万人余の外来流動人口が発生している。1年間に500万という私の予測の2倍である。1000万人といえば、ざっと東京の人口で、これだけの農村部「余剰労働力」が都市へ、都市へと移動し続けているのである。この大移動の勢いがが仮に10年間継続したら、どういうことになるか。想像を絶する事態が発生するに違いないが、それ以上に恐るべきは農村部「余剰労働力」で、その数は1億5000万人と言われる。(グラフ2) 
(3) 2002-2003年1年間1000万人余の外来流動人口のうち半分(54.4%)の511万人は、長江デルタのものである。広東は278万人、27.4%である。両地域はストックでは3分の1ずつを占めていたが、近年は広東の集中のピッチが落ち長江デルタへの集中の速度が上がっていることを示している。前年比伸び率で見ると長江デルタ36%、広東15%である。長江デルタの内訳は、うち上海99万、江蘇260万、浙江191万である。上海は面積、人口で限界があるが、江蘇は都市部で産業が旺盛で、広大な農村部をもっていて飛び切り大きな労働移動を生じさせている。また、浙江は資本主義経営の先進地域で雇用吸収力が際立っている。以上の広東、長江デルタ、のほかに北京、天津、山東を加えた沿海部を合計すると90%となる。先に見たようにストックにおいては70%であったから20ポイントも多い。沿海部を中心にした人口移動はますます激しくなっているのである。(グラフ2)
  
グラフ2:2002年-2003年の外来流動人口

[ 長江経済圏(上海・浙江・江蘇)54.4% 511万人 ]

       
(4) 報告書では、外来流動人口は、省(直轄市、自治区)内での移動と省外からの移動とに分けて報告されている。省(直轄市、自治区)内に広大な農村部を持っている省は省内から移動が比較的多く、省内の農村部が小さい省は省外からの移動が多いことになる。例えば、省外からの移動の割合が圧倒的なのは北京(98.1%)、天津(99.6%)、上海(97.8%)である。逆に、省内からの移動の割合が多いのは山東(35.91)、江蘇(50.9%)である。両者の中間にあるのが広東と浙江で、省外からの移動の割合が広東(75.4%)、浙江(79.9%)である。 
(5) 省と省をまたぐ人口の移動は2002-2003年1年間のフローで総計800万人余(804万人)である。1年間1000万人余の外来流動人口のうち8割が省間移動で2割が省内移動というわけである。他省からの人口流入が激しいのは、第1に広東である。なんと1年間に253万人(31.5%)の人口を受け入れている。第2に多いのは浙江省で186万人(23.3%)であるが、比較的大きな農村部を擁する浙江省が何故かくも労働力の吸収能力があるのか、識者の御教示を得たい。農村戸籍と都市戸籍を区別する戸籍制度の改革が自由な労働移動を妨げているが、この改革が進んでいるという要因が絡んでいるのであろうか。第3位の江蘇は広大な農村部をもっていて省内での労働移動の割合が大きく、省外からは148万人(18.4%)にとどまるが、対前年伸び率が60%にも達し、今度増加する趨勢にある。第4位の上海は96万人(12.0%)であり、その流入先は主に安徽、江蘇、四川、浙江、江西であることが判明している(『上海統計年鑑』2004年版)。そして、浙江、江蘇、上海をあわせると(長江デルタ)、431万人となり、全体の53.6%にもなる。これは、最近の上海経済圏の経済力を如実に反映したものである。
 
グラフ3:2002年-2003年の省間の流動人口

[ 長江経済圏(上海・浙江・江蘇)53.6% 431万人 ]

 この人口移動は、地域間の「経済格差」を動力としていることは言うまでもない。例えば、上海と安徽の都市住民の年間一人当たり可処分所得を比較すると、上海1万4868元、安徽6778元で2.2倍の格差がある。安徽農村の純収入なら2128元で上海都市住民とで7倍の格差である。政府当局により地域格差の是正が叫ばれている間に、目先のきく庶民は貧しい故郷から豊かな都会に向かって出稼ぎや職探しの旅に出るという次第である。
      
原表1  2003年の外来流動人口
  省   外来流動人口 割合(%) 省外からの移住人口
市+県 割合(%)
 北京 3,654,261 5.2 3,585,389 98.1
 天津 853,658 1.2 850,651 99.6
 上海 3,901,058 5.6 3,813,360 97.8
 江蘇 7,748,701 11.1 3,943,668 50.9
 浙江 8,981,658 12.8 7,177,773 79.9
 山東 2,732,770 3.9 980,045 35.9
 広東 21,302,901 30.5 16,060,374 75.4
 計 49,175,007 70.3 36,411,260 74.0
 その他 20,759,606 29.7 9,041,929 43.6
 全国
 総計
69,934,613 100.0 45,453,189 65.0
      
        
原表2  2002年−2003年の外来流動人口
外来流動人口 省外からの移住人口
2003年 2002年 増加 割合
(%)
伸び率
(%)
2003年
市+県
2002年
市+県
増加 割合
(%)
伸び率
(%)
北京 3,654,261 3,191,633 462,628 4.6 14.5 3,585,389 3,099,180 486,209 6.0 15.7
天津 853,658 782,148 71,510 0.7 9.1 850,651 778,680 71,971 0.9 9.2
上海 3,901,058 2,907,307 993,751 9.8 34.2 3,813,360 2,851,100 962,260 12.0 33.8
江蘇 7,748,701 5,143,717 2,604,984 25.7 50.6 3,943,668 2,462,853 1,480,815 18.4 60.1
浙江 8,981,658 7,069,345 1,912,313 18.9 27.1 7,177,773 5,313,926 1,863,847 23.2 35.1
山東 2,732,770 2,413,831 318,939 3.2 13.2 980,045 821,513 158,532 2.0 19.3
広東 21,302,901 18,527,129 2,775,772 27.4 15.0 16,060,374 13,530,481 2,529,893 31.5 18.7
49,175,007 40,035,110 9,139,897 90.3 22.8 36,411,260 28,857,733 7,553,527 93.9 26.2
その他 20,759,606 19,777,996 981,610 9.7 5.0 9,041,929 8,553,362 488,567 6.1 5.7
全国
総計
69,934,613 59,813,106 10,121,507 100.0 16.9 45,453,189 37,411,095 8,042,094 100.0 21.5
      

      

このページの上へ <目次>へ戻る