第69号 2014.04.14発行 by 中村 公省
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(1)「中華民族の大移動」
 中国では2011年をクロスポイントとして、農村人口と都市人口が逆転した。2013年末の総人口は13億6072万人、そのうち都市(城鎮)常住人口が7億3111万人で、都市化率は53.73%である。わずか1年の間に、都市化率は1ポイント以上上昇している(1.16ポイント)。
 いまや農村から都市への人口移動、小都市から中都市へ・中都市から大都市への人口移動(両者合わせて流動人口という)は、「中華民族の大移動」と言うべきスケールに達している。
 2010年の第6次人口センサスによれば、人口移動による流出、流入によって、省レベル総人口が大変動している。2000年から2010年の10年間の人口流出で総人口の減少に見舞われたところが中西部の5省(河南、貴州、安徽、広西、四川)。逆に人口流入によって総人口が激増したトップ7は東部の広東、浙江、上海、北京、山東、江蘇、河北である。ほかに東北の遼寧、中部の山西、最西端の新疆などでも人口流入が生じている。この人口流動化は豊かさを求めて故郷を離れた人々の流れの結果であると言ってよく、流れの方向は、大陸中央部(中部、西部)から沿海東部への主流と、大陸中央部から辺境部への傍流との二筋が視認できる。その大部分は、農村から都市に省を跨いで移動した労働者、すなわち農村戸籍のまま都市住まいをしている「農民工」であり、多くの社会的問題が発生している。しかも、豊かさを求めての中華民族の大移動はまだ始まったばかりである。
 国連は中国の2020~2050年の都市化率を以下のように予測しているが、これをグラフに描けば図1のようになる。

2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050
都市化率予測(%) 61 65 69 71 73 75 77

 中国はいまや農村社会から都市社会へと大変貌を遂げようとしているのである。

 図1 中国人口の都市化予測


(2)リコノミクスの都市化政策
 この趨勢をとらえて、都市化を今後10年の中国社会経済建設の戦略プログラムの中枢に据えたのが李克強構想(リコノミクス)である。ここで、李克強総理就任記者会見の発言を改めて確認しておくことにしよう。
 中国の都市化のスケールで人類の歴史上未曽有であり、中国の発展にとって重要であるばかりか、世界に影響する。
 都市化は現代化の必然的な趨勢であり、広大な農民の普遍的な願望である。これは巨大な消費と投資需要を牽引し、雇用機会を創出する。その直接的な役割は農民を富裕にし、人民に幸せにする。わたしは農村の調査・研究の折に農民と世間話をするが、将来の生活に対する願望に話が及ぶと、多くの人が「都市の人と同じような生活をしたい」という簡潔な一言を発する。これはこれまで農民には贅沢な望みだった。いまや中国の都市化の大門は農民に開かれている。農民は都市に入って第2次、第3次産業に従事することができるし、農村にとどまる農民も適度な規模化経営で増収を図り、富裕になれる。現在、毎年1000万余の農民が都市〔城鎮〕に移転しているが、これは必然的な趨勢である。
 われわれが強調する新型の都市化は、人を核心とする都市化である。現在、農民工〔出稼ぎ農民〕は約2億6000万人いる。彼らの中で希望する者を次第に都市に転入させることは、長期的で複雑な過程となる。雇用支援やサービス保障が必要である。擁大餅〔パイを大きくする〕によって都市化を進めるのではなく、大・中・小都市が調和のとれた発展をし、東部、中部、西部地域のそれぞれに適した方法で推進しなければならない。「都市病」の防止に留意し、高層ビルが林立する一方でバラック地区が拡がるという状態にしてはならない。今度の政府は、さらに1000万世帯以上の各種バラック地区の改造を決意している。これは都市内部の二元構造を解決するだけでなく、都市化のハードルを下げることでもある。とりわけ重要なのは、新型の都市化と農業現代化とが必ず補い合うことである。耕地面積の保障ラインを守り、食糧の安全保障を確保し、農民の利益を保護しなければならない。
 都市化は複雑なシステムエンジニアリングで、経済と社会に深刻な変化をもたらす可能性があり、各項付帯改革を推進する必要がある。推進の過程で遭遇する様々な問題を必ず解決しなければならない。
(2013年3月7日、李克強の総理就任の際しての記者会見、21世紀中国総研訳『中国最高指導者WHO’S WHO』より)

