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     第10号 2010.1.28発行 by 岡田 充
    グローバル化が変える「統」と「独」
「中台接近」の内実を読む



 馬英九の当選から3月で2年。国民党政権は5月に折り返し点を迎え、2012年の次期総統選に向けた動きが活発化する。ことし年末に予定される初の「大台北」市長選挙をはじめ内政、経済、両岸、対米、対日関係など、台湾をめぐるすべてが、次期総統選との関係で解釈され論じられるだろう。政治システムの民主化(1996年の総統直接選挙)から15年。中央から地方の各レベルでひんぱんに実施される選挙は、支持率にさほど差はない与野党の「バランス変化」を浮き彫りにし、中国との関係における台湾人アイデンティティが争点化される。少し観察を怠ると情勢は読めなくなる。気ぜわしく急激に変化するのが台湾政治の特徴である。
 国民党政権の誕生で最も大きく変化したものが、両岸関係であることに異論はあるまい。問題はこの変化をどのように位置付けるかである。野党の民主進歩党が、関係改善を「中国による(台湾)併呑への動き」と位置づけるのは理解できる。それは政党と運動のスローガンだからだ。ただ全国紙など大手メディアまでが、緊張緩和から直ちに「政治統一へつながる」と、乱暴に論理展開するなら別である。筆者と読者が共有する問題意識を挙げれば①両岸が経済協議から政治協議へ移行し、「平和協定」に進む見通し②「現状維持」はいずれ崩れ、政治統合という「統一」は必然なのか③現状維持と同様、「独立」「統一」に代わる「第三の道」はないのか―になる。「第9号」で触れたように、中国では馬の現状維持路線を「B型台湾独立」として、公然と非難する論調も出ている。「中台接近」をめぐる、双方の「一致点」と「相違点」を整理し、「接近」の実相に迫りたい。さらにグローバル化とナショナリズムの「綱引き」が続く世界で、国民国家の枠組みから生まれた「統一」と「独立」の概念が、どのように変化するかを併せて検討する。

レッドラインの判断材料
記者会見する江理事長(中央)
 両岸では、実務交渉のトップ会談(台湾は江丙坤・海峡両岸基金会理事長。中国は陳雲林・海峡両岸関係協会会長)がこれまで計4回開かれた。第4回トップ会談は09年12月台中市で開かれ、台湾側が強く希望する「両岸経済協力枠組み協議」(ECFA)を来春の第5回会談の重要課題に据えることで一致した。
 江は、両岸協議の内容を日本の政界に説明するため馬総統の「名代」として来日(1月12-14日)した。帰国直前に記者会見した江は「中台接近で、政治統一するのではないかとの懸念がある」との質問に対し、「これまで合意した12の協議はすべて経済問題で、政治問題は一つもない」と強調。台湾が両岸の平和発展と経済交流を促進するのは、台湾人の「安居楽業」(安定し平和的で、豊かな生活)を追求するためと応じ、日本の政界も彼の説明に理解を示したと指摘した。江の説明のように、両岸で合意したのは経済問題ばかりである。09年11月に、政治協議に向けた初の「セカンドトラック」のシンポジウムが台北で開かれたが、双方の差の大きさと政治協議へのハードルが如何に高いか、「9号」で論述した通りだ。
 さて、ここでは上記シンポジウム「両岸一甲子学術検討会」に提出された中国側の論文を紹介し、現段階における双方の「一致点」と「相違点」を整理しておきたい。論文は中国人民大学国際関係学院の黄嘉樹教授の「『平和発展』に対する両岸認識の『通』と『隔』」)。両岸関係論第2号でも書いたように、黄は胡錦涛が2008年末に提起した新たな台湾政策「平和発展論」(胡6点)策定にも関与した。論文では、中国側からみた台湾認識、とりわけ馬政権の対中政策への評価があますところなく盛り込まれ一読に値する。中国側が、馬にどのようなボールを投げるのを期待しているのか、ストライクゾーンとレッドライン(底線)はどこにあるのかを判断する材料になろう。説明が平板で退屈のそしりを免れない。テーマ別に拾い読みして欲しい。

