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     第99号 2019.02.14発行 by 岡田 充
    30年内の統一目指すが急がない
習近平の新台湾政策を読む
 習近平・中国国家主席が、包括的な台湾政策(習五点)を発表した。(写真 国務院台湾事務弁公室HP)要約すると台湾との経済・社会統合を進め、「一国二制度」による平和統一を、建国百年の2049年までに実現する―ということになる。胡錦涛前主席が10年前に発表した台湾政策(胡六点)では、台湾との「平和発展」が強調されたが、習は統一という最終目標を押し出したのが最大の特徴だ。角度を変えてみると、従来は「客体視」してきた台湾内政を、「主体」として積極関与する姿勢に転換したようにみえる。統一への自信を深め、時間枠を設定したものの急いではいない。そんな姿勢が伝わる内容である。「両岸論」第1号注1は「胡六点」だった。ここはまず「胡六点」と比較しながら「習五点」の特徴を浮き彫りにしよう。
「胡六点」との違い
 「習五点」の内容を要約すると
 (1) 民族の復興を図り、平和統一の目標実現
 (2) 「一国二制度」の台湾モデルを台湾の各党派・団体との対話を通じ模索
 (3) 「武力使用の放棄」は約束しないが、対象は外部勢力の干渉と「台湾独立」分子
 (4) (中台の)融合発展を深化させて、平和統一の基礎を固める
 (5) 中華文化の共通アイデンティティを増進し、特に台湾青年への工作を強化
 一方「胡六点」は以下の通りである。
 (1) 一つの中国を厳守、政治的相互信頼を増進
 (2) 経済協力の推進と共同発展の促進
 (3) 中華文化を宣揚し、精神的きずな強化
 (4) 人的往来を強め、各界交流を拡大
 (5) 国家主権を擁護し、対外関係を協議
 (6) 敵対状態を終結させ、和平協定締結を
 こう比べてみても抽象的過ぎて、違いは見えてこないに違いない。
 「胡六点」についてはかつて次のように書いた。
 ―特徴をざっと挙げると①「平和統一」を強調せず、胡錦濤政権の対外政策の基本である「平和発展」を台湾政策にも適用(第1.2項)②党の公式文献として初めて「台湾意識」と民主進歩党に言及(第4項)③台湾の国際組織参加を認める原則を提示(第5項)-など、注目すべき点が盛り込まれている―
 項目別にみると「習五点」の特徴が鮮明になる。①平和統一を強調し、それを中華民族の復興と一体化した(第1点)②「一国二制度」による統一について「台湾の実情を十分考慮」した台湾方式(第2点)提唱③「武力行使の放棄は約束しない」(第3点)としながらも「主として台独と外部勢力の干渉に向けた」と、民進党の独立派と米国をけん制―である。
「客体視」から「主体的」関与へ
 胡六点が発表された2008年12月は、国民党の馬英九政権が「一つの中国」をめぐる「92年合意」注2を認め、両岸関係が大幅に改善された時期にあたる。民進党の存在に初めて言及して台湾民意を重視。台湾の国際組織参加にも配慮する姿勢をみせたのは、国民党政権を復帰させた民意を尊重する意味もあった。これに対し「習六点」は「92年合意」を認めない蔡英文政権への厳しい視線が各所にちりばめられている。
 中国では、民進党政権(緑)が誕生した2016年前後から、国民党(藍)にも過剰な期待をせず、共産党(紅)自身が台湾政治に直接関与すべきとの議論が、台湾専門家や学者の間で出始めた。例えば中国が17年2月に出した「31項目の恵台政策」はその一例。それは、台湾人と台湾企業に大陸と同様の「内国民待遇」を与える内容だった。それを念頭に置いて読むと、胡錦涛が台湾問題を「客体視」しているのに対し、習が「主体的」に関与しようとしている姿勢がみてとれる。
