第10号 2005.4.4発行 by 高井 潔司
    党の統治能力が問われる「反日」報道の氾濫 <目次>へ戻る
 メディアを党が管理するとの「党管媒体」の基本方針を盛り込んだ「党の統治能力強化の建設に関する決定」が、昨年秋の第16党中央委員会第4回総会で採択されたことの意味について、前号で論じた。だが、ここ1−2か月、中国のメディアに現われた「反日」報道や「反日」言論の氾濫は、「党管媒体」の基本方針を貫けない中国当局の統治能力のレベルの低さを露呈しているようだ。

商都網http://news.shangdu.com/16/2005-03-29/20050329-772546-16.shtmlより
 
 とくに、インターネット上で繰り広げられる日本の国連安保理常任理事国入りの反対署名は、中国の外交当局への圧力行使を明確に意図している。これに対して、中国外務省スポークスマンは事実上、容認のコメントを出した。批判の刃が日本だけでなく、自身にも向かっていることを理解していない。またネット論壇にコメンテーターとして参加した中国の日本研究者も、理性的な論調を促すどころか、暴走する「世論」に媚びる発言に終始し、知識人としての責任感を果たせないでいる。日本側は、「日貨排斥」といった中国の過激な議論をまともに受け止め、反応する必要はないが、こうした議論の背景をしっかりと分析し、これ以上の拡大を抑える方策を考えておく必要があろう。


 中国メディアにおける対日報道がおかしくなりはじめたのは、2月下旬、ワシントンで開かれた日米の外交・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、「台湾海峡問題の平和的解決を促す」とした共同発表文がだされたころからだ。人民日報傘下の国際問題紙『環球時報』などが、「日本、公然と台湾海峡に手を伸ばす」との見出しで、日米の海上連合演習の写真を掲げ、東シナ海のガス油田開発問題、尖閣諸島の領有問題、さらに台湾の日本新幹線導入など日中間の摩擦の数々を紹介し、「日本はアメリカの支持の下、台湾独立支持の顔をあらわにした」と非難した。そして、3月下旬、アナン国連事務総長が国連安保理の改革に関する報告書をまとめ、日本の常任理事国入りを支持するかの発言を行い、日本の常任理事国入りがにわかに現実味を帯びるようになって、「反日」報道、言論は最高潮に達する。「新浪網」など中国の三大ネット上で展開された日本の常任理事国入りに対する反対署名が1000万人を突破したという。

 それに並行して、小さな出来事をことさら大きく取り上げ、真意を疑いたくなる報道も目立っている。例えば、「新しい歴史教科書」をめぐって、朝日ビールなどが教科書の編集委員会に賛助金を出しているという報道(http://news.xinhuanet.com/herald/2005-03/28/content_2752320.htm
は、その根拠が何も示されないまま一人歩きし、さらに日貨排斥のキャンペーンへと発展し、本論を執筆中に、成都のイトーヨーカ堂出資のスーパーが市民によって襲われる事件が発生したとのニュースも伝わってきた。

http://bbs.gw.com.cn/dispbbs.asp?BoardID=10&ID=304333&page=1より

 こうした事件の問題点は、メディアが煽り、政府が容認し、知識人が追従し、お墨付きを与えるという中国のこれまでの政治運動が辿った道を繰り返している点にある。
 例えば、香港の中国系紙の『大公報』は、「中国外交は政策決定にあたって民意を重視する。全世界の華人は大いに日本の国連安保理常任理事国入りに反対署名をしよう」と署名のコーナーを掲げた。記事の中には、「反対署名運動を反日感情とは見なしていない」との中国外務省スポークスマンのコメントを掲げ、さらに「新世代の指導者は民衆のための外交、民衆に責任を負う外交を強調している。民衆の日本に反対する感情は外交政策の決定にあたって必ず考慮される要素だ」との中国外交学院の曲星・副院長の発言を紹介し、反対署名を煽る報道を展開している(http://www.takungpao.com/news/2005-3-29/MW-382089.htm)。

