第30号 2006.9.1発行 by 中村 公省
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 『中国情報ハンドブック』は新規の情勢に応じて年々改訂を施しているが、2006年版で遣り残したことがいくつかある。所得格差を表示するジニ係数、GDP1万元当たりエネルギー消費量、米国の対中貿易赤字、人民元レートの年間推移などなど。そのうち、今回は、米中経済関係データを『中国情報ハンドブック』に掲載する形を考えてみたい。

1. 米国の対中貿易赤字
 米中経済関係の焦点は、米国の対中貿易赤字の拡大にあるが、その実情ということになると、米中双方の認識に大きな違いがある。米国発表データと中国発表データに基づき、米国の対中貿易赤字をグラフに描いてみると、図1のようになる。2005年で比較すると、米国データに基づけば対中赤字額は2180億米ドルであり、中国データによれば中国の対米黒字額(即ち米国の対中赤字額)は1144億米ドルである。両者の間に1036億米ドルもの齟齬がある。

図1 米中データによる米国の対中赤字の違い
(資料)IMF, Direction of Trade Statistics

 米中双方の、この食い違いの主要要因は、香港を経由する中国の中継貿易のカウントの仕方にある。中国データでは、香港を経由する米国への輸出は、香港への輸出とされるものが少なくない。逆に米国の中国からの輸入では、香港を経由するものすべてが中国からの輸入として計上される。したがって、中国の対米輸出は過小にカウントされている。
 この問題については、関志雄野村資本市場研究所シニアフェローの論考がある。「米中・日中間の貿易不均衡の実態― 香港経由の中継貿易を考慮して ―」(http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/ssqs/060224-2ssqs.htm)。簡にして要を得た分析だから、原文を参照されたい。関志雄論考の論点をフォローすると以下のようになろう。
(1) 米国の対中貿易赤字については、米国発表のデータ、中国発表のデータの間に大きな違いがあるが、米国発表データの方が実情を反映している。
(2) 中国発表のデータの問題は、米国向け香港経由の輸出(中継貿易)を、米国への輸出ではなく香港への輸出として計上しているところにある。
(3) 米中間の実際の輸出入規模は、米中双方の輸入統計によって示された金額に近いと考えられる。

 米中双方の輸入データが実情を表しているとの指摘は、もっともである。理屈では、中国の輸入は、米国にとっては対中輸出である。また米国の対中輸入は、中国にとっては対米輸出である。実際の税関統計データは、この理屈どおりにはならないのだが、限りなく理屈どおりになるべきである。そこで、この理屈にしたがってみよう。
   「中国の対米輸入データ」は、「米国の対中輸出実額」を表している。(A)
   「米国の対中輸入データ」は、「中国の対米輸出実額」を表している。(B)
 この(A)(B)から次の算式が導きだされるであろう。
   米国の貿易赤字額=(A)―(B)=「中国の対米輸入データ」―「米国の対中輸入データ」(C)
 関志雄シニアフェローは、この(C)の算式を使って米国の貿易赤字をグラフに描いているが、米国データに基づく対中赤字額とほぼ照合して実に説得的である。

2. 米中貿易の米中双方にとっての地位
 さて、そこで、(A)(B)を使って、米中経済関係を表す指標を描いてみてはどうであろうか。具体的には、以下のようにする。
 中国→米国貿易の双方に占める地位を
   ◆米国の輸出に占める中国の地位(中国の対米輸入/米国の輸出総額)
   ◆中国の輸入に占める米国の地位(中国の対米輸入/中国の輸入総額)
   から算出する。
 また、米国→中国貿易の双方に占める地位を、
   ◆米国の輸入に占める中国の地位(米国の対中輸入/米国の輸入総額)
   ◆中国の輸出に占める米国の地位(米国の対中輸入/米国の輸出総額)
   から算出する。

 この算式を使って、IMF, Direction of Trade Statistics のここ10年余(1994-2005年)のデータを整理したのが、図2、図3である。
  
図2 中国→米国貿易の双方に占める地位
(資料)IMF, Direction of Trade Statistics

 まず図2を見てみよう。中国の輸出に占める米国の地位(米国の対中輸入/米国の輸出総額)は以下のように変化している。
 34.2% 32.6% 36.0% 36.0% 40.9% 44.4% 42.6% 41.1% 41.0% 37.3% 35.5% 34.1%。
 中国データによる中国の輸出に占める米国の地位は以下の如くである。
 17.7% 16.6% 17.7% 17.9% 20.7% 21.5% 20.9% 20.4% 21.5% 21.2% 21.1% 21.4%。
 中国の輸出にとっての米国の地位は、20%前後という中国データによる過小評価とは違って、実際には30―40%台を推移している。中国にとって米国の地位は見かけよりもはるかに大きいのである。2005年は34.1%で、中国の輸出の3分の1以上を占めている。しかし、その地位は1999年の44.4%をピークにして年々低下している。米国の対中貿易のアンバランスに対する批判に対して、中国がEUなどに輸出先を分散し、それなりに自制して対米輸出を抑制している結果と見られる。しかし、同じ金額が米国の輸入に占める中国の地位(米国の対中輸入/米国の輸入総額)は以下のように徐々に上昇している。
 6.0% 6.3% 6.6% 7.3% 8.0% 8.2% 8.4% 9.3% 11.1% 12.5% 13.8% 15.0%。
 米国にとっては、対中輸入の比重が次第に大きくなり、対中貿易赤字が雪ダルマ式に巨大化していっている、と映るであろう。

図3 米国→中国貿易の双方に占める地位
(資料)IMF, Direction of Trade Statistics

 次に図3を見てみよう。
 米国の輸出に占める中国の地位(中国の対米輸入/米国の輸出総額)は2―5%台ながら、年々高まっている。
 2.7% 2.8% 2.6% 2.4% 2.5% 2.8% 2.9% 3.6% 3.9% 4.7% 5.5% 5.4%
 これに対して中国の輸入に占める米国の地位(中国の対米輸入/中国の輸入総額)は12%から7%台へと低下傾向にある。
 12.1% 12.5% 11.6% 11.5% 12.1% 11.8% 9.9% 10.8% 9.2% 8.2% 8.0% 7.4%
 中国の対米輸入は絶対額では増加しているが、米国の相対的地位は下がっているのである。

 さて、こうした変則的な米中経済関係データを『中国情報ハンドブック』に掲載するにはもう一考を要するように思われる。
 
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