第64号 2012.10.09発行 by 中村 公省
    尖閣国有化・反日騒動始末
ビジネス篇(1)
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 日本の尖閣諸島国有化に端を発した中国の反日騒動が、国慶節休暇の中でようやく沈静化を見せた。まだ、予断を許さないことが多いが、9月15日から連続した全国的な反日デモと、その過激化という異常事態は、一旦収拾したように見える。
そこで、政治における失策のツケを支払わされる破目になったビジネス戦線の直接的損害を、各種報道を基に中間点検するとともに、今後の対中ビジネスの展望を試みてみよう。
1.被害額18億円の平和堂の手打ち
長沙平和堂五一店前で気勢を上げるデモ隊
 尖閣国有化・反日騒動で最大の被害を被ったのは、彦根のスーパーマーケット・平和堂である。平和堂が経営する湖南省長沙市の百貨店2店舗、近隣の株洲市のモール型百貨店1店舗、合わせて3店舗が9月15日に襲撃・破壊・略奪された。9月27日の夏原平和社長の記者会見によれば、被害額は建物・備品の破壊や商品の略奪などで5億円、休業に伴う減収で13億円、しめて18億円である。5億円のうち4億円は保険が適用されるというから、実害は9億円である。ほかに同百貨店入居の高級ブランド店の被害があり(これはテナントの自己負担)、ざっと30億円という。ちなみに、山東省青島のイオン黄島店の被害総額は7億円、江蘇省蘇州市の蘇州泉屋はテナント被害を含めて1億円というから、平和堂の被害がいかに大きかったかがわかろう(表1参照)。
 平和堂の湖南省における事業は、滋賀県と湖南省とが友好姉妹都市を結んでいることが縁で始まり、両県省の「友好関係の結晶」であった。今回の事件の処理に当っては、これが不幸中の幸いとなったと見られる。



表1 在中小売企業の尖閣反中騒動始末(2012.10.5現在)
日本本社 中国拠点 現地店舗 被害状況 今後の経営方針
平和堂(滋賀県彦根市) 湖南省長沙市、株洲市
http://www.heiwado.cn/
平和堂五一広場店(1998.11開店)、東塘店(2009.9開店)、株洲店(2009.9開店)〔ともに百貨店〕 9.15、百貨店3店舗に乱入・破壊・略奪。直営部分は5億円(内4億は保険対象)、休業による営業機会損失13億円と合わせ18億円の損失。テナント部分は約30億円の被害。 2店舗は11月中旬再開、1店舗は12月再開を目指す。2013年夏開店予定の4号店も計画通り(夏原社長決算発表記者会見)
イオン(千葉市) 山東省青島市黄島区
http://www.qdaeon.com/
青島永旺黄島店。2005.12開店(GMS) 9.15、店舗に乱入、商品略奪。被害総額は商品や什器・備品などを含め約7億円(保険対象) 10月1日一部売場開業、11月下旬に全館営業再開を目指す。2020年までに山東省内で80店舗開業を目指す(総経理10.1感謝信)
イズミヤ(大阪市) 江蘇省蘇州市高新区
http://www.sz-izumiya.com/
蘇州泉屋百貨(百貨店)
2011・11グランドオープン
9.15、店舗襲撃破壊。直営部分は約3500万円、テナント部分は約3400万円の被害。売上高減被害は3000万円超。計約1億円。被害額大半は保険対象。 今後の中国での出店計画は、泉屋百貨の回復状況を見ながら判断(坂田社長決算発表記者会見)
ファーストリテイリング(山口県山口市) 上海市
http://www.muji.com.cn/index.shtml
迅銷(中国)商貿易有限公司(2002.9上海に1号店。2012.8までに中国内に145店舗展開) 警察の要請により上海店で9.15に一時「支持釣魚島中国固有領」の貼紙。店舗設備、商品への被害なし。9.18は60店舗の営業中止、及び200人強の日本人スタッフ全員を自宅待機 「(中国に対する)見方も考え方も全く変わっていない」(柳井正会長)。今後、1年間で80~100店を出店する方針
良品計画(東京都豊島区) 上海市
http://www.muji.com.cn/index.shtml
無印良品(上海)商業有限公司(2008年上海に1号店。現在中国内に50店舗展開) 9.15-9.18の間に休業39店舗・日、短縮営業4店舗・日。9.19より全店通常営業 通期利益に対する影響は少ない。2008年来、1年間に10店舗以上のペースで出店する戦術をとって、2013年100店舗展開が目標
注1:14日夜、四川省成都市でセブン―イレブンなど日系コンビニエンスストアの複数店舗に反日デモの参加者が乱入、レジや商品が破壊された。
注2:ヤマダ電機は2012年度に上海眞進出を予定していたが、出店を見直す。2013年度までに5店という計画も難しい(日経新聞2012.10.6)    


 9月17日、嘉田由紀子滋賀県知事が徐守盛湖南省省長あてにファクスで、事態を憂慮、再発防止と安全確保を要請した。これは全文が公表されているので参照されたい(http://www.pref.shiga.jp/chiji/kaiken/files/20120918/2.pdf)。
 県知事のファクスに対して徐省長から返書があった。曰く、「心から遺憾の意を表します」「我が国は法治国家であり、湖南省人民政府は既に理性的な愛国を呼びかけており、一切の非合法な過激な行為を禁止しているところです。併せて法に基づき他人の財産を破壊する行為を取り締まっており、現在、既に全力を挙げて湖南省における日系企業および個人の財産と身の安全の保護に努めております。」これも滋賀県が21世紀中国総研に全文を提供されたので、ここにスキャンしておく。

