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     第28号 2012.04.27発行 by 岡田 充
    際立った両岸の深い溝
「一国両区」をどう読むか


 馬英九の2期目の総統就任式典(5月20日)まで1カ月。北京が「急いでいる」と伝えられた「政治協議」の早期実現の可能性は遠のいたが、両岸の将来をめぐる北京と台北の腹の探り合いが続いている。その中で、台北が投げた「一国両区」という新しいボールが波紋を呼んだ。呉伯雄・国民党名誉主席が3月22日北京で行った胡錦濤・共産党総書記との会談(写真・中国新聞社)で、「両岸関係の法的基礎」として初めてこの用語が
登場する。鄧小平が、香港返還と台湾統一をにらんで打ち出した「一国両制」と一字違いの新語。野党、民主進歩党(民進党)側は「独立主権国家である台湾を一地区として矮小化し中華民国を消滅させる発言」と批判。これに対し政権与党側は「一中とは中華民国を指し、現状の説明にほかならない」と弁明する。現状の説明というなら単なる「言葉遊び」に過ぎない。北京は「一国両区」への明確な判断を示さないまま、呉伯雄が述べた「両岸は共に一つの中国に属する」(「両岸同属一中」)という部分を重視して、「同属一中」こそ、「両岸の政治的基礎と信頼関係を強化の基本」と強調し始めた。「小異」ではなく「大同」を重んじ、政治協議に向け両岸関係を一歩前進させたい期待がにじむ。台北はその後この新語を使っていない。政権与党側の背景説明や発言をみれば、台北は「一中各表」(一つの中国の解釈は、中台各自に委ねる)の現状を可能な限り維持し、政治協議や平和協定は遅らせたいのが本音であろう。「一国両区」をめぐる論議をみると、両岸の溝の深さが、歴史だけではなく、「法」と「実態」の矛盾に根差していることを改めて思い知らされる。

中台の基本認識
 まず「一国両区」が飛び出した第5回「呉胡会談」の内容をふり返ろう。呉が会談後、台湾記者注1に明らかにした内容がベースである。少し長いが馬英九政権・与党の、台湾の地位に関する基本的な認識なので詳細に紹介したい。会談での発言について呉は、「すべて総統の授権を得たもの」と強調し、発言は呉個人ではなく公的な認識だと強調している。発言を箇条書きにする。
  1. 先の総統選挙では、国民党の「92年合意」と反台独の堅持、台湾人の繁栄と清潔、平和への希求が多数の民意の支持を得た。
  2. 「92合意」堅持は、国民・共産両党の重要な政治相互信頼である。双方とも現行体制と法律規定により、それぞれ「一つの中国」を堅持しているが、「一つの中国」(の内容)については双方とも差のある表述をしている。
  3. このため双方は「小異を捨て大同につく」ことが必要。大同とは「両岸は共に一つの中国に属する」(「両岸同属一中」)ことであり、小異に対しては「現実を正視し、争点は棚上げ」(「正視現実」「擱置争議」(表1参照)する。
  4. 台湾が両岸関係を推進する根拠は「両岸人民関係条例」にあり、「一国両区」概念の法的基礎である。従って両岸事務を処理する部門は大陸委員会にあり外交部ではない。これは両岸が決して国と国の関係ではなく、特殊な関係であることを示している。
 これに対し胡錦濤はどう応じたのか?呉伯雄が台湾記者に明らかにした内容は次の通りである。
  1. 両党と両岸が、政治相互信頼関係を強化・増進することは、今後も両岸関係が良好発展する勢いを保つ主要なカギであり前進の動力である。
  2. 政治互信の増進とは、「92合意」を堅持し、台独に反対すること。両岸は統一していないといえども、中国の領土と主権は分裂しておらず「大陸と台湾はともに一つの中国に属する」という事実に変わりはない。
  3. 「一つの中国」の枠組みを維持することは、双方の政治相互信頼関係の増進に有利であり、両岸関係の安定に有利。
 読んでわかるように、胡錦濤は「一国両区」という「キーワード」に全く反応していない。会談を伝えた中国国営新華社通信も「一国両区」という用語は伝えず、「両岸関係は国と国の関係ではなく、特殊な関係」という呉発言のうち、「特殊な関係」という表現を省略して伝えた。中国側が「一つの中国」だけを重視していることがうかがえる。

