第63号 2012.09.29発行 by 中村 公省
    中国カントリー・リスクへの対応
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1.日系進出企業への無法無天の襲撃
 日本の尖閣諸島の国有化に対する抗議行動が2012年9月中旬、中国全土を吹き荒れた。デモが行われた都市は100以上に拡がり、一部で暴走して、日系商店の破壊・略奪、日系工場への襲撃・放火にまで及んだ。下の地図は、その主要動向を描いたものである。また、過激行動による非常事態に備えて、中国進出日系企業がとった緊急対応策を中国の報道をもとに、まとめたのが地図下の表である。身を縮めて災難をやり過ごす日系企業の苦衷の対応策がうかがわれる。
 事態は非合法過激行動にとどまらず、行政当局による合法的・陰湿な「日本たたき」が追撃している。上海や天津の税関当局が日本からの電子部品や高級素材などの輸入品に対して検査を厳格化、日系企業のサプライチェーンが支障をきたしている。かつて行われたレアアースの輸出停止のような経済制裁が発動される可能性もある。合法的「日本たたき」の方が非合行動よりも実害が大きい。
 「釣魚島(尖閣諸島)は日本が中国への侵略戦争を通じて盗み取ったものだ」という主張は中国の国民的コンセンサスである。これに対して尖閣諸島は1895年以来実効統治しているもので領土問題は存在しないというのが日本政府見解である。そこで日中国交正常化以来、日中歴代指導者は領有問題を棚上げにして後代の知恵に任せるという妥協策をとってきた。領土問題においては、実効支配している方が有利な立場にあるが、現状を変更してはならない、現状を変更すれば争いが再燃する。元伊藤忠商事会長の丹羽前駐中国大使は「実行された場合、日中関係にきわめて深刻な危機をもたらす」と予言していた。日中妥協の均衡を破ったのは誰か? この政治責任は極めて大きく深刻だが、覆水は盆に返らない。外交における失策は経済に付けが回り、企業が損害を被る破目になる。

2.チャイナ・リスクにどう対するか
中国事業リスクは幅広く、底知れない。『中国―21のリスク:可能性とインパクト』(ジェトロ刊)は環境危機、金融危機、インフレ、価格破壊、官僚機構硬直化、民衆騒乱など21のリスクをあげ、中でも環境・公衆衛生問題に伴うリスクを最も深刻なリスクとしている。しかし、今や尖閣領有問題を最も深刻なリスクとして追加すべきである。
日本企業の中国現地法人は、日系の中国企業である。中国の領土の中で、中国の法制を厳守して、中国人の協力をもとに、中国社会に貢献することによって、利益をあげさせてもらっている。「釣魚島は中国のもの」という国民的コンセンサスに在中企業が異議を唱えることは絶対にできない。在中企業は政治的に見れば、囚われ人同然である。その弱みに付け込んで日系企業いびりが行われる。無法無天な政治行動に対して日系企業は、耐え難きを耐え、忍び難きを忍ばねばならない。
ほかに何ができるか? まずは保険を掛けることである。最悪の事態に備えることが肝心である。
 企業活動としては、目先の利益だけを追求してはならず、長期的に中国社会に貢献することを第一にしなければならない。中国は依然として開発途上段階にあり、外資企業には中国企業にはまねのできない環境整備、生活革命、健康増進など有益な社会貢献を期待されている。中国人の生活を向上させる高品質・高機能の商品を提供する限り、日貨排斥など成立し得ない。今より良い暮らしを約束する雇用を提供し続けるなら、「愛国無罪」を支援する共産党幹部を恥じ入らせることになろう。
 奥の手は、中国撤退・日本回帰を真剣に検討することである。米国企業においては生産コスト面での中国優位が揺らいで、ホームセンターのホーム・デポ、LED照明のシーマーズ、建設機械のキャタピラーなど、中国撤退が始まっている。チャイナ・プラス・ワンが言われて久しいが、チャイナ・プラス・ツー、スリーも保険の一種である。今後、この動きが加速化するのは必至である。その一方で青島、長沙、蘇州などの投資環境の再整備を、経団連、日中経済協会など経済団体を介して中国側に強く申し入れるべきであろう





(21世紀中国総研編『中国進出企業地図 2012~2013年版 第1部第1章を抜粋) 
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