共通点はどこに
 論文はまず、双方の認識の共通点を5点に分けて整理した。それを列記すると①双方は両岸の平和発展の価値を重視。平和発展の枠組み構築が努力目標②両岸関係の政治的基礎は「一つの中国」原則と「92年合意」にあることで一致。依拠する法律は異なるが、両岸関係とは「一つの国家」の中の「二つの地域」であり、「一国両区」である③「台湾独立」を台湾の将来の選択肢とすべきではない④台湾経済の発展は両岸関係の改善と連動し、台湾のみならず中華民族全体の利益と一致⑤国民党と共産党は10数年に及ぶ反台独闘争を通して、初歩的な相互信頼を獲得。相手側のレッドラインへの認識を深め、不一致を棚上げし妥協の必要性を理解―である。
 注意しなければならないのは、「共通点」とは、中国と台湾の認識の一致ではない。中国側の台湾専門学者からみた「指導部間の認識の一致」である。台湾側、特に野党陣営からみれば「一致などしていない」内容が多いはずだ。論文はさらに「3大コンセンサス」として、双方間で(1)歴史的好機をつかむ(2)当面の問題は実務的に解決(3)両岸はともに中華民族に属する―が形成されたとしている。
 さて「共通点」より重要な点は、「相違点」と「矛盾」である。これを乗り越えねば、両岸が「平和協定」を締結するのは難しい。論文では①「平和」②「発展」③「内戦」④「現状維持」⑤「主権」と「領土」という、国民国家の根幹に関わる概念ごとに、認識の相違点と矛盾が明らかにされている。

表1 「三大共通認識」と「四大憂慮」
三大共通認識 (1)歴史的好機をつかむ
(2)当面の問題は実務的に解決
(3)両岸はともに中華民族に属する
四大憂慮 (1)中華民国の位置付け
(2)台湾の国際空間拡大
(3)台湾の安全保障
(4)両岸の政治的距離
黄嘉樹論文を基に筆者作成


条件付き「平和」
 まず「平和」認識の差。論文は、相違の第1点として「大陸側は、潜在的にある『台独』への憂慮やその他の配慮から、台湾への武力行使の権利を留保する。つまり『条件付き平和』だが、台湾側が主張しているのは『無条件の平和』であり、いかなる条件下でも武力使用はだめだと考える」としている。台湾は、李登輝時代の90年代半ばから中国に武力行使の放棄を要求し、馬政権も平和協定締結の前提として、台湾向けミサイル配備の撤去を求めている。しかし中国側は「台独」勢力が復活する恐れがある限り、武力威嚇は捨てないという意思を改めて表明したものである。これを読む限り、中国の武力威嚇は、現状維持状態が続く限りなくならない。例え緊張緩和が進んでもである。
 「平和」認識の相違点の第2として、論文は台湾の安全保障の「盾」を取りあげた。そして「冷戦終結後、東アジアの安全保障の情勢に巨大な変化が表れ、韓国、日本で米軍撤退の声が上がった。ただ台湾だけが、米国の保護に頼って兵器購入を続け、冷戦の枠組みにとどまり、時には米国の中国包囲の『先兵』役を果たそうとしている」と、台湾の「冷戦思考」を批判する。
 オバマ政権は1月初め、米国が台湾への売却を決めている地対空誘導弾パトリオット(PAC3)製造について、ロッキード・マーチン社が受注したと発表した。PAC3や攻撃型ヘリコプター「アパッチ」などの兵器売却(総額約65億ドル)は、ブッシュ前政権が2008年10月に決定。PAC3受注発表はこれに基づくものだが、中国側は予想以上に強く反発した。米国と台湾はこの決定を通じ、台湾関係法に基づき米国が台湾防衛の「盾」であることを改めて内外に示した形だ。論文は、この決定前のものだが、台湾が中国包囲の「先兵」になることを「安全保障上の潜在的憂慮」とし、「台湾側は、米国の保護下にあることをよしとし、それが大陸を刺激するとはみていない」と、認識の差を強調している。

