第25号 2007.10.12発行 by 渡辺 浩平
    素人オーディション番組の終焉 <目次>へ戻る
 湖南衛星テレビの「超級女声」の成功から始まった素人オーディション番組の放映に厳しい制限がつけられた。引き続き制作放映は可能だが、同種の番組をつくる「うまみ」がなくなってしまい、事実上、中国において素人オーディション番組は終わりを告げるかもしれない事態となったのだ。
 2007年8月10日夜、重慶衛星テレビ放映の「第一次心動」。審査員の女性(右)に「下跪」するチャレンジャー(左)。
 
断ち切られた利益連環
 9月20日、国家広播電影電視總局(以下広電總局と略)は視聴者参加型オーディション番組について通達を出し1 、2007年10月1日以降、同種の番組を放映する際、さまざまな制約が施されるようになった。
 まず時間だ。同種の番組は、19時半~22時半までのゴールデンタイプでの放映が禁止され、さらに、一局一年一番組とし、放映期間は二ヶ月を超えてはならず、放映回数も10回を超えてはならないとされた。
 つぎに内容だが、司会者の発言や審査員のコメント、参加者の発言などの、歌や踊りなどの選抜内容以外の時間は、全体の2割を超えてはならないとされた。さらに、披露される歌も、海外の歌謡は25%以下とせねばならず(つまり国内歌曲が75%以上)、参加者や審査員などを、「哥(兄貴)」「姐(姉さん)」などの卑俗な呼称で呼んではならないと規定されたのである。
 しばしば「選秀」と呼ばれるこの種の番組については、かねてから異論があり、直近では、8月15日に、放映中の番組が急遽、放送停止を命じられる事件が起きていた。重慶テレビの「第一次心動」である。「超女」と同様の、若い男女のオーディション番組だ。その番組が、最終回の決勝戦を待たず、突如、広電總局によって打ち切られた。理由は、「やらせのお笑いに終始し、番組に重大な誤りがあり、社会に悪影響を与え、テレビメディアのイメージを傷つけた」2 というものであった。
 現在メディア界では、7月に起こった北京電視台のダンボール肉まんのやらせ報道以降、強い引き締めがなされていた。特に、虚偽ニュースと、低俗番組についての取締りが強化されていた。虚偽ニュース規制は、十七回党大会における憶測記事への予防措置という側面もある。また、低俗番組抑制の方針のもと、広電總局は、精力剤の紹介や性転換者の出演など、性に関する番組に対しても、テレビ局に放映停止の通知を続けざまに出していた。
 重慶テレビの番組打ち切りによって、テレビ界の人間は、素人オーディション番組への全面的な規制が早晩くるであろうことはわかっていたはずだ。
 9.20通知で、放送局が最も打撃を受けるのは、ファン投票の禁止だ。これまで、同種の番組では、視聴者に携帯電話のショートメールを使って投票を行わせ、会場内の投票や、審査員の判断とあわせて、参加者の勝ち残りがきまっていった。それゆえ、視聴者が参加者に強い思い入れを抱き、一人で何台もの携帯電話を購入して投票する熱烈なファンもあらわれた。
李宇春がグランプリとなった05年の超女では800万票のショートメールが寄せられ、その通信代が通信会社や放送局の懐に入った。05年の超女の湖南衛星テレビ、スポンサー、通信会社などの関連会社の総売上は、76650万元(約100億円)と試算されている 3
 今回の通達により、域外(省外)での予選にも制約が施された。すでに、湖南衛星テレビは、広電總局のこの決定を察知し、すでに、大幅縮小の方針をだしていた。これで、「超級女声」をつくりあげた素人オーディション番組のビジネスモデルは、今後使えなくなったのである。
 
