中国を読み解く本・毀誉褒貶
[13] 2006.1.26
(中村公省/21世紀中国総研事務局長)
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『シャンハイスタイル』

ジェトロ上海センター編

ジェトロ 2004年刊)

 本書には上海人の生活スタイルを覗き見した1116枚もの写真が、オールカラーでぎっしり詰まっている。観察領域は、衣、食、住、暮らし、余暇の五分野。衣については、「上海、おしゃれ好き」「いつもの一着」「ファション最前線」「もっときれいになる」「夢が手に入る場所」という具合に焦点を絞って、トレンドをズームアップしている。ほとんどファション雑誌のノリである。
 食については、家庭に侵入して食卓・調理場を覗き、市場・スパーなどの食材売場に出かけ、街頭の屋台・軽食店・定番料理屋を巡って上海人の胃の腑の中身を探索していて、グルメ雑誌かと見まがうばかりである。
 
「シャンハイスタイル」表紙
(画像は、JETROのページより)
 
 しかし、本書の編者は日本貿易振興協会上海センターであり、大真面目なビジネス書なのである。編集のネライはこうだ。

 「本書を制作するに当たり、上海市場を知るにはまず、そこで暮らす人々の生活スタイルを様々な角度からウオッチし、また実感することが大切であるという原点の発想を大切にしました。」「中国市場を自らの目でウオッチし、中国人の風習や目線にあった事業展開をおこなっていく。これらなくして収益をあげることは、容易ではありません。」(102p.)

 対中ビジネスは、いまや如何につくるかから如何に売るかに軸足が移っている。ものづくりは自らの意思で設計図どおりつくればいいが、売れる売れないは神様であるお客様の意向次第である。お客の生活と心の襞を知らずして、財布の紐をほどかせることはできない。
 いいものは売れる。ものづくりマニアの日本メーカーの、この信念が、中国市場では通じない。それは日系家電製品の中国市場におけるシェアに端的に現れている。テレビ、洗濯機、冷蔵庫など、何をとっても日系製品はわずかなシェアしか取れておらず、マス市場を制しているのは品質が劣り低価格の中国地場企業の製品である。
 いいものが売れない。この現実に直面して自動車、電機、ファション、化粧品など、日本メーカーの多くは、富裕層のニッチ市場にターゲットを絞って、いいものしか売らない販売戦略をとっている。平均的消費者像を描くのが困難な中国複雑市場においてはマーケットのセグメントが最重要課題である、と言われる所以である。
 ホンダの50ccスーパーカブの場合はベトナム市場を席巻したが、中国市場ではさっぱり売れない。125ccのほうはマガイモノ製品に包囲攻撃されタジタジ、ついにはニセモノメーカーを傘下にとりこむ奇策に打って出でシェアを回復している。
 日本市場においてすら、いいものが売れない例がある。バイアグラである。これは催淫薬のような文化的薬剤とは違って、確実に物理的効果を発揮する文明的な薬品であるにもかかわらず、シャイな市場は期待に応えていない。シャンハイ人の「偉哥」(偉大な兄貴)に対する反応を是非とも観察したいものである。
 

          
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