第52号 2008.12.20発行 by 中村 公省
    拡大・深化する日本人の中国嫌い <目次>へ戻る
(1)中国嫌い拡大・深化の三段階
 2008年10月に実施された「外交に関する世論調査」(内閣府大臣官房政府広報室)が中国嫌いの拡大を裏付けるデータを提供している。

 中国に親しみを感じるか聞いたところ、「親しみを感じる」とする者の割合が31.8%(「親しみを感じる」7.0%+「どちらかというと親しみを感じる」24.8%)、「親しみを感じない」とする者の割合が66.6%(「どちらかというと親しみを感じない」32.4%+「親しみを感じない」34.2%)となっている。

 「親しみを感じない」66.6%という数字は、この調査始まって以来のワースト記録である。同広報室のホームページに歴年の資料が掲載されているので、「中国に対する親近感の推移」を一瞥願いたい。http://www8.cao.go.jp/survey/h20/h20-gaiko/images/z10.gif

 同調査結果では、アメリカ嫌いは25%前後、ロシア嫌いは80%程度を長期安定的に維持しているが、中国に対する好き・嫌いの感情は、何故か、中国内政及び日中関係の動きに敏感に反応してやまない。中国の改革開放政策が始まった1978年から2008年まで、この30年の「親しみを感じる」と「親しみを感じない」の折れ線グラフの動きを概観すると、三つの段階を画している。
 第一期は日中平和友好条約が締結された1978年から天安門事件前年の1988年までである。「親しみを感じる」が70%前後、逆に「親しみを感じない」が25%以下を推移している。1980年には「親しみを感じる」が78.6%、「親しみを感じない」が14.7%というベストレコードを残している。

 第二期は1989年の天安門事件から2003年までである。2002年は日中国交正常化30周年、2003年はSARSが中国各地に蔓延して、翌2004年にはサッカー試合で反日ブーイング、2005年には反日デモが勃発した。「親しみを感じる」が50%台を割って40%台に、なだらかに低下しているが、「親しみを感じない」はなお50%以下にとどまってる。

 第三期は中国内の反日感情があらわになって、日本人の対中感情がそれに反応して悪化した2004年以降である。「親しみを感じない」が2004年58.2%から60%台に上昇し、2008年には66.6%に達した。小泉首相の靖国神社参拝を利用した反中ポピュリズムが火に油を注ぎ、中国の国力の躍進を畏怖する感情が台頭した。しかし、それ以後の中国詣で友好首相のパフォーマンス(2007年以降)や北京オリンピック(2008年)にもかかわらず対中感情が極度に悪化したのは何故か。

 思い当たるのは、毒入り中国製冷凍ギョーザ事件やメラミン入り牛乳事件をはじめとする食品の安全性にかかわる諸事件が引き起こした日本の消費者の中国製品に対する不信感である。国境資源問題や人権・民族・民主化問題などが日本人の生活に及ぼす影響は限定的でさしたる影響はないが、日々の食い物にかかわる恨みは大きい。チャイナ・フリーは不可能、すなわち中国製品を使わないで生活することが難しいグローバルな生産・流通体制の中で、日常茶飯事に警戒感を強いられる主婦の緊張感が、嫌中感情、反中意識となって露出したと思われる。
(2)性別・年齢別の中国嫌いの分析

 そこで、「外交に関する世論調査」のフルデータを内閣府大臣官房政府広報室から取り寄せ、最近の中国嫌いについてもう少し詳しい分析を試みてみた。

 まず、ホームページに掲載されている2008年世論調査の簡略データ分析から見ていこう。(「中国に対する親近感(2008年)」http://www8.cao.go.jp/survey/h20/h20-gaiko/images/z09.gif )。このグラフから内閣府大臣官房政府広報室が読み取っているのは、以下の2点である。

(1)性別に見ると、「親しみを感じる」とする者の割合は男性で、「親しみを感じない」とする者の割合は女性で、それぞれ高くなっている。
(2)年齢別に見ると、「親しみを感じる」とする者の割合は20歳代で高くなっている。

 しかし、2008年だけを眺めていても数値は読めない。年度相互の比較が有効だが、以下では2008年から5年さかのぼって、第二段階の末年の2003年と第三段階最新の2008年との変化を読みとってみよう。

図表1 中国に親しみを感じる・感じない性別2003-2008比較   (単位%)
表:中国に親しみを感じる 性別2003-2008年比較 表:中国に親しみを感じない 性別2003-2008年比較
グラフ:中国に親しみを感じる 性別2003-2008年比較 グラフ:中国に親しみを感じない 性別2003-2008年比較


 図表1は、性別の「中国に親しみを感じる・感じない」データを2003年と2008年で比較したものである。ここから、2008年のワースト親近感を主導したのは女性の「中国に親しみを感じない」の増大であり、とりわけ主婦の中国嫌いが寄与していることが知れる。


