第65号 2012.10.10発行 by 中村 公省
    尖閣国有化・反日騒動始末
ビジネス篇(2)
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3.ユニクロ、無印良品、セブン-イレブン、ファミリーマート
(1)ユニクロ
 カジュアル衣料の製造小売ファーストリテイリングは、上海に中国本社を置き、中国全土に「ユニクロ」店舗を165店展開している。9月18日は60店舗の営業中止、及び200人強の日本人スタッフ全員を自宅待機させた。20日に営業中止は5店舗、日本人の自宅待機は解除。こうして過激行動による破壊被害をこうむらずに済んだ。
 しかし、上海のユニクロ店舗のショーウィンドーに、「支持釣魚島是中国固有領土」(尖閣諸島は中国固有の領土であることを支持する)と書かれた紙を張り出した写真がインターネット上に掲載されて、日本において弁明に努める破目になった。ユニクロによれば、これは、「安全確保のため、"支持釣魚島是中国固有領土"と書いた張り紙を掲示するように」との警察の指導があって、店長の独自の判断に基づいて、デモ隊が接近した時間(40分間)、張り紙を出し、デモ隊が過ぎ去ったあと撤去したとの由。しかし、「㈱ファーストリテイリング、並びに、㈱ユニクロは、一私企業が政治的外交的問題に関していかなる立場も取るべきではないと考えており、上海の当該店舗でこのような行為があったことは大変遺憾であると考えております。」と言っている。(http://www.uniqlo.com/jp/corp/pressrelease/2012/09/092112_press_release.html)。
 柳井正会長は、「(中国に対する)見方も考え方も全く変わっていない」と断言。要するに、尖閣反日騒動はユニクロ中国ビジネス既定路線を微動だにするものではない、ということであろう。
 ユニクロの海外店舗のうち約4割は中国である。2011年のユニクロの海外営業額は937億円であったが、うち中国(香港を含む)は404億円に上っており、43%を占め、稼ぎ頭になっている。ユニクロは、2015年までに、中国で1000店舗を展開する計画である。

(2)無印良品
 良品計画は中国進出に当って商標登録の問題に直面した。「無印良品」「MUJI」という商標が香港の業者によって中国に先行登録されていたため、その違法性を裁判で争わなければならなかった。この争いのために7年8カ月という無駄な時間を費やした。商標登録問題を解決した良品計画は、2008年1月の上海浦東での出店を皮切りに本格的に中国進出・多店舗展開を図った。北京、上海、深圳、香港の拠点を軸に、1級消費都市に1年間に10店舗以上のペースで出店する戦術をとって約5年間で47店舗に達している(2012年8月現在)。2013年100店舗が目標である。
 尖閣反日騒動では、9月15日~9月18日の間は39店舗・日を休業にし、4店舗・日短縮営業して直接被害を逃れ、9月19日より全店通常営業に戻っている。

(3)セブン-イレブン、イトーヨーカドー
 14日夜に四川省成都市でセブン-イレブンなど日系コンビニエンスストアの複数店舗に反日デモの参加者が乱入、レジや商品が破壊されたらしいが、被害は甚大ではなかった模様である。また、15日には成都市のイトーヨーカドーにデモ隊が押しかけて営業が中止になったと新華社が伝えた。セブン&アイ・ホールディングスは18日に北京と四川省成都にあるイトーヨーカドー15店舗、セブン-イレブン198店舗を休業にした(イトーヨーカ堂はセブン&アイ・ホールディングスのスーパーストア事業、セブン‐イレブンはコンビニ事業を担当している)。
 イトーヨーカ堂の中国での店舗は、四川省成都ヨーカ堂傘下の総合スーパー(5店舗)、北京の「華糖ヨーカ堂」が運営するイトーヨーカ堂(10店舗)、王府井ヨーカ堂が運営する食品スーパー(1店舗)の計16店舗である。
 セブン-イレブン・ジャパンが投資し、運営するセブン-イレブン(北京)は、2004年1月に北京1号店を開店し、2011年9月末現在、北京162店、天津41店になっている。また2010年に設立したセブン-イレブン(成都)の 直営店舗は30を数える。
 中国にはセブン-イレブンの看板を掲げたコンビニが1732店存在するが、実は直営の北京、天津、成都以外の店舗は、ライセンス供与店である。ライセンス供与先の一つは香港デイリーファーム・グループで、香港と広東に多店舗を展開している。もう一つのライセンス供与先は、台湾の統一グループであり、同社が投資するセブン-イレブン(上海)が事業経営している。上海店は2009年に1号店を開店したが、上海を皮切りに、広東、北京、天津、河北以外の中国大陸で大展開しようとしている。
 このライセンス供与店は日系かどうか? 以下は北京晩報9.19が伝えた、ライセンス供与のニセ日系店の防衛策である。
 「一部の日系資本と誤解されやすい企業も自分の『血統』を明らかした。ヤム・ブランズショッピングセンターの(ライセンス供与の)吉野家は大きなボードにハート型を描き、大きな字で「『我的中国心』を共に歌う」と表示し、『100%香港企業』であると強調した。(日本料理店の)将太無二は公式ミニブログで『カナダ資本である』と説明した」。