「発展」で大きな落差
 相違の2番目は「発展」である。論文は「最も多くの問題はここに集中している」とし、具体例として「統一」への認識差を指摘、「大陸側の関心は単なる統一ではなく、統一を通して両岸の中国人の知恵と力を集めて、中華民族の偉大な復興を実現することにある。これに対し、台湾側は『台湾優先』を強調するだけで、『中華復興』には複雑な心情を抱く人が非常に多い。特に『緑陣営』の人士は全く関心を持っていない」と書き、台湾人の多くが「中華民族の復興」というスローガンに懐疑的であることを、中国が自覚していることが分かる。台湾人を「中華民族」として括ることに、抵抗があることが分かろう。
 「発展」の2点目の相違として論文は、大陸側は「両岸の共同発展」を長期的な利益と考え、「政治的目標を実現するためには経済的な損失もいとわない」とする。これに対し台湾側は、「選挙という圧力もあって短期的で、見えるかたちの経済的利益を求め、損失は絶対に避けねばならない」という考えだと説明。第3は、「発展」の方向に対する「期待」の落差だ
 台湾側は「大陸が政治的に西側国家のような民主的発展の道を歩むよう期待し、台湾の国際空間と政治的影響力の拡大を希望」していると書く一方、大陸側は台湾のそのような期待の中にこそ「大陸と衝突が起きる火種が潜むと懸念する」と論じた。大陸の民主化を求める圧力に、台湾が加わることへの警戒である。

「内戦」と「現状維持」
 第3のテーマは「内戦」への認識差。両岸とも「分裂の主要な源は国共内戦にある」という認識では一致する。しかし大陸は「敵対状態の終結協定」を結んでいないから、法律的には依然として内戦状態にあるとの認識なのに対し、台湾側は、1991年に憲法の「反乱鎮定動員時期臨時条項」の廃止を宣言。一方的に「敵対状態」から抜け出したため、現在は「内戦状態にはない」という異なる認識を持っている。
 「反独立」では一致するという両岸の認識には、全く差はないのだろうか、黄は、大陸が馬政権に明確に反独立の理念を表明するよう希望しているのに対し、台湾側はこの問題で曖昧さと柔軟性を維持している、と指摘する。最大の差は、大陸が「統一」を主張するのに対し、馬の基本姿勢は「反統一」にある。
 では「現状維持」とはなにか?黄は、中国歴代政権の認識の差に着目する。毛沢東、鄧小平、江沢民の指導部は、「現状」が早期に打破されることを期待した。つまり、関心は両岸の将来関係に向いていたのであり、「現状」がどのようなものかについて考慮されなかったと指摘する。これに対し胡錦濤は「現状維持」を初めて重視した。では胡は「現状」をどう説明しているのか。論文は、「現状」についての認識差は、「一つの中国」への認識の相違の反映とみる。鄧と江の指導部は、「一中原則」を双方の共通項として重視したのに対し、胡は「一中原則」を継承はしているが、「統一していない現状」という「特殊性」を強調している点に着目した。胡は2005年3月に発表した「胡4点」で、「現状」について「両岸はまだ統一していないとはいえ、大陸と台湾がともに一つの中国に属する事実は変わらない。これこそが両岸関係の現状である」と位置付けている。

