第03号 2004.7.29発行 by 高井 潔司
   

機関紙のスタンド売りの狙いと成果は?

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中国では今年4月から、「人民日報」「光明日報」「経済日報」など党、政府機関紙のスタンド売りが始まった。いわばこの「武家の商法」は内外で様々な論議を生んでいる。その狙いや成果を探ってみると、中国の新聞の置かれている問題が浮かび上がってくるだろう。
 中国の都市部では、街頭の新聞スタンドが90年代から急速に拡大していったが、そこでの主役は各都市で発行される「都市報」や「晩報(夕刊紙)」、翻訳ダイジェスト紙、スポーツ新聞である。こうした新聞は「小報」と分類される。「商業紙」と翻訳できようか。これに対して「大報(機関紙)」は、指導者の動向や党、政府の政策、方針を宣伝することを主な任務としているため、大衆の受けも悪く、スタンド売りされることもなかった。
 4月からのスタンド売りはあまりにも唐突な出来事で、その狙いは必ずしもはっきりしない。ただ、7月あたりから、数ヶ月の実績を踏まえ、様々な議論が出てきており、この論議を紹介しながら、その狙いを考えてみることにする。
 まず販売の状況について触れておくと、中国側の公式的な報道では「
州:5报进报 售者高人民群

(5種類の党機関紙が新聞スタンドに進出し、販売店主は人民大衆の歓迎を喜ぶ――鄭州発)といった提灯記事も目立つ。実際は、7月9日付けの読売新聞(佐伯特派員電)が伝える以下の記事が真相のようだ。

 経済日報の鄭波・発行部主任は「売れ行きはまずまず。毎月良くなっている」と言うが、北京市内のスタンドで尋ねると、三十歳代の店主が面倒くさそうに、「この前、一部だけ売れたよ」と、数日前の売れ残った「人民日報」を奥の方から出してきた。

 また中国に好意的な報道で知られるシンガポールの「連合早報」も、7月18日付け「大報のスタンド売りは形式主義?」(迂沢遠特派員電)という見出しで、「小報の10分の1も売れていない」という店主の話を紹介しながら、「指導者たちは、目先のある種の反響だけを考え、スタンド売りのその後の困難を真剣に検討していない」との大報幹部の声を伝えている。
 さて、その狙いについてだが、スタンド売りの開始当初、明確な説明はなかった。最近になって、新華社電で、「
党报走进报亭后怎么办 中央重点党报负责人答问(党機関紙は新聞スタンド進出後どうすべきか、中央の重点新聞の責任者が問いに答える)」(7月1日)
http://news.xinhuanet.com/newmedia/2004-07/01/content_1562029.htm 
というインタビュー記事が掲載された。
 そこでは、人民日報の副総編集長が「大衆の購入を便利にし、党機関紙の知名度を上げ、党機関紙の大衆に対する社会的影響力を拡大する」「指導性、権威性、知識性、可読性を結合して、党の意思と人民の心からの声を統一し、『人民日報』が党を満足させ、大衆を歓喜し、業界から慕われる新聞にしたい」などとその狙いを説明している。
 しかし、結果からいって、とても成功しているとは言い難い。「連合早報」から「形式主義」などと揶揄されるわけだ。
 問題は新聞の内容だろう。以下に大衆が興味を持つ問題に踏み込んで報道していくかにかかっている。残念ながら、副総編集長の談話からも、大衆や市場のニーズに対応して、紙面を刷新していこうといった姿勢はほとんど感じられない。
 こうした鈍い当事者たちの言動に対して、良心的な知識人たちからより一層の報道改革を求める声が出ている。「新華網」の「言論周刊」7月16日付け「中国メディアの生き延びる道は改革にある」
http://news.xinhuanet.com/comments/2004-07/16/content_1602657.htm
という元新華社記者(許博淵氏)の投書を掲載している。
 許氏はスタンド売りを歓迎しながら、機関紙の改革こそが重要であり、それには観点とテクニックの2点が大切だと指摘している。観点の問題とは大衆に対して、新聞社が指導するような立場ではなく、平等に立場に立つべきだ。新聞は読者あっての新聞であり、スタンド売りは、新聞社にとって、本当に読まれる内容かどうかの、試練なのだと説く。そしていかに大衆に読んでもらうかというテクニックこそ大事で、従来のような報道すべきかどうかといった発想をやめるべきだと述べている。許氏は、前段で、昨今の腐敗摘発の動きを賛美しているところから、もっと大衆に立場にたって、問題を告発するような記事を大胆に書くべきというのが許氏の主張と見える。翻訳は日中コミュニケーション研究会のHPに掲載しているので参照してもらいたい。
http://moli.cims.hokudai.ac.jp/jcc/index.php?FrontPage
 この議論は新華社のサイト「新華網」に掲載されたが、中国の他のサイトに数多く転載されており、反響の大きさがうかがわれる。
 筆者のように、外部から中国の新聞界をウォッチしている者から見ると、中国の新聞界は党の宣伝を専らとする「大報」とセンセーショナルな内容で部数増に邁進する「小報」に分裂しており、健全な世論の形成に導く「高級紙」の創設が大きな課題になっていると思われる。それは中国のグローバル化、責任大国化の中で、不可欠である。当事者がどこまで意識しているかは不明だが、機関紙のスタンド売りもその一環ではないのか。
 しかし、残念ながら新聞の内容がそれに伴っていない。それは結局、根本的な報道改革つまり「報道の自由」や「知る権利」について着手していないことに起因している。スタンド売りといった小手先のやり方で、課題が解決されるとは思えない。





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