第22号 2006.1.1発行 by 中村 公省
    経済センサス――GDPの修正 <目次>へ戻る
 
1.天網恢恢、密にして漏らさず
 中国の経済統計は基本的に信頼できる、としてきた者にとって、GDPの修正発表(2005年12月20日)は、いささかショックであった。
 2004年12月31日を期して一斉に行われた第一次経済センサスの結果、中国の2004年GDP(国内総生産額)は従来国家統計局が公表してきた数値(旧公式数値とする)よりも16.8%多いことが判明したという。GDPのうち第三次産業の付加価値増加額に至っては旧公式数値の48.7%増、即ち約1.5倍もあったことが示された。後者の数字を統計局長は口にしていないが、これは初等算数で算出できることである。(表1参照)
 北京市の場合は修正なんてものではない。経済センサスによる2004年北京市のGDP(域内総生産額)は「2004年北京市統計公報」(旧公式数値)と比較検証すると41.5%増、即ち1.4倍にもなっている。そのうち第三次産業の付加価値増加額は旧公式数値の1.6倍と出ている。(表2参照)
 
中国の2004年GDP――経済センサスと統計公報との比較
表1 全国
中国の2004年GDP―経済センサスと統計公報との比較 表1 全国
 
表2 北京市
中国の2004年GDP―経済センサスと統計公報との比較 表2 北京市
 
表3 上海市
中国の2004年GDP―経済センサスと統計公報との比較 表3 上海市
 
(資料)国家統計局、北京市統計局、上海市統計局発表により21世紀中国総研作成。旧公式統計は『中国統計年鑑』2005年版
 
 経済センサスは国際スタンダード(SNA, System of National Accounts)に基づいて、300万人の調査員と1000万事業単位関係者が協力した全数調査(抽出調査ではない)である。調査対象は、第二次産業、第三次産業に限定されているが、2006年には第一次産業センサスを行い、さらに5年ごとの経済センサスの継続実施が公約されている。(「キーナンバー」第9号 2005.1.1発行参照。)
 中国の経済統計については、これまで過大評価されているとジャーナリスティックに喧伝されてきたものだが、逆に過小評価されていた事実をつきつけられたのである。言うまでもないことながら、経済実体に変動があったわけでわけではなく、実体を計測するモノサシが粗雑なものから精密なものに変わって、計測漏れが見つかり、グロスの数値が膨れ上がったのである。いわば、「天網恢恢」の網の目が密になって、疎にして漏れていた経済実体が把握されるようになったわけである。『中国統計年鑑』をはじめとするGDP数値、これまで流布していたGDPデータはすべてゴミ箱行きである。
 
