第05号 2004.9.28発行 by 高井 潔司
    疑問だらけの江沢民辞任
−−本当に胡錦濤政権のスタートと言えるのか
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 中国共産党の第16期第4回中央委員会総会(4中総会)で江沢民中央軍事委員会主席が辞任した。その後釜に胡錦濤同委副主席が就任し、胡氏が党総書記、国家主席、軍事委主席と、党、国家、軍のトップに立ったことで、ようやく胡錦濤時代が到来したと評価されている。


バトンタッチする胡錦濤と江沢民
(於)中共第16期4中総会

 留任説に傾いた日本のマスコミ

 それにしても、4中総会での江氏の辞任は、日本の新聞を読んでいる限り、晴天の霹靂だった。9月初旬、米ニューヨーク・タイムズが「江氏、辞意を表明」と伝え、てっきり4中総会で江氏の去就が最大の焦点になるのかと思っていたら、数日後朝日新聞が北京特派員電で、「江沢民氏、夏に辞意伝達、胡氏が『議論せず』」と伝え、「江氏の辞任問題は議論しないと決めたことがわかった」と打ち消したので、その後、江氏の辞任問題は日本の新聞の関心事でなくなってしまった。どうせ居座りだろう、留任ならニュースでも何でもないという意識が働いたのだろうか。わずかに、反中国なのに中国報道を売り物にしている、私にいわせれば奇妙な新聞の「産経新聞」のみが、都合3回にわたって留任説を報じた。見出しに「留任」の文字が躍ったが、「留任の方向」、「留任か」と、逃げも打っているので、責任問題にはならないだろう。


 なぜ日本のマスコミは反応が鈍かったのか――第1の疑問

 それはともかく、総会の最終日の前日18日になって、香港のサウスチャイナ・モーニング・ポストが、江氏の辞任と胡氏の就任との見通しを伝えた。しかし、この情報も共同や日経は転電しているが、各紙とも反応が鈍かった。閉幕当日の19日、中日新聞が江氏の辞任の見通しを伝えたものの、発表は来春かという今ひとつすっきりしない情報を伝えた。
 以上のように、なぜこのように日本のマスコミの反応が鈍いのかが、疑問の一つ。実際、辞任が発表されるや、一面トップに据えて、胡錦濤政権の船出について様々な特集を組むわけだから、もっとこの間の舞台裏の動きについてフォローしてもらいたいものだ。反日の悪玉、江沢民氏が去って、日中関係の好転を期待すると社説に書いた新聞もある位、胡錦濤政権への関心が強いのだから。

 
 本当に完全引退なのか――第2の疑問
 それに舞台裏をきちんと取材してもらわないと、これから指摘するような疑問にも答えが出てこないことになるからだ。
 2番目の疑問は、このバトンタッチによって、本当に胡錦濤時代の到来、本格的な「胡錦濤―温家宝」政権のスタートいえるかという点だ。公式には、江沢民氏が胡錦濤氏に「合格点」を与えたことになっているが、どのようなプロセスでこの交代劇が仕組まれたのか、さっぱりわからない。産経が伝えるような党内抗争があったのか。
 留任説は誤りでも、産経の党内抗争説は正しいのかもしれない。なぜなら、18日に辞任情報を特報したサウスチャイナ・モーニング・ポストは、辞任しても、江氏は影響力を保持するとも伝えている。もし影響力を保持するなら、まだ完全引退とはいえない。ケ小平氏も軍事委主席を辞任した(89年11月)が、指導権は依然保持し、南巡講話(92年)で、中国の改革を加速させた。本当に完全引退したのは、94年の第14期4中総会で、第2世代から第3世代の政権の移譲を宣言した時である。それまでは、天安門事件の最中、趙紫陽氏(当時党総書記)が暴露したように最終的な指導権はケ小平氏が握っていたのだ。秘密決議があった。サウスチャイナ・モーニング・ポストがいう影響力を保持するというのはどこまでの影響力なのか。何らのか決議があるのか。しっかりとフォローしてもらいたいところだ。


 なぜ助手は逮捕されたのか――第3の疑問
 さらに疑問というか衝撃的なことは、24日になって、最初に辞意表明の特ダネを報じたニューヨーク・タイムズの中国人助手が、国家機密漏洩罪で逮捕されたとの情報が伝えられた点だ。ニューヨーク・タイムズは、拘束の事実は認めながら、罪名については不明であり、この助手の情報でもないとしている。だが、助手はかつて「改革」という雑誌の記者をしていたというから、相当の情報通であったのだろう。それにしても、本当に国家機密漏洩罪で逮捕されたのだとしたら、胡政権の性格に疑問が出てくる。清新かつ開明的な政権と期待される胡政権が、なぜ助手の逮捕に踏み切ったのか。同じように辞任説を書いても逮捕される記者とされない記者がいる。それはなぜか。本当に取材をして、内部情報を取っている記者が逮捕されるのである。観測記事では逮捕されないのではないか。
 香港の「亜州時報」は25日なって、江氏の辞任はすでに7月の時点で決まっていて、今回の人事について、中国の高官は、「人事の保密工作は成功した」と自画自賛しているという。これでは江沢民時代と変わりがないではないか。
 それにしても、幾つかの報道を読み、その内容を比較、吟味しただけでも、これだけの疑問が出てくる。これらの疑問に答えるには、相当タフでスリリングな取材が必要になる。だが、舞台裏を取材しようという執拗さがなかったら、深層は何も見えてこない。目下、北京特派員たちは、六か国協議や難民問題、拉致問題などに追われ、中国の政局取材に手がまわらないのかもしれない。同情の余地は十分あるが、ぜひ真相に迫る取材を期待したい。



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