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     第36号 2013.04.14発行 by 岡田 充
    尖閣は日中が共に「実効支配」
首脳会談の早期実現は困難
 尖閣諸島(中国名 釣魚島)の「国有化」から半年が経った。中国側は、海洋監視船など公船を定期的に領海や接続水域に接近させ、着々と「実効支配化」の歩みを進めている。この間、日本側は総選挙での自民党圧勝を経て、第二次安倍晋三内閣が誕生。中国側も第18回共産党大会と、全国人民代表大会(全人代=国会)で、習近平・李克強コンビが正式スタートした。双方とも新しいトップが揃ったところで、関係改善に向けたハイレベル会談の実現に関心が集まっているが、早期実現の見通しは依然として立っていない。国有化から半年、尖閣をめぐる日中双方の主張に変化はあるのか。変化したものを整理しよう。

「新たな現状」を主張
 まず中国。国家海洋局の海洋監視船(写真 2012年10月 中国海洋監視船の“鼻先”を横切る海上保安庁の巡視船)3隻が4月1日、尖閣周辺の領海に相次いで入った。海上保安庁によると、中国公船の「領海侵入」は国有化以降35回目。ほぼ常態化したと言ってよい。中国外交筋は3月末「日本側の船は1日に8,9回(領海に)入っているに対し中国側は一週間に1,2度。日本の右翼の船が魚釣りを理由に入り、上陸するかもしれないという情報もあり、緊張状態に置かれている」と説明する。 
 外交筋は日本への要求として「表現はともかく、日本側が領土を巡り問題があることを認めること」が「必要条件」と述べるとともに、日本側がこの条件を飲んでも、中国側が常態化している「海洋監視船など公船の接近(領海侵犯)は止めない」と言明した。中国外務省は、日本が国有化した昨年9月10日、中国側の基本的立場を表明する声明を発表した。声明をもう一度読み直してみよう。最後に「双方の共通認識と了解事項に立ち返り、交渉によって係争を解決する道に戻るよう強く促す」と書いている。「共通認識」と「了解事項」とは何を指すのか? 声明は「両国の先輩指導者は大局に目を向け、『釣魚島問題をそのままにし、今後の解決に待つ』ことで重要な了解と共通認識〈合意〉に達した」と中程で書いている。つまり、領有権問題の「棚上げ」である。
 そこで外交筋に「棚上げの共通認識と了解事項に立ち返るという中国の方針は生きているのか」と問うと「棚上げ方針に変更はない。ただ中国船が(日常的に)領海に入るという新たな現状が出発点」と答えたのである。言い換えれば、尖閣は日本だけが実効支配しているのではなく、「日中が共に実効支配」しているという認識だ。「棚上げ」すべき現状は、2012年9月11日以前と以後では異なるという解釈でもある。これは中国側の大きな変化というべきであろう。
 ここで1月25日、北京で行われた習近平・総書記と山口那津男・公明党代表の会談を振り返ろう。双方は、日中首脳会談の実現に向け戦略的互恵関係を相互確認するなど、関係改善に前向きな姿勢を示した。ところがその直後の30日、中国の海洋監視船3隻が「領海侵犯」した。これを受けて、翌31日付の「朝日」朝刊は「中国、やめぬ侵入 尖閣、山口代表訪中後も」という記事で、会談直後も侵入が続いていることを疑問視し「習氏の発言と国家海洋局の活動の食い違い」と位置付けた。尖閣対応をめぐって中国の党・政府内に矛盾や亀裂が存在し、それが「矛盾した」行動として表れているという見立てである。