中央電視台の影
  「選秀」と呼ばれるこの手の番組については議論があったと先に書いた。2005年の超級女声においても、決勝を直前にして、中国広播電視協会のある会議で、番組の低俗化反対の決議がなされ、一部知識人から同種の番組の「悪俗」を批判する声があがっていた。
 そして、その批判の影に、中央電視台の存在があった。
 話がややややこしいのだが、この問題は、中国の放送事業のあり方に関係してくる。中国のテレビ局は、中央をカバーエリアとする中央電視台などの全国放送と、省、自治区、直轄市をカバーする省級テレビの級別がある。その下にも、副省級や市級のテレビ局がある。
 そして、「村村通広播電視(村村に放送を流す)」という難視聴地域解消政策のもと、1990年代後半以降に、省級テレビが衛星で電波を流すようになった。つまり、本来のカバーエリアの省内では、地上波で電波を受信し、省外では、衛星から電波をひろい、それを有線で受信できるようになったのだ。中国の大都市では、全国の省級テレビをはじめ50あまりのチャンネルを選択することができ、日本よりも多チャンネル化が進んでいると言える。
 それによって何が起こったか。
 カバーエリアが全国化した省級テレビ局は、全国の視聴者を意識しはじめ、自らの特徴を前面に出し始める。その典型が湖南衛星テレビだった。同局は、「快楽中国」というコンセプトを建てて、娯楽路線を打ち出す。2004年からは、その看板番組として「超級女声」をはじめた。韓国ドラマ「チャングムの誓い」を放送し、中国で韓国料理ブームを起こしたのも同局の貢献だ。
 湖南衛星テレビの広告単価はうなぎのぼりにあがった。それに脅威を感じたのが、全国放送を独占していた中央電視台であった。中央電視台は陰に陽に湖南局に圧力をかけたとされる。素人オーディション番組の低俗化批判をしかけたのも、中央電視台だった。先の、05年夏の中国広播電視協会の会議の際、議論をリードしたのは中央電視台のアナウンサーであった。
 さらに、本年7月から香港の鳳凰(フェニックス)の衛星放送が、広電總局の指示によって、一部の地域の有線放送で転送が遮断されたが、その背後にも、中央電視台の働きかけがあったようだ。同局は香港発の衛星放送であるが、高級ホテルや外国人用マンションでの受信しか許されていなかったが、「下に対策あり」の中国のこと、地域によっては、受信設備を設けて有線でも転送を行っているところが少なくなかったのである。
 同局の中国大陸での受信世帯は6000万戸、視聴者は2億人とも言われていた。それが、2007年7月以降、広電總局は海外放送の違法受信摘発を厳格に行いはじめた。中央電視台は、広電總局と中央宣伝部に対してフェニックスの放送が、政治的に問題がある点を再三指摘し、圧力をかけていたという4
 フェニックスはもともと人民解放軍にいた劉長楽が香港で起こしたテレビ局であり、当初より大陸市場を意識していたため、ニュースも時事番組も、政治的に大陸に近い立場をとっている。前総理の朱鎔基は、フェニックスの記者呉小莉がことのほかお気に入りで、記者会見の席で、彼女を指名して質問をさせたことがあるが、そのエピソードはつとに有名だ。むろん、17回党大会前の微妙な時期という問題はあろうが、平時、中国当局はフェニックスの政治性に目くじらを立ててはいなかった。
 
「何を見ればよいのか」
 中央電視台の台長(社長)の趙化勇は、2005年に「緑色収視率(グリーン視聴率)」という概念を提出した。「緑色」の典故は、環境負荷をかけない成長率の指数である「緑色GDP」にある。つまり、テレビの視聴率競争が激しさを増すことにより「盲目的に流行を追い、品位低俗の悪性循環が発生する」 5こととなる。それゆえ、グリーン視聴率とは、通常の視聴率から、資源の消費や社会や文化を破壊する要素を控除した視聴率とのことだ6 。しかしながら、「緑色収視率」を算出する根拠は、日本で議論されている視聴質同様に示されてはいない。
 つまり、いまだ曖昧ながらも、党の路線にあった品行方正な番組が評価される指標をつくるべきという主張だ。私も、テレビ局の視聴率至上主義になんら問題がないとは思わない。が、しかし、自らも「夢想中国」という同種の素人オーディション番組を制作しつつ、背後で、低俗番組批判に火をつけ、さらに、グリーン視聴率という根拠薄弱な考えを提出する同局の姿勢に、自らの独占を維持する思惑を見るが、そのように考える中国の視聴者は少なくないと思う。
 上海の都市報、「東方早報」は、素人オーディション番組の規制を受けて、「『選秀』がゴールデンタイムから駆逐され、視聴者は何を見ればよいのか」 7というタイトルの記事を掲載した。そのなかで、ソ連のフルシチョフが、最高指導者として最もつらいことは何かと聞かれた際、「他国の指導者に付き添って、年に何十回も白鳥の湖を見なければならないことだ」と答えたというエピソードを紹介し、そのコメントにつなげて、「名作の白鳥の湖でさえそうなのだから、いわんやその他の番組においてはなおさらではないか」と書いた。
 「その他の番組」とは、ゴールデンタイムに流れる中央電視台に代表される番組を指していると想像できる。
 メディアはかねてから経営の自立化を促され、テレビにおいても、多チャンネル化により激しい競争が起こり、庶民の嗜好に合う番組制作がなされるようになった。その結実が、「選秀」に代表される大衆路線だった。確かに、「選秀」番組の成功により、ファン投票を請負う怪しいブローカーが出没し、携帯端末の使用により、通信会社が、子どもたちから金をせしめるビジネスが跋扈するという社会問題も発生した。
 一部の省級テレビは衛星化により、広告収入の半分以上が域外からのものとなっていると聞く。つまり、構造的に全国の視聴者の嗜好にあう番組をつくらざるをえず、中央電視台とは必然的に競合をせざるをえない。来年のオリンピックに向けて、中央電視台の圧倒的優位は崩れようもない。が、その間隙を縫って、省級テレビは、「選秀」の後に、どのような番組フォーマットを出してくるのであろうか。
 
 1 「「広電局進一歩加強群集参与的選抜類広播電視活動和節目的管理」『国家広播電影電視總局』サイト、2007年9月20日
 2 「広電總局通報重慶電視台『第一次心動』厳重違規範行為」『国家広播電影電視總局』サイト、2007年8月15日
 3 「盤点『超級女声』」『2006年中国文化産業発展報告』社会科学院文献出版社2006年
 4 「鳳凰台大陸被限制幕後」『亜洲週刊』2007年8月26日
 5 「央視打造緑色収視率、避免単純追求経済効益」『北京晩報』2005年11月8日
 6 「緑色収視率概念」『中国広播電視協会』サイト、2006年7月12日
 7 「選秀被請出黄金時段後、観衆看什麼」『東方早報』2007年9月25日

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