第62号 2012.09.05発行 by 中村 公省
    中華民族の大移動
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(1)『中国2010年人口普査資料』
 人口センサスが2010年11月30日を期して行われたが、その総括報告である『中国2010年人口普査資料』(中国統計出版社)が刊行された。書籍では上中下冊3巻2034頁という大冊だが、CD-ROMが添付されていて使い勝手がいい。ダイジェスト版である『中国第6次人口普査公報』で先に伝えられていたところをガイドに膨大なデータを点検して、矢吹晋編『一目でわかる中国経済地図 第2版〔2015年までの展望〕』(9月7日刊行)のために図版を多数作成した。その一部をここで紹介しておくことにする。

(2)日本の人口の2倍が大移動
 人口センサスは10年に一度行われる13億余の中国人すべての調査であり、興味尽きない事実が埋もれているが、2010年人口センサスで最も注目されるのは流動人口であろう。

 2010年の流動人口は2億6138万6075人。

 何と日本の人口の2倍である!
 流動人口とは、戸籍地と居住地が食い違って(人戸分離して)、半年以上になる人を指す。その大部分は、都市で都市戸籍が得られないで、農村戸籍のまま、非農業に就業している農民工だと思っていい。ちなみに人口センサス後1年を経た2011年の農民工は2億5278万人と報告されている(2011年我国農民工調査観測報告、なお図1参照)
 流動人口は2000年1億1699万5327人であったから、この10年に1億4439万人余増大したのである。これまた、日本の人口を凌駕している。これは中華民族の大移動というにふさわしい。

2000年と2010年の流動人口

(3)2000~2010年の10年間の省レベル人口の増減
 2000~2010年の省レベル人口の変化を概観したのが図2である。この10年間に人口が増大した省と減少した省との対照が鮮やかである。減少した省が出現し、減少しないまでも人口の伸び悩んでいる省が多いことが、これまでにない現象である。


図2 2000~2010年間の省レベル人口の変化

 増大した省はどこか。1788万人も増大したのが広東で増加率は20.7%に達する。次いで浙江(766万、)、上海(628万)、北京(579万)、山東(500万)、河北(441万)、江蘇428万の順である。
 浙江、上海、江蘇を長江デルタとしてまとめると1822万、さらに北京、山東、河北に天津を足して環渤海地区としてまとめると1814万となり、沿海東部の3地区が概数で180万ずつ増えていることがわかる。沿海東部3地区の人口増加数は都合5424万、全国の増加数の4分の3(73%)を占めている。
 減少というようなことは、これ以前のセンサスではありえなかったが、どこの省なのか? 棒グラフが赤字の6省に他ならない。湖北304万、四川287万、重慶205万、貴州50万、安徽36万、甘粛4万。すべて中部地区と西部地区の省で、長江流域の省が4省(安徽、湖北、重慶、四川)含まれている。6省合計は886万人である。
 全国の10年間の増加率は5.58%である(グラフで赤字線)。全国5.58%を基準に折れ線グラフで注目しておきたいのは、全国をはるかに越える増加率10%以上の省の中に、東部最貧の海南、少数民族の多い西部の新疆、寧夏、青海、チベットが入っていることである。これは何故か? 俗説では貧乏人の子だくさん、少数民族地区で一人っ子政策が適用されないからだという解釈が唱えられているが、果たして、この高率を説明できるだろうか?

(4)省レベルの流入人口
 流入してくる流動人口は省レベル行政区の中での移動と、省レベル行政区を越えての移動とに大別される。図3は2010年11月30日現在の各省の全流動人口(赤)と、そのうち省外からの流入人口(緑)を示している。また、図4は各省の全流動人口に占める省外からの流動人口の割合を左から右に多い順に配列したものである。二つのグラフから各省への人口の流入状況を見てみよう。


図3 各省への全流入人口と他省からの省を越えた流入人口



図4 全流入人口に占める省を越えた流入人口



 流動(流入)人口が1000万人を越えるのは、広東3680万、浙江199万、江蘇1822万、山東1370万、上海1269万、四川1174万、福建1107万、北京1050万の8省である。この8省で1億3453万と、流動人口の半分以上を占める。
 このうち山東や四川は省内での流動の割合が大きい。山東は85%、四川は90%が省内での流動で、郷村から鎮(町)へ、鎮から城市(都市)へと流動している。
 逆に他省からの流入率が大きいのは、上海71%、北京67%、浙江59%、広東58%、江蘇41%、福建39%である。流入人口量は、広東2150万を筆頭に、浙江1182万、上海898万、江蘇737万、北京704万、福建731万、天津299万と続いている。
 浙江、上海、江蘇を長江デルタとして括れば2817万で広東を越える。北京、天津、河北、山東を環渤海として合計すると1356万で長江デルタの半分以下である。この広東(珠江デルタ)、長江デルタ、環渤海地区が流動人口の三大流入地である。これら東部沿海諸省は合計6754万人、全国の省を越える流動人口の8割(79%)を吸収している。
 図4の省を越える移入率のグラフで、チベットが63.1%、16.5万、新疆が41.9%、179万と高率をマークしているのが、注目される。これは、さきの2000年から2010年の間の人口増大のトレンドと符合しており、同様なことは海南、青海、寧夏についても確認できる。すなわち、これらの地区で大きな人口増が生じているのは、ゆるい一人っ子政策のせいだけではなく、農民工をはじめとする他省からの人口流入のためだと見なくてはならない。これらの少数民族地区には資源があり、市場経済化に伴うビジネスチャンスがあり、漢民族が流入して行く魅力に富んでいると思われる。

