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     第7号 2004.11.02発行 by 藤野 彰
    中国共産党党員権利保障条例  <目次>へ戻る
 中国共産党は10月24日、新華社を通じて「中国共産党党員権利保障条例」(以下、「新条例」と略す)を公表した。党中央は1994年12月に「中国共産党党員権利保障条例(試行)」(以下、「旧条例」と略す)を制定、翌95年1月7日付で全国に伝達している。新条例は旧条例を大幅に修正した内容となっており、今回の党中央の伝達文によれば、「党内民主を発展させ、党内生活を健全なものとし、党の執政能力を強化するための重要な措置である」と定義されている。

中国共産党党員権利保障条例(部分)
http://61.183.46.245/main/snjnews/2004/10251.htm より

  新旧の条例はともに第1章で「党員が有する、党規約に定められた各種の権利は必ず、尊重、保護されなければならない」「党の規律の前においてはみな平等であることを堅持し、いかなる党員であれ特権を持つことは許されない」との基本原則をうたっている。新条例は全体として、党員がそれらの原則を確保するための権利保障措置を具体的に補強した形だ。例えば、次のような規定の変化に「党内民主」強化に向けた、それなりの苦心の跡がうかがえる。

<旧条例第22条>
 党組織は様々の異なる意見によく耳を傾けなければならない。異なる意見を持つ党員に対しては、彼らが党の決議と政策を断固として遂行する限り、規律上の責任を追及してはならない。
<新条例第18条>
 党組織は様々の異なる意見に真剣に耳を傾けなければならない。異なる意見を持つ党員に対しては、本人が党の決議と政策を断固として遂行する限り、差別したり責任追及したりしてはならない。誤った意見を持つ党員に対しては、手助けし、教育しなければならない。

 しかし、旧条例と新条例の最も大きな相違点は、以下の規定が新たに書き加えられたことである。

<新条例第7条>
 党員は党の基本理論、基本路線、基本綱領および基本経験と相反する観点や意見を公に発表してはならない。
<同第12条>
 党員は中央の決定と相反する意見を公に発表してはならない。

 言論統制の厳しい共産党だが、党の意向に反して、独自の見解を世間に向けて公然と語り、臆することなく党批判を繰り広げた「反逆者」はこれまでも少なくなかった。1980年代末の民主化運動の中では多くの党員がそうした言動の責任を問われ、党籍を剥奪されるなどの処分を受けた。旧条例公布から十年の歳月が流れた今日、あえて党員に対する言論統制を一段と強化する規定が明文化されたことは何を意味しているのか。
 時代状況の変容という点から指摘しなければならないのは、インターネットの急速な普及と、それを媒体としての、異論表明の活性化である。十年前であれば、異論を持つ党員が自説を世に問いたいと考えた場合、そうした主張を受け入れる少部数の機関誌に発表するか、自ら印刷して関係者に配布するか、公の集会・会議等で勇気をふるって意見発表するか、あるいはリスクを冒して外国メディアと接触し報道してもらうか、いずれにしろ限られた選択肢しかなかった。ところが、こうした状況はインターネットの普及で根本的に変化した。誰でも、一定のノウハウさえ身につければ、国内外の不特定多数の人々に向けて、簡単に意見発表できるようになった。当局から見れば、異論のチェックやコントロールを行うことが極めてやっかいな時代が到来したわけである。
 現に、党に批判的な考えを持つ党員たちはインターネットを駆使して、公然と、しかも効率的に異論を表明している。最近、話題になったケースとしては、共産主義青年団(共青団)機関紙「中国青年報」の盧躍剛記者が、上部組織のナンバー2である趙勇・共青団常務書記を厳しく批判する文章を、「公開状」の形でインターネットに載せて発表した事件がある。公開状は、趙書記が今年5月24日、中国青年報の中堅幹部会議で、「理想主義で新聞を作るな」などと訓示したことについて、その官僚主義的かつ威圧的な姿勢をやり玉に挙げた内容だった。北京社会経済科学研究所のサイト「改造と建設」に転載されたことから広く知られるところとなり、改革派知識人らの間ではプリントアウトした原稿も回し読みされた。
 現在、雑誌や専門誌を通じて異論を発表することはかなり難しい。江沢民時代には保守派論客の牙城だった「中流」「真理の追求」といった雑誌が発禁処分を受けたが、胡錦濤政権も異論を掲載するメディアに対しては強硬姿勢で臨んでいる。今年8月、北朝鮮批判論文を載せた専門誌「戦略と管理」が、その直後に発禁となったことはまだ記憶に新しい。相変わらず厳しい思想締め付けにより、「党に批判的なことは既存メディアには書けないし、発表できない」といった状況が続いている。必然的に、異論発表の主要舞台はインターネットへと移行、当局もそれを念頭に置いて取り締まりに力を入れようとしているわけである。
 新条例は公布されたが、「党内民主」の発展をうたう一方で、気にくわない言論は封殺するぞ、と脅しをかけているところに共産党体制の矛盾と限界がある。そもそも、この情報化時代に、6800万人もの党員の考えを、党中央のそれと完全に一致させ、異論公表を封じ込めるなどということ自体、どだい不可能な話だ。心ある党員たちは危険を承知で持論を発表していくだろうし、党の非民主的な体質の改善を強く要求していくだろう。それにしても、こうした条例の制定は、共産党の歴史において、「党員の権利」や「党員の平等性」が「特権を有する党員」によっていかに理不尽なやり方で蹂躙されてきたか(それは現在進行中の問題でもあろう)を、問わず語りに語っているようで、何やらおぞましい気分がしないでもない。
 
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