憲法と条例が根拠
 では「一国両区」とは何か。呉伯雄は、両岸関係を推進する根拠として「両岸人民関係条例」を挙げた。これは李登輝総統時代の1992年、台湾が中国大陸と経済・文化・人的交流を進める上で整備した「国内法」である。中華民国憲法は、中華人民共和国が実効支配している地域も「中華民国の領域」という虚構を前提に成立している。そこで大陸との交流を進めるには、両岸関係を整理しなければ法的な整合性は保てない。李登輝はまず中華民国憲法の第11条注2として「自由地区と大陸地区間の人民の権利・義務関係およびその事務処理は、法律により特に定める」とする条文を追加した。この規定に基づき同年制定されたのが「台湾地区と大陸地区人民関係条例」注3(略称「両岸人民関係条例」)である。
 条文の内容は興味深い。主権や領域についての法律(デ・ジュリ=de jure)が、実態(デ・ファクト=de fact)に基づかない虚構の見本のような法律である。具体的にみてみよう。第1条は「国家の統一前に、台湾地区の安全と民衆の福祉を守り、台湾地区と大陸地区人民の往来を規定し、(往来によって)派生する法律事件を処理するため特に本条例を制定する」と立法の趣旨を書いている。そして第2条で「地区」を定義する。台湾地区を「台湾(本島)、澎湖、金門、馬祖および政府の統治権が及ぶその他の地域」と規定し、「大陸地区」は「台湾地区以外の中華民国領土」とした。
 これを読めば、台湾側の法的な建前が①中国との統一は依然として国是②中華人民共和国が実効支配している領域も「中華民国の領土」と認識する―ことが分かる。馬英九は、両岸政策の基本に「不統、不独、不武」の「三不政策」を挙げているが、法的には「統一を国是にする総統」であり、北京が独立派と非難する李登輝や陳水扁も「中華民国総統」である以上同じだったのである。2008年の政権交代以降、有効な対中政策が打ち出せない民進党だが、謝長廷・元行政院長が対中政策として「憲法一中」をたびたび挙げるのは、中華民国憲法が「一つの中国」を前提にしているため、「それなら北京も反対できず、交渉のテーブルに就ける」という含みである。
 さて台湾側が「一国両区」という考えを提起したのは、これが初めてではない。馬英九は2005年に国民党主席に当選した直後、「中国時報」とのインタビュー(8月5日付)で「両岸は二つの国家ではなく“一国両区”」と初めて言及した。ただこれは野党党首時代の話だから重みはない。総統就任後はどうか。2008年メキシコ紙とのインタビュー注4で馬は「双方の関係は二つの中国ではない。海峡両岸の双方は一種特別な関係にある」と答えた。この時は「一国両区」という言葉は使っていない。野党側からは当時「主権独立国家であることを否定し、台湾を香港と同様一地区に貶めた」と批判が噴出した。これに対し総統府の王郁琦注5スポークスマンは、憲法11条の規定を引用しながら「両岸は自由地区と大陸地区、つまり台湾地区と大陸地区である。両岸関係は国と国の関係ではなく中央と地方の関係でもない。台湾地区と大陸地区の関係である」と補足説明した。これが「一国両区」に対する台湾側の法的解釈だ。

