中国を読み解く本・毀誉褒貶
[4] 2004.9.1
(中村公省/21世紀中国総研事務局長)
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「痴漢は犯罪です」

三論 中国市場での販売課題と市場戦略

日本機械輸出組合発行

A5判189ページ  2004年4月刊行

 「痴漢は犯罪です」
 東京都交通局のこの公告を見て、「そりゃ、そうでしょう」と思ったが、心中なんとなく落ち着かなかった。これが被害者の立場であれば、「あったりまえでしょ」と反応するはずだからである。公告は加害者の心裏にある「甘え」に警告を発している。
 これが、万引きの場合はどうだろう。
 「万引きは犯罪です」
 たかが万引きではなく、されど万引き。万引き倒産さえ生じ、温情は甘えを助長するだけである。業を煮やして最近は脅迫まがいの貼り紙を出している店が少なくない。
 「万引は発見しだい警察に突き出します」
 
著作権侵害を受けて、私がいつもたどり着くのは、この種のコピーである。

 「著作権侵害は犯罪です」

 著作権を侵害されたほうは怒り心頭に発している。
しかし、侵害した方には、罪の意識が希薄なのである。
先年の岩波書店との「引用」をめぐる係争の場合は、無断使用した岩波の編集担当者にも出版部長にも、またその著作の執筆者にも、犯罪者という自覚がまったく見られなかった。産経新聞や共同通信に社会記事として報道されても、その意味がわからないといった破廉恥ぶりであった(詳しい経緯は「蒼蒼」72号「蒼蒼」74号参照)。
 最近、経験したみずほ総研のそっくり企画係争の場合は、専務取締役が遠路はるばる詫びに出向かれたので、水に流したが、詫びの論理は理解不能、担当研究調査員の言い草は倣岸不遜との印象は、いまだにぬぐえない。
 それに比して今回の場合、日本機械輸出組合の反応は、実に潔い。前回槍玉に挙げた日本機械輸出組合のホームページが、次のように訂正されたからでである。

  本報告書〔「中国市場での販売課題と市場戦略」(2004年4月発行)〕につきましては、黄リン神戸大学大学院教授の編著「WTO加盟後の中国市場」(2000年10月(株)蒼蒼社発行)からの盗用がされているとの指摘を受け、調査したところ、遺憾ながら、同書のP.108及びP.144〜P.161の一部が本報告書の第2章「中国流通・物流の概要」のP.93〜P.96の一部に盗用された事実があると認められました。

 当初の「無断引用」という言い草を撤回して、私の指摘どおりに「盗用」であることを認めたのである。個人としてはともかく、組織として犯罪を認めることは、なかなかでき難いことで、大英断であったと拝察する。単に「盗用」を認めただけでなく、全面回収の措置をとったことも立派である。私は、出版社の経営者として思うのだが、いったん流通過程に入って、読者の手に渡ったものを回収するなんてことは、通常できる業ではない。小部数配布とはいえ、それを断固やったことに対して敬意を表したい。
 しかしながら、それでも、加害者の立場と、被害者の立場は異なる。今回の盗用事件で最大の被害者である黄リン先生(神戸大学大学院助教授)の怒りは、なお納まっていない。
 なぜか。
 それは、日本機械輸出組合ホームページの詫び状を仔細に見ると、「盗用された事実があると認められました」とあり、決して「盗用しました」と言っていないことにかかわる。裏を返すと、「盗用」した事実があることは認めるが、日本機械輸出組合は「盗用」していないと暗に主張しているのである。
 『中国市場での販売課題と市場戦略』の「はじめに」には「涯FJ総合研究所に委託して調査を実施致しました」とある。これは、執筆者は涯FJ総合研究所であると署名し、文責は涯FJ総合研究所であると宣言しているに等しい。
 ここから判断すると、「盗用」の実行者は、確かに日本機械輸出組合ではなく、涯FJ総合研究所ということになる。念を入れて確認しておこう。
 執筆時に「盗用」したのは涯FJ総合研究所である。
 日本機械輸出組合は「盗用」したものを出版した。
 ありていに言うと、日本機械輸出組合は、盗品をつかまされたわけである。そして、盗品であると知らずに、複製して、公刊したのである。この公刊責任が日本機械輸出組合にあることは明白であり、それはそれとして責任を追及しなければならないが、ここではひとまず棚上げして、「盗用」実行者がだれかの問題に絞ろう。
 執筆者である涯FJ総合研究所は、自らが犯罪を犯したことを認めているかどうか。これが、問題の核心である。
 涯FJ総合研究所の弁明には曲折があるが、まずは宮崎衛夫常務取締役国際本部長の名義で、私宛に届いた7月7日付「受取証明」付書簡を、以下に全文引用させていただく。(資料1)
 宮崎衛夫常務取締役国際本部長は、涯FJ総合研究所が盗用したことを認めていない。しかも、言っていることが、頓珍漢である。言い分は、二つあるようである。簡潔に、まとめれば以下のようになろう。

