第16号 2006.9.15発行 by 渡辺 浩平
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 一時、中国で、美女経済という言葉がしばしば使われ、日本のメディアでも取り上げられていた。美女経済には、二つの意味がある。
 一つは、女性を顧客とした、化粧品、ファッション、また、それらを広告主とする雑誌、美容整形など、美を売り物とするビジネスのこと。もう一つは、美人を使って男心をくすぐり商売につなげることだ。
 昨年半ばに、江蘇省東台市の安豊鎮という村で、若い女性のコンテストを行い、その1位と2位を、鎮の招商事務所の副所長にすると告知をしてから、後者の美女経済が批判の矢面に立たされるという事件があった。
 近年「選美(ミスコン)」は、校園選美(キャンパスミスコンテスト)などあちらこちらで行われ、地方経済活性化の引き金とするという意見もあったが、ミスコンで選ばれた女性が、投資誘致の官吏の職を得るというのは前代未聞、その案内がネットに掲示されるや、省レベルのメディアのみならず、中央の報道機関も、蘇北の田舎街に現れ取材合戦となったのだ。
 当初は、「発展のためには思想の解放が必要」と強気だった鎮の幹部も、批判報道が熱を帯びると、審査は外見3割、能力7割で、容貌のみで評価するのではないと強調し、また、雇用契約には、投資促進のためのサービス以外で、客への接待は求めないと明記されている、と弁明した。
 安豊鎮のミスコンは、予定通り行われ南京大学法学部出身者と東台市の教員の二人の女性が選ばれた。その席には、香港、台湾、上海からの20名近い投資企業の関係者が、「視察」に来ていたという。また、落選した女性の雇用を申し込んできた企業も数社あったとのことだ。
 安豊鎮のミスコンによる、投資促進策の目論見はあたったが、報道機関は、批判のトーンを強めた。新華社は、「ミスコンによる投資促進はとるべきでない」との記事を配信、記事の最後で、女性の容貌を商品化する「美女経済」に原因があるとし、企業がそのような「爆撃効果」でビジネスを展開することを批判、「科学的発展観」をもって、着実にビジネスを展開する必要性を訴えた。また、人民日報華東版では、「美女経済をどうみるか」という上海市婦女連合会が行った対談を掲載、美女経済は女性を「物」、ひいては「愛玩物」に貶めるものであり、昨今見られる「女体盛」同様、女性に対する「軟暴力」であると強く批判した。
 しかしながら、対談のなかでも触れられているが、美女が経済活性化に果たす役割は少なくなく、上海社会科学院の研究者から、04年の美女経済の市場規模は2200億元(約3兆円)との数字が示された。2005年3月の中国婦女報によれば、中国のミスコンやモデルコンテストの経済効果は50億元、また、03年度の美容産業の売上が1680億元であったという。
 冒頭、美女経済には、女性向けと男性向けがあり、批判の鉾先は後者へ向けられていると述べたが、前者の女性向けマーケットも、後者の影響がでていないとはいえない。最近は、「勉強ができることも、仕事ができることも、容貌がよいことにはかなわない」という戯れ歌さえ聞こえる。女性の就職についての言葉だ。
 女性の美容産業(美容整形も含めて)を支えているのは、純粋に美しくなりたいという思いだけではなく、容貌のよさが第一義に考えられる現在の風潮とも関係がある。
 実は、以前、本コラムで「美女経済」というタイトルを立てて、以上のようなことを書こうと考えたのだが、話題の旬が過ぎてしまい機を逸してしまっていた。美女経済という言葉はいささか陳腐になったが、昨今、「美男経済」という言葉で括られるような現象が見られるようになったので、今回は、「美男」について書きとどめておく。
 
イケメンオーディション番組
 今年、上海の東方テレビで新しい番組がはじまった。「加油!好男児(がんばれ、好男子)」。湖南衛星テレビのヒット番組「超級女声」の男版である。8月26日に決勝が行われ、蒲巴甲という名の青年が選ばれた。蒲青年は漢族ではない。少数民族、それもチベット族である。決勝大会では、蒲青年の両親もチベットから駆けつけた。
 