領土の再画定ではない
 では「主権・領土」という国民国家論の根幹についてはどうか。論文は、鄧小平指導部が主権と領土を重視し「台湾の祖国復帰」を強調。江指導部は「台湾問題の複雑さ」を次第に認識し始めたものの、台湾側の行動を「中国の主権・領土保全に対する挑戦」という視点からのみ判断していたとみる。一方、胡時代に入ると、「両岸はともに一つの中国に属する」との新認識の下で、台湾工作は「反独」と「促統」の両部分に分化したとみる。そして「反独」は、主権・領土に関わる問題だが、「促統」には「新定義」があると強調。「胡6点」を引用しながら「両岸が統一に復帰することは、主権領土の再画定ではなく、政治対立の終結」と読み、その意味について黄は「(胡6点は)統一の性質を“政治統一”とした」書いた。
 そして、黄は「反独」「促統」の分化の含意として①台湾は中国の一部分だから、統一とは「台湾の祖国復帰」ではない。「促統」の重点は、主権・領土をめぐる相違の解決ではなく、価値観、制度、社会経済および政治面での相違の解決であり、最終的に政治対立を終結させる方途を探ること②政治対立の終結は長くゆっくりとしたプロセスであり、急いで実現できない③中国人内部の政治的な相違の解決は、慎重にやらなければならない。「促統」は、平和的方式でのみ可能―の3点を挙げた。
 さて「反独」の任務として、分裂には断固たる措置をとる中国は、「統―」と「不統」の矛盾を、どう処理しようとしているのだろうか。黄は「『不統』と『台独』を混同してはならない」とし、馬が主張する「統一せず」に対し「B型台独」や「C型台独」「独台」などのレッテル張りはすべきではないと強調している。中国メディアなどで表面化している、馬英九批判の根拠は、馬が独立せず、武力行使せずとともに「統一せず」を繰り返し強調していることにある。「B型台独」や「C型台独」「独台」など表現こそ異なるが、「台湾(中華民国)は既に主権独立国家だから、独立の必要はない」という主張では同じである。民進党も政権を握った途端、「台湾共和国」は主張せず、「主権独立国家だから独立は不要」という「政権台独派」に装いを変えた。馬批判の根拠も、政権党時代の民進党の主張と、馬の「不独、不統」と差はないとみる点にある。
 この点について黄は、「不統」を事実上の「台独」と見なすことは、「不統」の中にある「反独」という「積極面を無視し中間勢力を、台独へと押しやることになる」と見ている。

中華民国をどう処理?
 論文は最後に、両岸には一連の構造的矛盾が存在するとし①中華民国の位置付け②台湾の国際空間拡大③台湾の安全保障④両岸の政治的距離―を、「四大憂慮」と呼んだ。台湾側が主張する国際空間の拡大とは、世界保健機関(WHO)への参加や、外国と結ぶ自由貿易協定(FTA)など、中国側が妨害してきた国際組織への参加と外交領域の拡大を指す。
 論文は、双方が柔軟外交を行うようになった結果、この問題でも歯車は噛み合ってきたとみる。しかし、その一方で大陸側には、仮に台独が政権を奪還すれば「(拡大した国際空間を)彼らに利用されかねないという懸念がある」と指摘している。台湾は両岸が政治協議に移行する上での最大の難題として、「如何に現実的な政治定位を作り出すかだ。政治定位について言えば、中華民国が存在する現実を両岸は回避できない」(趙春山・台湾アジア太平洋平和発展基金会理事長)と主張している。
 これに大陸はどう対応できるのか?論文は、大陸側の「一中枠組み」概念は、大きな柔軟空間を提示しているとし、台湾がそれを「中華民国の主権の尊重」と解釈すれば、各種選挙での票獲得にも有利だろうとヒントを出す。しかしその場合、逆に大陸側に政策調整上の困難がもたらされると見ている。以上が黄嘉樹論文のエッセンスである。、「中台接近」の内実を詳細に分析した内容は、今後の両岸関係を占う上で大いに参考になるだろう。「中台接近」が必ずしも統一へと単線的に向かうわけではないことを理解して頂ければ幸いである。


