第70号 2014.09.16発行 by 中村 公省
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(1) メタボの鶏か、蝦蟇か?
 かねて課題であった統計データを地図上に表現する(カルトグラム)を試みる機会を得た。図1がその成果である。データは中国の31省・市・自治区の2013年年末人口である。利用したソフトは、フリーソフトのScape toap とMANDARAで、作成者は21世紀中国総研の姜成山研究員である。

図1

図2

 この際、普通見かける中国省別地図(図2)と対照させてみた方がわかりやすいであろう。
 図2の中国省別地図は面積に基づいてその省境を描いてあるが、図1の方は各省の人口数に基づいて各省の省境(面の形状)を変えて表現しているので大きくゆがんでいる。巨大人口を呑みこんだ、この中国大陸図は何に見えるか? メタボの鶏か、蝦蟇か?
 普通の地図(図2)で一番上(北)に位置していて土地面積が非常に大きい内蒙古、新疆などは、図1の変形地図では人口密度が小さいため、実際の形状に比べはるかに小さく描かれている。また新疆とともに左(西)に位置しているチベット、青海、甘粛など人口密度の希薄な面積大省も極端に縮んでいる。
 逆に人口密度の大きい上海(左端中央部)は、ぷっくり膨れている。上海の下の浙江、上の江蘇、その江蘇の上の山東も人口稠密地域のため、普通の地図に比べ変形地図ではより大きくなっている。
 人口1位の広東、2位の河南も人口密度が密で、その面積に比して膨れあがっている。ちなみに色の濃い薄いは人口数の大小を階層区分していて、こげ茶色は1億以上、臙脂色は5000万以上1億未満……肌色は1000万人以下を表している。
 総じて、人口密度が稠密(ちゅうみつ)な東部沿海の華北(北京・天津、河北)、華東(上海、江蘇、浙江)、華南(広東)の三大地区と、長江流域(湖北、重慶、四川など)が膨れている。面積では非常にちっぽけな上海、北京、天津が突出しているのも印象的である。反対に7割の面積を占めている西部地域は人口希薄のため、縮むというより萎んでしまった風船のごとくである。東北3省も広大な大地が人口密度に応じて平たく委縮している。
 中国人は、地理学習において中国国土の形状は右向きの鶏であると教えられている。そうしたイメージを前提に言えば、図1は基本的に鶏の形をしていると見ることができる。下膨れでメタボになっているのは、大陸の西部は地高く・人稀れにして物少く、東部は地平かにして人多く物多しという地勢を反映しているからである。
(2)グニャグニャ複雑に歪んだ緯度・経度線

図3

 図3は、図1の変形地図を、どうやって描いたかを示したものである。
 世界地図を描く図法は各種あるが、メルカトール図法や正方形図法では経度と緯度とが直角に交わる緯度経度をもとに地形が描かれている。図3の変形地図の背後にあるメッシュはこの緯度経度であるが、直角交差ではなくグニャグニャと複雑に曲がって交差している。この歪んだ緯度・経度は、中国の省・市・自治区の区画をその人口によってシフトさせた結果なのである。パソコンで地図を描くに際しては、図形情報と属性情報をもったベクターデータを利用するが、その中国地図データファイルを変形地図作成ソフト(Scape toap)で歪ませてやるのであるが、この際、方法は棚に上げて結果だけに注目しよう。
 例えば、右端中央・薄茶色の上海の網目は非常に大きい。また右上方・薄茶色の北京と天津も同様である。これらは面積に比して人口が多い、即ち人口密度が高いからであり、網目が大きいことは人口密度が高いことを表している。ちなみに、上海の人口密度は3834人/㎢、北京1244人/㎢、天津1227人/㎢である。
 反対に網目が小さいのは、面積に比して人口が少ない、即ち人口密度が低いことを表現している。例えば、左端の尻尾に見える部分の薄茶色の区画は新疆自治区であり、極端にメッシュが密になっている(新疆の人口密度は14人/㎢)。人口密度が最も少ないチベット(3人/㎢)は新疆に下にあって網目があまりに密で髭のようになっている。内蒙古も東西に拡がる大面積に比して人口希薄で人口密度は12人/㎢、その区画は図3の最上部を左(新疆)から右(東北)に流れる細い紐のごとくになっている。
(3)トップ・エリートは揚子江下流地域と環渤海地域が中心
 中国人口変形地図は、より多くの人の眼にふれることを願って、新刊の21世紀中国総研編『中国の省・市・自治区経済』の表紙に転用した。その一方で、カルトグラムによる中国地図作成の可能性を探るために、特徴の異なる統計データを使って幾種類もの変形図を描いてみたのだが、そのうちの一つを、ここに紹介しておこう。
 図4は、ちょっと趣を変えて、中国を領導しているトップ・エリート199人(第18期中国共産党中央委員)の出身地データを入れて省別地図を描いてみたものである。

