第00号 2004.3.31発行 by 高井 潔司
   

台湾総統選挙結果

最も的確に論評したのは日経社説
  
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 3月20日に実施された台湾総統選挙で、3万票という僅差で、現職の陳水扁氏が再選を果たした。陳氏が前日、銃撃を受け、緊張の中での選挙だっただけに、日本の各社も選挙を受け、そろって社説を掲載した。
 社説の見出しは、従来、台湾寄りと見られてきた産経が「信任された台湾の路線」と主見出しを掲げながらも、脇見出しで「中台ともに現実的対応を」とし、読売も「中国と台湾は対話再開をめざせ」として、中立的な装いを表に出した。これに対し、毎日は「中国は台湾の民意くみ取れ」と中国側に警告、朝日も「台湾は動いている」と、やはり台湾の動きを前向きに評価し、結論部分で「台湾を引き寄せたいなら、その民意をくみ取ることだ」と指摘し、毎日の見出しと同じ論調になっている。
 東京新聞はこれとは正反対で「陳総統再選 中国との対話をさぐれ」と、台湾側に注文を付けた。
 日経だけは「混迷深まる総統選挙後の台湾」と全く異なった見出しを掲げている。
 中国は前々回、前回選挙で、台湾近海でミサイル演習を実施するなどの過剰反応を示し、それがかえって台湾側の反発を招き、中国にとってより望ましくない結果につながった。そこで、今回は静観を保ってきた。その点でいえば、選挙の結果を受けて中国に“説教”するのはいかがなものか。
 選挙結果は僅差。陳総統が再選を果たしたとはいえ、陳総統が提案した住民投票は投票数が過半数に達せず無効になるなど、産経がいうほど「信任された台湾の路線」ではない。ましてや、毎日は一般記事の中で、「民意二分の傷は深く」と書いている。毎日や朝日のいう「くみ取れ」という台湾の民意とは一体何なのか、説明してもらいたい。
 毎日の論説委員を弁護しておくと、見出しとは違って、本文では「中国との交流拡大を主張する野党連合が訴えた投票ボイコットが成功した。有権者の過半数の投票を得られず、住民投票は不成立に終わった」「台湾の民意は、中国との緊張関係を望まず、住民投票の不成立という回答を出した。総統が改憲を意図しても、世論が二分した状態では住民投票そのものができないことが明らかになった」とも述べている。「陳総統は民意くみ取れ」との見出しを付けてもいいほどの内容だ。それにしても、いずれの社説は、どうも中国を批判しておけばよいという安直な姿勢が見える。
 この点で言えば、今回の選挙を最も的確に表現しているのは、日経社説だろう。同社説は「ともあれ中華圏で初めて民主政治を確立した台湾が、テロや選挙開票のトラブルに負けてはならない」と、問題点をきちんと指摘した上で、「捜査当局は犯人の早期逮捕と真相究明に全力をあげてほしい。開票結果に疑問があれば、冷静に双方の納得のいく解決の道を探してほしい」と主張している。選挙後、テロ事件と開票疑惑で台湾が騒然としているのだから、この問題への取り組みこそが議題にされるべきだろう。
 台湾で民主的な選挙が実施され、そこで表明された民意を、中国は尊重すべきだなどというきれいごとを言っている場合ではない。なぜなら日経社説がいうように「まれに見る激戦となった今選挙では、与野党が対立候補の欠点をあげつらうネガティブ・キャンペーンが横行し、後味の悪い選挙だった」「野党連合は選挙民の支持率調査で民進党をしのいでいたとみているだけに、投票日前日のテロで陳総統に同情票が集まったことが敗因と受け止めている。テロの真相究明を強く求める理由がここにある」「議会で議員の乱闘事件が頻発するにぎやかな民主政治であるが、選挙で要人がテロにあったことはない」「総統選がこれほどの接戦となり、負けた側が選挙の無効を訴える事態も初めてだ」からである。どうも社説を書く論説委員たちは“ニュース”の取り扱いがお上手でないようだ。
 そもそも台湾の民主政治の実態はいかほどのものか。もちろん大陸の独裁政治に比べ、民主化が進んでいることは疑いないが、長年の蒋介石父子による独裁政権の後遺症で、国民党と民進党の感情的な対立は激しく、民主主義は常に機能不全に陥っている。筆者(高井)は、2年前に出版した『中国報道の読み方』(岩波アクティブ新書)の中で、台湾政治の当時の状況を「混乱生む『未熟な民主化』」と評した。大陸との比較ではなく、台湾の政治を冷静に分析すれば、今日のような混乱は容易に予測できる。しかし、台湾問題を、大陸との関係でしか見ていない記者たちの台湾分析では、見えるものも見えなくしてしまう。
 とくに今回の選挙で、問題にされるべきは、陳総統が提唱した住民投票である。読売社説は、住民投票について「中国の台湾向けミサイルに対抗する防衛力増強の是非を住民に問うもので、中国を刺激し、強硬姿勢を引き出すことで台湾住民の台湾人意識を高揚させ、再選につなげる作戦だった」と分析している。この分析は大方の認めるところであろう。もしそうだとすると、再選のために、緊張状況を作り出す危険な挑発行為といえよう。だからこそ、日本やアメリカが陳政権の住民投票実施に懸念を表明したのである。
 台湾海峡の経済の一体化が進行する中で、危機を煽るのではなく、共通した利益を求めて、どう安定した関係を作っていくかが、両岸だけでなく、この地域を取り巻く国々の課題になっている。

 
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