図表2 中国に親しみを感じる・感じない年齢別2003-2008年比較   (単位%)
表:中国に親しみを感じる 年齢別2003-2008年比較 表:中国に親しみを感じない 年齢別2003-2008年比較
グラフ:中国に親しみを感じる 年齢別2003-2008年比較 グラフ:中国に親しみを感じない 年齢別2003-2008年比較


 図表2は年齢別の「中国に親しみを感じる・感じない」データを2003年と2008年で比較したものである。ここからは、指摘できるのは2点。第1には、5年前には総じて5割を切っていた中国嫌いが、にわかに増大して20歳台の若者までもが6割方中国嫌いに転じている。第2には、中国嫌いの増大を主導したのは50~59歳、60~69歳のおじさん・おばさん、それに70歳以上のおじいさん・おばあさんである。この世代は、36年前の日中国交回復以降の中国及び日中関係を同時代史として体験的に知っている世代であり、自己の意識の中で中国好きから中国嫌いに転向した自分史をもっている。


図表3 中国に親しみを感じない性別年齢別2003-2008比較  (単位%)
表:中国に親しみを感じない 男性年齢別2003-2008年比較
グラフ:中国に親しみを感じない 男性年齢別2003-2008年比較
表:中国に親しみを感じない 女性年齢別2003-2008年比較
グラフ:中国に親しみを感じない 女性年齢別2003-2008年比較


 次に図表3は、「中国に親しみを感じない」を性別・年齢別に比較したものである。2003年、2008年のほかに中間に2005年調査を挟み込んだ。比較年を増やしたのは、2005年は中国で反日デモが起こり中国の反日教育が日本人の憤激の対象になり、また2008年は中国製食品に対する不信が拡大したが、両事件に対して反応する性別年齢別層は異なるのではないかと推測されるからである。
 図表3を見ると、男性と女性で年齢別の図形が著しく異なる。
 男性においては、2003年と2005年の変化は激しいが2005年と2008年の変化はあまりない。2005年と2008年でほとんど変化していない年代が三つの年齢層(20~29歳、60~69歳、70歳以上)もある。
 これに対して女性においては、2003年と2005年の変化は男性より小幅で(50~59歳の層は例外)、2005年と2008年の変化は男性より大幅である(とりわけ40~49歳、50~59歳、70歳以上の層の変化が激しい)。
 先の仮説と対応させると、2005年の反日デモに対しては、男性の50~59歳、60~69歳、70歳以上と女性の50~59歳の層が敏感に反応したと読み取れる。そして、2008年の中国製有害食品事件に対しては、女性の40~49歳、50~59歳、70歳以上の層が大きな反応を示している。ちなみに、主婦の「親しみを感じない」比率の変化を見ると、2003年47.9%、2005年58.4%、2008年74.4%で、その間の変化ポイントは10.5、14.0となっている。
 (以上の他に、「外交に関する世論調査」では、地方別データ、都市規模別データ、職業別データなどがある。地方別では北海道が中国嫌いが77%と異常に高い。職業別では商工サービス業・自由業が72.2%となっている。これらの数値は、いまここで考察する余裕はない。)
(3)生活に根ざした「中国嫌い」は容易に払拭しがたい

 「キーナンバー」第23号(2006.2.1)で私は、「外交に関する世論調査」2005年版を分析して以下のような感想を述べたことがある。

 2004-2005年の中国嫌い台頭の担い手は、高齢層・男性・知識層の心変わりにある。2004年のサッカー試合での日本バッシング、ついで2004年4月の反日デモ騒ぎは、中国人の日本人に対する本心をさらけ出す結果を招き、日本の40-60代インテリ男性の対中国感情をひどく傷つけ、彼らを一気に中国嫌いに覚醒させた。機を見るに敏な小泉劇場は、靖国神社参拝の反中パフォーマンスを演じ、40-60代インテリ男性の感情の焔に油を注いだ。

 これに続けて今回は、以下のように所感を述べておきたい。

 2008年の中国嫌いの急拡大の主要な担い手は、女性の高齢者層、言い換えると中高年主婦層である。中国製冷凍ギョーザ事件が2008年1月末に発覚したが、中国当局は中国に責任なしの逃げの一手で対応し、日本当局の追及も大甘で、事件を迷宮入りにしてしまった。クロの物証がありながら企業・国家ぐるみでしらを切り通す厚顔無恥ぶりに不信感が一気に高まり、さらにメラミン入り牛乳事件が追い討ちを掛けた。「産地:中国」は主婦にとって不信の塊であり、「中国」は嫌悪すべき対象となった。
 2004年以降の中国嫌いの高まりは、まず2005年の高齢層・男性・知識層で拡大し、ついで2008年の広範な主婦層へ伝播した。生活に根ざした中国嫌いは根が深く、容易に払拭しがたく、世界不況の風にさらされて、さらに深化する可能性が高い。「中国」が生活を脅かす中で、生活臭の薄い20-29歳の若者層ばかりが、中国に対して相対的好印象を保持している。

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