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     第41号 2013.11.11発行 by 岡田 充
    政治対話と首脳会談迫る北京
台湾政策、攻勢の背景を探る
 北京が台北に、政治対話の開始と首脳会談実現に向けて圧力をかけ始めた。政治対話圧力は10月初め、バリ島で開かれた習近平・中国国家主席と蕭万長・前台湾副総統の会談で。そして首脳会談はその一週間後、野党民主進歩党(民進党)の有力関係者も出席し上海で開かれた「両岸平和フォーラム」で噴出した。中国はなぜ今、台湾との政治対話と首脳会談圧力をかけるのか。「習近平カラーをいよいよ出した」という見方の一方、台湾側からは、馬英九総統自身を含め、否定的な観測ばかりが出る。政治対話と首脳会談は、2008年の馬政権誕生後続いてきた両岸関係の「現状維持」という微妙なバランスを崩しかねない。引いては馬政権の「統一」傾斜イメージが強まり、2016年の総統選挙で政権交代の引き金になるかもしれない。台湾政策で攻勢に出た背景を探ると共に、国民党と民進党関係者の話から当面の両岸関係を展望したい。
次世代に先送りできない-習近平
 まず政治協議圧力を振りかえる。アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれたインドネシア・バリ島で10月6日、習近平と蕭万長が約30分会談した(写真左「フォーカス台湾」)。この会談には、中台の政府主管部門トップが初めて参加した。中台交流と協議はこれまで民間の窓口機関を通じて行われてきた。互いに主権問題が絡むのを避けるためであった。中台交流は深まっているが、北京と台湾は法的にはお互いの存在を認めていない。政府部門トップの顔合わせが実現したことは、中台協議が民間窓口機関だけでなく、政府間に格上げする可能性があることを意味する。政治協議では、棚上げしている「主権上の争い」がテーマになる可能性があるが、民間では主権問題を扱えない。習近平は会談で、政治対話の開始を強く要求し、政府部門の責任者による意見交換を提唱したのである。日本のメディアも「中台首脳会談へ布石」(7日「朝日」)、「政治対話条件にAPECに総統招待」(8日「産経」)などと大きく報じた。APEC首脳会議は来年北京で開かれる予定だが、馬が首脳会議に出席し首脳会談が実現すれば、両岸関係は新段階に入ることになる。
 この習発言注1 は、習体制の台湾政策の基礎になる可能性がある。新華社電を引用しすこし詳細に紹介しよう。ポイントは次の4点。(1)両岸の政治的な相互信頼関係を増進し、共同の政治的基礎を強固にすることは、両岸の平和発展を確保する鍵である(2)将来を見据え、長期にわたり存在する政治的立場の相違はいずれ漸進的に解決しなければならない。これらの問題は後の世代に先送りできない(3)「一つの中国」の枠組みの中で、両岸の政治問題について台湾側と平等の協議を進め、情と理にかなった対処をすると何度も示してきた(4)両岸関係の中で処理しなければならない事務は、双方の主管部門の責任者が会い意見交換することができる―
「92年合意」継続-蕭万長
 これに対し蕭はどう答えたか。発言内容をやはり新華社電注2から引用する。(1)過去5年の両岸関係の平和的発展は、数多くの成果を上げた。中でも重要なことは“92年コンセンサス”注3を両岸の制度化した協議の基礎としたことである(2)“92年コンセンサス”は両岸が引き続き交流と相互協力を推進する核心である (3)グローバル経済という新たな挑戦に直面し、両岸は経済貿易の制度的協力を拡大、深化し、両岸関係の持続的発展を推し進める―。蕭は政治協議要求には直接答えていない。むしろ「92年コンセンサス」を引き続き推進すると強調して、現状維持路線の継続に重点を置いた。
