第08号 2004.11.30発行 by 中村 公省
    流動人口再論
−流動人口は1.4億人、「暫住人口」は7000万人−
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 11月1日の新華社電が、中国の流動人口は1億4000万人、と伝えている。「キーナンバー」6号では7000万と言っているが、倍も違うではないか。どうしたことか?

 こういう趣旨のメールが飛び込んだ。お説ごもっとも。21世紀中国総研ホームページの読者の眼力に敬服する。倍も違うと、中国の統計数字があてにならないという巷間の誤解を増幅させかねない。21世紀中国総研ホームページの信頼にもかかわる。流動人口について再論しなければならない。

 問題の11月1日新華社電は、寧波で開催された中国流動人口計画出産会議での報告を転電したものであり、「中国網」2004.11.01は以下のように伝えている。
 「2003年末の、わが国の流動人口は約1億4000万人で、全国人口の10%を越えた。そして、今後相当の長期間、流動人口の規模はさらに拡大するであろう。」
 「2000年の第5回人口センサスの結果明らかになったところでは、わが国の流動人口は総数1.21億人、うち省内流動が7865万人(65%)、省を跨ぐ流動4242万人(35%)である。流動人口の増加は、現在の戸籍管理制度、労働就業制度、社会保障制度などに衝撃を与え、また伝統的な人口・計画出産工作の管理様式、サービス様式に戦いを挑んでいる。」
すなわち、流動人口1億4000万人説の根拠は、第5回人口センサス(2000年11月1日実施)であり、その後のサンプリング調査を根拠に、2003末1億4000万人と推計しているのである。*

 一方、わが「キーナンバー」6号の7000万説が依拠した資料は、中国公安部の『全国暫住人口統計資料匯編』である。すなわち、1億4000万人説は国家統計局調査ベース、7000万説は公安部調査ベースであって、調査機関が異なるのである。(また、調査時点が、1億4000万人説は2003年末、7000万説は2003年年央〔6月30日24時現在〕と半年のずれがある。)
 しかし、同じ対象を調査していながら、何故に倍の違いがもたらされるのか。あれこれ理由は考えられるが、根本的には、同じ流動人口と言いながら、両機関の流動人口の定義が異なることが大きい。
2000年の第5回人口センサスにおける流動人口は、「普査弁法」を解読すると、以下のように定義されていることがわかる。
@
A
流入地に1日以上居住している者で、
流出地を離れ半年以上になる者。



 これに対して、公安部調査では、以下の者を対象にしている。
@
A
流出地を離れ、流入地に3日以上居住している者で、
流入地で「暫住証」を取得した者(これを「暫住人口」という)。



 「暫住人口」とは、農村戸籍をもつ者が、都市に臨時に住む(暫住)ための戸籍(暫住戸籍)を取得した者のことである。
国家統計局第5回人口センサスの流動人口と公安部の流動人口との定義の違いは、数点にわたるが、倍もの違いを生み出すのは、1日か3日かの違いにはなく、「暫住証」の取得いかんにあると思われる。
 中国では、外地から都市にやって来て臨時に合法的に居住するためには当該都市の暫住戸籍を取ることを義務付けられている。公安部はこれを管轄している。例えば、北京市では満16歳以上の外地人で、北京に暫住時間が1カ月を越える者、あるいは北京市で仕事、商売に従事する者は、北京に到着後3日以内に暫住登記の申請をしなければならない。ところが、これを登記しない者がいるのである。その数は、細かな違いを捨象しての話だが、国家統計局定義に基づく流動人口1.4億マイナス公安部定義に基づく暫住人口7000万イコール7000万人となる。わかりやすく言えば、流入地に流れてきた流動人口の半分が「暫住証」を取得し合法的に居住し、残り半分は「暫住証」を取得しないまま非合法的に居住しているのである。
 これは、失業者数のカウントの問題と似たところがある。中国の都市部の失業者は、公式には以下のように定義されている。「非農業戸籍をもつ者で、一定の労働年齢に達し(16-50歳)、労働能力があり、無職で就職を希望し、当該地の就職斡旋機関に求職の登記をしている者」(『中国統計年鑑』2004年版181頁)。これが公式の失業者だが、実質的にはこの定義から逸脱する失業者が倍いても不思議はなく、実際にそういう推計が試みられているのである。

