第10号 2005.11.7発行 by 渡辺 浩平
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 「十一黄金週」などは、このサイトを時々のぞかれるような、中国の観察を習慣にされている向きにとっては、いささか旧聞に属する話題であろう。
 今年は、「十一黄金週」つまり国慶節休暇の休みあけすぐに、五中全会がはじまり、10月11日に十一次五ヵ年計画の基本方針が採択され、その翌日、胡錦濤(北京)、温家宝(酒泉)等主要国家幹部が見守るなか、有人飛行船「神舟6号」の打ち上げが成功したのである。CCTVのニュースでは、宇宙飛行士の家族や故郷までもが映し出され、連日、尋常ならざる報道合戦が起った。そして、17日の飛行士帰還時に、小泉総理が靖国に参拝し、日中間にまたまた暗雲がたちこめたのだ。月末には、ピョンヤンで胡錦濤と金正日が会い、六カ国協議の継続が確認された。
 休み明けはニュースにことかくことなく、日本の民放のワイドショーでも取り上げられた、黄金週間前にオープンした香港ディズニーランドでの大陸からの観光客のマナーの悪さも、遠い昔のことのように感じられる。
 日本で中国の動きを見ている人間にとって、2005年の「十一黄金週」などはもはや遠く過ぎ去りし過去のことであり、中国の都市部の人々にとっても、次の娯楽の関心事は、年末の買い物や、来年の春節の過ごし方に移っていることであろう。
 だが、中国に住む人々が、来年、そして再来年の旅行計画を考えるにあたって、一点気にかかることができた。将来、5月1日メーデーと、10月1日国慶節の一週間の休暇、つまり「黄金週」がいまのまま継続されるかどうか、わからなくなってきたのである。
 なお、黄金週間という名称は、もちろん日本のゴールデンウィークからとられたものである。

  <参考>
    11月ゴールデンウイークはどうすごすかを紹介するサイト
    http://digi.it.sohu.com/20050916/n240396724.shtml
 
休日経済
 1999年から始まった黄金週間も、今年で7年目を迎えた。黄金週間は、これまで、移動と言えば春節の帰省しかありえなかった中国人に、観光という娯楽を与えたといってよい。初年度の1999年の五一黄金週間では2800万人に過ぎなかった旅行客が、今年の五一には1億2100万人に激増、観光収入も、99年の五一が141億元だったものが、05年の同時期に467億元にふくれあがった。
 今年の五一までの14回の黄金週間での旅行者の累計は10億7千万人、観光収入は4292億元(約5兆5千億円)とのことだ。赤ちゃんからお年よりまで、中国人のほぼ一人が一回この間(春節は除く)に旅行をしたこととなる。
 今年の十一の観光収入は463億元(前年同期比16.6%増)、本年の五一とあわせれば930億元、円価にすると1兆2千億になんなんとするお金がこの二週間の間に費やされたのである。
 中国の統計数字がどの程度信頼できるかという問題は残る。05年の十一の観光収入も、黄金週間が終わった直後に、国家旅游局から出された数字で、その後、各地の観光都市の収入が報道として伝えられており、何を根拠に算出した数字なのか疑問はぬぐえない。
 だが、目の子の数字でも、五一と十一の二つの黄金週間で1000億元に近い金額が動いた。04年の中国の総広告費が1078億円。黄金週間の観光収入とは、メディアの活況の恩恵に浴する広告業に迫るそのような巨大な市場規模と言えるであろう。この七年の間に、内需を刺激する巨大な「休日経済」が生まれたのである。
 なお、商務部によれば、十一黄金週間期に一般の小売も好調で、2700億元(前年同期比14.2%)の消費が発生したとのことだ。今年の十一黄金週間消費は、不動産や自動車は比較的薄商いで、宝飾品が活況を呈し、前年同期比35%という高い伸びを示したという。