 蕭は会談後の記者会見で、首脳会談の可能性についても「習氏との間では話し合われなかった」とも答えた。蕭はことし4月、海南島の博鰲会議にも参加しており、二人は「旧知の仲」。互いに相手を「先生」(さん)づけで呼び合った。中台間の会談では従来から「主席」など公職の肩書で呼べば、相手を主権国家として容認すると受け止められかねないため、「先生」で呼び合うのが慣例。もし肩書きで呼べば大ニュースなのだが。
 もう一つの注目点は、主管官庁のトップの出席である。中国側は国務院台湾事務弁公室主任の張志軍(前外務次官)。台湾側は対中政策を所管する大陸委員会の王郁琦主任委員。王が定期的な相互訪問の実施を提案したのに対し、張は前向きな回答をしたという。王は中台の主管官庁間の意思疎通メカニズムが必要だとの考えを示したとされ、トップ交流が制度化する可能性もでてきた。台湾各紙は、この顔合わせで中台双方が「主任」「主委」と初めて正式の肩書で呼び合ったことを取り上げ「お互いを否認し合わないという我々の主張に沿う重大突破」などと報じた。
両岸は国際関係ではない 
 これがバリ島会談の概要である。北京の「攻勢」を馬英九はどう受け止めたか。10月10日、総統府で開かれた「双十節」での総統演説注4をみてみよう。馬はまず両岸関係について「両岸人民は同じ中華民族に属し、両岸関係は国際関係ではない」と述べた。2008年政権発足後の双十節演説では「両岸は国と国の関係ではない」とし、「二つの中国ではなく特別の関係」と位置付けていたが、今回は「国際関係ではない」としたのである。さらに馬は「習蕭会談」で政府主管部門トップが出席したことに触れて「これは両岸が『現実を正視し、お互いに否認し合わず、ともにWIN・WINを創る』基礎の上に切り開いた成果」と強調した。
 翌日の野党系紙「自由時報」電子版注5は馬演説について「民進党:馬にもはや総統の資格なし」の見出しを付け、民進党立法委員の発言を引用しながら「馬は『一中』とは中国を指す事実を故意に無視し、両岸関係を内政問題に矮小化、台湾を中国の地方政府に貶めようとした」と伝えた。「国際関係ではない」とは何を意味するのだろうか。民進党が「内政問題に矮小化した」と非難するのは、野党の政治的発言としては理解できるが、「国際関係ではない」という否定形の表現を「内政」と同義ととらえるのは正確ではあるまい。「特別の関係」を意味する、別の表現と考えた方が理にかなっている。
関係改善は「win・win」のカギ
 ここで少し両岸関係のおさらいをしておこう。国民党の政権復帰以来、両岸関係は経済を中心に目覚ましく改善し、台湾海峡に平和的環境をもたらした。馬英九政権が誕生したのは、民進党からの政権奪回を目指した国民党と共産党による「第三次国共合作」の成果でもある。合作の共通目標は「反台湾独立」だった。そして協力を可能にしたのは、「92年コンセンサス」による「一つの中国」の承認、それに主権争いを棚上げし台湾の地位の「現状維持」で、暗黙の了解に達したからである。
 台湾問題は、朝鮮問題と並んで東アジアの国際政治にとって最大変数である。両岸関係の安定によって米中、米台、日中、日台の4辺の関係も台湾ストレス(圧力)を回避でき、相対的安定を維持することを可能にした。日台関係で言えば、11年の「投資協定」と13年4月の「漁業協定」は、両岸関係が良好だったからこそ実現できたのである。もし関係が悪ければ、北京は調印に反対し日中間の新たな難題を形成したかもしれない。その意味で、両岸関係改善は、東アジア政治における「WIN-WIN」のカギである。台湾政策は、胡錦濤政権の最も成功した政策の一つと言ってよい。
