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     第125号 2021.04.09発行 by 岡田 充
    米中対立の「当事者」になった日本
岐路に差し掛かる日中関係
 来年(2022年)、国交正常化から半世紀を迎える日中関係が岐路に差し掛かっている。バイデン米政権誕生後初めて東京で開かれた日米外務・防衛閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)=写真 外務省HP=は、中国を初めて全面的に名指し批判注1した。安保と経済を使い分け、中国とも良好の関係を維持しようとしてきた「政経分離」から、中国を敵対視する路線への転換である。これに対し中国は「日本は人の鼻息をうかがい、米国の戦略的属国となり、中日関係を破壊しようとしている」注2と、口を極めて非難した。しかしこの路線転換について政界やメディアでの議論は皆無に等しく、米中対立の「当事者」になったのに、その自覚はない。中国は日米首脳会談の内容次第では、日本批判を全面展開も辞さない構えだ。
米中対立を地球規模で展開
 まずバイデン政権の外交政策を整理しておく。バイデンは「同盟再構築」と「国際協調」を外交の2本柱に、中国を「国際秩序に挑戦する唯一の競争相手」(暫定版「国家安全保障戦略」3月3日)「中国は地政学上の最大の試練」(ブリンケン国務長官外交演説 同日)と、中国との戦略的対立を継続する意思を鮮明にした。
 「同盟再構築」とは、中国を「共通の敵」にする軍事・安全保障戦略と言い換えてもいい。バイデンは2月19日、ミュンヘン安全保障会議で、「米欧連携はあらゆる事柄の基礎」「民主主義を防衛しなければならない」と強調し、中国およびロシアとの対立を「体制間対立」とみなす姿勢を鮮明にした。さらに3月25日の記者会見では、米中対立を「民主」vs「専制」と位置付けるのである。
 ポンペオ前国務長官のように、「共産党体制の転換」を掲げてはいないが、同盟・友好国を巻き込む新手法は米中対立を地球規模に拡大しかねず、トランプ時代以上の波及効果をもつ。
 だが、西側世界は米ソ冷戦時代と異なり一枚岩ではない。ミュンヘン安保会議では「米国は戻ってきた」と呼びかけるバイデンに対し、「戦略的自立」を主張してきたマクロン仏大統領は、欧州独自の安保構想を訴えた。メルケル独首相も、米欧の国益は必ずしも共有されていないとの持論を展開した。「一帯一路」に対しても、欧州諸国の足並みは揃わない。米国が求める中国通信機器大手ファーウェイ排除でも、イタリアとドイツは同調しなかった。
 米中の「パワーシフト」(大国間の重心移動)を促したのは、米国中心の同盟構造が、アジアのみならず世界中で「間尺」に合わなくなったからだ。日本を含めアジアの大半の国にとり、対中経済・貿易は量、額ともに対米のそれを上回り、中国敵視の「同盟」は、自己矛盾に他ならない。「もはや米1国では中国に対抗できない」バイデンが、日本から対面外交開始したのも、日本が最も手なずけやすいパートナーと見なしているからだろう。
前例ない中国全面批判
 本題に戻る。3月16日東京で開かれた日米「2プラス2」の結果をみると、バイデン政権が、日本を米中対立の最前線にしようとの思惑が透けて見える。まず「2プラス2」合意を、「共同発表」から点検しよう。
 ①日米は、中国による既存の国際秩序と合致しない行動は、日米同盟及び国際社会に対する政治的、経済的、軍事的及び技術的な課題(筆者注:英語では「CHALLENGE」=挑戦)を提起していることを認識。ルールに基づく国際体制を損なう、地域の他者に対する威圧や安定を損なう行動に反対することを確認
 ②中国海警法等の最近の地域における混乱を招く動きについて深刻な懸念を表明
 ③日米安全保障条約第5条の下での尖閣諸島を含む日本の防衛に対する米国の揺るぎな いコミットメントを議論し、日米は現状変更を試みる、あるいは尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動に引き続き反対
 ④台湾海峡(写真 Wikipedia)の平和と安定の重要性を強調
 ⑤南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動への反対を改めて表明
 ⑥香港及び新疆ウイグル自治区の人権状況について深刻な懸念を共有