 また人民日報サイトの「強国論壇」では、中国社会科学院の金熙徳研究員が登場し、「網民」(ネット利用者)からの質問に答え、「侵略の歴史を否定し、中国人の感情を傷つける日本の常任理事国入りに反対署名するのは正当な権利だ」と、いつもながら「反日」にお墨付きを与える回答を繰り返している(http://live.people.com.cn/bbs/index.php?id=17050323190537)。

 中国ではいったん感情的な暴論が一人歩きし始めると、なかなか収まらない。今回の問題点は、外務省スポークスマンまで容認発言を行い、メディアを増長させてしまったことだ。
 筆者が前回も指摘したように、中国メディアの商業化が進み、中国当局にとってもその弊害が見え始めている。その結果、党がメディアを管理するという原則が再確認された。ところが、今回の一連の動きは逆の現象が起きている。メディアが当局に影響を及ぼすという点は、一見「民主的」に映る。しかし、今回の動きは、「反日」という限られた領域の出来事であり、しかも、「報道の自由」が保証され、日本に関して十分な情報が与えられた中での「世論」「民意」であれば問題はないが、「中国人が1日日本製品を買わなければ、一千以上の日本企業が破産する。6か月買わなければ半数の日本人は失業する。一年買わなければ、日本経済は破綻する。このメイルを友人に転送し、武器を使わない戦争をしましょう」といった、とてもお話にならない議論がネット論壇の書き込みやメーリングリストによって蔓延し、その上で成り立っている「民意」であり、反対署名運動や日貨排斥運動である。

 党が昨年秋の4中総会で採択した決定のメディアの項をもう一度、紹介してみてよう。
 「しっかりと世論の方向性を掌握し、正しく社会世論を導くこと。党がメディアを管理するという原則を堅持し、世論を率いる能力を強化し、世論工作の主導権を握らねばならない。団結、安定、激励の姿勢を堅持し、プラス面(正面)の宣伝を主とし、ニュースメディアの政治意識、大局意識、社会的責任感の強化を指導し、さらに新聞や出版、ラジオ、テレビの宣伝を改善し、党の主張と人民の声の統一を体現し、その吸引力と影響力を高めよう。社会のホットな問題に対する指導を重視し、積極的に世論監督を展開し、ニュースの発表制度と重大突発事件についての速報体制のメカニズムを整備しなければない。インターネットなど新しいメディアの社会世論に対する影響力を高度に重視し、法律・規範の制定、行政監督、業界の自主規制、技術保障などを組み合わせた管理体制の設置を早め、インターネット宣伝の隊列建設を強化し、ネット上の強力なプラス(正面)世論の陣営を形成していこう。」
 一連の「反日報道」がまさか党の指導で進められているわけではあるまい。どう見ても、結局、党がメディアを管理できていないことの現われであろう。  

 溢れんばかりの「反日報道」の中で、一番笑ってしまったのは、国営新華社のネットに掲載された以下の記事である。
 「日本が第2次世界大戦で沈没の戦艦「大和」を複製」
  http://news.xinhuanet.com/mil/2005-03/29/content_2757715.htm
 この記事は、もともと産経新聞に掲載された記事を紹介したものだ。産経記事もこれまた一面トップという大げさな扱いらしいが、「大和」は単に映画撮影用に模型が復元されたのである。それを、まるで「大和」が復元されたかのように、写真や設計図をあしらい、日本軍国主義の亡霊の復活を警戒しようと呼びかける記事となっているのである。曰く「抗日戦争60戦争のこの時期に、日本が新たに“帝国精神”のシンボルである戦艦「大和」を建造したことは、口先の動機がどうであれ、われわれは必ず高度に日本軍国主義の防衛が復活するのを警戒しなければならない!」。

 採用率がまだ1%に達していない民間発行の「新しい歴史教科書」をまるで国定教科書のように批判し、そこから日本製品の不買運動に発展した問題と同様に、こうした日中摩擦は、日本の右翼的論調と中国の反日論調の「合作」だといえよう。両国の一部の心無い報道が「日中摩擦」を引き起こしているともいえよう。マスメディアの威力は実に恐ろしい。
  
上へ


       
<目次>へ戻る