第39号 2007.7.11発行 by 中村 公省
    都市と農村の貧富の格差 <目次>へ戻る
 創刊20周年目の『中国情報ハンドブック』2007年版をようやく校了とした(出来上がりは7月20日)。節目のバージョンとすべく従来のコンテンツに修正を加え、成長著しい「中華パワー」の実相を俯瞰し得るようなデータを補充することに努めた。昨年、このコーナーで予告した(第30号2006.9.1発行)所得格差を表示するジニ係数、GDP1万元当たりエネルギー消費量、米国の対中貿易赤字、人民元レートの年間推移は、すべて入れることができた。
 そのうち、都市と農村の貧富格差指標(ジニ係数)については、データ収集・処理、グラフ作成で西出雅研究員にご苦労をかけ、別掲PDFのように仕上がった。しかし、ハンドブックはデータをして語らせることに徹するスタンスをとっており、紙幅の制限もあるため、ビジュアル化したグラフについて解釈することは禁欲してある。
 そこで、ここで最小限の補充をしておきたいと思う。
ローレンツ曲線とジニ係数について
 貧富の格差を表す指標としてグラフとしてローレンツ曲線と指標としてジニ係数がある。
ローレンツ曲線は、横軸に所得者の累積比を、縦軸に所得の累積比を、それぞれ(0から1まで)所得の低い順番に並べて、所得分布を表示したものである。すべての人の所得が同額で完全に平等な社会ならローレンツ曲線は45度の直線となるが、現実には格差が存在し、ローレンツ曲線は45度線の下方に膨らむ曲線になる。そして、この垂れ下がった曲線の膨らみが大きければ大きいほど、不平等度が増大していることを表す。
 PDFのグラフ③の都市家庭のローレンツ曲線において、1987年と2006年とを比べると、2006年は不平等度がより大きくなったことを意味する。一方、PDFのグラフ①の農村家庭のローレンツ曲線は2000年と2006年との違いがほとんどなく不平等度はあまり進行していないことを意味する。
 ジニ係数はローレンツ曲線によって図示される所得格差を数字化したものである。45度線と下方に膨らむ曲線によって囲まれた部分の面積が大きければ大きいほど不平等度が大きい。そこで、この部分を、45度線下の直角三角形の面積で割って2倍しして指標化する。これがジニ係数であり、0であれば完全に平等であることを表し、1であれば一人の者がすべての所得を独占する完全不平等な状態を表す。一般にジニ係数が大きいほど格差が大きいことを意味する。
 PDFのグラフ②は農村家庭所得のジニ係数の推移(2000-2006年)であり、グラフ④は都市家庭所得のジニ係数の推移(1987-2006年)である。
変化のない農村と格差拡大の都市
 PDFのローレンツ曲線は「格差が膠着している農村と格差が拡大している都市」の姿を捉えている。ジニ係数で見ると、農村では2000年から2006年の間に0.331から0.345に、わずか0.034変化しただけであるが、同じ期間に都市で0.238から0.312へと0.078動いている。都市は農村に比較して倍以上の変化がある。
 都市のデータは1987年から採れているのでジニ係数の推移を追うと、1987年から1993年までの間は0.1台をたどっている。鄧小平の南巡講話で改革開放が本格化した1994年から0.2台に上昇し、10年を経て2003年に0.3台に達し、以後0.31ラインを上下している。
 ジニ係数は、一般的には0.2~0.3が競争原理を促す適度な格差と言われ、0.5を越すと格差が大きいと見なされる。この国際的な基準からすると、中国の農村にしても都市にしても必ずしも格差がありすぎるとは言えない。
 農村は社会主義時期に貧農下層中農を中心にして富農の撲滅をはかり、平等化を進めた。その後にジニ係数が0.3台で膠着しているのは、いまだ農村部に市場経済が浸透せず社会が流動化していない証拠であろう。
 しかし、賃金生活の都市では社会主義華やかなりし頃から極度に平等で、ようやく市場競争が導入されてはじめて適度な格差が生じ、競争社会が形成されてきた。少なくととも統計数字に示されている限りでは、社会の発展を阻害するような不平等は生じていないと言わなければならない。
農村と都市との間、地区間の隔絶
 しかしながら、以上の格差の数値は農村内部、都市内部のものであり、都市と農村の間の格差はまた別物である。改革開放開始以来の農村の一人当たり純収入と都市の可処分所得とを比べたのが表1である。
第1表 農村住民家庭一人当り純収入と都市住民家庭一人当り可処分所得の格差
農村住民家庭一人当り純収入 都市住民家庭一人当り可処分所得 格差(農村を1とした都市指数)
1978 133.6 343.4 2.6
1980 191.3 477.6 2.5
1985 397.6 739.1 1.9
1988 544.9 1,180.2 2.2
1989 601.5 1,373.9 2.3
1990 686.3 1,510.2 2.2
1991 708.6 1,700.6 2.4
1992 784.0 2,026.6 2.6
1993 921.6 2,577.4 2.8
1994 1,221.0 3,496.2 2.9
1995 1,577.7 4,283.0 2.7
1996 1,926.1 4,838.9 2.5
1997 2,090.1 5,160.3 2.5
1998 2,162.0 5,425.1 2.5
1999 2,210.3 5,854.0 2.6
2000 2,253.4 6,280.0 2.8
