中国を読み解く本・毀誉褒貶
[5] 2004.9.30
(中村公省/21世紀中国総研事務局長)
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「忍法うつせみの術」

四論 中国市場での販売課題と市場戦略

日本機械輸出組合発行

A5判189ページ  2004年4月刊行

 三論をアップした8月30日、日本機械輸出組合から、以下にスキャンして掲げる『中国市場での販売課題と市場戦略』が送られてきた。剽窃本=2004年4月発行の『中国市場での販売課題と市場戦略』の表紙は青色だが、これは赤色に色変わりしている。(資料1)
 表紙に印刷された発行年月は、2004年8月ではなく、剽窃本の2004年4月のままである。書籍データは奥付記載データを以って正式データとするが、その奥付を見ると、両者ともに2004年4月としている。2004年4月発行の青版と2004年8月発行の赤版とは奥付記載データが寸分たがわない。(資料2)
資料1(表紙)

資料2(奥付)

 送付された赤版に添えられた日本機械輸出組合森本修専務理事の挨拶状には、こうある。

「今般、同報告書の第2章を全て書き換えるとともに、出来る限り最新の情報を採り入れた内容のものに差し替えて報告書を再作成しましたので、改めてご送付申し上げます。よろしくご査収ください。」(傍線引用者、資料3)

資料3

 念のために、中身を確認すると、神戸大学大学院・黄磷先生の著作を盗用した問題の青版「第2章 中国流通・物流の概要」が、すっかり書き改められている。章名および節構成はそのままだが、内容はオリジナルなものに差し替えられているのである。ページ数が第2章で3ページ増加し、その他数箇所で記述の変更をしているが、それらは些細なことで大きな変化はない。赤版自体は著作権上なんら問題のないパーフェクト本であると見なせる。

 これより先に日本機械輸出組合は青版の回収を行っている。7月14日付の森本修理事長の書簡「『中国市場での販売課題と市場戦略』のご返却のお願いと差し替えについて」 (資料4)の要旨は以下の3点からなっている。
   @ 第2章の使用はお控えください。
   A 同封返信用封筒にてご返送願いたく、お願い申しあげます。
   B 早急に問題個所を書き換え、報告書を再作成し、送付させていただきます。

資料4

 8月30日に送付された赤版は、以上の回収作業の一環であり、Bの「書き換え−再作成−送付」に相当する。回収作業の完結によって、『中国市場での販売課題と市場戦略』青版(剽窃本・2004年4月発行)は、『中国市場での販売課題と市場戦略』赤版(パーフェクト本・形式上2004年4月発行と表記、実際は2004年8月発行)によって差し替えられたのである。なお、以上の差し替えは、日本機械輸出組合が独断で行ったものであり、われわれ(著者の神戸大大学院・黄磷助教授と蒼蒼社社主・中村公省)の意思に全くかかわりなく行われたものである。

 さて、ところで、この差し替え作業を、果たしてどう見たらいいものか。正直言って、しばし困惑して知恵袋の21世紀中国総研の高橋博研究員に相談してみると、「これぞ、忍法うつせみの術 ! 」だと言う。
 忍法うつせみの術とは、漫画でよく出てくる忍術で、「蝉の抜け殻のように、中身が無くなっている、あるいは変化する術」。「忍具解説」を紐解くと、「己の服に似せた布を、辺りの石や木などに結びつけて、敵をごまかす。見つかって逃げる際に使用して敵の注意をそらして、逃げきることができる」とある。(http://www.acquire.co.jp/tenchu2/index/ningu/ning04.htm)。

 ムム、ム、ム。さては、はかられたのか?

 冗談はさておいて、この場合、日本機械輸出組合の立場に立って、欠陥商品を完全商品に取替えたと見たらどうだろうか。書籍においては、この手の回収策は常にとっているもので、奥付に「乱丁、落丁本をお取替えします」と断っている出版者も少なくない。決定的な校正ミスが生じた場合にも回収―取替えを行うことがある。また、著作権問題を引き起こしたときにも、回収―取替えが行われることが、まま、ある。今回の場合、この、「まま」の事例である。一般読者に対して、「とりかえしをつける」謝罪の形として、恐らく最善の方法であろう。
 敵ながら、天晴れ。
 私は出版社の経営者として、日本機械輸出組合の果敢・迅速な対応に感服する。日本機械輸出組合の「書き換え−再作成−送付」の処置は実に見事で、盆百の出版者がまねの出来る業ではない。

 しかしながら、「はかられたのか? 」という印象がぬぐいきれないのは何故か?