 (1)『中国市場での販売課題と市場戦略』は、『WTO加盟後の中国市場』を引用したにもかかわらず、それを明記しなかった。
 要するに、盗用ではなく、「引用」だと強弁する。翻訳すればこうなろう。
 「引用符」がなかっただけではないか。「無断引用」にすぎない。「無断」ではなく、断ればいい。「引用符」をつければ問題は解決する。「引用符」をつけて出し直そう。ドンマイ、ドンマイ。
 〔これは、まるで、捕まった痴漢が、触っただけじゃないか、減るもんじゃなし、と居直っているような、手前勝手さではないか。被害者の心痛を理解しようというココロが欠けているのですヨ。〕
 《ついでながら、「無断引用」という珍妙な言葉の発明者は、ほかならぬ宮崎衛夫常務取締役国際本部長、あなたであることも露呈していますネ。》

 (2)問題の部分は、涯FJ総合研究所で執筆したものではなく、外部に依頼したものであった。涯FJ総合研究所でチェックしたが、引用文献の記述を欠くことに気がつかなかった。
 要するに、著作権侵害の実行行為をしたのは、涯FJ総合研究所ではなく、外部執筆者だと言わんとしているのである。「悪いのは政治家ではなく、秘書である。」「間違ったのは下請けでのせいである。」言い逃れの常套句である。有名作家が盗作した場合もこの種の言い訳をすることは周知のところである。
 悪党に善を説き、破綻銀行に追い銭をするのはむなしい。しかし、道理が廃れば、この世は闇だ。
 カネをもらって書く、書いた中身については責任を持つ、というのが売文商売の仁義であろう。カネはもらった、書いた中身については責任は持たない、なんてのは商道徳にもとり、限りなく詐欺に近い。
 仮に、外部執筆者が幽霊ではなく、実在するとしても、それは涯FJ総合研究所の内部の事情にすぎないではないか。内部で書くべきところを、内部の非力を補うために外部に頼んだというのが実情であろう。「涯FJ総合研究所に委託して調査を実施致しました」とあるからには、受託した涯FJ総合研究所に執筆の全責任はある。
 マスコミでゴーストライターを使う場合の仁義はこうだ。カネははらう。お前の署名はさせない。署名は俺だ。書いた中身については俺が責任を持つ。古来、文章道というものがあって、署名したからには、署名者に文章の全責任が属する。文は人なりともいう。
 『中国市場での販売課題と市場戦略』の執筆者は涯FJ総合研究所であると署名している。宮崎衛夫常務取締役国際本部長、『中国市場での販売課題と市場戦略』にはあなたの名前も、あなたの部下の名前も、あなたが依頼した外部執筆者の名前も挙がっていませんネ。したがって、あなたも、あなたの部下も、あなたが依頼した外部執筆者にも外部に対する法的責任はない。この点は安心していい。盗用の法的責任者は、すべて涯FJ総合研究所元田充隆代表取締役にある。元田充隆代表取締役は犯罪者である。ただし、あなたも、あなたの部下も、あなたが依頼した外部執筆者も、涯FJ総合研究所元田充隆代表取締役から社内で内部責任を取らされる羽目になる。これは覚悟しなくてはならない。こうした世間の道理がわかりませんか、宮崎衛夫常務取締役国際本部長。

 さて、ついつい熱くなって、書評の枠をはみ出したようである。
 宮崎衛夫常務取締役国際本部長の書簡の日付は、7月7日、七夕であり、それ以後、二カ月余を経過して、状況は変化している。最も大きな変化は、7月22日に機械輸出組合のホームページ掲載の「販売・配布中止と回収お願い」が、「無断引用」の語を「盗用」に訂正したことである。これによって、涯FJ総合研究所も、その言い分を変更させざるを得ないことになったが、もはや紙幅を大幅に越えている。今回は、これにておしまい。続きは、次回、第四論をお待ちいただくことにしたい。

(資料1)

  

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