2001 2,366.4 6,859.6 2.9
2002 2,475.6 7,702.8 3.1
2003 2,622.2 8,472.2 3.2
2004 2,936.4 9,421.6 3.2
2005 3,254.9 10,493.0 3.2
2006 3,587.0 11,759.5 3.3
(資料)『中国統計摘要』2007年版
 各都市の農村と都市との名目所得の比を算出してみると、2000年までは1対2台であったものが、2001年に1対3台となって、拡大の趨勢にある。2006年の農村と都市との所得格差は3.3倍である。
 地区間の所得格差はもっと激しい。表2は省レベルの所得格差を見たものである。
第2表 地区別の都市と農村との所得格差
地 区 一人当り所得(元/年)
農村家庭 都市家庭 都市と農村との格差 農村家庭 都市家庭
純収入 可処分所得 農村=1とした指数 貴州農村=1とした指数 新疆都市=1とした指数 貴州農村=1とした指数
全 国 3,587.0 11,759.5 3.3 1.8 1.3 5.9
東部地区
北京 8,275.5 19,977.5 2.4 4.2 2.3 10.1
天津 6,227.9 14,283.1 2.3 3.1 1.6 7.2
河北 3,801.8 10,304.6 2.7 1.9 1.2 5.2
上海 9,138.7 20,667.9 2.3 4.6 2.3 10.4
江蘇 5,813.2 14,094.3 2.4 2.9 1.6 7.1
浙江 7,334.8 18,265.1 2.5 3.7 2.1 9.2
福建 4,834.8 13,753.3 2.8 2.4 1.6 6.9
山東 4,368.3 12,192.2 2.8 2.2 1.4 6.1
広東 5,079.8 16,015.6 3.2 2.6 1.8 8.1
海南 3,255.5 9,395.1 2.9 1.6 1.1 4.7
中部地区
山西 3,180.9 10,027.7 3.2 1.6 1.1 5.1
安徽 2,969.1 9,771.1 3.3 1.5 1.1 4.9
江西 3,459.5 9,551.1 2.8 1.7 1.1 4.8
河南 3,261.0 9,810.3 3.0 1.6 1.1 4.9
湖北 3,419.4 9,802.7 2.9 1.7 1.1 4.9
湖南 3,389.6 10,504.7 3.1 1.7 1.2 5.3
東北地区
遼寧 4,090.4 10,369.6 2.5 2.1 1.2 5.2
吉林 3,641.1 9,775.1 2.7 1.8 1.1 4.9
黒龍江 3,552.4 9,182.3 2.6 1.8 1.0 4.6
西部地区
内蒙古 3,341.9 10,358.0 3.1 1.7 1.2 5.2
広西 2,770.5 9,898.8 3.6 1.4 1.1 5.0
重慶 2,873.8 11,569.7 4.0 1.4 1.3 5.8
四川 3,002.4 9,350.1 3.1 1.5 1.1 4.7
貴州 1,984.6 9,116.6 4.6 1.0 1.0 4.6
雲南 2,250.5 10,069.9 4.5 1.1 1.1 5.1
チベット 2,435.0 8,941.1 3.7 1.2 1.0 4.5
陝西 2,260.2 9,267.7 4.1 1.1 1.0 4.7
甘粛 2,134.1 8,920.6 4.2 1.1 1.0 4.5
青海 2,358.4 9,000.4 3.8 1.2 1.0 4.5
寧夏 2,760.1 9,177.3 3.3 1.4 1.0 4.6
新疆 2,737.3 8,871.3 3.2 1.4 1.0 4.5
(資料)『中国統計摘要』2007年版


 第一に農村と都市の格差を見る。東部では上海の2.3を最低にして、(広東3.2を例外として)おおむね2台にある。これに対して西部では格差が大きく、すべて3以上で貴州では4.6という数字を示している。一般的趨勢として、経済レベルが低いほど所得格差が大きく、経済レベルが高くなると格差は少なくなると見られる。
 第二に農村内部の格差を見る。貴州農村を1とした指数をとってみると、上海は4.6、北京4.2、浙江3.7、天津3.1。東部は総じて2倍以上の所得があるが、西部は軒並み1台にある。
 第三に都市内部の格差を見る。最低の新疆を1とする指数で、上海2.3、北京2.3、浙江2.1が突出していて、ほかはすべて1台である。都市は農村に比較して格差が小さい。
 第四に都市と農村の垣根を取り払って、貴州農村を1とした都市の指数を計算した結果が表2の右端欄である。貴州農村と上海都市との格差は10.4倍、北京は10.1倍である。出稼ぎ労働者の多い浙江は9.2倍、広東は8.1倍、である。西部においても4から5倍のギャップがある。
 農村と都市との間、地区間の所得ギャップを動力として農村から都市に人口が流動し、流動人口は1.5億人にのぼる。そのうち3分の1が省を越え、3分の2が省内で流動している。しかし、村と都市の間はいまなお社会主義的障壁(戸籍制度)で隔てられて別個の世界を形成しており、流動人口の半数は3年以内の流動で、7割は5年以内にとどまっている。社会主義的障壁(戸籍制度)は依然として中国社会のスタビライザーとなっている。
 
 
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