中国を読み解く本・毀誉褒貶
[20] 2007.9.25
(中村公省/21世紀中国総研事務局長)
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『現代中国の産業――勃興する中国企業の強さと脆さ』

丸川知雄/著

(中公新書 2007年5月刊)

 「現代中国の産業」の表紙
 
 2007年の中国エアコン商戦の売上げシェアは、格力(GREE)、美的(Midea)、海爾(Haier)、海信(Hisense)の4社がそれぞれ10%超を占め、上位10メーカー(シェア計85.7%)には国産メーカーが9社ランクイン、外資は松下電器が辛うじて10強入りを果たしたにすぎない(日中経済通信2007年9月7日)。

 大衆市場は中国メーカーの低価格、普及品が制し、日系エアコンメーカーは、富裕層向けの高価格・高級品か輸出品に限定するか、キーコンポーネントであるコンプレッサーの生産に特化した。そして、いつの間にかエアコン本体よりも中国メーカーへのコンプレッサーの供給事業のほうが本業になってしまい、いまや、松下、日立、東芝、三菱、三洋の5社は、中国でつくられている家庭用エアコンに搭載されるコンプレッサーの8割以上を供給している(本書60-61ページ)。

 技術的難度の高いキーコンポーネントは日系メーカーをはじめとする外資企業から調達して、中国メーカーは容易につくれるその他素材・部品を製造して最終製品に組み立て販売する。外資企業も大衆低価格製品市場において中国企業と競合することは避けて住みわけ、中間製品としてのキーコンポーネント商売に活路を見出す。こうしたものづくり工程は、同一企業内で川上から川下までの素材・部品を一貫生産することによって競争他社製品を差別化してきた従来の「垂直統合」のものづくり工程の対極にあるところから、著者はこれを「垂直分裂」と命名する。

 「垂直分裂」はエアコンにとどまらず、「世界の工場」と化した中国のものづくりにおいて広汎に観察される。本書で取り上げている業種だけでも、テレビ、VTR、ビデオCD、携帯電話、パソコン、自動車などに及ぶ。資金がなく、技術がなく、経営ノウハウがなく、人材がない中国産業企業が、日系企業をはじめとする外資をいかに巧みに利用して、外資と競合し、外資にうちかってきたかが、綿密に考証されている。とりわけ、従来の分析理論(アーキテクチャー論)では中国のものづくりでは不可能と見られてきた自動車製造が解き明かされ、「垂直分裂」による中国自主ブランド車の可能性が展望されているのは注目される。

 「垂直分裂」によって中国企業は勃興したが、しかし極度の脆さも抱えている。中国メーカーの製品は、市場で誰でも入手可能なキーコンポーネントを利用するために、どれも同じような品質の製品とならざるを得ない。したがって市場での競争は、品質の競争ではなく、価格の競争になる。利益率が極度に悪いため、利益確保のために極度の量産を強いられ体力を消耗する。

 ブラウン管、コンプレッサー、エンジンなどのキーコンポーネントを外資利用によって中国に根付かせる産業政策を採ってきた政策当局は、第11次5カ年計画では自主ブランド、自主技術開発の御旗を盛んに振っている。「垂直分裂」によって勃興した中国企業の次のオーソドックス目標はここにあるにしろ、自主ブランド、自主技術開発の獲得はグローバル企業と競争して巨大な時間と金の投下を強いられるデスマッチでもある。「垂直分裂」という特効薬は、一度うまみを味わうとそこから抜け出るのが困難な麻薬の成分を大量に含有している。中国産業企業は自主ブランド、自主技術開発より「技術的ロックイン」に陥る可能性のほうがはるかに高いように思われる。

 一例ながら、エアコン分野で飛躍的新技術が企業化され始めている。ダイキンと仏アルケマが空調機器用新冷媒の合弁会社を常熟に2007年11月に設立する。新冷媒はオゾン層に影響を及ぼさない冷媒で、今まで主に使用されていたHCFC冷媒の代替品として、将来は全面的に切り替わると期待されている。HCFC冷媒はすでにヨーロッパで使用禁止、日本でも新冷媒に切り替わり中で、アメリカでも2010年から使用ができなくなるという。この新冷媒に中国エアコンメーカーは「垂直分裂」で対応するしかないと思われる。
http://www.daikin.co.jp/press/2007/070921/index.html
 

          
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