徐省長からの返書
徐省長からの返書

 その一方で、23~26日、現地入りした夏原平和堂社長に対しては、湖南省の最高権力者である周強書記が接見し、犯罪者の逮捕と今後の安全面の確保を約束した。周強は司法の専門家であり、共産主義青年団第一書記を歴任した国家最高指導者候補である(http://renshi.people.com.cn/GB/145119/11447205.html)。夏原社長自身は、「続けて湖南省で頑張ってほしいという言葉をいただいた」とも言っている(京都新聞9.27)。
 知事の抗議に省長が回答を寄せ、省書記が被害者社長に会ったということ自体が、詫びの姿勢を示している。私は、その詫びのディテールを知りたくて、湖南日報、長沙日報を初めとする中国内の報道を隅々まで捜してみたが、残念ながら、この事実は中国内では報道されていない。省民に対して密かに行われた地方外交であろうと思われる。
 しかし、ここで注目すべきは、湖南省の指導者が日系企業および個人の財産と身の安全の保障を明言していることである。現地の新聞は長沙、株洲における平和堂襲撃事件を「暴徒化した“愛国主義”行為」と呼んで、「愛国」から発したものでも「害国」の方向にあると義和団式の極端な民族感情を戒めている。法は三章といえども、殺人・傷害・窃盗は処罰する、というのが古来法制の鉄則である。実際に平和堂襲撃犯人を逮捕し、裁判にかけ、処罰したかどうかは定かでなかったが、10月11日に至って「"9・15"平和堂打ち壊しで20余人逮捕」という報が伝わった(『三湘都市報』2012.10.11)。
 ともあれ、私有財産の保護と再発防止の約束に応じて日中友好人士は手打ちを急いだ。
 被害が比較的少ない2店舗(長沙東塘店、株洲店)は11月中旬までに再開、放火や破壊・略奪など大きな被害を受けた五一広場店は12月再開を目指す。さらに、2013年夏開店を予定していた4号店の平和堂中国AUX広場店(長沙市)も計画通り進める。
 平和堂の店舗はいずれも廉価生活品中心のGMS(総合スーパー)ではなく、各種有名ブランドや人気・話題性のある専門店、輸入食品、ベーカリー、生鮮品など300店以上で構成する高級百貨店である。この付加価値の高い高級路線が内陸700万都市の新富裕層にヒットして、1号店開店以来、14年目にして湖南省ナンバーワンのデパートにのし上がった。既存3店の2012年2~6月期の純利益は87億8000万円で、前期比101.9%増、すなわち1年で倍増している。反日暴動による被害は短期間に回復可能であろう。
 湖南平和堂実業有限公司はこの8月1日に平和堂(中国)有限公司へと社名を変更した。これは、湖南省外への事業拡大を視野に入れた野心的な布石である。

2. イオン青島黄島店と蘇州イズミヤの再開
 平和堂のほかに暴徒によって大きな破壊を被ったのは、山東省青島市のイオン青島黄島店と江蘇省蘇州市の蘇州泉屋百貨との2店である(表1参照)。

(1)イオン青島黄島店
青島イオン黄島店に押しかけたデモ隊
 山東省青島市黄島店は15日にデモ隊が乱入し、暴徒は店内のガラスを破壊、店内の商品を略奪した。イオンの発表によれば、被害総額は商品や什器・備品などを含め約7億円と判明、幸い保険などの適用により業績への影響はほとんどない、とのこと。
 イオングループは北京に中国本社を据え、北京イオン、青島イオン、イオン華南、そして広東ジャスコの4グループでGMS(総合スーパー)を中心にして中国に30店舗を展開している。青島イオンは2009年の設立で、青島を中心に山東半島の威海、済南、淄博などで8店舗を開業しており、黄島店はその一店で青島オールドシティの対岸にある黄島開発区に所在する総合GMSである。国慶節に際して発表した日中合弁の青島イオン東泰商業有限公司の総経理・副総経理連名の「お取引先への感謝の手紙」には以下のようにある。
 「黄島店は10月1日から一部売場を開業し、11月内に全館新規開業する計画です。青島イオン東泰商業有限公司はいま困難に直面していますが、私たちは引き続きお客様のために優れたサービス、快適なお買物環境、良質廉価な商品を提供する努力をして参ります。青島イオン東泰商業有限公司は2020年までに山東省内に80店舗を開店し、さらにお客様の要望にお応えする計画です。」(http://www.qdaeon.com/gxx.html

(2)蘇州イズミヤ
 イズミヤが蘇州市ハイテク開発区に蘇州泉屋百貨をグランドオープンしたのは2011年11月のことである。直営の食品スーパーと約150店舗のファッション・ライフ・ストアのテナントで構成したカジュアル百貨店である。
 2012年9月15日、数千人のデモ隊の一部が1階のガラスを石で割って侵入し、靴や化粧品などを扱う複数の店舗を破壊した。被害は直営部分が約3500万円、テナント部分が約3400万円で、売上高減被害3000万円超を加えると、ざっと1億円。被害額大半は保険対象である。
 蘇州市ハイテク開発区には日系企業500社余が集積し、蘇州市には日本人が5000人も長期滞在している。その一見親日的な都市で、商業街の日本料理が破壊され、イズミヤのほかにパナソニックなど3工場が襲われるという反日行動が勃発したことの深刻さに思いを巡らすべきである。
 イズミヤの今後の中国での出店計画は、蘇州泉屋百貨の回復状況を見ながら判断する、と坂田社長が決算発表記者会見で語っている。なお、現地からの知らせによると、壊滅的な被害を受けた日本料理屋は1週間後にはほぼ90%が営業を再開している。
ビジネス篇(2)へ続く

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