「黄金週間には出かけたくない」
 七年目を迎えた黄金週間であるが、近年、黄金週間の旅行に否定的な意見があらわれた。10月5日の「江南時報」の記事によれば、最近の北京での電話調査(サンプル数1685名)で、78.1%の人が「黄金週間には出かけたくない」と答え、「人が多すぎ、リラックスできず、さらに不必要な面倒にも遭遇する」との理由が返ってきたという。記事では、北京に観光に来た蘭州の会社員の「ホテルがとれず、帰りの切符もとれない」「悲惨な記憶」を紹介している。
 10月17日付の「市場報」では、黄金週間の問題点を三点指摘している。1、需給関係の不均衡、つまり乗り物も観光地も混んでいること。2、サービスの質の劣悪さ、旅行社やホテルが客をカモにする現象があとを絶たない。3、黄金週間制度への疑問(後述する有給休暇で代替したほうが良いという意見)。
 上記1、2はしばしば聞かれる話だ。中国人のナマ声をひろった「いまどきの中国人」(サーチナ・中国情報局著、ソフトバンク)でも、「旅行会社に対する不満」として、1位、ショッピング時の強引さ、2位、宿泊先や食事の勝手な変更、3位、ガイドのサービスの低さ、などが挙げられている。
 休み明けの中央電視台の「新聞聯播」によれば、十一黄金週間における飛行機の搭乗者数は約300万人(前年同期比20%増)、鉄道利用者数は3830万人(前年同期比5%増)、道路の利用者は3億2600万人(前年同期比2%増)とのこと。
 先の旅游局の05年十一黄金週間の速報値では、中国全土の観光地の接待数はのべ1億1100万人で、前年同期比10.5%なので、陸上交通利用者の伸びが鈍化している。中国の人々の休日の過ごし方は、飛行機で遠くに行くか、家で過ごすか二極化の方向に、わずかではあるが動いているようだ。
 共同電によれば、ディズニー効果で大陸からの観光客の増加をあてにしていた香港でも、十一黄金週間期間、当初もくろんでいた大陸からの観光客70万人という数字は達成できず、前年横ばいの40万人の観光客しか訪れなかったのとのこと。
 ディズニーランドでの大陸観光客のマナーの悪さは、大陸のメディアでずいぶん報道されたので、テレビニュースに映されてはかなわないと、香港行を嫌ったわけでもなかなかろうが、人の多い香港に大陸の観光客が二の足を踏んだことは明らかである。共同電も、香港の観光客の多さと、観光が欧州に流れたことを、香港への観光客伸びなやみの原因としてあげている。


民意に問え!
 ここにきて、一部、黄金週間改革論が声高に主張されるようになってきた。中国欧米同学会商会会長である王輝耀は、10月6日の新京報で、以下の通り自説を述べる。  
 まず、一年に3回もの長期休暇がある国は稀であり、諸外国との往来が頻繁になった中国が、繁忙期に長期の休みをとることは中国の生産効率や対外経済に不利益をもたらす。例えば、5月と10月の長期休暇があるがゆえに、他の月に会議が集中し、9月などは、ホテルの会議場が予約でいっぱいとなると指摘する。そして、メーデーの休みは7月はじめに移動すべきとして、その理由として、夏は学校が休みに入り、多くの国でも夏休みをとる点があげられるのだ。さらに、国慶節については、現在、週末の土日を繰り上げ繰り下げして、7日の連続休暇としているが、それをせずに、二日間の休日のみとしてはどうか、と提案するのである。
 休みあけ、国家旅游局は早速、旅行業における需給関係の不均衡などの問題はあるも、かねてから主張されている有給休暇代替案では、長期の旅行には対応できないとして、また、64%の人々が黄金週間を「弊よりも利が大きい」と支持しているという調査結果を示し、黄金週間を廃止することはないという主張をメディアに流す。
 なお、中国において年次有給休暇制度は、労働法45条において規定されてはいるが、私営企業にあっては、その権利が保障されているとはいえない。代替論者は、年次有給休暇の取得を促す政策の実施を主張しているのである。
 黄金週間制度への疑問は消えなかった。中国青年報では、先の64%の支持が、休日の存続に対する意見であり、黄金週間か有給休暇かという選択肢ではないので、改めて、制度改革を民意に問うべきだと主張する。
 さらに、10月17日号の「中国新聞週刊」は、その論説で「黄金週間制度改革で休暇を廃止してはならない」というタイトルを掲げ、清明、端午、中秋、重陽などの伝統的節句を黄金週間に代えるべきだと主張し、祝日とは文化的、社会的価値があり、家族があつまるという精神的機能を備えるべきであると説く。つまり、有給休暇が黄金週間を代替することはできないという立場だ。そして、黄金週間の改革については、全人代の常務委員会が公聴会を開いて、広く民意を問い改革案を策定すべきだと主張するのである。
 国家旅游局は、上記の「中国新聞週刊」論説が指摘するように観光業の利益と密接に結びついているので、制度改革論議さえをも避けたいのが本音であろう。さらに、10月1日の国慶節は人民共和国建国という「人民」統合の象徴的祝日であり、メーデーや国慶節の長期休暇を、節句や有給休暇で代替しろという意見は、「社会主義」そして「人民共和国」の権威を低下させかねないデリケートな問題を含む。
 一部メディアは「民意」を持ち出し、国家旅游局の有無を言わさぬ黄金週間存続論に牽制をかけている。
 黄金週間制度改革は、民意を問う方向に向かうのか。
 黄金週間制度改革は、大陸からの観光客に大いなる期待をよせている欧州やアセアン各国、そしてわが日本にとっても、目が離せない論議である。
 
 

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