 台湾の政治状況がどう変わろうとも、大陸は統一の戦略目標を変えない姿勢を鮮明にしたところに最大の特徴がある。蔡英文は、習が「一国二制度」による統一を提起したのを逆手にとり、「92共識とは一国二制度のことだ」と切り返し、各種世論調査で5ポイントほど支持率を上げたが、それも織り込み済みであろう。
 ③の「武力行使」(写真 台湾武力統一を呼びかける文革時代のポスター)について言えば、主としてトランプ政権による「台湾カード」を許さない姿勢を厳しく打ち出したのであろう。2005年に成立した「反分裂国家法」では「非平和的手段」行使の条件として「平和統一の可能性が完全に失われたとき」が挙げられている。中国では、蔡政権誕生後からは、この条項を適用し「早く武力統一を」という強硬論注3が出ていた。しかし「習五点」では今回は、武力行使を放棄しない理由に、台独と外部勢力の干渉の二条件だけが挙げられ「平和統一の可能性が完全に失われたとき」は入らなかった。
 同じ「第三点」では、「海峡両岸はまだ完全に統一していないといえども,中国の主権と領土は分割されていない」という「現状維持」認識が盛り込まれたことは重要である。これは「反分裂国家法」や「胡六点」にも明記された「両岸関係の現状」についての北京の基本認識である。「主権・領土は分裂していない」現状を、当面は容認するという意味でもある。つまり「統一は急がない」というシグナルでもある。
「四通」初提起-息の長い統一戦略
 統一の進め方については、以前より踏み込んだ印象を持った。両岸融合をさらに進化させ、馬英九時代に実現した「三通」に替え、「経済貿易協力の円滑化」、「インフラの相互接続」、「エネルギー資源の相互融通」、「業界規格の共通化」という「四通」を初提起した。「一帯一路」を新戦略に据えた習らしいアイデアでもある。
「四通」は、両岸の社会・経済基盤の融合と相互理解を深める(第五項)ことによって、統一の条件づくりをする「息の長い戦略」である。中国メディアに時々表れる武力行使の強硬論は、台湾独立への警告と同時に、大陸内部のガス抜きの側面があることに注意すべきであろう。
 武力行使できない要因の第一は、台湾に武器供与する米国と「衝突」しても中国に勝ち目はない。第二は台湾民意。民意に逆らって統一しても、国内に新たな「分裂勢力」を抱える結果になるだけである。統一の果実は得られない。
 冒頭で述べた「統一に自信を深めている」理由は(1)中国の経済発展(2)「31項目の恵台政策」が一定の成果を挙げ、台湾「天然独」の若者が脱イデオロギー化し大陸での就業を希望するなど、自分の将来を大陸に重ね始めたーことを挙げる。以上が「習六点」への見立てである。
「台湾統一宣言」と元高官
 習近平演説の直後の1月7日、北京で中国の台湾問題専門家から習演説についての見方聞いた。その内容を紹介しながら、演説の輪郭をさらに鮮明にしたい。
 「習氏は演説の中で45回にわたって『統一』に言及した。五点の主張もすべて統一目標に向けて展開されており、習演説は台湾統一宣言だ。(建国百年を迎える)2049年以前に、統一を実現する時間表でもある」。こう解説するのは2000年から大陸の台湾主管部門の高官を務めた人物。人民解放軍総参謀部出身の少将で、05年の「反国家分裂法」や「台湾白書」の起草に加わった軍を代表する台湾政策の重鎮である。
 彼の口から「統一の時間表」が出るとは全く予想していなかった。思わず話をさえぎって「つまり49年には統一を実現するという意味か」と問うと、「それ以前に統一を実現するということだ」と、自信たっぷりの答えが戻ってきた。
 習は17年11月の中国共産党大会で、党の「三大歴史任務」の一つに「祖国統一の実現」を挙げた。だから建国百年を迎える49年に「世界トップレベルの強国」と「偉大な民族復興」を成し遂げた時、台湾統一も実現していなければならない。それが論理的帰結である。しかし軍の立場を代表する彼がそれを「時間表」と呼べば、論理以上のリアリティがある。「あなたが現役時代にこんな発言をしたら、一面トップ級の記事になる」と感想を伝えると、彼もニヤリと表情を崩した。 
