第23号 2007.5.26発行 by 渡辺 浩平
    製品の安全は共同責任か <目次>へ戻る
  5月21、22日の二日間にわたって「国際消費品安全会議」が北京で開かれた。世界の30の国、地域、組織から300名以上が会議に参加したという。会議の主催団体のひとつである国家質量監督検験検疫總局(以下質検總局と略称)の李傳卿党書記は開幕式の挨拶で以下のように述べた 1
 「中国政府は消費財の安全性を重視し、消費者の健康と安全に責任を持つ国であり、(中略)法整備や農業、食品安全、消費財の安全などの重点領域の基準作りを行っている」と。その上で「消費財の安全はわれわれの共同の責任であり、国際的な協力、交流を広く展開することは、消費財の安全性を保障する有効な手立てである」とした。会議のテーマは「消費品安全、共同的責任(消費財の安全は共同責任)」、つまりは、消費財の安全確保は、中国の単独の努力では困難であり、国際的な協力が必要と訴えたのである。
 昨今、中国製品の安全性に疑義が生じる事件が相次いで起こっている。その代表例は、米国のペットフード事件であり、また、いまだ事件の詳細は明らかになっていないが、少なくとも100人が死んだというパナマの咳止め薬事件だ。
 今号では、海外で「中国製品が原因」とされた事件への質検總局の対応を見ながら、同局のいう「共同責任」について考えてみたい。
 
ウォシュレット発火での対応
 5月18日、質検總局は、TOTOの温水洗浄便座(ウォシュレット)の発火原因が、中国製部品に起因するものではないとの「調査結果」を発表した 2
その一月前の4月16日、TOTOは、ウォシュレットの一部製品が発火する事故が3件(2006年3月に1件、2007年3月に2件)、発煙事故が26件発生していたことを明らかにし、点検修理を呼びかけていたのである3 。事故は「製品内部の一部接続部分で接触不良が発生し、ごくまれにコントローラが発火する恐れ」があるというものだったが、同社の担当者が、記者会見の席でそれ以上のことを語ったようだ。4月18日の読売新聞には以下の記事が載る4
 「TOTOの事故が発生した背景には、取引先の部品メーカーが購入する部品が、国内産から、品質の劣る中国産に切り替わったことがある。TOTOは、水温などの制御基盤を外部の部品会社に発注していた。この部品会社は、別の部品会社からコネクターという製品を買っていた。TOTOから見ると『孫受け』に当たるコネクター製造会社は1999年3月に製造拠点を中国に移していたが、TOTOはその事実を今年2月まで知らなかった」
 つまり、5月18日の質検總局の調査結果は、ウォシュレットの発火原因が中国製部品に起因するという報道を否定するためのものだった。同局とTOTOは、4月25日から5月14日にかけて共同で調査を行い、最終的に同社より、中国製部品と事故との関係を否定する報告書が、社長の親書とともに送られてきたという。「わが社の社員が記者の質問に答える際、発言に慎重さを欠き、誤解を引き起こしたことについてお詫びをする」という文言があったとのことだ。
 事故原因が奈辺にあったのか私には皆目わからないが、まず、最終的にお詫びせざるを得ない「慎重さを欠いた発言」は、企業広報としてはあってはならないことだ。それ以前の問題として、TOTOは、事故の公表が大幅に遅れたというミスを犯している。
 先の読売記事に経産省幹部の以下のコメントが紹介されている。「コストを削減しようと海外に拠点を移すなら、下請け企業を含めて安全管理をきっちりとすべきだ」。至極当然な指摘である。本年1月に中国製ストーブが破裂する事故が多数起きており、中国製品への不信が下地としてあった。そこに、同社の担当者から、中国製部品への切り替えという話があがり、「原因は中国」という記事が書かれた。
 事故原因が中国製品ではないという質検總局の調査結果は、5月19日の人民日報にも載った5 。記事はその冒頭で「一部のメディアによる、事故原因が『中国製部品が基準に達していなかったから』という報道は事実に反する」と断じた。
 私がここでウォシュレット事件を紹介する意図は、質検總局の対応にあるが、日系企業のリスク対応としても学ぶべき点の多い事件であった。
 