(3)国家新型都市化計画(2014~2020年)の登場
 習近平-李克強政権(2013~2018年)が発足して、ちょうど1年後の2014年全国人民代表大会閉会の直後、国家新型都市化計画(2014~2020年)が公表された(2014年3月16日)。2014年から2020年まで、すなわち第12次5カ年計画期(2015年まで)と第13次5カ年計画期(2016~2015年)の長期にまたがる都市化計画である。これは、習近平-李克強政権が公約している①経済の持続的発展、②不断の民政改革、③社会公正の促進、を実現するための具体的方策に他ならない。
 国家新型都市化計画(2014~2020年)の発布に際しての、中共中央、国務院の通知は以下のように言っている。
 「計画(規画)は今後に一時期、全国の都市化事業の健全な発展を導くマクロ的、戦略的、基礎的計画である。都市化は現代化の必然的な趨勢であり、農業・農村・農民問題を解決する経路であり、地区の協調発展を支える強力な力であり、内需を拡大し、産業の高度化を促すための重要な手がかりでもある。」(中共中央、国務院印発《国家新型城鎮化規劃(2014-2020年)
 計画全文はA4判28ページにも登る長文であるが、ここに、その中枢部の「第5章 発展目標」全文を以下に翻訳するととともに、添付の表(新型都市化の主要目標)を掲げておこう。
―――都市化の水準と質量を緩やかに上昇させる。都市化は健全に秩序立てて発展させ、常住人口都市化率を60%程度、戸籍人口都市化率を45%程度に上昇させる。戸籍人口都市化率と常住人口都市化率のポイント差を2ポイント程度縮め、1億程度の農業からの移転人口とその他常住人口の都市戸籍化の実現に努める。
―――都市化の構造を一層最適化し、「両横三縦*」を主体的都市化戦略枠組みの基本として都市群の集積経済を形成して、人口能力を顕著に増強する。東部地区都市群一体化水準と国際競争力を明確に向上し、中西部地区都市群を区域協調発展の新たな重要な成長極とする。都市規模構造を健全化し中心都市の放射リード作用をさらに突出させ、中小都市の数量を増加し、小都市のサービス機能を増強する。
―――都市発展のモデルを科学的に合理化する。高密度、機能複合、公共交通主体の集約的で無駄のない開発モデルをもって主導する。一人当たり都市建設用地を100㎡以内に厳格にコントロールして、建成区の人口密度を次第に高める。グリーン生産、グリーン消費を都市経済生活の主流とし、省エネ、節水産品、再生利用産品、グリーン建築の比重を大幅に高める。都市地下パイプ網のカバー率を顕著に高める。
―――都市生活を和やかで心地いいものとする。義務教育、雇用サービス、基本的養老、基本的医療衛生、保障性住宅などの都市基本公共サービスを徐々に推進して全常住人口をカバーする。インフラと公共サービス施設を完璧にして消費環境をさらに便利にし、生態環境を明白に改善し、大気質量を次第に好転させ飲料水の安全性を保障する。自然景観と文化の特色を有効に保護し、都市の発展を個性化し、都市の管理を人間化、インテリジェンス化する。
―――都市化体制メカニズムを不断に完全化する。戸籍管理、土地管理、社会保障、財政金融、行政管理、生態環境などの制度改革で重大な進展をかちとり、都市化健全発展の体制メカニズムを阻害する障害を除去する。
(訳注:*ユーラシア大陸横断鉄道沿い、長江沿いルートを横軸にして(両横)、沿海、ハルビン~北京~広州、パオトウ~昆明ルートを縦軸(三縦)にする形で、都市化戦略の枠組みを構築しようとする構想)

