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     第138号 2022.05.06発行 by 岡田 充
    政権に取り込まれたリベラル派
翼賛化する日本の政治・世論
 日本の政治と世論の翼賛化が急速に進んでいる。強国化する中国への反感をベースに、ロシアのウクライナ侵攻が、翼賛化に決定的役割を果たした。約1年前の日米首脳会談の共同声明は、日米安保の性格を「地域の安定装置」から「対中同盟」に変質させた。しかし護憲を建前にするリベラル勢力は異議を唱えなかった。ウクライナ侵攻をめぐる対ロシア制裁や、「防衛装備品」の疑いのある防護マスクやドローンの供与にも、反対の声は聞こえてこない。政権の暴走にブレーキを掛ける勢力がいない翼賛政治は、極めて不健康だ。その経緯を振り返り、政権と一体化する原因と背景を探る。
小池発言で「市民権」
 「リベラル」という政治勢力が、全国メディアや世論で「認知」されたのはそう古くはなく、2017年10月の衆院選挙直前からとされる。「55年体制」では自民党の「保守」、社会党に代表される「革新」が主要な対立軸だった。冷戦終結に伴い「左右」や「保革」という対立軸は次第にリアリティを失っていた。保守はともかく、「革新」や「左」に代わる適切な代名詞は、なかなか見つからない。
 2017年の衆院選直前、民進党が分裂した。小池百合子・東京都知事(写真上 小池発言を伝えるANNニュース画面)が率いる「希望の党」への合流組と、民進党リベラル派を集めた「立憲民主党」(立民党)などに分かれたのが、リベラル派誕生の契機だった。
 この時小池氏は、「リベラル派を『大量虐殺』するのか」と聞かれ、「(リベラル派が)排除されないということはない。排除する」と発言してからリベラルは「市民権」を得た。立民党を含め、共産党や社民党などに「リベラル」の代名詞がつくのである。
出発点は「政権批判勢力」
 では「リベラル」とは、どんな政治姿勢に立脚しているのか。広辞苑はリベラルを「個人の自由、個性を重んずるさま。自由主義的」と説明する。しかしこれでは具体的政策イメージはつかめない。
 保守与党、自由民主党の英語訳は「Liberal Democratic Party」だし、岸田文雄首相も自民党政調会長時代、「私はリベラル、ハト派」と自認した。ならば自民党も岸田氏も「リベラル」になる。
 そこで、立民党の政治姿勢を、政治争点に沿って挙げれば、①憲法改正に消極的②安保関連法は憲法違反で反対、③「共謀罪」法に反対、④原発ゼロを主張⑤夫婦別姓に賛成、⑤首相の靖国神社公式参拝に反対―などになろう。少なくとも、リベラル派とは政権批判勢力という位置付けが成立する。
香港デモ支持は“代償行為”
 冒頭書いたように、リベラル勢力の姿勢変化が顕在化するのが国際政治、とりわけ強国化する中国への評価だった。中でも香港政府が2019年、犯罪容疑者を中国大陸に送るのを可能にする「逃亡犯条例」導入を機に、200万人もの大規模デモ(主催者発表)を展開した民主化運動への同情と、これを力で封じた中国への反発は大きかったと思う。
 立民の前身の民主党は2015年、安倍政権による安保関連法案の大規模反対デモを展開したが、安倍政権は同年9月に過半数の反対(複数の世論調査)を押し切り成立させた。安保法制での敗北は、リベラル勢力に大きな無力感と喪失感をもたらした。 
 そこに降ってわいた2019年の香港大規模デモ。リベラル派とTV(写真 TBS「サンデーモーニング」で香港問題の解説をする安田菜津紀さん)など全国メディアの香港デモ支援の背景は二つあった。
 第1に「独裁中国」への反感と忌避感。そして第2は、「民意が政治を動かす」という直接民主の成果を、香港人が成し遂げようとしていることへの称賛。リベラル派が自分たちの姿を香港に投影し声援する“代償行為”的支持とも言える。
 香港デモや新疆ウイグル自治区をめぐる人権問題を機に、政界ではリベラル派による新たな動きが出てきた。その一つが2021年4月、立民党や国民民主党議員らの超党派の「人権外交」を推進する議連や、超党派の「日本ウイグル国会議員連盟」の成立。「人権議連」では鋭い政権批判で知られる元衆議院議員の山尾志桜里氏(菅野に復姓)が、自民党の中谷元防衛相とともに、共同会長に就任した。
二つの法体系の共存失墜
 ここで少し日本政治史を振り返る。1952年のサンフランシスコ平和条約で独立した日本は、戦争放棄をうたい「軍事によらない」日本国憲法と、日米安保を外交・安全保障の基軸に、「軍事による平和」を前提にする日米安保条約の、矛盾する「二つの法体系」の下で生きてきた。
 バブル経済がはじけるまでは、左派が憲法を、右派が安保条約をそれぞれ掲げ争ってきた。しかし政治的に対立しても、経済のパイ拡大には左右とも異論はなく、二つの法体系は矛盾を抱えつつも「共存」できたのである。