「加油!好男児」のページの画像
「加油!好男児」のページの画像
 
 同番組についての記事「男性もまた消費される商品」(三聯生活週刊2006年6月26日号)を読むと、中国の都市部に住む人々の感性は、「超女」から新たな一歩を踏み出したのではないかという感想を抱いた。番組のプロデューサー相海斉女史は、昨年末、番組の企画を検討した折、何を競わせるのかという問題でスタッフと喧々諤々の議論をしたと言う。「超女」のように歌にするのか、あるいは踊りにするのか、そして最後の結論は、「感覚(センス)」を競わせようというものだった。
 蒲青年の家族はチベットで薬草をとって糊口をしのぎ、数ヶ月前まで、彼も学費さえ払えない毎日を送っていた。それが、グランプリ獲得により30万元の賞金と乗用車一台を手にし、写真集、CDリリース、広告への出演、コンサートの開催が決まり、一夜にしてスターダムにのし上がった。青蔵鉄道の開通を背景にし、チベット青年のお涙頂戴の物語と、彼のエキゾチックな容貌との対照の妙が、見事にテレビ番組の常道のツボにはまっている。
 「美男経済」を象徴する現象として、もうひとつ書きとどめておくべきことがある。8月、深圳で行われた、美男子コンテストだ。その手のものは、数年前から各所でなされているが、「深圳先生(ミスター深圳)」と呼ばれるこのコンテストを、同市の党の宣伝部門が、メディアに対し報道せぬようにという通知をだしたのだ。
 宣伝部の意図は、若者に悪影響を及ぼさないようにという配慮、つまり、以前紹介した「超女」に対する元文化部長の発言同様、教育的見地からの消費主義的娯楽への批判と思われるかもしれないが、そうではない。
 美男子コンテスト「深圳先生」の主催者は広東省の南方都市報。同社ではすでに「深圳小姐(ミス深圳)」というコンテストを二年実施しており、男性版「先生」は今年からのイベント。香港誌「亜洲週刊」9月10日号によれば、深圳市共産党委員会の宣伝部門は、「深圳」という地名をつけると、外部の人間が市政府の主催であると誤解するので、中止するよう求め、審査は「公正で権威のある部門」が行わねばならない、と命じたというのである。
 報道では、内部事情に詳しい人間のコメントとして、美女、美男コンテストには大きな利益機会があるが、「深圳」の名を冠するコンテストを南方都市報にかっさらわれたので、圧力をかけた、という。
 宣伝部がメディアへの管理権を強く握って離さないのは、もとより、メディアが党の喉と舌(代弁者)であるからだが、同時に、近年はメディアが、利益をあげられるようになったので、宣伝部がメディア統制を緩めないのではと思える現象が、しばしば見られる。この事件はその典型と言える。「深圳先生」の決勝大会は予定通り実施された。が、同市の宣伝部門のお達しはきいたようで、報道量は少ない。
 
皮パン一枚のホスト
 先の例は、華やかな美男経済の事例だが、俗塵にまみれた「美男」にまつわる事件も発生している。本年4月25日、北京市東城区にある「大正新時代歌舞庁」というホストクラブが摘発された。北京市では、本年3月より風俗店への取締りが強化されており、同店で「色情表現(パフォーマンス)」が行われていることが判明、ガサ入れが行われたのだ。
 事件を報道した6月5日の北京晩報によると、警察が踏み込んだ際、皮のTバックをはいた男が舞台で踊り、その周りを女性が取り囲んでいたという。店にいた98名のホストもあわせて逮捕された。捕まったホストの多くは東北出身者で、長身で眉目秀麗な20~22歳。しかし、皮パンの「梁」は、四川出身で痩せの短躯、客の女性に相手にされなかったので、ストリップ専任に転向したという。
 記事では、クラブの女性客のほとんどが長身の美人、体の露出面も多く、非番の売春婦(“小姐”)であり、ほかに7,8名の「美形ではない」女性経営者(“富婆”)がいたという、警察の「推測」なるものが紹介されている。
 98人の従業員を抱えるホストクラブとは尋常ではない。この話は、その手の情報に明るい産経新聞北京総局の福島香織記者より聞いたものであり、ご本人もブログ6月7日付)で書いている。
 韓国の中央日報の報道(2006年8月23日)によれば、韓国人男性が上海で経営していたホストクラブが摘発されたという。韓流ブームにあやかって、従業員に韓国のスターの名をつけ、韓国の民族服を着た男性が、ストリップを演じていた。同ホストバーには、韓国人の観光客や中国人女性が集まり、05年12月~06年2月の間に、69万6千元のお金を落としていた。店の規模は書かれていないが、中国で三ヶ月日本円1千万円とは、なかなかの金額である。
 
 「三聯週刊」のカバーストーリーの言う通り、中国において「男性もまた消費される商品」となったということか。しかしながら、北京晩報の記事も、福島ブログでも言及されているが、北京のホストクラブは、「小姐(売春婦)」が支えており、男性の商品化の前提として、女性の商品化があったということは、心しておくべきであろう。(なお、人民大学の社会学者潘綏銘教授の試算よれば、中国の「小姐(売春婦)」は、1980年~2000年の累計で、少なく見積もって167万人、多く見積もって615万人とのことだ)
 とは言いつつも、容姿においても、また年齢においても「消費されようのない男」に属する私としては、「加油!好男児」や「深圳先生」の上位入賞者のさわやかな笑顔を見ながら、深い感慨を覚えてしまうのである。その感慨の中身はと言えば、一抹の嫉妬心と、同時に、痩身短躯の皮パンダンサー梁某への、いくばくかの同情心、その二つがかなりの比重を占めているように感ずるのだ。
 
 

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