第18号 2013.05.28発行 by 高井 潔司
    折衝や交渉、議論下手に陥っている日本政治
<目次>へ戻る
 事前報道された国会同意人事案は、その審議さえ拒否するとの民主党の姿勢は全くあきれた。それは、報道のあり方をめぐる問題でもあるが、それ以上に政治のあり方をめぐる問題でもある。与党自民党やマスコミ、世論の批判を受けて最終的に撤回したものの、この姿勢は民主党に限らず、実は批判する側の安倍政権にも共通する日本の政治のレベルを反映する深刻な問題ではないだろうか。
 民主党の姿勢の根拠は、おそらく多くの人事案が政府からリークされ、報道が先行すると、その人事案が既成事実化してしまうことを恐れているのであろう。しかし、報道された人事案が既成事実化するかどうかは、実は野党の側の審議力にかかっているのではないだろうか。
 国会の同意人事になっているのは決して、人事案が国会で形式的に、自動的に同意されるというわけでなく、その人事が適切かどうかを、国会で審議するということであろう。
 とすれば、報道されたら、もうそれは既成事実化というのは、自らの審議権限を放棄することを意味する、むしろそれの方が国会軽視であろう。事前報道の情報を基に、審議前に情報を収集し、人事が適切かどうか、国会で大いに論議すればいいことだ。事前報道はむしろ審議を活性化するはずだ。
 民主党は審議拒否のルール化を取り下げたものの、引き続き、人事案の取材源は調査し、その情報漏れの責任は追及するとの姿勢を崩していない。これなどは、報道の自由に対する挑戦と言ってもいいだろう。この政党が長年、何でも反対の、抵抗野党の立場を取ってきた社会党の流れをいまだに汲んでいることの反映であり、一度は政権の座についた経験のある政党とも思えない頑なな姿勢である。議論や説得によって物事は決定されたり、変更されるという習慣がないのだろう。物事は数で押し切るものと考えている。選挙さえあれば、国会など形式という考えだ。
 長年こうした抵抗、審議拒否、その裏返しとしての強硬採決の政治がまかり通ってきた結果、与野党ともに折衝や交渉、議論下手に陥っているのが現状ではないだろうか。
 議論を通じて、相手を説得するという力が著しく低下している。それが外交などにも現れて、国益を損なう状況にもなっているように思える。
 例えば、最近の安倍首相のアメリカ訪問などがその典型であろう。中国外務省が貶めるほどひどい冷遇とは思えないが、しかし、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉入りをめぐって、聖域なき市場開放ではなく、「あらかじめすべての関税撤廃を約束しない」との妥協をアメリカから引きだしたことが成果だと主張するのはいかがなものか。
 日本のマスコミは、政府のそうした触れ込みをすっかり受け入れて、ほとんど政府のスポークスマン役を務めているが、そもそもTPP交渉は最初から聖域なき市場開放だという前提がおかしい。もし完全な市場開放だとしたら、交渉など意味がない。交渉というからには、聖域という言葉は適切ではないにしても当然、関税や障壁を多少は認めることを前提にしている。したがって、聖域なき市場開放ではないということを認めさせたといっても何の成果でもないことになる。
 成果というなら、交渉を通じて、日本にとって有利な条件を勝ち取った時にこそいってもらいたいセリフである。そもそも、交渉に入るなら、どのような条件で交渉に入るのかをまず国民に説明する必要があるだろう。この点に言及せず、交渉の入り口で、交渉の形式ばかり議論している姿は、民主党の事前報道された同意人事の審議をめぐる問題と、その構図はほとんど変わりがない。
 共同声明によって、アメリカから妥協を引き出したというのはまやかしで、これまで選挙公約で交渉参加に反対してきたことを覆して交渉入りするための口実に使っているだけなのだ。その妥協と引き換えに、交渉に入る前からアメリカに、「車は例外」という言質を与えている。
 それどころか共同声明では、普天間基地の移転問題でも地元沖縄の意向を無視して従来の方針の踏襲を約束している。たかが交渉入りの問題に過ぎないTPPより、こちらの方がもっと注目すべき問題なのに、日本のマスコミはすっかり騙されている。どこにも交渉力を発揮した跡がなく、いずれも自民党内や国内の慎重な声を抑えるための、パーフォーマンスに過ぎないと言えよう。
 折衝は役人任せ、交渉に入れば、相手の言いなりで、国内向け、マスコミ向けに、パーフォーマンスだけの成果を強調する。こうした手法は、おそらく広告代理店出身の広報マンが演出しているに違いない。その罠にすっぽりはまっているマスコミは困ったものである。
 対中政策においても、アメリカが尖閣問題をめぐって日米安保の適用範囲と表明したことに安心するのではなく、実際の当事国、中国との交渉をどう進め、緊張状態を取り除くのかが、根本問題であるのに、その手前のところで一喜一憂している。行き着くとことまで行ってアメリカの支援を待つつもりなのだろうか。極めて危険なゲームである。
 いずれの問題も外から眺めれば、われわれ日本人の交渉力、議論力、説得力の弱さを露呈している。内向きの、お仲間だけに通じる議論をしている極めてお淋しい現状を照らして出している。
 2月24日付読売新聞2面の解説記事の末尾に「維新の橋下徹共同代表は23日の読売テレビの番組で、首相の成果を皮肉まじりこう評価した。『日米会談での成果というよりも党内向け。党内手続きを着実に進めるために一歩一歩進めた。ものすごい政治的な手腕がある』」とあった。まことに、尻切れトンボの記事である。橋下氏の真意をしっかり解説すべきだろう。
(オンラインジャーナル「ライフビジョン」からの転載) 
上へ

       
  <目次>へ戻る