「一中各表」の焼き直し?
 今回の呉発言にも野党から強い反発が起きた。「憲法一中」の謝長廷・元行政院長注6は「憲法の増修第11条は、両岸事務を処理する特別規定である。もし直接、主権(の規定)と解釈するなら、両岸(の力)や国際情勢の変化と消長から考えて台湾に不利」とみる。民進党スポークスマンの羅致政も「台湾は主権独立国家で、国名は中華民国。現状を変えるいかなる試みも台湾人の同意が必要である。これが台湾の主流民意だ。台湾を一地区に矮小化するなら、台湾の現状変更にあたり台湾放棄を宣言するに等しい」と批判した。民進党系のシンクタンク「台湾智庫」は、「一国両区」は「92合意」より「一中枠組」に近く、国民党が提起したのは,馬英九再選に対する北京への「誠意と善意の表明」とみる。
 3月25日、国民党の蘇起(元国家安全保障会議秘書長)のシンクタンクが主催したシンポジウム「台北フォーラム」注7では、与野党の識者が白熱した議論を展開したという。大陸委員会副主任の趙建民は、「一国両区」を弁護して、両岸が「互いに相手側の統治権を否認しない」(互不否認)の容認に役立ち、両岸当局間の連携パイプ作りに有利で、国家安全の確保にもつながると擁護した。これに対し、民進党系研究者が「一国両区は台湾を一地域におとしめ、馬総統は馬区長になる」と批判すると、趙副主任は「一国とは中華民国のことだから、区長というなら馬総統の下に2人の区長がいるということ」と反論した。また馬総統に近いシンクタンク「両岸交流遠景基金会」の孫楊明・事務局次長は、北京が政治議題を仕掛けてくることに備え、「一中とは中華民国」を明確にする「防衛的な提起」だと述べた。
 野党内には異論もある。郭正亮注8・元民進党立法委員は、民進党執政時代の8年間、民進党は憲法11条の改訂を主張しなかったから、民進党時代も憲法と両岸人民関係条例が規定する「一国両区」に事実上沿ってきたと述べた。つまり「一国両区」も、「92年合意」の「一中各表」と同様、現状の説明であり現状を改変するものではないという意味である。これに対し「一国両制」は、将来の統一後の両岸関係を述べた内容で、香港と同様台湾も中華人民共和国の一部として「特別行政区」になることが想定されている。
 政権に近い側からも「一国両区」を疑問視する声があがった。「台北フォーラム」に出席した銘伝大学教授の楊開煌注9は、「一国両区」は鄧小平の「一国両制」の真似にすぎず「相手側の反応を探るアドバルーン。相手側が同意しなければすぐ引っ込める無責任な提案」と批判した。さらに「一国両区は、両岸の人民間・政党間の問題を扱うだけで、政府の地位を定めたものではない。両岸が平等を追求するには新思考が必要であり、政治協議を開始しなければ、これまでの古いロジックにはまるだけ」と述べた。つまり、「一中各表」の焼き直しにすぎず、事実上存在する「ふたつの政府」の主権問題を解決するには、政治協議と国内法の整備が必要という原則論である。

北京は「同属一中」
 台湾側の受け止め方はこのぐらいにし、北京側の対応から中国の本音を探ってみよう。国務院台湾事務辨公室の楊毅スポークスマンは3月28日の記者会見注10で、胡錦濤・呉伯雄会談を「五つの成果」として総括した。楊は「双方は両岸が一つの中国に属するという新合意を達成した」とした上で、「五つの成果」を①両岸関係の発展は既に両岸同胞の普遍的な共感を獲得②双方は引き続き両岸の平和発展を推し進め、両岸関係に新局面を開くことに努力③双方は、両岸が一つの中国に属するという明確な共通認識を形成したと考える。両岸は国と国の関係ではなく一つの中国を堅持するとの基礎の上で、小異を捨て大同を求める(求同存異)。大同は「両岸はともに一つの中国に属する」であり、争点は棚上げする(擱置争議)④両岸同胞はともに中華民族に属し全て中国人である。台湾同胞の郷土を愛する“台湾意識”は「台独意識」とは同じではない⑤両岸の経済・文化交流と協力を引き続き推進、経済協力では共同利益を増やし文化領域では精神的絆を強め、直接往来では双方の感情を強める-と説明した。楊はさらに、今回双方が達成した合意を「12年合意」と呼び、「同属一中,共趨一中」(一つの中国に属し、一つの中国に向かう)に概括できると述べた。北京側が「一国両区」には一切触れず、「同属一中」を「92共識(合意)」に代わる新たな「12合意」にしたい本音が浮かび上がる。これは「我田引水」と言うべきかもしれない。
 「同属一中」をキーワードにしたい北京の本音は、ことし2月29―3月1日、北京で開かれた「台湾工作会議」に鮮明に出ている。台湾を担当する全国政治協商会議主席の賈慶林(政治局常務委員)が出席した会議について新華社電注11は「会議は、大陸と台湾が一つの中国に属することを強固にし、両岸の政治信頼関係の増強に努力し、引き続き“台独”分裂活動に反対、阻止すると強調した」と報じている。