2.調査漏れは交通運輸、卸売小売、不動産など3業種に集中
  従来のGDPデータの計測漏れが主に第三次産業にあったことは明白である。それは第三次産業の修正額がGDP総額修正額(2億1297万元)の93%を占めているところに現れている。いうなれば旧来のGDP計測は第三次産業をまともに調査おらず、第一次経済センサスで初めて調査の手が及んだという次第である。
 では、中国ではこれまで何故、第三次産業の調査をきちんと出来なかったのか。李徳水国家統計局長はその原因を五つ指摘している。 
(1) 1980年代以前の中国の国民経済計算体系は、計画経済体制下で「物質産品平衡表体系」(MPS, Material Product System)を長期間採用していて、サービス業統計が非常に薄弱であった。1990年代以来、中国の国民経済計算体系を国際的な計算標準(SNA)に接近させ、サービス業統計を強化してきたが、なお基礎統計作業が不完全であった。
(2) 第三次産業分野は事業単位が多く範囲が広くて、事情が複雑で、財務制度が不健全で、統計手段が立ち遅れている。
(3) 改革の進化に伴って、経済区分が日増しに多元化した。わけても私営、個人サービス業が急速に発展した。非常に分散し、変化が激しいところでは組織統計調査の難度がこうじ、一定の調査漏れがでる。例えば、個人・私営が比較的大きな割合を占めている交通運輸・倉庫・郵便通信業、卸売・小売・飲食業、不動産の3業種がセンサス後の旧公式数値より1.5億元近く増え、第三次産業増加分の70%を占めた。
(4) 新興サービス業が大量に出現し、急速に発展しているが、資料不全で、旧公式統計では正確な計算が難しく、計算データが低くなる現象があった。例えば、コンピュータサービス業、ソフト業、インターネットサービス業、GPSサービス業、娯楽業、リース業、ビジネスサービス業、家庭サービス業などは近年猛烈に発展しているが、旧公式統計の関連資料からの推計統計は不十分であった。
(5) 工業、建築業で行われている付属サービス業が、あるものは第二次産業にまぎれこみ、その多くは漏曳していた。
 (「国家統計局負責人就全国経済普査答記者問」2005.12.23)
 ○(水+番)建新上海市統計局長のほうは、経済センサスと旧公式統計データの違いを三つにまとめて説明しているが、そのうち二つは国家統計局長とは少し角度が違うので、これもついでに紹介しておこう。
(1) 両者の計算範囲が違う―――旧公式統計調査では、一定額以上の事業所(単位)を対象にしており、一定額以下の事業所と個人事業者(個体戸)はサンプリング推計を行っていた。経済区分が多元化、わけても私営、個人など非公営経済が急速に発展して事業所数の増減変動が激しく、統計部門はこれをタイムリーに掌握し情報を変更することが出来なかった。旧公式統計には調査漏れがあった。経済センサスは旧公式統計より調査範囲が拡大したのである。
(2) 両者の計算方法が違う―――国家統計主管部門が計算方法を一部修正したので、経済センサスと旧公式統計とではGDP計算方法が異なる。旧公式統計の計算では、資料範囲が限られていて、第三次産業の中で交通運輸、不動産業などの増加額は主に関連する実物量指標の増減率を参考にして推計していた。また、情報送信、リース、ビジネスサービス、文化・スポーツ・娯楽、公共サービスなどの業種は税収、経費支出、賃金収入などの資料を参考にして間接的に推計していた。経済センサスの計算方法はセンサスで得た企業財務資料を直接利用するものである。例えば、2004年の運輸業、不動産業企業の収益は好調で、その増加額は実物量の増加幅を遥かに上回っている。つまり、計算方法の違いで両者に一定の差が生じたのである。(コメント:上海の異動は比較的少なくGDPで8.4%、第三次産業部門でも14.9%であった。表3参照)
 (「市統計局長○(水+番)建新就上海市経済普査答記者問」2005.12.26)
 
3.経済センサス結果トッピックス
  第一次経済センサスの調査結果は、まだほんの一部が「初歩的集計」されて発表されただけである。2005年内には調査概要の第一号公報、第二次産業概要の第二号公報、第三次産業概要の第三号公報のほかにトピックスを披露した記者会見があっただけである。省レベルでは北京と上海のほかはまだ詳報がない。おいおい全貌が発表されるものと思われるが、『中国経済年鑑』をはじめとするGDP数値が使い物にならないことが宣言されているだけに、スピーディな情報公開が望まれる。(《第一次経済普査資料匯編》の刊行が予告されている。)
 とりあえず、国家ならびに北京市統計局が開示したトッピックスを拾っておけば、以下のごとくである。
(1) 2004年GDP世界ランキングが第7位から第6位に上昇した。4位英国、5位フランスとの差も縮まっている。(表4)
表4 2004年GDP世界ランキング
表4 2004年GDP世界ランキング
(原資料)IMF
(2) 2004年一人当たりGDP世界ランキングはIMF方式で1490ドル・世界107位、世界銀行方式では1276ドル・世界第129位である。世界平均の5分の1という客観的事実は変わらない。(表5)
表5 2004年一人当たりGDP世界ランキング
表5 2004年一人当たりGDP世界ランキング
(原資料)IMF (原資料)世界銀行
(3) 2004年GDPは世界の4.4%を占めるにすぎないが、そのために消費した原油、原炭、鉄鉱石、鋼材、酸化アルミ、セメントはそれぞれ世界全体の7.4%、31%、30%、37%、25%、40%を占めて、極めて非効率、環境負荷の生産をしている。(コメント:これは第11次5カ年計画策定目標の統計局がサービスしたものである。)
(4) 対外貿易依存度(対外貿易額/GDP×100)は2002年48.9%、2003年60%、2004年69.8%と上昇していたが、実は2004年は59.8%であった。(コメント:外需依存成長はこれまで考えられていたほどではない。)
(5) 第一次経済センサスの結果、省レベルGDPでは増減が生じ、19省のGDPは増加したが、12省では減少した。実際上これらのデータは経済センサス以後、調整をする。原則的に省レベルの調整方法と国家レベルの調整方法とは基本的に一致させる。
(6) 北京の一人当たりGDPは3513米ドルから4970米ドルに修正された(常住人口で算出)。これは世界の中所得国レベルであり、省レベルで上海についで第2位の地位にある。
(7) 数値の修正をするとともに成長率の調整もしなければならないが、成長率の調整は大きくはなく、コンマ以下であろう。
 
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