 一方台湾からすれば、大陸との関係は現状を維持したまま、経済交流を中心に発展させ経済的利益を得ることができればベストである。大陸と政治協議を進めれば、棚上げしてきた主権上の「争い」を再燃させる恐れがある。馬の支持率は10%前後と低空飛行が続く。来年の大型地方選や2016年の次期総統選も間近。「国民党は下野しかねない」という民意カードをちらつかせて、政治協議圧力をかわすー。これが、馬政権の基本的な対北京姿勢であり、北京も大目にみてきた。国民党の政権継続が最優先課題だったからである。
 「政治協議」とは具体的に何をするのか。「敵対状態」に終止符を打つ「平和協定」や「軍事信頼醸成措置」(CBM)に向けた対話の加速であろう。野党陣営からみれば「統一」への布石と映るが、実は民進党の陳水扁も調印を主張していたのである。また馬英九も選挙公約にしていたが一昨年10月、「住民投票を通過しなければ締結しない」と、ハードルの高い縛りを自らかけてしまった。翌年の総統選に向けた発言だったのだが、調印に向けた条件を額面通り受け取れば、条約締結は不可能になった。これに対し、大陸は「馬英九は政治協議入りの段階になると、現状維持と民意カードを使って消極的になる。本質的には民進党と変わりない」と不満を募らせてきた。
首脳会談を提言-両岸平和フォーラム
 バリ島会談から約1週間後の10月11、12の両日、上海で「第1回両岸和平論壇(フォーラム)」が開かれた。野党民進党の有力関係者も含め計120名の専門家が、両岸の政治と安全保障問題について話し合う初の民間フォーラムだった。来賓として出席した国務院台湾事務辨公室の張志軍主任は、開幕あいさつで「政治争いはしばらく棚上げ出来るが、完全に長期的に回避することはできない。『只経不政』(経済のみで政治なし)をいつまでも続けるわけにはいかない」と述べ、再び政治対話入りを強く求めたのである。
 張はさらに「両岸の間には多くの政治対立があるが、一つの中国の枠組みを動揺させ、損なうことはできない。両岸間のあらゆる政治対立問題は、この枠組みで適切な解決方法を模索すべきである。これが緩めることのできない最低ラインである」と述べ、「一つの中国」の原則が両岸の政治的基礎であり、「底線」とする立場を強調した。張志軍はことし3月の全人代で、外相に就任した王毅の後任として台湾政策の実務上の責任者に就任した。この演説は、習近平の台湾政策のアウトラインを明らかにした内容である。
 フォーラムの議題は①両岸の政治関係②渉外問題③安全保障と相互信頼④平和の枠組みーの4つ。注目されたのは、12日の閉幕時発表された「10項目の共同認識」。このうち第8項には「両岸指導者の会談実現は、台湾海峡の平和と両岸関係に非常に積極的な影響があり、地域と世界の平和に重要な貢献となる」として、首脳会談の実現を呼び掛けたことである。また第7項には「台湾海峡情勢の安定を促進し、軍事安全面の懸念を軽減するため、両岸は軍事領域の接触交流を考慮してよい」とし、人道支援や災害対応での協力から始め、海上安全協定の可能性を探りながら、将来的には軍事安全相互信頼措置(CBM)の条件を創るとした。
 参加者で目を引いたのは、民進党系シンクタンク「台湾国策智庫」会長の呉栄義(元行政院副院長)。さらに民進党創設メンバーの一人で、陳水扁政権時代に海峡両岸基金会会長を務めた洪奇昌も出席した。習近平体制に移行してから、中国の民進党工作は活発化している。謝長廷・元行政院長をはじめ、陳菊・高雄市長、次世代のホープ頼清徳・台南市長らを相次いで中国に招待し意見交換した。次期総統選での政権交代に備えた招待攻勢であることは間違いない。また今回のフォーラムで台湾側を率いた「21世紀基金会」会長は、国民党の最長老である高育仁。国民党の次期総統有力候補の朱立倫・新北市長の岳父でもある。
 「両岸平和フォーラム」が開かれたことで、両岸間には(1)海峡フォーラム(林豊正・国民党副主席)(2)国共フォーラム(呉伯雄・国民党名誉主席)(3)紫金山首脳会談(蕭万長・前台湾副総統)の3フォーラムに加え、民進党関係者も参加する4番目のフォーラムが誕生したことになる。
首脳会談でノーベル賞狙う?