 米中の政治、経済、軍事、IT技術をめぐる対立のみならず、尖閣、南シナ海、台湾、香港、新疆の人権問題まで、米中戦略対立のすべてのテーマを網羅し、中国側の姿勢を批判し、「反対」し、「懸念」表明したのである。日米がこれほど包括的に、中国を全面批判した外交文書はこれが初めてと言っていいだろう。
ブッシュが台湾に初言及
 そこで、歴史のタテ軸から合意を位置付けてみる。
 日米「2プラス2」が現在のような外務。防衛閣僚によるスタイルになったのは1990年から。それ以来の約30年歴史で、最初に中国と台湾に言及したのは、ブッシュ(子)政権時代の2005年2月19日(ワシントン)である。新たな「日米共通戦略目標」に、「中国が地域及び世界において責任ある建設的な役割を果たすことを歓迎し、中国との協力関係を発展させる」という文言と「台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す」との一文を入れた。
 これに対し当時の中国外務省報道官は「日米軍事同盟は二国関係の枠を超えてはいけない。(台湾言及は)中国の主権に触れており、断固反対」と批判した。だが、中国への言及は、「批判」ではなく「協力」に重点があり、北京は反論を控えている。2001年「9・11」以降、イスラム過激派に対する「対テロ戦争」で、米中が足並みを揃えた状況の反映である。
名指し批判避けたオバマ
 米中協調のトーンは、オバマ政権になると微妙に変化する。2011年6月21日の「2+2」で、日米は「共通戦略目標」を更新し、台湾については馬英九政権下での両岸関係の改善を受け「両岸関係の改善に関するこれまでの進捗を歓迎しつつ,対話を通じた両岸問題の平和的な解決を促す」とした。
 一方、中国については「日本,米国及び中国の間の信頼関係を構築しつつ,地域の安定及び繁栄における中国の責任ある建設的な役割,グローバルな課題における中国の協力並びに中国による国際的な行動規範の遵守を促す。中国の軍事上の近代化及び活動に関する開放性及び透明性を高め,信頼醸成の措置を強化する」と、中国台頭に注文をつけた。
 2011年はオバマ政権がアジア回帰戦略を11月に打ち出した年。この「2+2」では、ヒラリー・クリントン国務長官が、中国の海洋進出について「地域に緊張をもたらしている」と、口頭で名指し批判したと伝えられた。ヒラリーが、南シナ海問題に対する米国のスタンスを、「中立」から「米国益にかかわる」へと転換した翌年でもあった。
 この時の「共通戦略目標」は、中国に「国際的な行動規範の順守」を求め、軍事力強化に「透明性」を求めるなど、大国化への懸念を滲ませた最初の「2プラス2」になった。しかし名指し批判は一切避け、冒頭では「中日米の信頼構築」と、グローバルな課題での協力をうたい対決姿勢は避けた。中国外務省は2日後の6月23日の記者会見で「中国は平和発展の道を堅持しており、防御的な国防政策をとっている」と反論した。台湾言及については「2国間の範囲を出るべきではない」と、型通りの批判にとどめている。
防衛力強化し中国に対抗
 トランプ政権は、台湾への米国の政治・軍事関与を大幅に強化し、「一つの中国」政策を実態的に変容させた。しかし日米同盟の在り方を決める「2+2」は重視しなかった。「同盟軽視」と言われる所以だ。
 「2+2」は2017年8月17日と 2019年4月19日の2回開かれたが、17年の共同発表は南シナ海問題で「航行の自由を支える各々の活動をはじめ,日米の継続的な関与が重要である旨一致した」と書いた。19年は「東シナ海及び南シナ海における現状を変更しようとする威圧的な一方的試みに関し,深刻な懸念及び強い反対の意を表明」と、中国を念頭に「反対」を表明したが、中国名指し批判はせず台湾にも言及していない。
 トランプ個人は、台湾問題には無関心だった。米記者ジョン・ローギンの新書によると、トランプは大統領就任直前の2016年12月の蔡英文・台湾総統との電話会談の後の習近平との電話会談で、「台湾にはもう電話しないと約束」。その後は、「もし中国が台湾に武力行使しても、米国がやれることは何もない」と、周辺に語ったという。
 こうして振り返れば、今回の「2プラス2」の対中批判が、いかに突出しているかが分かるはずだ。