新型都市化の主要目標
指標1 指標2 2012年 2020年
都市化水準 常住人口都市化率(%) 52.6 60前後
戸籍人口都市化率(%) 35.3 45前後
基本公共サービス 農民工の子供の義務教育享受比重(%) 99以上
都市失業者、農民工、新成長労働者が基本職業技能訓練を無料で受けられるカバー率(%) 95以上
都市常住人口の基本養老保険カバー率(%) 66.9 90以上
都市常住人口の基本医療保険カバー率(%) 95 98
都市常住人口の保障性住宅カバー率(%) 12.5 23以上
インフラストラクチャー 人口100万以上都市の公共交通に占める軌道交通化の比率(%) *45 60
都市公共水道普及率(%) 81.7 90.1
都市汚水処理率(%) 87.3 95
都市生活ゴミ無害化処理率(%) 84.8 95
都市家庭ブロードバンド接続能力(%) 4 50以上
都市社区(コミュニティ)総合サービス機構カバー率(%) 72.5 100
資源環境 一人当たり都市建設用地(㎡) 100以上
都市再生可能エネルギー源比重(%) 8.7 13
都市グリーン建築が新建築に占める比重(%) 2 50
都市建成区の緑地率(%) 35.7 38.9
地区級以上都市の大気質量が国家標準基準の達する割合(%) 40.9 60
①*2010年データ。②都市常住人口人口基本養老保険カバー率の指標中、常住人口は16歳以下の者と在校生は含まない。③都市保障性住宅は、公共住宅(低家賃住宅を含む)、政策的商品住宅、スラム改造住宅などを含む。④一人当たり都市建設用地とは、「都市用地分類・規画建設用地標準」規定で、一人当たり都市建設用地標準65.0-115㎡、新都市建設は85.1-105.0㎡。⑤都市大気質量国家標準とは、1996年の標準を基に、PM2.5濃度限界値と臭気8時間平均濃度を加え、PM10、二酸化窒素、鉛等の濃度限界値を調整したもの。
(資料)国家新型城镇化规划(2014-2020年)