 北京の攻勢を台北側はどう受け止めているのか。すこし古くなるが9月中旬台北で取材した民進党と国民党関係者の発言を紹介しよう。台湾ではちょうど、民進党議員の裁判をめぐって王金平・立法院長(国会議長)が「司法介入した」として、馬総統が王の国民党籍を剥奪、国民党の内紛が露呈した直後だった。その後、馬英九は10月5日、王の党籍維持を認めた台北地方法院の仮処分への抗告を断念。王は任期満了(2016年)まで院長職にとどまることになり、「振り出し」に戻る。そんな中で、内政混乱から脱却するため「馬英九が中台関係で大きな実績を上げて形勢を逆転したいという動機は強まる」(小笠原欣幸・東京外大准教授)との観測も出ていた。「一発逆転」を狙いたい気持ちは分からないでもない。しかし与野党の実力者はいずれも、馬任期内(2016年)の政治協議開始や首脳会談実現には否定的な見方だった。
 まず野党。民主進歩党の陳水扁政権時代、大陸委員会主任を務めた呉釗燮・元駐米代表(写真上)は「任期内の両岸首脳会談の可能性は決して高くない」と否定的。その理由として、APEC首脳会議出席の際の肩書を挙げる。台湾のAPEC参加名称は「中華台北」。「二つの中国」認めない中国が、「中華民国総統」の肩書で馬を招待する可能性はゼロだ。「一つの中国」の原則を否定することになるからである。さらに肩書はともかく、いったん総統の首脳会議参加を容認すれば、将来、政権交代によって民進党政権が誕生した場合、北京が台湾総統のAPEC首脳会議参加に反対する理由は薄まる。北京からすれば、「二つの中国」を固定化する恐れもある。この見方は米国識者も共有する。米戦略国際問題研究所(CSIS)の中国研究者、ボニー・グレーザーは9月27日ワシントンで開かれたシンポジウムで「馬は国民党主席や経済首脳の肩書きでは習近平とは会えない。台湾内部で受け入れられるのは、総統の肩書きのみ」(聯合報)と述べている。
 呉は「総統の肩書なら、馬が北京に行くのは大歓迎」と皮肉を込めて言う。可能性がないことを分かった上で言っているのだが、一方で「馬は歴史に名前を残すことにこだわっており、任期中に習との首脳会談を実現しノーベル平和賞を狙うかも」と、冗談交じりに付け加えた。では総統以外の肩書で招待された場合、民進党はどうするのか。「ケースバイケース」というのが大方の反応だったが、総統以外の肩書の場合は「台湾の主権を損なう」と反対するのは確実である。
 一方、北京の国台辨スポークスマンは10月16日の定例記者会見で「両岸の指導者が会うのに、国際会議の場を借りる必要はない」と答えた。メディアが大騒ぎするAPEC北京会議への「馬招待」が独り歩きして既成事実化するのを恐れ、「冷や水」を掛けたのではないか。
民進党の「憲法共識」は受け入れられるか?
 呉釗燮とのインタビューに戻ろう。活発化する中国の対民進党工作について「中国は招待外交を通じて、野党にも中国の実情を見てほしいということだろう。われわれも積極的に応じている」と答えた。民進党にとって最大の問題は、政権復帰に際しての対中政策である。馬政権は「92年コンセンサス」で、中台関係を目覚ましく改善した。呉は「馬の言う現状維持は言葉だけ。呉伯雄・国民党名誉主席は、習近平との会談で『一中両区』注6や『一中枠組み』という言葉で、一つの中国を盛んに強調している」と批判。民進党が政権を奪取しても、「92年コンセンサス」を受け入れる可能性は全くないと、従来の立場を繰り返した。
 では民進党に新しい中国政策はあるのだろうか。謝長廷・元党主席はかつて「憲法一中」という表現で、中国にも受け入れ可能なキーワードを挙げてきた。1947年に成立した中華民国憲法が「一つの中国」を前提にしていることから、北京も同意できるのではという読みからである。しかし、台湾独立を主張する党内「基本教義派」の反発は根強く、呉も「憲法一中を支持するのはほんの一握り」と突き放す。その謝長廷は、党内の反対を意識して昨年から「憲法一中」を修正し「憲法共識」(憲法コンセンサス)と強調するようになった。蘇貞昌・党主席に近い党内有力者は「憲法共識が党内で受け入れられるかどうかまだわからない。しかし私個人は受け入れられる」と語っている。民進党は2012年末、中国事務部の上部に中国事務委員会を設置、次期総統選に向けた中国政策の策定を急いでいる。同党の新中国政策を占ううえで「憲法共識」に注目したい。「一中」という言葉は使わないが、事実上「一つの中国」を前提につくられた中華民国憲法に沿って大陸政策を進めるという意味だ。大陸側はどう反応するだろうか。