 共同発表でもう一つ強調したいのは、冒頭で「日本は国家の防衛を強固なものとし、日米同盟を更に強化するために能力を向上させることを決意した注3とうたった点。中国に対抗して軍事力強化を誓約し、中国に対峙することを厭わない決意表明である。
「米国の戦略的属国」と非難
 これだけ徹底した中国批判を展開した以上、中国側も見過ごすわけにはいかないだろう。中国外務省の趙立堅副報道局長(写真 中国外交部HP)は、冒頭の「米国の戦略的属国となり、中日関係を破壊しようとしている」という発言に続いて「オオカミ(筆者注 米国を指す)を家に入れ、地域の全体的な利益を売り渡そうとしているが、人心を得ていない」と、対米批判で締めくくっている。
 趙発言は6項目からなり、非常によく整理されている。中国外務省が周到に検討を重ねたことがうかがえる内容だ。習近平国家主席の国賓訪問の可能性が遠のき、中国が対日政策の見直しを進めていることを裏付ける。このキツイ対日批判は、直後の3月18日、アンカレッジでの米中外交トップ協議が、派手なバトルを展開したニュースに隠れあまり注目されなかった。今後、ことあるごとに表れるはずの対日姿勢の微妙な変化を見落とすと、日本は選択を誤る恐れがある。

「正常な軌道」を外れた
 王毅外相は4月5日、茂木敏光外相と約1時間半にわたって電話会談した。中国側の申し入れによる会談だった。中国外交部注4によると、王は「中国は、日本が独立国として中国に偏見を抱く一部の国に『あおり立てられる』のではなく、中国の発展を客観的かつ合理的に見ることを望んでいる」と注文をつけた。「米国の戦略的属国」とは言わず、表現は柔らかいが、同じ趣旨の発言である。
 一方、日本外務省の発表注5は王のこの発言には一切触れていない。茂木が王に対し「中国海警による尖閣領海への侵入、中国海警法、南シナ海情勢、香港情勢及び新疆ウイグル自治区の人権状況について深刻な懸念を伝達し、具体的な行動を強く求めた」ことを強調した。外交会談では、双方がそれぞれ言いたいことを発表するから、相手の主張を盛り込まなくても不思議はない。
 電話会談について中国共産党機関紙・人民日報系の「環球時報」注6は、中国の日本問題専門家、中国社会科学院の王鍵・研究員らの分析を引用し「王毅の態度表明は、中国のレッドラインを踏まないよう注意喚起し、中日協力を維持するため余地を残した最大の善意」と論評した。
 注目されるのは同紙が「中日関係改善の正常な軌道に早く戻ることを希望する」と書いている部分。日中関係は既に「正常な軌道」から外れたという現状認識に立っていることを示している。日米首脳会談で「2プラス2」同様、台湾問題をはじめ香港、新疆問題などで憂慮表明をすれば、内政干渉として全面批判に転じる用意があると受け止めるべきだろう。
 中国外交部の発表には茂木が「日本側は、東京オリンピックと北京冬季オリンピックの相互支援について、様々な分野での交流と協力を強化する用意がある」と語ったと書いているが、日本外務省の発表には一切触れていないことを指摘しておく。
「仲介者の役割捨てた」と批判
 別の中国外交関係者は筆者に、趙発言について「国交正常化以来、最も激しい対日強硬発言」「中日関係に大変化」と形容した。中国は、米中戦略的対立が激化する2018年以来、安倍政権への激しい批判を封印し、盧溝橋事件など日本の侵略関連の歴史行事も、外交問題に発展しないよう抑制し続けてきた。米中戦略対立を有利に展開するため、日本、韓国、インドなどの中国近隣国との友好関係を重視したからである。中国識者やメディアの中には、日本に米中対立の「仲介役」を務めるべきという主張すらあった。
 識者だけではない。環球時報は3月16日付社説で、趙発言について「2プラス2の中で、中国に対する最も強力な声明であり、日本はワシントンの対中姿勢に屈した」とし、「北京の東京に対する信頼を弱める」と批判した。
 この中国外交関係者は、「日本は今回、あらゆるカードを切り尽くした。米中対立の中で、日本が果たすべき(仲介者の)役割を自ら捨てたのだ」と、筆者に語った。さらに、日中間の懸案、習国賓訪日についても「日本側が障害を設け事実上中止された」とみなしている。そこから判断すれば、これまで習訪日にマイナスになるような対日批判を控えてきた中国側が、今後は遠慮なく対日批判を展開する余地が生まれたことになる。
日米認識は「世界標準」ではない