(4)ファミリーマート
 ニセ日系店と同様な防衛策は、日本資本が入っている台湾資本でも見られた。インスタントラーメンで名高い台湾系の康師傅(カンシ-フ)は、9月20日付プレスリリースで、「康師傅は日本資本支配だ」「日本商品を排斥せよ、康師傅を排斥せよ」という言辞に対して「康師傅は中国的特色をもった民族ブランドとして認知されている」と弁明したのである。康師傅の株式をサンヨー食品が保有していることがやり玉に挙がったらしいが、ここでは、それより康師傅の親会社である台湾の頂新国際グループと伊藤忠商事及びファミリーマートがジョイントして中国で大展開しているファミリーマート(福満家)に触れておきたい。
 ファミマが上海1号店を開店したのは2004年5月だが、その後8年のうちに上海総店舗数は639になった。上海の次に向かった先は南の広州、次は蘇州、そして2011年には杭州、成都。以上5地点の2012年9月末現在の総店舗数は1005店舗に達している。今後は北京などの華北地域、武漢などの華中地域にも出店を計画、2015年までに4500店、そして2020年までに8000店を展開しようと意気込んでいる。
 福満家便利店は、日本のコンビニノウハウを基に、頂新が中国市場のインフラ網を、伊藤忠が商社機能を提供して成り立っている。これが中国大陸で日本資本と認識されているか、台湾資本と認識されているか、それとも民族資本なのか? ともあれ、ファミマは反日デモの攻撃対象になりにくかった。成都の4店舗でガラスが割れるなどの被害が出て2、3日休業しただけで、上海ほかの地域では全店舗が営業を継続した。上田準二社長によると、2015年までに4500店という目標は堅持する、しかし中国の経済成長が鈍化して消費の低下傾向が見えているので今年は出店スピードを調整するとのことである(日本経済新聞2012.10.17)。 

満州事変勃発記念日(9月18日)の瀋陽のデモ


表2 在中製造業企業の尖閣反中騒動始末(2012.10.6現在)
日本本社 中国拠点 現地法人 被害状況 今後の経営方針
ミツミ電機 山東省青島経済技術開発区 青島三美電機有限公司(1992設立、独資。アミューズメント機器関連、スイッチ、コイル、コネクタなど生産、従業員3986名、売上265億円) 9.15、校内に侵入、たてもの・製造設備を破壊、放火 9.25より一部生産活動を再開。未だ完全復旧には至らず(10.1現在)
パナソニック 山東省青島保税区 山東松下電子部品(保税区)有限公司(1997設立、合弁。ライトタッチスイッチ 、 透明タッチパネル、 スイッチモジュールなど電子部品の生産) 構内に乱入、放火、設備を破壊 一部商品を除き生産再開、10月中旬にも通常稼働に戻る。なおパナソニックの蘇州工場(プリント基板・材料生産)は9.21から通常稼働、珠海工場(固定電話生産)は9.25から通常稼働
トヨタ自動車 北京市ほか 豊田汽車(中国)投資有限公司(天津、長春、成都、広州で生産) 9月の中国での新車販売台数が計画の半分以下に落ち込み、在庫急増 生産の稼働時間短縮。10月の生産台数は計画比で5割前後の大幅な減産となる可能性あり。「レクサス」の日本からの輸出は11月まで見合わせ
注:その他動向――トヨタ自動車は10月8日以降、天津品など中国に9つある工場を稼働。日産自動車も9日、中国に3つあるすべての組み立て工場の操業を再開。ホンダも8日から中国の5工場を稼働。マツダや三菱自動車も現地の合弁会社を操業する計画。