 第2に彼は、「一国二制度」の「台湾モデル」の提起を挙げた。香港とマカオで実現した「一国二制度」だが、中央政府の統制強化によって「高度な自治」は失われたとの不満が香港、台湾で広がる。「一国二制度」を支持する台湾人は極めて少ないのが現実。それを意識して「台湾モデル」を出したのは間違いない。
 「台湾モデル」とは何か。鄧小平が40年前に提起した「一国二制度」を引用しながら、元高官は「香港マカオは植民地であり主権回復後、軍隊を派遣・駐留した。一方、台湾は植民地ではなく、大陸は台湾に軍隊を派遣・駐留つもりはない」と説明した。さらに「鄧小平はかつて内部講話で『平和統一が実現すれば国名を変えてもいい』と語ったことすらある」と述べた。国名変更に関するこの鄧発言は報道されたことがあるが、この元高官が裏書きしたことになる。毛沢東は新中国建国の際、「中華民国のままでもいい」と述べたと伝えられたこともある。
最優先課題は対米改善
 元高官は最後に「武力行使の放棄は約束しない」に言及した。繰り返すが、「反国家分裂法」では、「非平和的手段」(武力行使)を採る三条件を挙げていたから、目新しいわけではない。ただ彼自身が1年ほど前、中国紙に「平和統一の可能性はますます遠のいている」と述べ「反国家分裂法」が武力行使の第三の条件とする「平和統一の可能性が完全に失われたとき」が近づいているという不気味な「見立て」をしたことを思い出す。
 台湾や米国では「武力統一が近づいている」とみる論拠の一つとされていたから、「習五点」に、第三条件が入らなかったことに台湾側はほっとしているはずだ。
 台湾統一と言えば、台湾海峡での中国軍機の活動や空母「遼寧」(写真 中国海軍HP)による軍事的威圧を挙げ、軍事的に台湾を呑み込み、米国の介入を阻止する意図など軍事的コンテクストから語られることが多い。しかし貿易戦争に始まる米中対立激化の中で、中国指導部は「米国に全面的に対抗する力はない」との認識から、「対抗せず、冷戦をせず」など超柔軟姿勢で臨む新方針を決定した。つまり米国との武力衝突を覚悟しなければならない武力統一はできない。中国にとって最優先課題は対米関係の改善にあり、台湾問題の優先度は依然として低いと考えていいだろう。
 習五点は、台湾人に人気のない「一国二制度」による統一を「一世代」という時間枠を設定して提示した。裏返せば、統一に対する自信の表れでもあり、経済・社会基盤の融合から進め、最後に政治統合を目指すという息の長いプロセスでもある。
 台湾問題は単なる台湾問題ではない。もし統一が実現すれば、その時は米国が東アジアの後景に退いている可能性が高い。「日米同盟」を金科玉条にしてきた日本のポジションはさらに揺らいでいるに違いない。さまざまな変数と仮説が頭をよぎる。台湾問題は30年という一世代後の東アジアの将来をめぐる「頭の体操」でもある。
(了)  
 
注1 台湾政策を「平和発展」に転換 「胡6点」の意味を探る
http://21ccs.jp/ryougan_okada/ryougan_01.html
注2 1992年合意」
中国共産党との内戦に敗れた国民党が台湾に逃れた49年の中台分断後、敵対を続けた中台が相互交流に向けて92年に達したとされる合意。文書などはないが、中台は不可分の領土だとする「一つの中国」原則を確認した上で、中国とは何を指すかは各自で解釈できると国民党側は説明している。民主進歩党の蔡英文政権は合意の存在を認めていない。
注3 両岸論第84号「中台の現状維持はいつまで続くのか 習近平も描けない統一時間表」
http://21ccs.jp/ryougan_okada/ryougan_86.html
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