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     第2号 2004.6.7発行 by 藤野 彰
    5・20講話 <目次>へ戻る
 台湾の陳水扁総統はさる五月二十日、台北で総統二期目の就任演説を行った。中国側はこの演説を単に“5・20講話”と呼んでいる。ちなみに、台湾では「五二○就職(就任)演説」と称している。中国語の「講話」には「演説」という意味があるが、中国側があえて「就職」という言葉を「講話」の前に付けないのはもとより政治的理由があるからだ。中国側は「中華民国」の存在を認めていない。従って中国にとって公式には「中華民国総統」は存在しないし、「総統就任式」も「就任演説」もあり得ない、というわけである。中国式の“”カッコには、“文革”という表記が「いわゆる文革」といった意味合いを持たされているように、政治的メッセージが込められていることがある。中国側が陳水扁就任演説を、“”カッコ抜きで素直に5・20就職演説と呼べないところに、中台間のねじれた政治関係が投影されている。
 
陳水扁総統 http://www.president.gov.tw/2_special/2004_520/subject6.html より
 前置きが長くなったが、“5・20講話”はぎくしゃくした状況が続く中台関係に新たな波紋を広げている。陳総統は演説の中で、中国が非難している「一辺一国(中台はそれぞれ別の国)」という表現こそ用いなかったものの、実質的に中国と台湾が別個の存在であることを強調し、中国の「一つの中国」原則を退けた。そうした立場は次のような主張に集約されている。「我々は海峡対岸(中国)が歴史的経緯と民族感情によって『一つの中国原則』の堅持を放棄できないことを理解できる。それに対して、北京当局も台湾人民が民主を欲し、平和を愛し、生存と発展を求める固い信念を十分に理解しなければならない」「中華民国が台湾、澎湖、金門、馬祖に存在すること、そして台湾が国際社会に存在する事実は、何人といえども、いかなる理由であれ否定することは許されない」「将来、中華民国と中華人民共和国の間で、あるいは台湾と中国の間で、どのような形式の関係を発展させるのか、二千三百万の台湾人民が同意しさえすれば、我々は排除しない」。
 「対岸が『一つの中国原則』の堅持を放棄できないことを理解できる」というのは、陳総統の、中国当局に対するリップサービスのようなもので、主張の力点は中華民国(台湾)が存在し、生存を求める固い信念を持っている、という部分にある。当然ながら、中国当局は激しく反発し、「“5・20講話”には『台湾は一つの独立国家である』との考えがあふれており、陳水扁が“台湾独立”という分裂の立場を決して放棄していないことを示している」(国務院台湾事務弁公室スポークスマン)と非難した。
 演説のもう一つの焦点は、陳総統が前回(2000年5月)の就任演説で表明した「四不一没有(五つのノー)」(中国が武力行使しない限り、@独立宣言しないA国名を変更しないB「二国論」を憲法に盛り込まないC統一か独立かの現状変更に関する住民投票を行わないD国家統一綱領や国家統一委員会を廃止しない)の扱いだったが、陳総統は今回、直接それに言及せず、「(前回の)就任演説で宣言した原則と公約は今後四年間も変わらない」との表現で逃げた。前回と同じ具体的表現で言及すれば、中国側に再び政治的言質を与え、自らを縛ることになるだけでなく、台湾内部の急進的な台湾独立派から反感を買うことになる。そんな微妙な政治判断が働いたものと見られる。
 中国側の“5・20講話”に対する総体的評価は「陳水扁が“台湾独立”に向けて伏線を張った」(台湾事務弁公室)というものだが、台湾住民の84.4%が当面の現状維持を望んでおり(2004年4月の台湾行政院大陸委員会世論調査)、米国も現状の変更に反対している状況下では、陳総統が2008年までの任期中、「一辺一国」の信念は放棄しないにしろ、「独立」へと走る可能性はまずないだろう。中国の最大のジレンマは、いかに口を極めて陳総統をののしろうとも、今後四年間、台湾を統治する指導者は間違いなく彼本人であり、「相手にしない」と言ってみても、対話の道を模索する限り、実際には「相手にせざるを得ない」という現実にある。中国の“5・20講話”批判からは、台湾海峡にわく濃霧を吹き払っても吹き払っても取り除けないという、激しいいらだちが透けて見える。

演説内容:
  「五二○就職(就任)演説」 
    http://www.president.gov.tw/2_special/2004_520/subject3.html
  同日本文翻訳「台湾の持続発展のために基盤を築く」 
    http://www.mofa.gov.tw/mofa91/upload/hotnews_attach1_20040520161821.doc
写真 http://www.president.gov.tw/2_special/2004_520/subject6.html
 
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