SK-Ⅱ事件との違い
 ウォシュレットについての質検總局の調査結果が発表された10日前、同様に国外で多く報道された事件についての調査結果が公表された。北米でのペットフード事件である。
 今年3月、北米でメニューフードというペットフードを食べて数十匹の犬や猫が急死、米食品医薬品局(FDA)は、原料の中国産小麦グルテンに、ペット食品への含有が禁止されている有機化合物のメラミンが含まれていたと発表した。
 質検總局は、4月2日に、中国は小麦やふすまを米国やカナダに輸出していないと発表し6 、さらに、4月13日にも、同局の人間が、原料を輸出したとされる徐州安営生物技術開発公司は小麦グルテンを輸出していないと語る7
 しかし、5月8日になり一転して、江蘇徐州安営生物技術開発公司と山東濱州富田生物科技有限公司の二社が、小麦グルテンにメラニンを混入し、さらには小麦グルテンとは異なる製品名で通関手続きをおこなっていたことを明らかにしたのだ 8
 米国のネット新聞「多維新聞」によると、山東濱州富田生物科技有限公司は、山東省北部最大の食品加工会社で、資本金5000万元、従業員は457名を数えるという9 。そのような会社が、どうしてかくのごときことをしたのか正直理解に苦しむ。
 5月8日の質検總局の調査結果の末尾に、「米国側は、中国側が共同して多くの調査活動を行ったことに感謝を示し、中国側が適切にまた誠実に、これらの重要な情報を報告したことに賞賛を述べ、また、飼料の安全について、中国とさらなる協力を希望すると述べた」とある。
 事件発覚当初、同局は「米国のペット中毒事件と中国は無関係」(5月2日)としていた。仮に米側から感謝の言葉があったにしても、このような文言を「調査結果」に付け加える神経もまた理解に苦しむが。
 加えて言うと、質検總局とは、SK-Ⅱからクロムとネオジムの二つの化学物質が検出された際に、直ちに輸入化粧品の検査強化を訴えた部門である。同事件がおこる前にも、二度にわたり日本の食品に違法物質が添加されていたとして、輸入をストップしている。それら日本製品輸入規制とポジティブリスト制度との関係については、17号、18号で書いた。
 最終的に同局は、SK-Ⅱに含まれていたとされる微量のクロムとネオジムは人体に影響はないという声明をだした。マックスファクター側も、初動にもたつきがあるという瑕疵があったにしても、国家機関が公表した情報により大きな被害を蒙った。そのような事件を思い出すと、今回の米国ペットフード事件に対する同局の対応は、国の製品検査当局として適切なものであったとは思えないのだ。
 
「共同責任」を持ち出す前にただすべきことがあるのではないか
 中国における特に食品と薬品の信頼の欠如は言われて久しい。5月10日の中国質量新聞網の記事によると、中国の食品貿易会社は、中国食品のかずかずの不祥事により、中国の食品輸出に多大な影響がでているという。記事では、食品貿易会社の経営者の声を紹介しているが、「中国食品の輸入国は、自国の農業保護に利用している」とか、「背後には中国蔑視がある」とか、非は自分たちにはないという物言いが目立つ10
 確かに、現在の日本人の食生活は、中国産の輸入がなければなりたたないことは誰の目にも明らかであり、大多数の中国の食品業者は品質基準にあった商品を輸出しており、悪徳業者は一部と言えるだろう。ただ、悪徳業者が一部であっても、それは中国全体の信頼を傷つけるわけで、それを見逃してきたことは、国の製品検査当局の重大なミスだ。
 また中国国内の業者にしても、「中国食品が安全でないと喧伝すれば、被害を受けるのは国内企業だけではなく、外国の企業もである」(山東糧油進出口有限公司張宝生總経理)11 ということばは、間違いではないが、この時期の企業人の発言として、適切なものかというとそうとはいえないだろう。
 数々の食品や医薬品の不祥事を受けて、5月10日国務院は食品や医薬品の安全に関する5か年計画を発表し、質検總局は冒頭紹介した国際会議を開いた。
 詳細は明らかになっていないが、パナマでは100人が命を落とした咳止め薬の事件が起こっている。パナマ政府が支給した薬には、甘味料として使われるグリセリンの代わりに、人体に害のある「ジエチレングリコール」なる物資が入っていたという。その化学物質は「グリセリン99.5%」とされ、その出元は中国であったことがわかっている。 
 外交部報道官は、5月8日の定例記者会見で、国家食品薬品監督管理局が同事件を調査中であると答え、5月15日には以下のように答えた。「中国の関係部門はパナマの薬品中毒事件を重視し、真摯に調査をしており、調査終了後に調査結果を発表する」と。
 5月9日の多維新聞の米国紙の報道要約によると、十年前に発生したハイチの中毒事件では88人の子供が死亡、FDAは原料の出元を大連の企業と特定し、中国政府へ調査の協力を要請したが、調査員の入国が認められず、一年後に調査許可が降りた際は、当該企業はもはやなく、記録もなくなっていたという12
 また、5月24日の外交部の定例記者会見では、「ジエチレングリコール」が含まれた中国製歯磨き粉(こちらは製品)がパナマで発見され、質検總局が調査中であるという。
 中国製の食品そして薬品の信頼を回復するためには、国際会議のいう「共同責任」が必要なことは疑う余地がない。先の経産省幹部が語るように、製品の部品や原料を管理することはその製品を製造する企業の責任であり、中間で取引する業者もその一端を担っているからだ。
 しかしながら、これまで見てきたように、中国国家質量監督検験検疫總局に、共同責任を呼びかける資格があるとは思えない。共同責任を語る前に、ただすべきこと、やるべきことがあるのではないか。
 
 1 『国家質量監督検験検疫總局』2007年5月22日
 2 『国家質量監督検験検疫總局』2007年5月18日
 3 「温水洗浄便座一体形便器の点検・修理の実施について」『TOTO』2007年4月16日
 4 「TOTO便座発火」『読売新聞』2007年4月18日
 5 「日本東陶『問題馬桶』縁於自身管理漏洞」『人民日報』2007年5月19日
 6 『国家質量監督検験検疫總局』2007年4月2日
 7 『国家質量監督検験検疫總局』2007年4月13日
 8 『国家質量監督検験検疫總局』2007年5月8日
 9 「美国寵物食品案、又一中国老板被抓」『多維新聞』2007年5月9日
 10 「負面報道引発連鎖反応、我国食品出口偶信任危機」『中国質量信息網』2007年5月11日
 11 「負面報道引発連鎖反応、我国食品出口偶信任危機」『中国質量信息網』2007年5月11日
 12 「特稿:中国首次承認與巴拿馬假薬事件有関」『多維新聞』2007年5月9日

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