中国を読み解く本・毀誉褒貶
[3] 2004.7.30
(中村公省/21世紀中国総研事務局長)
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「無断引用」???

再論 中国市場での販売課題と市場戦略

日本機械輸出組合発行

A5判189ページ  2004年4月刊行

 前回の本欄で、本書の一部が黄磷編著『WTO加盟後の中国市場』(蒼蒼社刊)の一部を盗用している事実を指摘した。本書の著作権者である日本機械輸出組合に抗議を申しこんだ結果、詫び状が届いた。その全容は、係争中であるから、公開を控えるが、日本機械輸出組合は、そのホームページで以下のような関係文書(資料1)を公開しているので、ここに転載させてもらう。
 筆者は、この詫び状のキーワード「無断引用」を見て吃驚仰天した。
 「無断引用」なんて珍妙な言葉が、この世にあるものか!!!
 昔懐かしいことながら、雑誌・単行本の奥付には「禁無断転載」と記載されていたもので、現在も中国や香港の書物に見かけることがある。しかし、これは著作権法が無かった時代の遺風であり、日本著作権法や万国著作権法の下では法的に何の意味もない。誰のどんな著作物でも、創作したとたんに著作権は発生し、「禁無断転載」となるものである。
 法的にはナンセンスだが、しかしながら、「禁無断転載」という言葉は厳然と存在する。 公開詫び状のキーワード「無断引用」は、おそらくは「禁無断転載」の「無断転載」からの造語であろうが、なかなか傑作だと思わずにはおれない。
 ここで、読者諸氏にお伺いしてみたい。「無断引用」という言葉は、どこがおかしいのでしょうか?
 ヒント:「丸くて三角」と言うようなものです。
 推測であるが、おそらく10名中8人までは、正解を答えられないのでは、なかろうか。
 何しろ、これは恥をしのんで敢えて公開した文書であるから、直接の責任者である日本機械輸出組合宮原賢次理事長、同アジア市場・機械産業対策懇談会貴田捷雄座長、株式会社UFJ総合研究所前田昌宏代表取締役が決済し、複数の事務当局者がチェックしたであろうが、だれも疑念を挟んでいないのが情けない。
 ありそうでなさそうな言葉―――「無断引用」。
 正解は、以下の(資料2)を、ご覧下さい。
 
 [追記1]
    日本機械輸出組合のホームページには、その後訂正があった。(資料3)
    話せばわかる。「馬鹿の壁」は越えられた。
 [追記2]
    金田一京助等編『新明解 国語辞典 第四版』(三省堂、1994年12月1日刊)で「盗用」を引くと「所有者・(発明者)に
    断らず、黙って使うこと」と語釈されている。また、「盗作」を引くと、「他人の文書・デザインなどを、断り無しに自分の創作
    に見せかけて使うこと、また、使ったもの。剽窃」と語釈されている。

  (資料1)日本機械輸出組合のホームページ掲載文書

平成16 年7 月14 日
 「中国市場での販売課題と市場戦略」(2004 年4 月発行)の販売・配布の中止と回収の
お願いについて
 本報告書につきましては、黄磷神戸大学大学院教授の編著「WTO 加盟後の中国市場」
(2000 年10 月(株)蒼蒼社発行)からの無断引用がされているとの指摘を受け、調査したと
ころ、遺憾ながら、同書のP.108 及びP.144~P.161 の一部が本報告書の第2 章「中国
流通・物流の概要」のP.93~P.96 の一部に無断引用された事実があると認められました。
 本報告書は、調査委託先である㈱UFJ 総合研究所の調査報告をとりまとめたもので
ありますが、問題箇所については、同社が外部の執筆者に依頼した部分であり、当該執
筆者が無断引用を行ったものと判断されます。当組合としては、このような事態が生じたこ
とにつき、同社に厳重な抗議を行ったところでありますが、上記の事態に鑑み、出版元
として、黄教授及び㈱蒼蒼社の本著作物にかかる著作権侵害があったことについてお詫
び申し上げます。
 現在、同報告書の新規販売、配布を中止するとともに、既に配布及び販売した報告書
については、それぞれ、回収のお願いをしております。関係各位には大変ご迷惑をおか
けしますが宜しくお願い申し上げます。
 なお、本報告書は、8 月上旬を目途に問題箇所を書き換えて再作成し、既配布・販売
先にお送りするとともに、あらためて販売のご案内をさせていただきます。



  (資料2)日本機械輸出組合森本修専務理宛の株式会社蒼蒼社代表取締役 中村公省の書簡より抜粋(平成16年7月20日付)

 貴信のキーワードである「無断引用」という言葉は、何を意味しているのか不可解です。「無断引用」なる言葉は、果たして日本著作権法の何条何項に依拠しているのかご教示いただきたい。ましてや「無断引用」をすると、何故、著作権侵害になるのか理解不能です。日本著作権法の条文に基づいて縷々ご説明願いたいものでです。
 なお、参考までながら、「引用」についての、われわれの理解を以下に示します。日本著作権法では「第五款 著作権の制限」第三十二条で規定しています。
 「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」
この条項を、解釈した書物からも引用しておきましょう。
 「引用というのは、例えば論文執筆の際、自説を補強するため、他人の論文の一部分をひいてきたりすることなど自分の著作物中に他人の著作物を利用することをいい、この場合、著作権者の許諾なしに著作物を利用することができます。」(著作権法令研究会『実務者のための著作権ハンドブック』社団法人著作権情報センター刊行、2002年11月第5版、193ページ)
 われわれの理解するところでは、著作権者の許諾なしに無断で著作物を利用することができる著作権の制限の一例が、「引用」なのです。第三十二条に基づいて、貴殿は、われわれの許諾なしに『WTO加盟後の中国市場』から引用することは、ご自由です。「無断引用」が著作権侵害になるなどという見解は前代未聞であります。


  (資料3)日本機械輸出組合大阪支部 元岡道孝さんからのメール(部分) 2004年7月31日

 7月14日付の蒼蒼社並びに黄磷先生へのお詫び状において、問題箇所を「無断
引用」したとしておりましたことは、当組合の認識不足であり、7月20日付書信で中村
社長からご指摘ありましたとおり、「盗用」したものです。
 組合ホームページ掲載の「販売・配布中止と回収お願い」については、7月22日に
「無断引用」の語を「盗用」に訂正致しました。ご通知が遅れていましたことをお詫び
致しますとともに、失礼とは存じますが、担当者としてご連絡させていただきます。
 なお、盗用に関する執筆経緯、執筆者など関係者の氏名等につきましては、調査
委託先のUFJ総合研究所に詳細な報告を要求しており、事情等が判明次第、改めて
お詫びと経緯説明をさせていただくべく作業を進めております。
 いましばらくお時間をいただきたく、ご了承のほどお願い申し上げます。


  

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