 ここまで書いてきて、私の「キーナンバー」6号の訳語のまずさを思い知らされた。私は、「キーナンバー」6号で、「暫住人口」を「流動人口」と翻訳したのだが、混乱の一半はこの訳語から発している。無理やり訳したのがいけないのであって、ここは原文のまま「暫住人口」とすべきであった。慙愧に堪えない。結論を急ごう。
 中国の流動人口は、2003年末で約1.4億人である。(第5回人口センサスに基づく推計)**。
 中国の「暫住人口」は約7000万人である。(中国公安部『全国暫住人口統計資料匯編』)

 2000年の第5回人口センサスでは、流出が半年に満たない流動人口は統計に含んでいない。「上海市と北京市の調査では、外来人口中に当地に来て半年以下の人口が20%程度いる。したがって、第5回センサスの流動人口数に、その5分の1を足した数が、控えめに見た実際の流動人口数量ということになる。」〔譚深「外来工的主要問題」(中国人口信息網 http://www.cpirc.org.cn/yjwx/yjwx_detail.asp?id=3523)〕 
 この推計法を採用すれば、2003年末の流動人口は1.7億近くと推定できる。

注*   2003年末1.4億人と推定しているのは、統計局ではなく国家人口・計画生育委員会であろう。同委員会は、流動人口を定期的にサンプリング調査していて、独自の集計能力を持っている。その報告書に「計画生育統計公報(2002年第4号)--跨省流動人口計画生育管理与服務情况」( http://www.chinapop.gov.cn/rkzh/zgrk/tjgb/t20040326_2840.htm)などがある。 
 
注**  国家統計局農村調査総隊は、サンプリング調査の結果、2003年に1億1390万人の農村労働者が「外出務工」〔流出して就労〕していて、その数は農村労働力の23.2%の当たるという報告をしている。(「流動人口:国家統計局調査結果顕示 去年我国1.1億農村労働力外出務工」http://www.chinapop.gov.cn/rkkx/ztbd/t20040517_13028.htm)。


 付論
 (1)中国第5回人口センサスにおける流動人口(2000年11月1日零時調査)

1.流動人口

全国の流動人口

12107

100

うち省内で流動

7865万人

65

うち

省を跨いで流動

4242万人

35

 

.郷村から城鎮への流れ

城鎮から流出

3237万人

27.0

郷村から流出

8840万人

73.0

 

城鎮に流入

9012万人

74.4

郷村に流入

3095万人

25.6

 

3.主要流出地

流出地

人口

シェア

四川省

695.7

16.4%

安徽

432.6

10.2%

湖南

430.6

10.2%

江西

368

8.7%

河南

307

7.2%

湖北

280.5

6.6%

6省合計

2514.4

59.3%

 

主要流入地

流入地

流入人口

シェア

広東省

1506.5

35.5%

上海市

313.5

7.4%

北京市

246

8.5%

浙江省

369

8.7%

江蘇省

255万人

6.0

北京市

246万人

5.8

福建省

212万人

5.1

6省合計

2906万人

68.5%

(資料)『中国人口統計年鑑』2002年版


 (2)第5回人口センサスの調査対象
 常住人口を原則としている。その内訳は以下のとおり。
@
A

B
C
D
当該の郷、鎮、街道に居住し、かつ当該の郷、鎮、街道で常住戸籍を登記している人。
当該の郷、鎮、街道にすでに半年以上居住して、当該の郷、鎮、街道以外の地で常住戸籍を登記している人。
当該の郷、鎮、街道に居住して半年に満たないが、常住戸籍登記地を離れ半年以上になる人。
センサス時に当該の郷、鎮、街道に居住し、常住戸籍を待機している人。
当該の郷、鎮、街道に居住していたが、センサス時に国外にあって仕事をしたり学んだりしていて、しばらく常住していない戸籍の人。








 常住戸籍が当該の郷、鎮、街道にあるが、当該の郷、鎮、街道を離れ半年以上になる人、また戸籍所在地に登記しているだけのものは、戸籍所在地の常住人口の中には入れない。〔「第5次全国人口普査弁法」(2000年1月10日)第6条、第7条より〕

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