中台「16字方針」の変化(表1)
蕭万長(08412日 博鰲) 胡錦濤(08429日 連戦会談) 呉敦義(124月1日、博鰲 李克強会談)
正視現實,開創未來、擱置争議,追求双贏(現実を正視し、未来を開き、争点を棚上げし、相互利益を追求) 建立互信、擱置争議、求同存異、共創双贏(相互信頼を確立し、争点を棚上げし、小異を捨て大同に就き、共同利益をともに創造) 求同存異、両岸和平、講信修睦、民生為先(小異を捨て大同に就き、両岸が平和であり、信用を重んじ和解を図り、国民生活を優先)

「両区」言及せず
 カレンダーが4月になると、両岸の舞台は海南島に移った。次期副総統の呉敦義・前行政院長は、1日から中国海南省で開かれた「博鰲アジアフォーラム」に出席、中国の次期首相に内定している李克強副首相と会談した。両岸の次期リーダー同士の初会談だけに、信頼関係の構築だけでなく、台北と北京がそれぞれ新たなシグナルを出すのではとの期待感が高まった。当然ながら「一国両区」への言及も焦点であった。
 4年前のフォーラムでは蕭万長・副総統が、台湾の両岸政策の基本方針を「正視現實,開創未來、擱置争議,追求双贏」(現実を正視し、未来を開き、争点を棚上げし、相互利益を追求)と16文字(表1参照)で提起。これに対し胡錦濤は国民党名誉主席の連戦に対し、中国側の基本方針として「建立互信、擱置争議、求同存異、共創双贏」(相互信頼を確立し、争点を棚上げし、小異を捨て大同に就き、共同利益をともに創造)と返した。
 さて呉敦義は1日、李克強と40分にわたり会談し予定通り「新16字方針」を提起した。それが「求同存異、両岸和平、講信修睦、民生為先」(小異を捨て大同に就き、両岸が平和であり、信用を重んじ和解を図り、国民生活を優先)である。「一国両区」は16字方針にも入らず、双方の公式報道を読む限り会談でも提起されなかったようだ。翌2日、台湾同行記者と懇談注12した呉敦義によると、16字方針は推敲に推敲を重ね、最後は馬英九が手をいれたという。初稿には「和平繁栄」という文言が入ったが、最終稿では「両岸和平」に変わったという。呉は「両区」ではなく「両岸」に戻ったところに意味があると台湾記者に述べている。

受け身の馬政権
 「一国両区」が台湾で政治的波紋を呼び、また北京も「無視」に近い反応だったことから、馬政権は再び波紋が広がるのを避けるため「両区」を入れなかったという見方が台湾では支配的だ。2008年の蕭万長と胡錦濤の16字方針を読むと①信頼関係構築②相違の棚上げ③ウィン・ウィン-を基調にしているのが鮮明だ。それに比べると新16字は、依然として「求同存異」を最初に出すなど、将来に向けた方向性が曖昧である。馬政権が、北京に対しても野党に対しても「受け身」の姿勢という印象が強い。
 その姿勢は吳敦義が2日に打ち出した、両岸の政治対話に関する「3条件」にも滲んでいる。海南島フォーラムでは1日、国台辨の王毅が台湾代表団の歓迎レセプションで「両岸経済協力は易しい事から始めるが、両岸の政治相互関係はさらに一歩強化し、不断に深化すべき」と挨拶した。王は「そうしてこそ経済協力も推進できる」と強調し、経済領域の問題を解決する上でも、政治対話推進が必要というシグナルを発信した。これを受け吳敦義は2日の同行記者懇談注13で、政治対話開始の条件として①両岸の誠意と善意②台湾内部の高度な共通認識③国内の民意の支持-の3条件を挙げた。この3条件に既視感はないだろうか。馬英九が昨年10月、中国との平和協定の締結条件として挙げた①国内民意の高い支持②国家の確実な需要③国会による監督―の3点とよく似ている。これに住民投票を加えれば、政治対話も平和協定同様、高いハードルが設けられることになる。