 日米「2プラス2」での対中認識には普遍性があるのだろうか。そこで、米主導で3月開かれた日米豪印4か国(クアッド=QUAD)首脳会合(写真 外務省HP)をヨコ軸に眺めると、それは「世界標準」ではないことが分かる。紙幅の関係で全面展開しないが、3月末「東洋経済ONLINE」に書いた記事注7をお読みいただきたい。
 バイデンはQUAD首脳会合に当たり、「中国包囲網」の形成に慎重なインドを引き入れるため、インド製ワクチンを途上国に供与する枠組み構築を前面に出し、中国名指し批判は一切やめ、包囲網色を薄めた。採択された共同声明注8は、QUAD外相会議(2月18日)での「中国の力による一方的な現状変更の試みに強く反対」という文言や、日本が主張した香港や新疆ウイグル自治区での人権問題も盛り込まなかった。
 首脳会合開催の発表(3月10日)も、ホスト国の米国より早くインド政府に発表させ、「花を持たせる」涙ぐましさ。インドの包摂が同盟・友好国強化に弾みをつけるのか、あるいは米日の足を引っ張る「重荷」になるのか。6月英国で開かれるG7サミットの場で開かれる可能性があるQUAD首脳会合の内容に注目したい。
当事者から最前線へ
 新型コロナ・ワクチン接種で大幅に立ち遅れ、第4波に見舞われている深刻な状況の中で、菅政権が、対中包囲網を仕掛ける日米同盟強化になぜこれほど前のめりになるのだろう、その狙いをまとめる。
 第1に、「東アジアでの米国の軍事的な優位が崩れつつある」との認識が、政府・与党だけでなく立憲民主、共産など野党や世論を含め大政翼賛的な「共通認識」になりつつあること。米インド太平洋軍によると、アジアに展開する中国軍戦闘機は1250機で、米国の5倍。2025年にはさらに8倍に拡大。軍艦船数も既に中国が米国を上回り、地上配備型中距離ミサイルでは、中国が圧倒する。「中国脅威論」が、その内実はともかく主流民意になっているのは否定できない。
 第2に、安倍政権が野党の反対を押し切って成立させた安保関連法案は、日米軍事一体化を進めることによって、米国劣勢を補完するのが大きな狙いだった。自衛隊は「武器等防護」の名目で外国艦艇や航空機を護衛することが可能になり、2017年5月に米補給艦を護衛して以来、米艦防護は毎年増え続け20年は25件と最多になった。「いずも」型護衛艦2隻の空母化も決まり、南シナ海で米軍が進める「自由航行作戦」を事実上補完する役割も果たそうとしている。
 安倍晋三前首相は3月27日の自民党新潟県連主催の講演で、対中国政策をめぐり「インド太平洋地域がフロントライン(最前線)になった」「日米安全保障条約が本当に重要になってきた」と述べ、日本が「最前線」に立つ決意を鮮明にした。日本は米中対立の「当事者」になったばかりか、米国の「先兵」になろうとしている疑念を抱かせる。
 第3は尖閣周辺での「中国の脅威」を煽ることで、自衛隊の南西シフトを強化・加速する狙いである。日本政府は、中国海警船による領海での日本漁船追尾や、中国の海警法施行を、中国が尖閣を武力で奪おうとしているという宣伝に利用し、メディアがそのまま伝えることによって、この認識は世論にも浸透している。
 離島防衛での日米協力については、日本が一義的に担うことで日米が合意している。米国からすれば「尖閣防衛」は、米国の国益とは直接かかわりのないテーマであろう。米国防総省のジョン・カービー報道官は2月23日の記者会見で「日本の主権は尖閣諸島に及ぶ」と発言しながら、3日後に訂正・謝罪した。国務省と国防総省の対立という見方がある一方、尖閣問題に対する米当局の認識レベルの低さを指摘する見方も消えない。
 日本外務省高官は「日本がまず自分たちで戦うことが前提。そうしなければ米国は守ってくれない」と、率直に語る。米国に日米安保条約5条適用をしつこく迫るのも、「中国脅威」を世論に浸透させるだけでなく、米国の尖閣防衛に懐疑的な見方が日本政府内にあることも付け加えたい。
台湾「有事」対応を検討
 第4は、尖閣の視線の先にあるのが台湾問題である。中国軍による台湾侵攻を過剰に宣伝することによって、自衛隊の装備強化と南西シフトに利用しようとする思惑だ。特に、中国が1250基配備しているとされる地上配備型中距離ミサイルは、台湾有事になれば、沖縄の米軍基地を標的にする可能性があるとみる。南西諸島の陸自ミサイル部隊に、中国ミサイル搭載艦艇に対抗する役割も担わせようとしている。