表2 「中台接近」両岸の認識相違点
     台湾      中国
平和 ●  いかなる条件下でも武力行使に反対する「無条件の平和」ミサイル撤去を要求 台湾への武力行使の権利を留保する「条件付き平和」
●  米国は台湾防衛の「盾」。台湾関係法が根拠 米兵器購入は冷戦思考の名残(日韓で米軍基地撤退要求)
発展 ●  「台湾優先」を強調。「中華復興」には懐疑的 統一の目標は「中華民族の偉大な復興」の実現
●  目に見える経済的利益追求。選挙があるため、損失はみとめられない 政治目標実現のためには経済的損失も受容
●  中国の民主的発展を期待。台湾の国際空間と影響力拡大を希望 台湾側の民主化圧力は、両岸間の「火種」になると警戒
 内戦 ●  憲法の臨時条項の廃止によって、内戦状態にはない 敵対状態終結協定を結ぶまで「内戦状態にある」
現状維持 ●  馬は「不独立」「不統一」「不武」の現状維持を主張 現状打破」を主張した毛沢東、鄧小平、江沢民。胡錦涛は「統一していない現状」に着目
主権と領土 ●  「中華民国」は主権・独立国家 両岸はともに一つの中国」に属し、主権・領土問題はない
黄嘉樹論文を基に筆者作成


弱体化する国家・政府
 冷戦終結後進むグローバル化は、国際関係と国家の在り方に、構造的な変化をもたらしている。日本はもちろん両岸関係と中国、台湾の内政も例外ではない。資本とヒト、モノの移動は、国境の壁を簡単に超え、国家が抱え込んできた経済システムは、国境を越えたより広い土俵の上で激しい競争にさらされている。日本で進行するデフレーションの要因の一つは、構造変化である。日本の賃金の10分の1にすぎない中国や東南アジアで生産すれば、千円を切るジーンズが優位に立ち、デフレに「寄与」してしまう。これに、国家と政府が関与し挑戦することは可能だろうか。
 国家と政府が関与出来る領域は狭まる一方であり、外交・安全保障とシビルミニマムを保障する予算配分などに収れんされてきた。「領域と国民への排他的権力の行使」という国民国家の規定も崩れ始めている。経済の相互依存関係は深まる一方であり、他国への軍事力行使は、その国にある自国の経済権益を犠牲にしかねない「自殺行為」となる。安全保障の枠組みも変化していることを忘れるべきではない。
 この変化は、イデオロギーとナショナリズムを無力化する。その一方、経済グローバル化に抵抗する逆のベクトルとの「綱引き」と摩擦は続く。台湾内政を例に取れば、李登輝、陳水扁が主唱した「台湾ナショナリズム」は、両岸の経済相互依存というグローバルな世界に「敗北」したのであり、「一つの中国」を党是にする国民党イデオロギーが勝利したわけではない。民進党政権下で日台関係や国際政治のブレーンを果たした李明峻(台湾東北アジア学会副会長)は昨年末、行われた日台関係の識者座談会で、興味深い見解を表明している。李は、東アジアで冷戦構造が崩れるのは2008年ごろからだとし「(その結果)イデオロギー的主張は、選挙で不利になった」と述べている。民進党敗北の背景を冷静に分析していることが分かる。
 一方、中国は低賃金と巨大市場を武器に、グローバル化の恩恵によくし、経済大国と軍事強国への道を進む。中国人は元来、国家や中間共同体への帰属意識が極めて薄いから、グローバル化の波に乗りやすい性格をもつ。グローバル化に適応することは、「偉大な中華民族の復興」というナショナリズムを追求する共産党の求心力を弱体化させる。これもグローバル化とナショナリズムの「綱引き」の一例である。検索ネット「グーグル」との摩擦は示唆に富んでいる。米国や西側はかつて中国に民主化圧力をかけてきたが、大きな効果を上げていない。「グーグル撤退」は、グローバル化したメディアが、国民国家の枠組みから離れようとする中国人の意識を変え、ナショナリズムにしがみつく中国当局の意識のかい離を鮮明にした。国家による国家の圧力の時代から、国境を越えたメディアの無言の圧力が、いかに効果的かをわれわれに示唆した。中国共産党が、グローバル化と相互依存関係の深化という規律を無視して、ナショナリズムのみを追求するなら勝ちはない。「自己改革」しなければ展望は拓けないのである。

