中国、市場とメディア (MARKET & MEDIA IN CHINA)
     第6号 2008.12.19発行 by 渡辺 浩平
    名ばかりとなったメディアの包括上場 <目次>へ戻る
  12月1日の中国証券報にメディアの株式上場についての長文の記事が掲載された。タイトルは「メディア産業に株式上場の風が吹くが、新聞の編集業務の上場にはまだ時間が必要だ」というもの注1。内容は、昨年12月、出版業の包括上場が認められ、その後、新聞を含めたメディアがいくつか株式上場を行っているが、それは「『包括にして包括にあらず』という点を投資家は認識すべき」としているのである。
分離上場という便法
 包括上場、中国語で言うところの「整体上市」とは何か。包括(整体)とは、メディアの場合、広告・発行などの経営に、編集などコンテンツ制作を含めたすべての業務をあらわす。ご存知の通り中国のメディアは党の喉と舌(代弁者)だ。同時に、市場経済化以降、広告業は急速な発展を遂げ、巨大な利益を生み出す産業となった。メディアは「最後に残された暴利産業」などとも言われるようになったのである。
 WTOへの加盟、世界的なメディア産業の再編のなかで、中国政府は2003年「事業の部門を残し大胆に市場化する」という方針を出す。事業とは公的部門。中国の場合は党の管理下におくという意味だ。メディアにおける事業とは編集部門である。つまり、イデオロギーに関わる編集部門は党の「喉と舌」として自らの手のうちに残し、広告・発行という営利部門のみ切り離して、それを市場化しようという便法がとられたのである。その方針にそって、メディア業として初めて香港で上場されたのが、北京青年報の関連会社「北青傳媒」であった。
 アナリストは、メディアは編集部門のパフォーマンスを見て初めて全体の評価ができるのだから、編集部門を分離した上場などは「厨房のないレストラン(一家没有厨房的餐庁)」だという厳しいコメントを述べていた。しかし、北青傳媒は、中国政府のメディア政策転換の象徴として上場されたため、株価は急速に上昇したのである。しかし、その後、幹部の不祥事により取引が停止されるに至る。厨房のないレストランは、上場に耐えうるようなガバナンスが行われていなかったのだ。メディアの市場化はとまった。
 2007年秋、17回党大会が開催され、文化体制改革の必要性が確認される。文化産業の一環であるメディアの市場化も再び動き出した。活字メディアを管理する新聞出版總署署長の柳斌傑は、編集部門を含めた包括上場を今後積極的に進めると語る。柳は、海外メディアに対して、人民日報や新華社のニュースサイトの上場にまで言及したという。そして、2007年12月に遼寧出版集団がその傘下の出版社を、編集部門を分離することなく一括して統合し、上海で上場したのである。遼寧出版集団の株は「メディアの包括上場第一号」と言われた。
 上記の問題を論じた拙著『変わる中国 変わるメディア』3章の最後で以下のように書いた。「編集面を含めた上場がついに実現した。党中央宣伝部による言論統制はいまなおつづいており、外国資本に一定の制限がほどこされてはいるのだが。しかし、これまで厳しく制限されてきたメディアの編集部門が、市場の洗礼を受けることは画期的だ。海外メディアも機関投資家も、中国における『厨房のついたレストラン』の動きを虎視眈々と見ていることだろう」
 その見立てはずいぶん甘かったようだ。
 
「包括にして包括にあらず」
 証券報の記事は、遼寧出版集団につづいて上場したメディアは、巷間は「包括上場(整体上市)」という言葉で形容されてはいるが、「編集部門と経営部門を合体して上場したものではない」と言う。そして、上述した通り「『包括にして包括にあらず』という点を投資家は認識すべき」と指摘しているのである。
 一例をあげると、湖北日報集団は、上場企業の国薬集団をその傘下におさめ、国薬集団の名義で株式市場から資金を得る仕組みをつくった。中国で言う「殻を借りての上場(借殻上市)」である。しかしその際に、湖北日報集団の中には、湖北省党委員会の機関紙である湖北日報の編集部門も、さらには、湖北日報傘下の都市報である「楚天都市報」の編集部門も入っていないという。また、広告費売上げナンバーワンの広州日報から分離独立した広東九州陽光傳媒もしかりだと言うのだ。
 柳は「産業の全体性を守って、間接取引を減らし」「株主に対してさらなる信頼感を与える」ために、メディアの包括上場を進めるべしと威勢よく語っていた。が、証券報は、メディアの包括上場は「ほんとうのところは政策的支持が得られていない」とするのである。
 私も新聞社の包括上場は先の話だと思っていたし、出版業とて、編集部門を含めた上場はそれほど容易なことではないと考えていた。実際、遼寧出版集団の上場も、遼寧人民出版社と遼寧民族出版社は上場会社に含まれていない。「政治性」「公益性」を担わせる出版社は上場会社からは除外されているのである。なお、この場合の公益性は日本の概念とは違う。国益、中国共産党益といった意味である。
 出資比率に制限を加えたとしても、包括上場をすれば、「時政(時事ニュース)」を扱う編集部門に、外部のチェックが入ることになる。それは避けたいことだろう。人民日報社のメディア業界誌「新聞戦線」2008年2期に掲載された論文「メディア業の上場フィーバーにおける冷静な思考」においても、「編集と経営の間の微妙なバランスが、メディアの上場が直面する最大の制度的課題の一つ」としている注2。拙著で「画期的」などとお気楽な書き方をしてしまったが「メディアの編集部門が、市場の洗礼を受ける」ことは、そうたやすいことではない。
 証券報では、当面「電脳報」といった業界紙から徐々に包括上場は行われる、とする。
ことはこうではないか。昨年秋の段階は、メディアの包括上場について、党上層部のなかでコンセンサスは得られてはいなかったものの、柳斌傑にひとりパフォーマンスをやらせて、観測気球をあげた。しかし、2008年、チベット騒乱、ウイグル族によるテロ、チベット騒乱による海外の厳しい中国報道、中国内外の五輪支持のナショナリズム、四川地震の人災責任追及、各地で発生する社会的弱者による異議申し立て、さらには金融危機に端を発する経済危機と問題が頻発。党のメディア管理の緩和につながりかねない、編集部門を含めた市場化などすすめられない状態となった。
 12月10日に世界人権宣言60周年にあわせて発表され、国内外の多くの知識人が署名しネット上で転載が繰り返された「零八憲章」も、メディア管理のたがをゆるめられない要因となったことだろう。12月12日の人民日報にはさっそく「主流サイトの建設を強化し、世論誘導の新たなシステムをつくろう」とする論文が掲載された注3。ネット管理はさらに厳しくなることは必至だ。柳斌傑が語った人民網や新華網の株式上場などもってのほかだ。
 昨年秋から証券市場で語られた「メディアの包括上場(傳媒整体上市)」は、はや一年でまったく実態のともなわない言葉となった。
 
 
 
 1 「傳媒業吹上市風、報業編輯業務上市尚需時日」『中国証券報』2008年12月1日
 2 「傳媒業上市熱潮中的冷思考」『新聞戦線』2008年2期
 3 「加強主流網站建設、形成輿論引導新格局」『人民日報』2008年12月12日

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