 しかし21世紀に入り、中国が政治・経済・軍事で台頭する一方、日本衰退が加速度的に進行する。その一方、「二つの法体系」の矛盾を封印し共存させてきた「経済的パイの拡大」は期待できなくなった。この結果、安保法制が発効して以降は、「憲法法体系」の政治的影響力は急速に衰えていく。リベラル派が脱力していく政治・経済の背景である。
台湾への情緒的接近促す
 バイデン米政権は、中国との闘いを「民主vs専制」のイデオロギー対立と位置付け、台湾問題を攻防の中心に据えた。これと併行し、安倍政権以来の歴代政権が、台湾有事と尖閣(中国名 釣魚島)危機を煽ったことも、政治と世論の動向に大きな変化をもたらした。
 世論でも「憲法」法体系の力は後退し、中国を軍事的に抑止する「日米安保」の法体系が優位に立つようになる。軍事力をちらつかせて統一を迫る中国に抵抗する台湾は、民主、自由、人権の「普遍的価値」を共有する日本のパートナーとして同情が広がった。
 リベラルを代表する「朝日新聞」や同社発行の週刊誌「AERA」、岩波書店発行の「世界」の論調は、香港デモ以来中国に極めて厳しい姿勢に変わったことに気付いた読者は多いと思う。
 外務省が4月20日発表した外交世論調査で、対中外交で重視すべき問題として「領海侵入などに対し強い姿勢で臨む」が、61・6%と最多だった。しかし、3年前から中国公船が日本漁船を追いかけ領海に入るケースの大半は、右派団体が雇った船の領海入りという挑発が真相。詳細は拙稿
注1をお読みいただきたい。
 日米両国にとって台湾の存在は、主要には中国を軍事抑止するカードとして利用することにある。台湾問題で語られる「民主」とは、中国抑止のための「価値観外交」の効果的な宣伝ツールだ。安倍晋三元首相が「台湾有事は日本有事」と公言するのは、南西諸島のミサイル要塞化など対中軍拡路線を加速させる政治的意図が潜む。同時に政治と世論の翼賛化という現状こそ「チャンス」と見ているのだと思う。
自由な言論封じる翼賛
 政界でも最大野党が“政権批判”党から“提案型”政党への脱皮を目指し、国民民主党は、2022年度の政府当初予算案に初めて賛成した。ここまでくると「翼賛政治」にブレーキはかからないとすら思える。
 岸田政権で外相になった林芳正氏は、日中友好議員連盟会長を務めた後も自民党右派からは「媚中派」のレッテルを貼られている。連盟の後任会長には小渕優子・元経産相が有力視されている。
 しかし彼女は就任を躊躇しているという。「反中」が主流の翼賛政治・世論の「同調圧力」のため、とされる。中国やロシアに同情的発言をすれば、「選挙に不利」と本音を漏らすリベラル派議員は少なくない。言論弾圧がなくても、「翼賛政治」は同調圧力という見えない空気によって、自由な言論空間を封じる効果がある。それが日本の伝統的な政治・世論風土でもある。
祖国防衛戦争の絶賛で一体化
 日本国会は3月23日、ウクライナ戦争の一方の当事者であるゼレンスキー・ウクライナ大統領に国会演説(写真 首相官邸HP)を許し、500人を超す超党派議員が詰めかけた。演説を聞いた岸田首相は「祖国と国民を~中略~守り抜いていこうとする姿に感銘を受けた」と述べ、共産党の志位和夫委員長も「祖国の独立を守り抜くという強い決意が伝わってきた」と、政権トップからリベラル勢力まで「祖国を守る戦争の正しさ」を絶賛した。
 政権とリベラルが一体化した、なんともグロテスクなシナジー(共振)。「翼賛政治」のただなかにいる実感が沸く。ゼレンスキーは、「ウクライナ民族主義」を掲げ、成人男子の出国を禁止し国民に戦いを義務付けている。
 ロシア軍の侵攻は、国際法と国連憲章違反するのは明らか。しかし「国際紛争を解決する手段としての戦争」の永久放棄をうたう憲法精神を守らねばならない政治リーダーから「祖国を守る戦争」を絶賛する言葉は聞きたくない。
 この国会演説が将来、「翼賛政治が完成した」という歴史評価が下されないことを願うばかりだ。
(了) 
 (注)本稿は「東洋経済ONLINE」の拙稿(https://toyokeizai.net/articles/-/585142)「リベラル派が与党化し日本の『翼賛政治』が進ウクライナ侵攻で見えた日本のリベラル派の末路」に、加筆・修正した内容である。
   
注1 岡田充(海峡両岸論第121号「 王毅外相の『正体不明船』を報じないわけ
「対中弱腰」批判恐れるメディア」
http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/ryougan_123.html
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