 腐臭は奥付から発している。「はかられた」という印象が漂い出すのは、青版(剽窃本)と赤版(パーフェクト本)の奥付が寸分たがわず、「2004年4月発行」としていることにある。
 これは、明らかに詐術である。常識に従えば、赤版(パーフェクト本)は「2004年8月発行」としなくてはならない。また、赤版(パーフェクト本)には、「再版に際しての端書」の類の断りを付して、青版(剽窃本)との違いを説明するのが筋というものであろう。
 しかし、そうはせず、あえて青版(剽窃本)と赤版(パーフェクト本)の奥付を寸分たがわず「2004年4月発行」としたのはなぜか。
 私の断ずるところ、日本機械輸出組合は、これによって青版を無きものとしたのである。剽窃本の存在を、この世から抹殺したのである。少なくとも、そういう願望を秘めた詐術である。この奥付データは、日本機械輸出組合が熟慮の末に編み出した忍術に違いない。「忍法うつせみの術」という野次馬評も、あながち的外れでないと思うのである。少なくとも、日本機械輸出組合は、「書き換え−再作成−送付」の処置で、画龍点睛を欠いた、と言わねばならない。

 一般読者の立場と著作権の被侵害者の立場は、おのずから異なる。これも常識ながら、一般読者への謝罪処置は、著作権被侵害者の了解の下に行われるべきであるが、今回の場合、日本機械輸出組合は一般読者への謝罪処置を、われわれの意思に全くかかわりなく、独断専行したところにも問題の根が横たわっている。

 本件の問題は、徹頭徹尾、日本著作権法違反の問題であり、われわれは、われわれの著作者人格権、著作権、出版権の三権(資料5)が侵害されたものと判断している。私の解釈によれば、「著作者人格権」は誰であれ著作者が著作したものを他人に無断で使用されないことを保障した基本権である。「著作権」は財産権である。「出版権」は「著作権」に隣接しする財産権である。
 日本機械輸出組合の「書き換え−再作成−送付」の処置は、どんなに甘く見ても、この三権のうち著作権、出版権の侵害に対する事後処理策、すなわち物に対する物による補償を示しているに過ぎない。剽窃本の存在をこの世から抹殺し得たとしても、剽窃したという事実を無きものにすることは出来ない。剽窃したという事実は、剽窃されたもののココロにくっきり傷跡を残している。事実、黄助教授は、この痛みに堪え、日本機械輸出組合及び事実上の執筆者であるUFJ総合研究所の懐柔策を断固としてはねつけているのである。これは、前回、たとえに出した、「痴漢は犯罪です」という事例にあてはめてみれば、おのずから明らになることであろう。触っただけじゃないか、減るもんじゃなし、というような居直りは通用しないのである。

 「忍法うつせみの術」、敗れたり !

 と、なるかどうか、いまいち、私には自信がない。もはや私の任は、ここまでである。事柄は、司法的判断にゆだねるしかない。餅は餅やに任せよう(資料6)。
 わたしは、本件についての代理人の任を降りて、今後は批評に徹する。乞御期待、「五論 中国市場での販売課題と市場戦略」。まだ私には、事実上の執筆者で責任逃れに固執しているUFJ総合研究所をモラルにおいて糾弾する大仕事が残っている。


(資料5)
著作者人格権の侵害1(同一性保持権)
第二十条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
著作者人格権の侵害2(氏名表示権)
第十九条 著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。
2 著作物を利用する者は、その著作者の別段の意思表示がない限り、その著作物につきすでに著作者が表示しているところに従って著作者名を表示することができる。


(出版権の設定)
第七十九条 第二十一条に規定する権利を有する者(以下この章において「複製権者」という。)は、その著作物を文書又は図画として出版することを引き受ける者に対し、出版権を設定することができる。



(資料6)
日本機械輸出組合 専務理事 森本 修殿

前略 平成16年8月16日付の貴信に対して、ここに返事申し上げます。
 貴信および株式会社UFJ総合研究所の宮崎衛夫常務取締役の平成16年8月16日付書簡を、黄リン先生と検討した結果、本件についての日本機械輸出組合及び株式会社UFJ総合研究所に対する対応を、今後は有古特許事務所の角田嘉宏弁理士に委託することと致し、私は本件についての代理人の任を降りることと致しました。追って、角田嘉宏弁理士から貴組合にも連絡があるものと思いますが、その節はよろしく対応くださいますように、お願い申し上げます。また、これまで、本件について真摯な対応をされた貴殿の労に衷心より御礼申し上げます。
                                                  草々
                                         平成16年9月15日
                                    株式会社蒼蒼社代表取締役 中村公省
追伸

1.有古特許事務所の角田嘉宏弁理士の連絡先は以下のとおりです。
     名 称 有古特許事務所
     設 立 1926年8月19日
     所在地 神戸市中央区東町123番地の1 貿易ビル3階
     Tel 078-321-8822
     Fax 078-391-5791
     e-mail office@arco.chuo.kobe.jp
     URL http://www.arco.chuo.kobe.jp/
     所 長 弁理士 角田嘉宏

2.本書簡の写しを以下の関係諸氏に送ります。
     (1)貴組合の宮原賢次理事長、
     (2)貴組合アジア市場・機械産業対策懇談会 貴田捷雄座長、
     (3)株式会社UFJ総合研究所 元田充隆代表取締役。


  
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