6つの継続
 話はこれで終わりではない。国台辧の王毅主任は米国訪問中の4月14日、ヒューストンで開いた華僑との会合で演説、北京の台湾政策を整理して「6つの継続」注14を発表した。3、4月の国民・共産両党、台北・北京両政府の会談を受けた北京の新たな台湾政策を概括したものである。特に重要なのは、中国側がたびたび強調する「政治的信頼関係の強化」の具体的な内容について初めて詳述した点である。少し長いが第2項を翻訳すると次のようになる。
 「われわれは引き続き、両岸双方の政治基礎を強化し政治信頼関係を増進する。政治基礎の強化とは、さまざまな形をとって表れる“台独”の主張を拒絶することであり、同時に92合意の核心的含意を守ることである。政治信頼関係の強化とは、両岸が一つの中国に属し(両岸同属一中)、一つの中国の枠組みを認める原則問題で、いっそう明確な共通認識と一致した立場を形成することである」
 すこし分かり難いが、第1期馬英九政権で北京は、台北と肩を並べ「92合意」を「台独」のリトマス試験紙にし、民進党を敗北に導いた。2期目には、「92合意」の核心的含意が「一つの中国」にある点を強調して、「各表」を薄める方針に転じたと言えるだろう。
 「6つの継続」の他の項目は次の通り。(1)両岸関係の平和発展を継続(3)先易後難、先経後政を継続、経済協力を両岸関係の優先重点とする(4)両岸各界の大交流の局面を継続し、文化教育領域の交流を積極的に拡大し深化(5)「以人為本」(人間本意)と「為民謀利」(民衆の福利)の継続(6)平和統一の大業の継続―である。

米国の「棄台論」
 両岸関係では別のボールがワシントンから投げられた。米国の有力識者の間で繰り返される「台湾放棄論」いわゆる「棄台論」だ。今回は、米カ
ーター政権で国家安全問題担当補佐官を務めたブレジンスキー(写真 Wikipedia)が米外交誌「フォーリンアフェアーズ」注15に寄稿した論文。彼は造語「一国数制度」(One Country、Several systems)が、「台湾の中国との事実上の再統合の基礎になるかもしれない」と述べ、中国と台湾の統一を主張した。米政権中枢にいた有力学者から統一論が飛び出したのは初めてであろう。アジア太平洋に軍事戦略の軸足を移したオバマ政権が、直ちに「棄台」するわけではない。ただ米中和解から40年、中国は世界第2位の経済大国に成長し、両岸関係も大幅に改善した今、中国との衝突を避けて米中が安定した協調関係を保つため、米中間のトゲになってきた台湾問題を見直そうとする試みとして注目してよい。ブレジンスキー論文は稿を改めて紹介したい。
 「フォーリンアフェアーズ」は昨年も、ワシントン大のチャールズ・グレーザーによる「棄台論」注16を掲載。米ポートランド州立大のブルース・ギリーの「それほど“危険な海峡”注17ではない 米安全保障に資する台湾のフィンランド化」」(「FOREIGNAFFAIRS」Jan/Feb 2010)と併せれば、同誌はここ数年、「棄台論」を掲載していることになる。これは単なる偶然ではなく、アジア政策全体の中から台湾政策を見直す動きが出てきたことを反映していると考えるべきであろう。王毅が米国で「6つの継続」を発表したこと。12日にはワシントンで、リチャード・ブッシュら東アジア研究者と懇談注18 した際「台湾問題が中米関係の消極要因ではなく、積極要因になることを希望している」と述べたのも、米国の風向きの変化を微妙にかぎとったからではないか。台湾側もブレジンスキー論文には神経を尖らせる。馬英九は3月27日、アーミテージ米元国務副長官ら米国のアジア専門化と会見注19した際、「棄台論」に反対した米識者にわざわざ謝意を表明しているのもそれを裏付ける。
 胡錦濤時代は秋の共産党第18回大会を機に終わりに向かう。胡・馬時代に両岸関係が好転したのは、北京が台湾問題を法律(デ・ジュリ=de jure)という「虚構」の世界からではなく、実態(デ・ファクト=de fact)に則して見つめ直し、「現状維持政策」へと舵を切ったことが大きかった。鄧小平の「一国両制」も、古い主権観念を超える実事求是の思考から生み出された。「一国両区」をめぐる議論を振り返ると、法と実態の整合性を求めることがいかに困難かをわれわれに教えている。(敬称略)

