第8号 2005.7.5発行 by 渡辺 浩平
    外国ブランドの迷信!? <目次>へ
 中国において、外資系商品への批判が高まっている。 
 ハインツ、ケンタッキーフライドチキンによる、発がん性着色料「スーダンレッド1号」の使用に始まり、5月末、ネスレの粉ミルクに基準値を超えるヨードが検出され、6月下旬には、「アイスクリームのロールスロイス」をうたうハーゲンダッツが不衛生な無認可工場で生産されていたことが明らかになった。
 6月22日人民網「人民時評」では、「外資系製品が立て続けに問題を起こしている。目を覚ます時が来た!」という記事を掲載。ハーゲンダッツのニュースを受けて、記事は以下のようにはじまる。
 「またもや、『洋品牌(外資系製品)』、或いは『洋名牌(外国製ブランド)』−著名な多国籍企業の著名な製品が問題を起こしたのである。今年は彼らにとって多難な年となる。人々はもはや驚くことはない。だが、多難な年と言えるのか? むしろ、関連する問題が『総爆発』したのではないか? すべてを清算する時がきたのではないか? 驚き、呆れ、後に平静さを取り戻す。人々が『外国ブランドの迷信(洋迷信)』から覚めねばならない。覚めた後に、深く自省せねばなるまい」
 コラムの行間から、中国の消費者がこれまでいかに「洋品牌(外資系製品)」を、まさに「洋名牌(外資系ブランド)」として、憧れをもってみていたかが伝わってくる。同時に、今回の外資系製品の不祥事が、中国の消費者にとっていかに驚きをもって迎えられたかも、理解できる。
 その後も、外資系製品をめぐる事件は続く。
6月下旬、マクドナルドのCMが、中国人への侮辱に当たると放映停止がなさ、6月末にはP&G社のパンテーンなど4つのブランドが虚偽広告の疑いで当局の調査を受けたことが明らかになった。


 ネスレ粉ミルク事件

 では、批判がもっとも高まったネスレの問題を見てみよう。
 浙江省工商局の検査で、ネスレの黒竜江省における合弁会社「双城雀巣有限公司」の粉ミルク「金牌成長3+」から基準値を超えるヨードが検出されたのは、5月25日のことだった。中国政府が定めるヨードの基準値は、粉ミルク100グラムあたりに30から150マイクログラム。だが、金牌成長3+には、191マイクログラムを超えるヨードが含まれていたのである。ヨードの過剰摂取は、甲状腺に異常を来たし、特に、子供は容易に甲状腺肥大を起こすとのことだ。

ネスレの中国投資基地。
2004年の大中華地区における売上げは107億元、各種納税額は10億元にのぼる。

 しかしながら、同社は製品の回収を行わず、5月27日に新聞紙上で、基準値の超過を認めつつも、「安心して食べられる」と訴え、売り場で同商品の販売を継続したのである。6月3日には、自社のサイトで、上記商品の一日のヨード摂取量は『中国栄養学会』が推奨する摂取水準を超えず、この程度のヨード量の超過は、消費者の健康に悪い影響を与えることはない、という見解を中国の食品専門家のコメントとして紹介した。さらに、報道によれば、同社は、ヨード量超過の事実を5月10日の時点で知っていたという。
 人民日報は6月3日付で、「ネスレは、国家基準から逃れることはできない」という記事を掲載、自社の論理で、不祥事を糊塗しようとする同社に対して非難は集中した。
 6月5日、同社は一転、「お詫び」を表明、事件から2週間たった6月11日になって、サイトに、本事件に対応する電話番号を掲載し、金牌成長3+の返品に応ずることをアナウンスした。
 ヨード量超過粉ミルクは、さらに、雲南や上海でも見つかり、各地で販売停止処分をうけ、メディアにおいては、消費者をなおざりにし、メディア対応という「危機管理広報」にばかりエネルギーを使う同社の姿勢に批判が集中、また、ネスレの製品をめぐっては世界各地でトラブルが生じ、ボイコットが起っている事実が中国においても報道されたのである。
 当然、中国消費者のネスレに対する信頼は急降下した。ポータルサイトの「新浪」が6月14日に行ったネット調査では、「以前はネスレブランドを信頼していた」というユーザーが80%もいたにも関わらず、「今後、ネスレの粉ミルクを買うことはない」と答えた人は、80%に達した。また、ネスレの他の製品についても、「しばらくは買わない」人が88%にものぼったのである。
 もともと「信頼」8割が示す通り、中国消費者が抱く同社のイメージは、その広告コピーの「味が素晴らしい!(味道好極了!)」という平明な広告コピーとともに、極めて好感度の高いものであった。
 しかしながら、危機対応の拙さによって、同社は、一挙に消費者の信頼を失うこととなってしまったのだ。


 外資系製品批判の意味するもの

 ネスレ問題は、中国市場におけるコンプライアンスの重要性を改めてわれわれにつきつけた。同社が言うように、もしかしたら、「この程度のヨード量の超過」は、子供たちの健康に害を与えないのかもしれない。しかしながら、金牌成長3+が、国家基準を超えたヨードを含有していたことは紛れもない事実であり、その事実が明らかになった後も、「安心して食べられる」という表示を付して、継続販売するなどという、人々の健康をあずかる食品会社としては、あってはならない過ちを犯してしまったのである。
 同時期、同じ乳製品メーカーである光明乳業がかつての雪印事件に類似する不祥事を起こしたが、しかしながら、メディアの批判はネスレに集中した。当然、そのことをいぶかる人はいる。リプトンなど中国国外での不祥事を含めて、外資系製品が一律叩かれるのは、穏当さに欠けるという意見もあるだろう。メディアの外資系製品バッシングの背後に、中国消費者やメディアの強い民族意識や排外感情を感ずる向きもあるだろう。私も、そのような感想を持たないわけではない。
 が、ネスレの事件の処理は、あまりにも拙劣であり、同社の信頼感が高かったがゆえに、逆に、強い不信感が、外資系製品すべてに拡大していったという消費者心理も理解できないことではない。
 先に紹介した6月22日付人民時評のコラムにおいて、「自省」すべきとして三点があげられている。一つは、外資も商売を行っているのだから、利益の最大化をはかるのは当然で、コストを削減し、時に劣悪な製品をつくることはありえるとし、もやは、外資系製品イコール高品質とは考えるなという点。
 二点目は、外資系製品に対する行政の管理のずさんさだ。黒竜江の合弁工場の粉ミルクは、2002年に検査免除製品に指定され3年間検査を免れていたというのだ。そして、三点目は、地方政府が外資を過度に信頼し、さまざまな優遇措置を提供してきた点だ。
 記事の最後にはこのような見解が示されていた。
中国系企業であれ、外資系企業であり、等しく法律を守らねばならず、法の前で人はみな平等であり、何人も、「特別免除」や「治外法権」を持ってはならず、違法行為があれば、罰せられねばならない。至極まっとうな意見だ。
 外資系企業を特別扱いするなということであろう。
 日系企業は、今回の一連の事件を他山の石とすべきだ。

  
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