4.行け行けドンドンか、引き時か
 以上、中国における日系小売業の反日騒動での被害状況と、今後の対応策を、各種報道からまとめてみた。
 被害状況は、平和堂3店、青島イオン黄島店、蘇州イズミヤの計5店を除き、軽微であった模様である。甚大な損害をこうむった5店も損害保険が適用になり、決算損益に重大な影響を及ぼすほどの損出ではない。
 むしろ、ここでは損害保険会社が大きな保険金支払いを迫られたことが問題となっている。今回の反日騒動による保険金支払額は「数十億から100億円程度」という(日本損害保険協会会長談)。その結果、大手損保各社は、中国での暴動被害を補償する新規契約を中止し、保険料の引き上げを検討していると伝えられる(日本経済新聞2012.10.5)。
 暴動やストライキによる物的損害や、工場や店舗の休業で失った利益の補償を受けられる暴動特約保険は、在中日系企業にとって絶対に必要なものとなろうが、その保険料アップは、経営コストの上昇に転化する。近年の中国での賃金上昇リスクに、暴動特約保険リスクが加わると、日系中国企業の経営戦略に大きな影を落とすことにもなろう。
 小売業各社の今後の中国ビジネス方針は、総じて行け行けドンドンである。これは、日本国内市場の狭隘化・成長鈍化、新興国市場の拡大・高度成長を背景にしたグローバル経営への転換というパフォーマンスの一環であろう。中国経済の潜在成長力はなお旺盛で5年後には米国を抜きGDP世界一になる、とIMFが予測している。いまや農村社会から都市社会への転換期にあり、2025年には中国で人口200万以上のメガロポリスが62にもなると、国連が予測している。中国人のライフスタイルは生活革命が進展中で消費水準が急激に高度化している。小売業にとって、中国市場への参入は、いまが千載一遇のチャンスである。反日騒動のごとき無法無天な異常事態によって、巨大市場への中長期的戦略見通しを狂わせてはならない。
 しかし、日本の小売業経営者の中には、今回の反日騒動の結果、日和見に転じ、対中経営戦略を修正しようとしている例もある。家電量販店チェーンのヤマダ電機である。ヤマダ電機は、大店舗を2010年瀋陽、2011年天津、2012年南京と立て続けに開店し、2012年中に4号店を上海に開き、3年で5店、1000億円の売上げをあげることを戦略目標にしていた。ところが、「今年度は上海進出を予定していたが、『政府間の対立が経済活動に与える影響を見極める必要がある』(一宮忠雄社長)として2013年度以降に先送りに。13年度末までに5店体制にする計画も『難しくなった』としている」(日本経済新聞2012.10.6)。ヤマダ電機の山田昇会長は、つい先ごろまで、「今がチャンス。のんびりしていると遅れをとってしまうかもしれません」と語っていたが、君子は豹変する。
 反日騒動の影響がもろにビジネスに及んだのは、ホテル、旅行業及び航空業である。JTBは9月の日本初中国行きツアーが2割減少したという。全日空は9~11月分の団体予約4万3000席がキャンセル。また日本航空は9~11月の団体予約が1万9500席キャンセルにあい、中国3路線を11月17日まで減便するという(日本経済新聞10月9日)。
 いまや引き時である、という経営判断を下しているのは、トヨタ自動車を始めとする自動車組み立て各社である。当面の生産・販売にかかわるこの戦術的経営判断は至極まっとうで、しかも波及するところ大で、深刻である。
車は日本車、心は中国の心
 9月15日、青島でトヨタの販売店が放火され全焼した。西安市では日本車運転手が襲撃され車を破壊された。南京では日本車十数台が襲われペットボトルを投げつけられた。その後、北京市内では「車は日本車、心は中国の心」の文句が印刷された自動車用ステッカーが出回った。