図4

 図4のエリートを輩出しているトップ10は、山東30、河北24、江蘇18、浙江14、遼寧13、安徽12、山西10、河南10、北京8、湖南7である。この数字に応じて図4はデフォルメされていて、山東、華北、華東が異常に膨らんでいる。その一方で西部の衰弱は激しく、華南もやせ細っている。広東、海南、四川、雲南、青海はデータではゼロであり、貴州、チベット、新疆は1であるが、これらの省も形は地図上に残影を留めている。東北3省は遼寧13、吉林5、黒龍江5という比率を反映した変形になっていると見られる。
 そこで、改めて図1と図4を比較してみよう。
 人口は右最上部の黒龍江省の黒河から中央最下部の雲南省の騰冲を結ぶ線の右側(東部)に蝟集していることは周知の事実である(図1)。しかし、その人民の群れを率いているトップ・エリートの出身地は、人口居住地とは相応していない。トップ・エリートは、歴史的に国家指導者を輩出してきた江蘇、浙江、安徽などの揚子江下流地域と、北京、山東、河北、遼寧などの環渤海地域が中心になっている。山東は軍人が多いという特色を帯び、湖南は毛沢東をはじめとする人民革命人脈がなお生きていると見られる。
逆に広東は改革開放の経済をリードしたが、政治指導者が乏しいことは意外である。
 西部地区では革命の聖地・延安のある陝西の7人が比較的多いが、総じて政治指導者の数は少ない。西部地区は他地区出身指導者が経験を積む鍛錬場となっていることは、胡錦濤のチベット自治区書記・貴州省書記、習近平の陝西省延川県党支部書記の経歴から明らかなことである。
(4)世界のエリアカルトグラム地図
 世界のエリアカルトグラムは、http://www.worldmapper.org/index.htmlに紹介されている。「WORDMAPPER」で「これまで見たこともない世界」をうたい文句にしている。人口、生産、所得、健康、疾病など様々なジャンルの世界地図が696もある。例えば、人口では2300年の世界人口のカルトグラムを過去の地図と比較して対照できる。
 SHOW(http://show.mappingworlds.com/)ではフラッシュ形式で世界規模、米国、日本についてのさまざまな非連続カルトグラムが見られるだけでなく、みずから作図もできる。例えば、ビジネス―グローバルブランド―マクドナルドを見ると、中国におけるマクドナルド商売は前途洋々たるものがある。
 スイスの連邦統計事務所(FSO:Swiss Federal Statistical Office)のサイトでは、連続カルトグラム(contiguous cartogram)を作成できるmapressoを無償公開している(http://www.mapresso.com/tool/index.html)。オンラインの上で世界のカルトグラムを作成し、JAVAソフトでダウンロードすることができる。
 中国だけの変形地図は、地図を描くためのデータが不足しているという事情を反映して、ネット上にも数は少ないが、cartogram china で画像検索してやると、メタボの鶏か、蝦蟇か、といった画像が散見される。
 さて、以上、統計データを地図上に表現するカルトグラムを一瞥してみたが、なお不明なことが少なくなく、納得できないことも多々残している。今後、研究が進み次第、改めて報告することにして、今回はここまでとしたい。
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