第20号 2007.02.13発行 by 渡辺 浩平
    ネット1、テレビ9 <目次>へ戻る
 13億の中国人に訴えかけるメディアは、ネットとテレビに尽きる、その内訳は、人口比1割のネットユーザー(網民)にはむろんネットで、それ以外の9割のノンユーザー(非網民)はテレビ、ということのようなのだ。
 
ネットノンユーザーのテレビ依存顕著
 中国互聯網信息中心(CNNIC)による「中国互聯網発展状況報告」が1月23日に発表された。同報告は、CNNICによって、1998年から毎年1月と7月にインターネット関連の数値が公表され、07年1月調査は、初回から数えて19回目にあたる。
 中国のネットユーザーは06年12月31日時点で、1億3700万人、中国の人口比にして1割の人が網民であり、前年比にして2600万もの人々が、新しく網民となった。
 その内訳を見ると、ダイヤルアップ接続が3900万に対して、ブロードバンドが9070万人、専用回線が2710万人で、ネットユーザーのほぼ85%が、時間を気にせずに、ネットを利用していることがわかる。
 そのデータを裏付けるように、一週間の利用時間は平均で16.9時間、中国政府の規制によって一部アクセスができないサイトもあるが、中国の網民は一日平均2時間以上、ネットという情報の海を遊泳していることとなる。ネットの主ユーザーである18歳から24歳の利用時間は週21.5時間、25歳から30歳では21時間とさらに高まる。
 なお、ネット利用者の属性は、性別では、男性58.3%に女性41.7%といまなお男性優位、さらに年齢も18歳以下が17.2%、18歳から24歳が35.2%、31歳から35歳が10.4%と35歳以下の合計で62.8%となるのだ。つまり、ネットの利用者の3分の1は若い男性なのだ。さらに、男女の区別なく、利用者の3分の1が学生という結果もでており、ネットはいまだ若年者中心のメディアといえる。
 先のネット1、テレビ9について説明を加えよう。
 ネットの利用者に「重要な情報経路」を複数回答で聞いたところ、ネットが85%と二位のテレビ(66.1%)に差をつけてトップ、さらに、「最も重要な情報経路」という質問でも、47.4%とほぼ半数の人がネットと答えた。
 つぎに、ノンユーザーを見てみると「重要な情報経路」という設問にテレビを上げた人が90%、二位の新聞(33.3%)に大差をつけているのだ。「最も重要な情報経路」に至っては、79.1%の人がテレビを上げている。ちなみに、二位の新聞は9.3%しかいない。
 正直、新聞がかくも低い数字とは想像していなかった。むしろ、ネットユーザーのほうが、ネット高依存とは言えず、「重要な情報経路」という質問への答えが、ネットは47.4%で二位のテレビは30.6%、新聞15.7%と、テレビも新聞もそれなりの健闘を見せているのだ
 一つの調査で速断するのはいささ軽々だが、この調査を見る限りにおいては、ネットノンユーザーに訴求するメディアは明らかにテレビしか考えられず、また、ネットユーザーのほうがまだ、メディアに対する考え方が多様であることがうかがえる。
 中国における情報発信は、まず、テレビでドカンと絨毯爆撃をし、さらに、都市部の若年層、高学歴層、高所得者層に対しては、ネットで検索を誘導し、ブログやSNSで情報の共有化(口コミなど)を誘うという、広告業界で最近かまびすしく言われている既存メディアとネットの組み合わせである、クロスメディアの手法が最も効果的ではないかと思えてくるのだ。
 オリジナルデータを見たいという向きは、以下のCNNICのサイトに、詳細な報告書がPDFで掲出されているのでそちらをご覧いただきたい。
http://www.cnnic.net.cn/
低俗番組抑制方針出る
 上記の数字を見ると、1月に発表されたネットとテレビについて規制の方針の重要性があらためて見えてくるのだ。
 そのひとつは、1月12日の人民日報に掲載された、低俗番組抑制のための国家広播電影電視總局(以下広電總局と略称)の新方針であり、もう一つは、1月24日、さきのCNNICの調査結果が公表された同日に報道された胡錦濤の演説である。
 まず、テレビ規制から見てゆこう。
 2007年の放送事業の方向性を決める、全国広播影視局長会議で、広電總局長の王太華は以下のように語った。「現在、一部の放送番組において、依然として『低俗之風』が存在している。オーディション番組が多すぎ、かつ乱れており、そのなかの一部は低俗である」と。 
  そして、そのような低俗化傾向に歯止めをかけるために、広電總局とその関連部門は、番組に対するコントロールを強め、「格調低下」を食い止め、いたずらに視聴率や聴取率を追求する傾向にストップをかけ、法律番組や娯楽番組、特にオーディション番組への管理を強化するとするのである。
 「選秀(オーディション)」番組とは言うまでもなく、湖南衛星テレビの「超級女声」を含めたその類似番組である。法律番組(法制類)とは、刑事事件などを扱ったドキュメンタリーもので、新聞の社会面に現れるような事件を、視聴者の好奇心をくすぐるように制作された番組のことだ。
 前後して、中央電視台のオーディション番組「夢想中国」の07年の放送打ち切りのニュースが流れ、広電總局の「低俗の風」抑制方針の最初の政策実施ではとの憶測が流れた。
 広電總局を受けての、「超女」の湖南衛星テレビと「加油!好男児」の東方衛星テレビの反応を見ておこう。
百度図片の検索結果より:『夢想中国』 百度図片の検索結果より:『夢想中国』
百度図片の検索結果より

