第31号 2006.10.2発行 by 中村 公省
    マツダの中国における生産・販売体制 <目次>へ戻る
 マツダが中国において乗用車の売り上げを急激に伸ばしている。
 2001年6万台、2002年2.6万台、2003年9万台、2004年9.6万台、2005年13万台という急伸ぶりである。この数字は、2005年の日本ビッグ3の中国における販売数――広州ホンダ23万台、天津トヨタ19台強、東風日産19万台弱――と比較すると、総合実力以上の好成績と言えよう。
 しかし、このマツダの中国における生産・販売体制は競合他社に比べて特異である。
 マツダはこれまで中国に自前の組み立て工場を持たないで来た。マツダ車の中国における生産は、他社のような合弁生産ではなく、主に中国地場企業への技術供与-委託生産によってもたらされている。
 また、マツダは中国に販売現地法人を持っているが、25%の支配権しか握っておらず(第一汽車が75%を支配)、そのうえ製・販分離という厄介な問題を抱えている。
 以下に、その実態をトレースしておこう。

1. 二つの委託生産工場

 委託生産工場の一つは、海南島海口市に本拠を置く「一汽海馬汽車有限公司」である。社名の「一汽」は第一汽車、「海馬」は海馬集団と馬自達(マツダ)を意味しており、事実上、三社による「聯合開発方式」で運営されている。もともとは地場の海南汽車とマツダ・伊藤忠連合(マツダ17.5%、伊藤忠商事7.5%出資)の合弁会社(海南馬自達汽車)で、1992年以来マツダのファミリアSワゴンをノックダウンで生産していたが、「死線をさまよう」経営状態が続いた。そこに1998年、中国トップメーカーの第一汽車が資本参加、日本勢は出資を引き上げ、第一汽車主導(51%)でマツダ車を受託生産する工場に再編成された。これは部品を日本から持ち込んで完成車に組み立てるセミノックダウン方式による委託生産だとも見なせる。
 一汽海馬汽車有限公司は2001年プレマシー、2002年ファミリアを出荷、生産拡張し、2004年15万台の生産能力を持つに至った。
 マツダのもう一つの委託生産工場は、中国最高級車「紅旗」と、そのエンジン・変速機・部品を製造・販売している長春市の一汽轎車股份有限公司である(第一汽車100%出資)。2003年3月からこの工場においてマツダの技術供与でミドルサイズカーのMazda6(日本名「アテンザ」)が製造されている。生産能力は年産7万台、2004年カーオブザイヤーも受賞し、2006年3月までに5万0508台の生産実績が報告されている。

図1 一汽海馬汽車有限公司(海南省海口市)
図1 一汽海馬汽車有限公司(海南省海口市)
1992年、海南汽車投資60%、海南汽車15%、マツダ17.5%、伊藤忠商事7.5%の出資合弁で海南馬自達有限公司を設立。商用車を組み立て。
1998年、第一汽車が資本参加。
2004年社名を海南馬自達有限公司から一汽海馬汽車有限公司に変更。

図2 一汽轎車股份有限公司(吉林省長春市)
 Mazda6(日本名マツダアテンザ)の製造・販売(技術供与で委託生産)。2003年3月マツダ車生産開始。生産能力7万台/年。2006年3月までに5万0508台生産
図2 一汽轎車股份有限公司(吉林省長春市)


2. 生産支援の独資統括統括法人とR&Dセンター

 繊維、電機、ITなどの業種で中国における委託加工貿易は花盛りであるが、1万点以上の部品を摺り合わせ組み立てる高度なインテグラル製品における国内市場向け委託生産は珍しい。技術供与-生産委託体制を可能にしたのは、部品を日本から輸入する海南島特区の特例(ノックダウン)の生産経験、トップメーカー第一汽車のヘゲモニーに加えて、マツダの技術支援・生産支援バックアップ体制の構築であったろう。
 2005年1月、上海に設立された「馬自達(上海)企業管理諮詢有限公司」は、マツダの中国ビジネスのヘッドクォーターであるが、出資200万ドルの上海市認可の「管理性公司」であり、商業販売権をもっていない。その主要な任務は、生産委託工場などへの技術供与と生産支援活動など各種サービス提供にある。90名の社員のうち中国技術支援センターに53名を配し、中国市場における技術動向などの調査・研究及びR&D、購買、品質、サービス各領域における技術支援に従事させている。現地生産車や現地生産エンジンの立ち上げの支援、市場クレームの分析を通じた商品対策の迅速な実施、マーケットリサーチを通じた顧客ニーズの将来商品への適切な反映なども担当するという。上海は長春、海南島の中間地点に位置し、以下に述べる重慶、南京の生産拠点への地の利もある。

図3 馬自達(上海)企業管理諮詢有限公司(上海市)
図3 馬自達(上海)企業管理諮詢有限公司(上海市)


3. フォード工場におけるマツダ完成車とマツダエンジンの供給

 マツダはフォードの支配下にあるが(筆頭株主で29%支配)、中国においてはフォードの合弁会社に資本参加して同工場に乗り入れるという挙に出た。
長安福特汽車有限公司(本社:重慶市)は、フォード50%、長安汽車50%出資の合弁であったが、2006年4月、マツダはフォードが所有していた50%の株式から譲渡を受け、3 社の出資比率を、マツダ15%、フォード35%、長安汽車50%として、社名を「長安福特馬達汽車有限公司」に変更させ、2006年3月、Mazda3 の追加生産を開始した。Mazda3は日本では「アクセラ」として売られているスポーツコンパクトカーである。
 これと併行して同社南京工場の建設が着手されている。この工場は初期生産能力16 万台で、2007 年に稼働の予定である。
 また、南京工場に隣接して長安福特馬自達発動機有限公司の建設が進行中で(2007 年稼働予定)、ここから中国各社工場に基幹部品のエンジンを供給する計画である。