12カイリ内に入らぬ合意を
 事実関係を振り返る。中国は1月10日の全国海洋工作会議で、13年も尖閣周辺での国家海洋局によるパトロールの常態化を堅持することを確認した。海洋監視船をいつ、どのような形で「侵入」させるかは、政治判断と密接にかかわるが、パトロールを堅持することを確認する内容である。なにも「矛盾」してはいない。
 別の中国筋は3月初め、筆者に対し中国の要求として①日本側が領土問題の存在を認める②不測の事態が起きないよう12カイリ内には双方とも公船を入れないことで合意すべきだーと語った。同筋は「衝突などの不測の事態が起きないよう措置をとる必要がある」と強調し、具体的措置として、「双方とも公船を入れない」ことを挙げたのである。「実効支配しているのは日本」という立場の日本にはとても受け入れられない「提案」だろう。しかしこれもやはり「日中が共に実効支配」しているという新たな「現状認識」に基づく「提案」である。中国のパトロールの常態化は、尖閣の「共同管理」が狙いと言ってもよい。
 さて最初に紹介した中国外交筋の「表現はともかく、日本側が領土をめぐり問題があることを認めること」という発言の「表現はともかく」をどう読むか。1990年9月、日本の右翼団体「日本青年社」が魚釣島に灯台を建てた。海上保安庁がこれを「航路標識」として認める方針を出したことで日台中紛争が起きた時の、日本政府の対応に一つのヒントがある。日本政府は翌10月、尖閣に接近しようとした台湾船を阻止した。その説明に当たった当時の坂本官房長官は記者会見で台湾船の行動について「日本はもちろん中国、台湾が皆、(尖閣に)主権が及ぶと主張しており、各国の立場を述べたものだと思う」と答えた。もちろん、日本固有の領土であることを強調した上での発言だが、当時の認識は「それぞれ主張があることを認める」というものだったことがわかる。これも、領土問題の存在を認めるひとつの表現ではないか。
 中国側の監視活動に話を戻そう。中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)は3月14日、「汚職の温床」とされる鉄道部の解体と並んで、「国家海洋局」」を改組する国務院の機構改革を可決した。海洋局改組は、次の3点である。(1)海監(国家海洋局)、海警(公安部)、漁政(農業部)、海関(税関)の既存部隊を、国土資源管理部下の「国家海洋局」に統合(2)国家海洋局は公安部の指導下で、中国海警局の名義で海洋の権益維持と法執行を行う(3)国家海洋委員会を設置して、海洋発展戦略を策定。具体的業務は国家海洋局が担う。重要なポイントは、従来の海洋局の警察、農業、税関の所属部隊を統合し、機能を強化したことにある。
 新設の「国家海洋委員会」について、日本外交筋は「省クラスに格上げされたのかなど詳細は分からない。見守っている」としている。ただ4月1日付の中国紙、中国海洋報は、改組された中国国家海洋局が、尖閣諸島や南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)、西沙(同パラセル)、中沙の3諸島の周辺海域で、環境調査を強化する方針を決めたと報じた。具体的には、1年間に少なくとも2回、海水や海洋生物の状態などを調べるとしており、環境調査を名目にした中国船の活動がいっそう活発化する兆しを示している。

「現状変更は中国が先」
 一方、日本側の主張に変化はあるだろうか。外務省の石川浩司中国課長は、2月4日にインターネット上で放映されたの香港フェニックステレビ(鳳凰電視台)の討論番組に出演し、日本の主張を展開した。その論点は次の二つである。第一に、日本は国有化によって「現状打破」したと中国は主張するが、最初に現状打破したのは中国と強調した。それは2008年12月8日、魚釣島南東約6キロで、中国の海洋調査船2隻が約9時間にわたって日本領海に侵入した件を指す。番組で石川は「非常に驚き、日本の警戒感を高めた」とコメントしている。
 当時を振り返ろう。河村建夫官房長官はその日の午後の記者会見で「尖閣諸島は歴史的にも国際的にも日本固有の領土であり極めて遺憾だ」と批判。これに対し中国外務省の劉建超報道局長は同日、「釣魚島は古くから中国固有の領土。中国の船舶が中国管轄の海域で正常な活動を行うことが非難される余地はない」という反論談話を出した。
 この問題は08年12月13日、福岡県太宰府市で開かれた日中首脳会談でも取り上げられ、当時の麻生太郎首相は「非常に遺憾」と抗議、再発防止を要請した。これに対し温家宝首相は、中国固有の領土だと主張しながらも「話し合いを通じて適切に解決したい」と応じ一応の決着をみた。 第二の主張は、中国が領有権主張に自信を持っているなら、なぜ国際司法裁判所(ICJ)=写真 オランダ・ハーグのICJ建物=に提訴しないのかというものである。ICJには、「強制管轄権」を受諾していない国は「当事国とすることができない」という規定があり、強制管轄権を受け入れていない中国、韓国を相手に提訴しても、提訴に応じなければ裁判はできない。そもそも日本は、「中国と解決すべき領土問題はない」との立場を貫いているから、日本側から提訴することは論理的にはない。領土問題の存在を自ら認めることにつながりかねないからである。しかし中国が提訴すれば、日本は「強制管轄権」を認めているから応じざるを得ない。だから中国が、提訴すればよいという考えである。

