第01号 2004.5.15発行 by 高井 潔司
   

「女体盛」専門家になってしまった私

  
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 4月上旬、元北京駐在の先輩の方から、以下のようなメールを頂いた。

東方新聞日本語サイト より

 本日(4月6日)日本の一部の新聞で報道されている昆明の和風村懐石料理屋で4月2日「美女人体盛宴」と称して、半裸の女性の身体の上に刺身や寿司など料理を並べて客に供したとのこと、しかもその料理屋の主人はこれが日本の伝統的な食文化だと称している由。中国でまたまた反感を招いているとのこと。願わくば、日本の大使館や報道関係が口をそろえて、日本にはそのような食文化は存在しないと抗議してほしい。

 この方からのメールは久しぶりのことで、なぜ私のところにこんな要望がくるのかなと首を傾げていたら、追い討ちをかけるように、ある政府機関から「本日新聞のスクラップを見ていたところ、「昆明の日本料理店、女体盛」との「毎日」記事がありました。お忙しいところ恐縮ですが、お時間のある時に本件についての事実関係、報道の意図、タイミングなどにつきまして、ご存知の範囲でコメントいただけると幸いです」と問い合わせが来た。
 おいおい、これでは、どうやら、私が「女体盛」専門家であることがばれてしまっているのではないか。
実は、私はこの1月出版された新潮新書『日本はどう報じられているか』(石澤靖治編)の中の「第6章」で、中国における「女体盛」報道について書いている。だが、ちょっと読者に媚びる題材の選び方かなと、自身反省するところもあって、この本で取り上げたことをあまりおおっぴらに話さないようにしていた。ところが、事態が発展して、まさか雲南省で、「女体盛り」を出す店まで現われるとは驚いた。
 私が新潮新書で、「女体盛」を取り上げたのは、中国のインターネット報道が近年、非常に盛んになってきたが、日本に関する報道は多様多彩な情報を伝えておらず、非常に偏ったステレオタイプを生み出している、その一つの例として「女体盛」に関するネット上での報道を話題にしたのだ。この本で、私は次のように書いている。

 先日、友人がインターネットの書き込み欄にこんな情報が掲載されていたと転送してくれた。それは「大和民族が何と卑劣かご覧あれ」と題する書き込みで、もともと「四川在線(オンライン)」2003年5月9日付報道で、日本の旅館で供されている「女体盛」と称する料理のカラー写真と紹介記事を貼り付けたものだった。
 筆者(高井)は寡聞にしてそのような日本の「飲食文化」を知らないが、写真をみると、超大型の刺身盛の舟に全裸の女性が仰向けに横たわっており、ビキニの水着に当たる部分に刺身が載せられている。浴衣姿の客がうれしそうにそれを覗き込みながら、刺身を頬張っている姿が写されている。記事によると、「女体盛」は「日本の旅館で芸者によって供せられ、その芸者は処女でなければならない」とある。
 だが、この写真がいつ、どこで、誰によって撮影されたか書かれていない。日本人男性がいかに助平で、卑劣であるか、という点が強調されている。
 そんな記事が何万とあるサイトの一つに掲載されていてもほとんど意味はない――と、思われるかもしれないが、検索エンジンのGoogleの中国語版を「女体盛」で検索してみると、中国、台湾で300を超える中国語のサイトに転載されているから、驚きだ。日本人だけでなく中国人もかなりお好きなのではないだろうか。


 以上の指摘は、半分冗談だが、かなり「先見の明」があったのではないか。というのは日本の新聞の記事は、共同電、読売新聞記事で見るように、あまりに断片的で、ほとんど中国の東方新聞サイトのような記事の転載にとどまっている。 私の記事を読めば、「女体盛」は1年も前から、中国で話題になっていて、そういう助平な中国人男性がいるから、和風レストランと称する店でそうしたサービスをやろうとしたのだということがわかる。「日本」に対するでたらめなステレオタイプが、インターネットによって、広められた結果であることもわかる。このあたりをきちんと書き込んでいただかないと、問題の本質が伝わらず、また日中間の感情的な反発だけを高める結果に終わってしまう。
 ちなみにGoogleで、今回「女体盛宴」を検索すると、2万を超える項目が引っかかってくる。すさまじい反響である。地元の新聞が取り上げた、昆明での小さなニュースがインターネットを通してあっという間に全国に広がる。情報が正しいかどうか、例えばこの和風レストランが本当に日本人の経営によるものかどうか、不明なまま、全国に広まってしまうのである。
 もう一点、これらのサイトに貼りつけられた写真を見ていると、実際の「女体盛宴」は"本場"の日本ではなく、アメリカやイギリスで開かれているようだ。男性の願いは万国共通なのか。そして、インターネットを見る限り、日本では、成人映画に登場するくらいで、実際にこれをやっているレストランや旅館にはなかなかヒットしない。きっとプライベートなところで開かれているのだろう。だが、その文化が中国のインターネットでは、日本の「飲食文化」として日常茶飯のように開かれているかのように報じられてしまう。日本の新聞も単なる雑報扱いの記事ではなく、そうした中国のメディアにおいて作られる日本イメージの問題点として報じてもらいたいものである。

 資料1、四川在線の記事は
http://www.ynjstravel.com/xwdt/xwdt/2003/2003-05/2003-05-10/1052550321_4/

 資料2、共同通信の記事
中国で「女体盛」に反発
 日本懐石料理店がサービス中止
 【北京7日共同】中国雲南省昆明市の日本懐石料理店が、裸の女性の身体にすしや刺し身を乗せて食べる「女体盛り」を客に提供、市民の間で「女性に対する差別」などと反発が広がり、地元衛生当局の指示でサービス中止となった。中国各紙が7日までに伝えた。 同店によると、経営者は日本人で現在一時帰国中。中国紙は「女体盛」を「古代大和民族の極端な男性中心主義の産物」と紹介しており、対日批判が広がりかねないと懸念の声も出ている。 料理は「美女人体盛宴」と呼ばれ、今月2日に登場。女子大生2人の体にすしなどを乗せて客に提供した。 店側は、客の反応を見て正式なメニューとするかどうか決めるとしていたが、マスコミ報道を受け衛生当局が5日、サービス中止を指示した。店側は「日本と違い全裸にはなっていない」と釈明していた。

資料3、東方新聞日本語サイト
http://jp.eastday.com/node2/node3/node17/userobject1ai8463.html

 資料4、読売新聞記事
中国の日本料理店で「女体盛」...衛生庁が停止命令
http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20040406i515.htm

>>> 読者からの発言 >>>   高井教授の「女体盛」に異論あり


                                                  
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