(4)定住人口都市化率と戸籍人口都市化率とのダブル目標
 国家新型都市化計画(2014~2020年)は、そのスタートとなる6年間の計画(中国語で「規画」で計画より緩い市場ベースの目標)である。2013年現在53.73%%の常住人口都市化率を2020年に60%程度にしよう、言いかえれば都市:農村の比率を大体5:5から6:4にしようというのが都市化水準の第一目標である。(ここで都市常住人口とは、現に6カ月以上、都市(城市と鎮)に住んでいる人口である。この常住人口をベースにした都市化率が国際的には都市化率として通用している。)
 2013年から2020年の間に農村から都市に流動する新規人口は1億人余と見込まれている(国連予測では1億1525万人)。このスケールは、確かに世界に類を見な巨大さであり、中国的な新型の都市化であるに違いない。
 しかし、中国には中国の事情があり、中国的特色をもった、もう一つの都市化率、戸籍人口都市化率というものがある。農村から都市に移住して6カ月以上を経て常住人口と認定されても、都市戸籍を与えられず(あるいは都市戸籍を取得することを望まず)農村戸籍のままで、市民としての権利や社会保障を享受できないままでいる「非都市戸籍者」が大量に存在しているのである。
 国家新型都市化計画の発表にともなって開催された、記者会見で国家発展改革委員会副主任はこう説明している。
 「現在、我が国の都市人口は7.3億人で、そのうちに2億余の農民工とその家族が含まれている。農民工は我が国産業労働者の主体となっているが、彼らは都市住民の待遇を受けていない」。
 2012年の全国総人口で見て、非農業人口、即ち都市戸籍人口は4億7970万人であり、戸籍人口都市化率は35.3%である(『中国人口統計年鑑』2013年版)。同年の都市定住人口は7億1182万人であるところから、都市戸籍のない都市定住者は2億3212万人に上る計算になる(7億1182万人-4億7970万人=2億3212万人)。
 日本の人口の2倍近くの都市住民が、その都市の戸籍を与えられないで、子供の教育、公共医療、社会保障、雇用など生活全般にかかわる公共サービスを受けられないまま放置されている。こうした状態を中国では、「不完全な都市化」とか「中途半端な都市化」と呼んでいるが、実状は都市行政当局の住民サービスをネグレクト、スポイルした「棄民」だと言っていいだろう。
 定住人口都市化率と、戸籍人口都市化率とを改めて比較してみよう。
  2012年定住人口都市化率 52.6%
  2012年戸籍人口都市化率 35.3%
 両者の間には、17.3ポイントもの差がある。1ポイントは全人口の100分の1であり、1350万人に相当し、17.3ポイントなら、2.3億人余になる。この差を、都市定住者に都市戸籍を与えることによって、なんとか縮めよう、2020年までに戸籍人口都市化率を45%にもっていきたいというのが都市化水準の第二目標である。
  2020年定住人口都市化率 60%。(都市人口は8.4億余と21世紀総研推定)
  2020年戸籍人口都市化率 45%。(戸籍人口は6.2億余と21世紀総研推定)
となって、2020年に至っても両者のポイント差は15ポイント(人口数ギャップは2.2億人)である。それでも2012年のポイン差17.3ポイントと較べると2.3ポイント縮小することになるので、国家新型都市化計画では「戸籍人口都市化率と常住人口都市化率のポイント差を2ポイント程度縮め、1億人程度の農業からの移転人口とその他常住人口の都市戸籍化の実現に努める」という、ややこしい目標が設定されているのである。
 ここで1億人程度という数字に注目しなければならない。これは先に見た2013年から2020年の間に農村から都市に新規に流動する人口1億人余と照合する。裏を返して見れば、この計画の目標は、新規に流動する人口1億余相当については、都市戸籍を支給するようにしよう、しかしすでに都市に流動して都市戸籍のないまま都市に定住している2億人相当については、農村戸籍のままにしておくという宣告でもある。
 都市に定住者する農村戸籍者(農民工)の都市戸籍化と、新規に都市に移動してくる農民工の都市戸籍受け入れは、まさしく世界に類を見ない中国的特色をもった新型の都市化である。
(5)三つの1億人
 数字の羅列でいささかわかりにくいが、国家新型都市化計画の発表にともなって開催された、記者会見では、もう少しわかりやすい説明が行われている。国家発展改革委員会副主任は、同計画目標は「三つの1億人」の実現を目指していることを明らかにしている。以下、その説明を聞いてみよう。
 新型都市化計画は、2020年に、①1億前後の農業からの移転人口の都市戸籍化を実現する、②都市のバラック区と城中村(都市の中の村落)*を改造し、約1億の居住条件を改善する、③約1億人を西部地区における近隣での都市化に導くように努める。
 現在の都市(城鎮)常住人口中の農民工とその家族は2億人余である。うち80年後、90年後生まれの新世代の農民工が1億超、流入地で居住年限が5年以上になるものが5000万人、一家挙げてのものが5500万人いる。2020年の農民工とその家族は3億人余になるであろう。まず、1億人前後の都市戸籍化を解決しなければならない。3分の1で、主要、必要、可能なところである。戸籍人口都市化率は現在の36%前後から45%前後に高める。これは内需潜在力を解き放ち、「三農」(農業・農村・農民)問題を解決するのに有利であり、社会の和諧安定に有利である。
 現在の全国都市(城市)と行政鎮の中で、各種バラック、危険な住宅、ガス・水道がない、台所・便所が備わっていない住宅が4200万戸あり、1億人以上の人口に及ぶ。このため、計画はバラック区と城中村の改造実施を重要任務とし、専門行動計画を制定し、徐々に実施推進する。
 2012年の東部地区の都市化率は62.2%に達しているが、中部は48.5%、西部は44.8%である。西部大開発、中部興隆戦略の実施にしたがい、中西部地区の発展条件が明確に改善され、産業移転の歩みが明らかに加速、雇用を支える能力が顕著に増強し、都市化発展の大空間が存在する。主体機能区区計画が確定した中西部の重点開区域で、若干の新都市群を育成発展し、条件があり、能力があるところで約1人を近隣都市化に導く。
(「発改委規画到2020年実現1億農業転移人口城鎮落戸」『中国網』2014.3.19)

『南方都市報』2007年12月27日掲載の広州市の石牌村。

*訳注:①都市化の進展で農耕地が徴用され、村落周囲は市街化してしまった。②その村落の元農民は、その村落内部に依然居住していている。③そして、その村落元農民の多くは不動産賃貸業を営むようになり、余所から流入してきた農民工に賃貸して生計を営んでいる。④無計画に、無秩序に市街が拡がったために一帯はスラム化している。このような一角を、中国では「城中村」、都市の中の村、と呼んでいる。写真は『南方都市報』2007年12月27日掲載の広州市の石牌村。

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