 「超女」の湖南衛星テレビの編成室トップの李浩は、「われわれは決して低俗化によって(視聴率)を獲得することはない」と明言する。前後して、湖南衛星テレビは、広電總局の精神に従い、昨年も数々の努力をし、当局から支持を得ているとするのである。同時に、07年からはじまる「超女」の男性版「超級男声」がいまだ当局の許可を得ていないことを明らかにする。
 また、男性オーディション番組「加油!好男児」を制作した東方衛星テレビの總経理の徐威は、「低俗番組は生き残ることはできない。市場も、視聴者も受け容れることができない」とし、「低俗化を避けることは、最低限の要求である」とするのである。
 他のメディアに答えたインタビューでは、湖南衛星テレビも、また、東方衛星テレビも、その「超級男声」と「加油!好男児」の放映許可については、広電總局の規定を守ってきたし守るとして、その許可が降りることに何ら疑いの余地はないと自信を示すのである。
 超女に対する低俗批判の動きは、実は05年からあった。それが明確な形で現れたのは、05年7月19日に北京で開かれた中国広播電視協会のアナウンサー委員会での会議であった。李宇春がグランプリを獲得する1ヶ月前のことだ。その会議の席で、番組の低俗化の風潮を抑止する方針が述べられ、さらに、著名なアナウンサーや司会者が、娯楽番組の低俗化についての提案書に署名をしたのである。超女は、それ以降、番組打ち切りを恐れ、参加者に節度を越えたコスチュームや髪型をしないよう指導をした。
 07年の超女が、審査員のコメント、参加者の衣装など、どれをとってもおとなしめであったことはしばしば語られたことだ。06年のグランプリが名門大の復旦大学の学生であるという点をもってしても、その点は明らかだ。週刊誌は、選考の途中で、今年の「超女」は「淑女」だと報じた。
 つまり、今回の広電總局長による、低俗番組抑制の方針は、05年の「超級女声」の成功以降、雨後の竹の子のように増えた素人オーディション番組を、それも、携帯メールを通じて投票をし、視聴者の意見がスター選考の過程に強く反映するというインタラクティブな番組を、抑制するということなのである。
 
「草根元年」と「思想宣伝工草の陣地」
 そして、そのように中国の「平民」が自らの嗜好や好悪を強く示し、メディアのコンテンツ作りに反映されていく現象や、ネットの普及により個人のブログがあまた現れたことにより、07年を「草根元年」とよぶ書き手もあらわれた。(張頤武「『草根元年』的喧騒与『国際形象』的焦慮」東方週刊07年1月4日号)「草根」はむろん英語のグラスルーツから来た語である。そして、この「草根元年」という言葉には、李宇春や蒲巴甲といった平民が、ファンからの投票により一夜にしてスターダムにのし上がったことや、また、胡戈という上海の若者が、陳凱歌の「無極(プロミス)」をパロディー化(悪搞)したショートフィルムをネットで流し、これまた時の人となった現象が含まれるのである。
 1月23日の中央政治局で行われた会議において、胡錦濤が行った演説は、ネットを規制しつつも利用する方針を打ち出したものであった。胡は言う。「ネット文化の建設と管理を強化し、わが国の社会主義文化建設においてインターネットが重要な役割を果たさねばならず、それは、全民族の思想道徳と科学文化の資質の向上、宣伝思想工作の陣地の拡大、社会主義精神文明の輻射力と感染力の拡大、さらには、わが国のソフトパワーの向上に寄与するのである」。
 つまりは、これまでマスメディアが担ってきた社会主義の「思想宣伝工作の陣地」として機能を、ネットにも担わせ、そのために、インターネットを「上手につくりあげ、利用し、管理せねばならない」とするのだ。

 さきの広電總局長の「低俗の風」抑制方針は、「選秀(オーディション)」番組の双方向性(互動)だけに焦点を絞って行われたわけではなく、視聴率重視による、番組の低俗化傾向全般の抑止の方針であり、その低俗現象がもっとも顕著にあらわれているものとして、オーディション番組が名指しされていた。
 また、胡演説にしても、ネットのサービス能力の向上や、高雅なネット文化のブランド化といった問題、つまりは、ネットを「上手に利用する」という側面もうたわれており、対外イメージ(国際形象)をことのほか気にする現政権のこと、管理のみを前面に押し出したものではない。
 そのような意味で、広電總局の規制方針も、胡演説も丁寧な読みが必要であろう。
 ただ、ここで一つだけ言えることは、06年末段階で、人口比1割の人々がネットの利便性を享受し、9割のノンユーザーはテレビに強く依存をしているという現実であり、さらに、ネット1、テレビ9の影響力の大きさを、中国共産党が強く意識しているということあろう。
 
 

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