 尖閣防衛を名目に、近く行う予定の自衛隊と米海兵隊や空軍が参加する大規模合同演習も、単に離島防衛にあるのではなく台湾有事に向けた演習ととらえるべきだろう。「2プラス2」の岸信夫防衛相とオースチン国防相との16日の会談では、台湾海峡で不測の事態が起きかねないとの懸念を共有し「台湾有事では緊密に連携する方針」を確認した。
 岸は「日本の平和と安定に大きく影響を及ぼす」として、台湾支援に向かう米軍に自衛隊がどのような協力が可能か検討する必要など、踏み込んだ発言をした。台湾有事に対し政府内で、日本への直接の武力攻撃に至る恐れがある「重要影響事態」と認定するかどうか、米軍の艦艇や航空機を守る「武器等防護」の発令が可能かどうかなど、具体的な検討に入っている。自民党内右翼による「日本版台湾関係法」や「日台交流基本法」制定を求める動きも、「台湾有事」と連動している。
外交努力で地域の安定を
 メディアは中国が「尖閣を奪おうとしている」と、まるでオオカミ少年のように繰り返す。しかしここは冷静に、中国の尖閣問題に対するポジションを確認したい。尖閣や南シナ海問題は、中国にとって武力を行使しても守るべき「核心利益」と見なすメディアや識者がいるが、それは中国の意図への曲解である。
 第1に、領有権紛争について、鄧小平は①主権は我々にある②争いは棚上げ③共同開発―の3点を挙げてきた。習近平も2013年にこの方針を再確認した。従って尖閣でも、領有権争いは「棚上げし、共同開発」が、中国の原則である。第2に、尖閣問題が最大の焦点になった1978年の日中平和友好条約1条は「すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する」と明記していることを忘れてはならない。
 第3は大環境。米中戦略的対立がバイデン政権後も長期化する見通しの中で、習政権は日本、韓国、インドなど近隣諸国との「友好関係」を重視している。尖閣を含め、日本との対立・衝突は可能な限り避けたいのが本音である。
 政府・自民党は、首脳往来による日中関係改善のコマを進めてきた安倍という「突っ張り棒」を欠き、右翼勢力の抑えが効かなくなったことも付け加えたい。対中抑止とけん制ばかりに神経をすり減らさず、指導者間の信頼関係の構築こそ基本だ。菅は訪米に続いて5月には「対中けん制」のためフィリピン、インドを訪問する準備に入ったという。対中外交など眼中にないようだ。
 「共通の敵」の脅威をあおり、抑止を強調するだけでは軍拡競争につながる「安保のジレンマ」に陥るだけである。安全保障とは抑止だけでなく、外交努力を重ね地域の「安定」を確立するのが本来の目的であることを忘れてはならない。
(了) 
 
注1 日米安全保障協議委員会(2+2)共同発表(外務省HP)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100161034.pdf
注2 「2021年3月17日外交部发言人赵立坚主持例行记者会」(中国外交部HP)
2021年3月17日外交部发言人赵立坚主持例行记者会 — 中华人民共和国外交部 (fmprc.gov.cn)
注3 日米安全保障協議委員会(2+2)共同発表(外務省HP)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100161034.pdf
注4 王毅同日本外相茂木敏充通电话(4月5日 中国外交部HP)
https://www.fmprc.gov.cn/web/wjbzhd/t1866937.shtml
注5 日中外相電話会談(4月5日 外務省HP)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press6_000787.html
注6 中國外長告訴日本「不要把手伸太長」 專家:中方已釋放最大善意(4月6日 環球時報)
https://twgreatdaily.com/zh-hk/BhROp3gBrsvY2_UudHX3.html
注7 「日本とアメリカの「中国観」は世界標準なのか 日本とアメリカの対中観には偏見がある」
https://toyokeizai.net/articles/-/417862
注8 日米豪印首脳共同声明(3月13日 外務省HP)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100159229.pdf
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