図4 長安福特馬達汽車有限公司(重慶市、南京市)
図4 長安福特馬達汽車有限公司(重慶市、南京市)
 
図5 長安福特馬自達発動機有限公司(南京市)
図5 長安福特馬自達発動機有限公司(南京市)


4. 第一汽車の販売網による販売体制

 マツダは中国市場において2010年30万台販売を目標とし、商品ラインアップを強化して8車種を投入している。この販売体制強化のため、マツダは、2005年3月に第一汽車集団との合弁による販売統括会社「一汽馬自達汽車銷售有限公司」(一汽マツダ汽車販売有限公司)を設立した。
 資本金1億元(約14億円)だが、一汽乗用車が70%、第一汽車集団が5%出資で、マツダは4分の1のマイナー出資にすぎない。マツダは一汽乗用車が築いた180店舗のディーラー網に卸売するために董事長、総経理の双方を独占した。
「将来中国におけるマツダブランド車の卸売りを統一的に行うことを目的として設立された販売統括会社である」(2005年3月28日プレスリリース)とアナウンスしている。

図6 一汽馬自達汽車銷售有限公司(長春市)
図6 一汽馬自達汽車銷售有限公司(長春市)


5. 製販分離問題の浮上と解決方法

 しかし、海南集団、第一汽車、長安汽車、そしてフォード、マツダと船頭多くして、利害が錯綜している中 で、マツダの企業ガバナンスの脆弱さは覆いがたい。それを端的に露呈したのが2006年4月に発生した製造・販売分離問題である。
 一汽馬自達汽車銷售有限公司は、フォード工場で生産したマツダ車を販売する。しかし、フォード工場は長安汽車との折半会社である。一汽としては競争他社(長安汽車)の製品を販売することになる。
 これに対して、中国政府は製販分離に難色を示し、2006年4月、生産開始早々の「マツダ3」の生産を停止させた(日本経済新聞2006年6月7日)。
この製販分離問題は、自社で製造・販売するつもりであった長安汽車の不満がこうじたものと推測されるが、つまるところは市場経済の利害の問題で、以下のような方式で一件落着したと中国内では伝えられる(「北京青年報」2006年9月27日)。
 ① 長安福特汽車有限公司は、マツダ車の販売権を回復する。
 ② 長安福特汽車有限公司は、「マツダ3」の販売を一汽馬自達汽車銷售有限公司に「授権」する。
 いかにも「上に政策あれば下の対策あり」の中国的な解決策であるが、抜け目のないソロバン勘定がはじかれていることは間違いない。しかし、2007年には長安福特汽車有限公司の南京工場が立ち上がる予定で、この問題の根本的解決は先送りされていると思われる。
 
追記: その後、日本で以下のような報道がもたらされている。
                                    日本工業新聞 2006年10月31日http://www.nikkan.co.jp/
マツダ、中国で「アクセラ」生産を7カ月ぶり再開

 マツダは30日午後から、長安フォードマツダ(重慶市)の重慶工場で「アクセラ(海外名マツダ3)」の生産を再開した。関係者が明らかにした。中国政府の生産許可が下りたためで、4月の生産停止命令から7カ月ぶりとなる。マツダは再開後の詳しい生産・販売計画は明らかにしていない。

 早ければ11月中にも販売活動も再開すると見られ、中国事業の立て直しを図る。

 マツダの中国事業の核として2月末にアクセラの生産を始めた。だが長安汽車グループの長安フォードマツダが生産し、第一汽車グループの一汽マツダ汽車販売(長春市)が販売する“製販分離”体制に難色を示した中国政府から生産停止命令を受けた。

 06年の重慶工場でのアクセラの生産・販売計画は2万台。生産再開の遅れによる「損失」は1万4000台に及んでおり、予約のキャンセルなど影響は少なくない。今年の中国の販売計画である15万台の達成は難しいとみられる。
 
追記2: 日本経済新聞2007年4月2日報道
マツダ、中国で第2の販売網展開

 【重慶=宮沢徹】マツダは2日、2008年から中国で二つ目の販売網を展開すると発表した。長安汽車集団(重慶)との合弁会社、長安フォードマツダ(同)で生産する車種を専売する。これまでこの合弁会社の生産車種はマツダと第一汽車集団(吉林省)の合弁会社が販売してきたが、製販一体を求める中国の自動車政策により販売網分割を迫られた。

  新たな販売網では08年にまず50店舗を開設する計画だ。販売車種は長安フォードマツダの重慶工場が生産している小型車「マツダ3(日本名アクセラ)」と、年内に同社南京工場(江蘇省)で生産を始める「マツダ2(デミオ)」。

 マツダはすでに第一汽車との合弁会社、一汽マツダ汽車販売で約百店舗を展開している。ここでは第一汽車に委託生産する中型車「マツダ6(アテンザ)」と長安フォードマツダが生産するマツダ3を販売してきた。車種が少ないため一つの販売網で一括販売する方が効率的との判断からだ。
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