(了)
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1 「吳伯雄會胡錦濤替馬帶話首提一國兩區」(中国時報 3月23日)
2 「中華民国憲法増補第11条」(1992 年5 月27 日、国民大会通過)「自由地区と大陸地区間の人民の権利・義務関係およびその事務処理は、法律により特に定める」
3 臺灣地區與大陸地區人民關係條例
第 1 條 「國家統一前,為確保臺灣地區安全與民眾福祉,規範臺灣地區與大陸地區人民之往來,並處理衍生之法律事件,特制定本條例。本條例未規定者,適用其他有關法令之規定」。
第 2 條 本條例用詞,定義如下:一、臺灣地區:指臺灣、澎湖、金門、馬祖及政府統治權所及之其他地區 。二、大陸地區:指臺灣地區以外之中華民國領土。
4 メキシコ紙「ソル・デ・メヒコ」とのインタビュー(総統府HP 2008年9月3日 )
(http://www.president.gov.tw/Default.aspx?tabid=131&itemid=14151&rmid=514&sd=2008/09/03&ed=2008/09/05)
5 中央通信社(2008年9月4日)
6 「民進黨:一國兩區 消滅中華民國」(聯合報 3月24日)
(http://udn.com/NEWS/NATIONAL/NATS2/6983024.shtml
7 「一國兩區爭議 陸委會前後任副主委 看法迥異」(中国時報 3月26日 )(http://news.chinatimes.com/politics/50206922/112012032600128.html)
8 「郭正亮:綠執政 也沿用一國兩區」(聯合報3月24日)
(http://udn.com/NEWS/NATIONAL/NATS2/6983023.shtml)
9 「綠:一國兩區非共識」 (蘋果日報3月26日)
http://www.appledaily.com.tw/appledaily/article/headline/20120326/34114569
10 中国国務院台湾事務辧公室HP(3月28日)
http://www.gwytb.gov.cn/xwfbh/201203/t20120328_2409331.htm
11 「2012年対台工作会議在京挙行」(新華社 3月1日)
http://www.gwytb.gov.cn/wyly/201203/t20120302_2367075.htm
12 「博鳌聚焦吴李会 两岸关系重大突破仅一步之遥」(聯合報 4月3日)
http://udn.com/NEWS/OPINION/OPI4/7007652.shtml#ixzz1rEedB7R6
13 「兩岸政治對話 吳敦義拋三要件」(聯合報 4月3日)
(http://udn.com/NEWS/MAINLAND/MAI1/7003795.shtml)
14 「王毅主任在休斯敦侨界招待会上的讲话」(国台辧HP 4月14日)(http://www.gwytb.gov.cn/wyly/201204/t20120414_2435350.htm)
15 Zbigniew Brzezinski「Balancing the East, Upgrading the West U.S. Grand Strategy in an Age of Upheaval」103頁(「Foreign Affairs」January/February 2012)
16 Charles Glaser 「Will China's Rise Lead to War? Why Realism Does Not Mean Pessimism 」(「Foreign Affairs」March/April 2011)
17 「海峡両岸論」第11号「敵対的現状維持」の殻は固い 台湾のフィンランド化を検証する」(http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/ryougan_11.html)
18 「王毅:冀台灣問題成中美積極因素」(中国評論新聞 4月12日)
(http://www.chinareviewnews.com/doc/1020/7/3/5/102073506.html?coluid=145&kindid=5330&docid=102073506&mdate=0413094351)
19 「總統接見2049計畫研究所訪華團成員一行」(総統府HP 3月27日)
(http://www.president.gov.tw/Default.aspx?tabid=131&itemid=26797&rmid=514)

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