中国を読み解く本・毀誉褒貶
[18] 2006.9.4
(中村公省/21世紀中国総研事務局長)
<目次>へ
 
『中国の食文化研究 北京編』

横田文良/著 定延健二/監修

(辻学園調理製菓専門学校 2006年刊)

 著者は辻学園調理製菓専門学校の中国料理研究主任教授である。中国料理の達人が作り・食い・調べ・探求して、その特異な食文化に薀蓄を傾けている。食文化を育んだのは風土と歴史、金と権力であるらしく、「酒池肉林」「満漢全席」など歴代の究極の宮廷料理が実地踏査されていく。
 
 画像:『中国の食文化研究 北京編』の表紙
(画像は、Yahoo!ブックスより)
 
 北京料理では、北京ダック、羊肉しゃぶしゃぶ、羊肉の鉄網焼き、そして宮廷料理屋の「仿膳飯荘」に焦点が絞られる。
 薀蓄の一端だけだが、北京ダックは焼き方が「全聚徳」式と「便宜坊」式との二種類があって調法、炉の構造が違うのだそうだ。しゃぶしゃぶの「東来順」では、赤みが少なく脂身が多いハクビシン(SARSの元凶)に舌鼓をうつ。「烤肉」の薪は「松の木」「松の枝」「松の笠」がよく、焼かれた肉は煙でいぶされたような香りがつき風味がよいという。
 「仿膳飯荘」は璟華島にあるが、このくだりで不老不死の「璟玉膏」の制作に挑戦して著者の本領が発揮される。『飲膳正要』をガイドにして、薬用人参、地黄、茯苓をもとに、黒胡麻バター状の練り生薬をつくりあげてしまうのだ。試飲したら如何。二十七歳までにこの璟玉膏を服用し始めると、三百七十歳までの寿命が保証される。「医薬同源」「薬食一如」。中国食文化の究極は不老不死の願望に昇華するのである。
 『飲膳正要』の薬膳料理の再現では、もう二つ、「馬思苔吉湯」(マスタジタン)と「八児不湯」(バルブタン)に挑戦している。
 「馬思苔吉湯」(マスタジタン)は主材の「回回豆子」(ひよ子豆)は栽培から手がけ、日本の古代米「香粳米」(香り米)を使っている。羊のスープで煮込んだお粥に羊肉と中国パセリを添える。ヨーロッパ風スープ料理に近く、名づければ「南欧薬味入り豆と香米のお粥」。
 「八児不湯」はフビライ皇帝の料理である。大根の根を羊のスープで煮て、姜黄、胡椒、サフラン、それに阿魏(あぎ)という強烈な香辛料を加える。阿魏は香ばしく、硫黄くさく、ニンニクの臭い、生臭く、ハッカの味もする。これをカレーライスのように飯にかけて食べる。当然、「旨いとはいえない」。しかし、効きそうだ。
 一転して、北京の水の話も面白い。北京には水の多くは「苦水」で、「甜水」は買うもの、かつては「水売り」商売というものがあった。しかし、清代、城内には五本の「甜水」の井戸があり、そのうちで有名な井戸のひとつが、皇族の屋敷が集まっていた「王府井」であった、云々。続巻が待たれるシリーズである。
 

          
<目次>へ