国際司法裁に提訴を
 昨年11月、当時の玄葉光一郎外相は米紙「International Herald Tribune」(21日付)とのインタビューで「日本政府はなぜICJに付託しないのか」との質問に対して「中国は国際法に基づく解決を目指しても良さそうなものだが,ICJの強制管轄権を受諾して付託しようとする気配がないのはなぜだろうか?」と反問している。その後、3月12日には安倍晋三首相の外交ブレーンの谷内正太郎内閣官房参与(元外務次官)も、都内の講演で、ICJでの解決も選択肢の一つとの見解を示した。菅義偉官房長官も同日の記者会見で、日本が提訴する可能性は否定する一方、中国側が提訴に踏み切れば「拒むものではない」と述べた。
 では中国は提訴する意思はないのか。冒頭に紹介した中国筋は、その可能性について「現段階では何とも言えない」と答えた。この問題は中国次第なのだが、日本外交筋はICJ問題を提起するようになった理由として「自ら提訴できない中国の主張の弱さをあぶり出すのが狙い」と説明する。日本側の姿勢の「変化」とは言えないまでも、この二つの論点を強調し始めているのは間違いない。

日中韓首脳会談も悲観的
 いずれにしろ、日中とも相互批判を続けるだけで、関係打開に向けては、手詰まり感が否めない。1月末の習・山口会談では、改善機運の曙光がみえただけに、むしろ「後退」の印象すらある。そこで日中双方の外交筋に展望を聞こう。
 まず中国側。両国の政府間協議は、昨年末中国外務省責任者が協議のため来日したのが最後。「ちょうど総選挙の前で、政権交代がほぼ確実な情勢だったため、年内の関係改善は難しく、来春の桜の咲く頃には関係が好転すればと考えていた」と、同筋は回想する。続けて「安倍政権は日中関係は最も重要な2国間関係で、戦略的互恵関係に基づき、常に対話の窓口は開いているとしながらも、さまざまなところで、耳障りで挑発的と受け止めざるを得ないことが起きている。例えばレーダー照射を一方的にマスコミにリークして、習近平・山口公明党代表の会談で生まれたポジティブな雰囲気をつみ取った。日本側は、本当に改善の兆しを広げようとしているのか?」と、日本政府の姿勢を疑問視した。
 さらに「ポジティブな成果が期待できないのに日中首脳会談を開けば、マイナスになりかねない。2国間首脳会談は難しいと思う」と述べ、5月中に韓国で開かれる予定の日中韓首脳会議の場での日中首脳会談の実現は難しいとの見通しを示した。水面下では首脳会談の早期実現を探る動きがあったが、発言は早期実現の可能性を否定したものである。
 日本側からもあまり前向きな声は聞こえない。先の外交筋は「そもそも日中韓首脳会議が開かれることもまだ決定していない」と、にべもない。そんな中で、中国人民対外友好協会の李小林会長が3月30日来日した。李先念元国家主席の娘の李氏は、習近平と幼なじみで、習氏のアフリカ訪問にも同行した。1月の習・山口会談も彼女のお膳立てが奏効したとされ、香港、台湾メディアでは「習の密使」と報じたほどだ。東京で4月2日に開かれた「中日現代書画名人展」に鳩山由紀夫元首相らと共に出席する動静は伝えられたが、具体的成果はまだ聞こえてこない。(一部敬称略)
(了)
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