「第3の道」を
 本題に戻る。黄論文は「伝統的な国民国家論」に沿って、両岸の将来に向けた、北京と台北の指導部の共通点と相違点を検証した。これを読むと、「平和的発展」の時期はかなり長期にわたること、「経済協議」から「政治協議」への移行にも、長い時間をかけ擦り合わせしなければならない。両岸が同調しているのは「グローバル化」の領域に属する部分ばかりであり、「ナショナリズム」の領域には足を踏み入れていない。台湾側は既に、国民党が「不独、不統」を掲げてナショナリズムを脱皮し、現状維持という非イデオロギーの世界を党是にした。最大野党の民進党も、「台独」ナショナリズムを乗り越え、リアルな国際政治に現実的に対応しなければ、政権復帰は望めない。
 「統一」も「独立」も、崩れつつある国民国家がもたらした発想だ。台湾海峡の緊張が緩和されても、台湾が米国に安全保障の盾を委ねるのはなぜか。中国の一部で懸念するような「自由陣営の結束で、中国の脅威に対抗する」という意図が出発点ではない。現状の急激な変更は、台湾海峡の安定を損なうという懸念からである。台湾関係法は、中・長期にわたるであろおう「現状」が続く限りなくなるまい。ちょうど中国の軍事威嚇と「対」の関係だ。
 米国兵器の売却への中国の反発に意外感をもつ向きもあろう。中国の表面的な言葉の激しさにもかかわらず、胡錦濤が米国とのグローバルな協調を見直すことはない。対米批判の目的は、台湾への妥協に反対する国内勢力や、緊張関係がなければ存在基盤を脅かされる軍への配慮と考えたほうが道理にかなう。
 両岸関係の現状は、平和統一を求める中国、民意をバックに自立を確保しようとする台湾、現状維持を求める米国というトライアングルで形作られている。この構造は、李登輝・陳編時代を経て馬英九時代も変わっていない。変化したのは、グローバル化の波を現実と受け止め、無駄な争いを棚上げして、台湾海峡の緊張を緩和したことである。双方が「統一」と「独立」というナショナリズムにこだわる限り、台湾問題は解決しない。「統」でも「独」でもない第三の道を模索する過程が始まろうとしている。

(了)



 
1
「両岸関係論第9号」
http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/ryougan_09.html
2 「台湾独立派」 独立派を便宜的にA、B、Cの3つに分ける。A型は、客観的な条件の変化にかかわらず「台湾共和国」を宣言しようとする急進派。B型は「政権独立派」。政権維持が最優先課題のため、現実路線をとらざるを得ない。C型は中国の民主化が進むまでは現状維持を続けると考える。「穏健統一派」とほぼ変わらない。(岡田充「中国と台湾 対立と共存の両岸関係」講談社現代新書162ー163ページ)
3 「中国評論月刊」(2009年12月号所収)
http://www.chinareviewnews.com/doc/1011/5/5/0/101155072.html?coluid=33&kindid=543&docid=101155072&mdate=0104112108
 4 92年合意」 中国の対台湾交流窓口機関の当局者が1992年、香港での実務協議で達した合意。中国側は「両岸(中台)は『一つの中国』原則を堅持する」ことで合意したと主張。国民党は「『一つの中国』の解釈は(中台)各自にゆだねる」という共通認識を得ただけとしており、解釈には差がある。05年4月の連戦・胡錦濤の「国共トップ会談」では、92年合意を堅持し、台湾独立に反対とする新聞コミュニケを発表。
 5 「反乱鎮定動員時期臨時条項」 国民党は共産党との内戦を「反乱」と位置付け、憲法の効力を停止するため1948年5月10日に施行。戒厳令施行の法的根拠にもなった。国民党が内戦に敗れ台湾に逃れた後も台湾で施行され1991年に廃止された。
 6 「聯合報」(2010年1月1日)
 7 「中国評論」月刊09年12月号「日本の政権交代と台日関係」
http://www.chinareviewnews.com/crn-webapp/zpykpub/docDetail.jsp?docid=35932


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