(5)何処から何処に人は流れる?
 相対的に豊かで、ビジネスが盛んで、就業のチャンスがある地区に流入している人口は、果たしてどこからやってくるのか? 『中国2010年人口普査資料』(下冊)には、省レベルの「現住地と5年前の常住地の人口」の一覧表(マトリックス)が掲載されている(2188-2191頁)。流動人口は居住地と戸籍地が食い違って6カ月以上経つ者という短期的な流れを含んだものだが、この統計データの方は現住地と5年前の常住地を記載した長期的な定着した流れを示している。この「現住地と5年前の常住地の人口」の一覧表によって、流動人口が何処から何処に流れるかのメインストリームを地図上に描いたのが図5である。



図5 大陸主要地区の人口移動(5年前の常住地からの流入)
地図:大陸主要地区の人口移動(5年前の常住地からの流入)


 2万人未満は割愛し、2万人以上の人口移動に絞って図示してあるが、矢印線は細いものから太いものの順で、2~5万、5~10万、10~20万、20万以上である。
 流入が多いのは、長江デルタ、広東、環境渤海地区、そして福建である。
 長江デルタには20万以上の矢印線が安徽から(43万)と河南から(20万)との2本が入っている。10~20万の矢印は、四川(15万)、江西(14万)、貴州(13万)、湖北(11万)という具合に4本。5~10万の矢印は、湖南(8万)、山東(7万)、重慶(6万)、雲南(5万)の4本。そして、2~5万の矢印は、陝西(4万)、福建(4万)、広東(3万)、甘粛(2万)、広西(2万)、黒龍江(2万)である。それ以下も含めた全国からの流入総量は合計182万人である。
 広東への流入総量は139万人。20万以上の矢印線が湖南から(29万)と広西から(23万)との2本が入っている。10~20万の矢印は、湖北(16万)、四川(15万)、河南(12万)、江西(12万)という具合に4本。5~10万の矢印は、貴州(6万)、重慶(5万)の2本。そして、2~5万の矢印は、陝西(4万)、福建(3万)、安徽(3万)、福建(3万)、雲南(2万)である。
 北京、天津への流入総量は54万人である。流入先は10~20万の矢印線が河北から1本入っている(12万)。次いで5~10万の矢印が河南(7万)、山東(6万)の2本。そして、2~5万の矢印が、黒龍江(3万)、安徽(3万)、湖北(2万)、山西(2万)、四川(2万)、遼寧(2万)、吉林(2万)、内蒙古(2万)である。



図6 5年前の常住地からの流出人口


 それでは、流出する側に視点を移して、何処から何処に、を見たら、どんなものか。図6は「現住地と5年前の常住地の人口」のマトリックスを流出する側から集計したものである。トップは、安徽(55万)である。『安徽統計年鑑』2010年版によれば、2009年の安徽省の省外への流出人口は1367万人にのぼる。安徽省の総人口は6131万人であるから、省外流出人口は総人口の22.3%に相当する。アバウトに言えば、4人に1人が省外に稼ぎに出てしまっているのである。出稼ぎ先は、江蘇28%、浙江27%、上海21%、広東7%、北京4%で、長江デルタ3省市に4分の3が流れている(矢吹晋編『一目でわかる中国経済地図 第2版162-163頁参照』。
 安徽に次ぐのは、河南54万、四川50万、湖南46万、湖北38万、江西35万、広西28万、貴州27万である。これらの西部、中部の諸省は安徽省と同様に「出稼ぎに生きる」状態にある。
 ところで、図5の地図の中には、内陸から沿海への流れのほかに、新疆に向けて逆の流れも描かれている。文革時の下放時の人の流れを連想させるが、改革開放時代には新疆の石油資源開発とそれが牽引するビジネスによる金・物・人の流れと見られる。別途に新疆の都市部の人口の民族構成を見てみると、4分の3(73%)が漢族で、ウイグル族は20%を切っている(18.4%)。新疆より規模は小さいが、同様なことが寧夏、青海、チベットなどでも生じていると推察される。

 
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