 トヨタ自動車の9月の中国での新車販売台数は対前月比48.9%と半分以下に落ち込んだ(8月の販売台数は7万5300台)。日産自動車は前年比35%減の約7万5000台にとどまった。ホンダも40.5%減の3万3931台。三菱自動車の販売台数は前年同期比62.9%減の2340台となり、8月の3495台より33%減少した。マツダの9月の中国での販売台数は前年同期比35%減の1万3258台で、8月の1万6539台より20%少なくなった。フォレスターが好評のスバル富士重工は中国販売が前年同月比64.5%減の1857台、スズキは前年同月比44.5%減の1万5446台。
 この結果、在庫が積みあがり、減産に追い込まれる。
 10月は、トヨタ自動車は生産調整し、計画比5割前後の減産、日産、ホンダも半減。
 中国で生産していない車は輸出にブレーキがかかる。トヨタの高級車「レクサス」は日本からの輸出を11月まで見合わせるという。
 自動車組み立て企業のすそ野には、部品産業、素材産業、機械産業をはじめ幅広い関連産業が拡がっており、生産調整は全産業に影響が及ぶ。中国に進出している自動車関連メーカーばかりか、日本国内の関連メーカーにも波及し、日本経済全体に悪影響を及ぼすことが懸念される。中国の景気後退に伴い建設機械や工作機械では受注減が進行していたが、尖閣騒動が、対中ビジネス不振に拍車をかけ、負のスパイラルに落ち込む恐れなしとは言えない。
 焦点は、中国における日本車の販売減は一時的なものか、長期化するのか、の見極めにあろう。折しも中国の景気が後退局面にあることからすると、数カ月程度の長期化は避けられないであろう。短期的には曇りである。しかし、日本商品ボコットとか、日本車ボイコットというような運動は、決して長続きし得ない。消費者にとっては商品の質と価格がポイントである。流通業における、速やかな破壊店舗の回復、消費者の帰還、店舗拡大の趨勢がそれを証明している。
 自動車組み立てメーカーの対中長期的戦略は、小売業と同じく行け行けドンドンで、世界メーカーが中国市場に勢ぞろいしてデッドヒートを演じている。中国市場におけるセダン(自動車基本型)の販売シェアは、日系ブランド21.6%、ドイツ系21.3%、米系15.0%、韓国系9.0%という状況である(2011年実績)。日産は中国における乗用車の4カ所目の製造拠点を大連に建設中である(2014年稼働予定)。トヨタは2015年をメドに中国でハイブリッド車を基幹部品から一貫生産する。ホンダは2011年に中国自主ブランド車「理念」を発売、2012年にはハイブリッド車の基幹技術を中国メーカーに供与して他社に先行している。すなわち、自動車産業にとって中国市場は戦略的には、ゴーサインであると見られる。
 反日騒動が続く中で、あえて火中の栗を拾ったのは三菱自動車である。9月25日、暴動の余韻が冷めやらぬ湖南省長沙市で、三菱自動車の中国における生産・販売合弁事業会社である広汽三菱汽車(三菱自動車33%、三菱商事17%、広州汽車50%の出資)を設立したのである。ここでは10月下旬よりSUVの「RVR」の生産を開始、続いて「パジェロスポーツ」を本格投入する予定である。
 なお、第63号(2012.09.29発行)で書いたことだが、非合法過激行動にとどまらず、行政当局による「日本たたき」が潜航している。上海や天津の税関当局が日本からの電子部品や高級素材などの輸入品に対して検査を厳格化、日系企業のサプライチェーンが支障をきたしている。ジェトロの調査結果である「中国における通関の状況」http://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/custom/を見ると、この合法的「日本たたき」は陰湿に行われており表面には表れていないが、こちらの方が非合行動よりも実害が大きいと思われる。やがて、通関統計結果が発表され次第、実害が浮かび上がってくるであろう。
ビジネス篇(1)

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