 習近平の台湾政策について呉釗燮は「一国二制度による平和統一」という原則に何ら変化はないとした上で「基本的には胡錦濤路線を引き継いでいる」と述べた。ただリーダーとしての「風格」はまだ鮮明にしていないとし、硬派の江沢民と、硬軟両様の胡錦濤に対し「習がどのような独自色を出すのか見守っている」と語った。
平和協定は時間切れー江丙坤
 では国民党側は、民進党の対中政策をどう見ているだろう。昨年まで海峡両岸基金会理事長を務め、両岸交流の“黄金時代”を築いた江丙坤・国民党副主席(写真)は、民進党が思い切った中国政策を打ち出せないジレンマを次のように説明した。
 「中国は、政権交代の可能性もあるとみて交流を進めていると思う。また民進党に中国を知ってもらいたいという意識もあるだろう。ただ民進党がレッドライン(独立)を超えれば、北京も譲れない。一方、民進党の総統候補になるには、基本教義派の支持を得なければならないし、思い切った両岸政策を言えば、党内から叩かれる。基本教義派は少なくはなっているが…」。
 さて国民党の内紛が、両岸関係の文脈で語られるのにはそれなりの理由がある。中国と台湾はことし6月21日、経済協力枠組協定(ECFA)の後続協議として「サービス貿易協定」に調印した。協定の内容は①台湾側は中国に対し通信、病院、旅行、運輸、金融などの市場64項目を開放②中国側は台湾に80項目で 世界貿易機関(WTO)加盟国に対する条件以上の開放するーなどである。
 ところが、市場開放の対象となる業界や野党、民進党から、関係業界の意見を聞かないまま「密室」で決定されたとして反対の声が上がり、これに国民党立法委員の3分の2が「反対ないし態度保留」で呼応した。この結果、本来議会の批准は必要ない協定は、王金平院長の差配の下で、逐条審議されることになり、年内承認の目途は立っていない。野党に「過剰な気遣い」をする王に馬が「業を煮やした」というわけだ。江丙坤は「立法院で協定の同意が進まないことに馬総統は不満を抱いていたのでは」との質問に「その通りだ。王は(過半数を占める国民党の)多数を尊重しない。乱闘があっても警官を導入しないし…ということなのでしょう」と答えた。
 では、馬政権下で政治協議は進むかどうか。江は「馬総統は、第一期選挙の時は平和協定締結を言っていたが、時間的に間に合わないだろう。彼自身も第二期に入り積極的でなくなった」と語り、両岸の政治対話入りにも消極的な展望を示した。これについては国民党系のシンクタンク「遠東基金会」の研究者も同様の見方だった。
馬英九は全否定の回答
 馬は10月24日、米紙「ワシントン・ポスト」とのインタビュー注7で(1)首脳会談は、国家の必要と人民の支持、対等な尊厳の下で初めて可能になる(2)大陸が希望する平和協定は、民衆が統一協議になるのではと懸念している。住民投票を通じ大衆の支持を確認すれば協議はしやすい(3)軍事相互信頼措置も同様に敏感な問題であり、台湾内部ではコンセンサスは得られていないーなどと述べた。政治協議も首脳会談にも「全否定」の回答と言っていいだろう。何をしても支持率の上がらない馬だが、形勢逆転を狙った思い切った対中政策は、結果的には自らの首を絞める結果をもたらしかねない。
 最後に攻勢に出た北京の狙いと本音をまとめる。共産党総書記に就任してまだ一年に満たない習近平にとって、台湾政策の優先度は決して高くない。金融システムの不安定化に加え、成長に陰りが見えてきた経済への対策。新彊ウイグル族など民族問題と汚職・腐敗の一掃など、共産党の一党支配を揺るがしかねない内政のプライオリティは高い。順調に進んできた両岸関係を、「冒険」によって後退させたくはないはずだ。
 台湾への政治協議と首脳会談の圧力は、習近平の台湾政策の基本政策と「底線」を示す中で出てきたものであり、決して急いでいるわけではない。「現状維持」の殻にこもる馬政権に揺さぶりをかけ、同時に民進党に対しても「一つの中国の枠組みを動揺させ、損なうことはできない」(張志軍)と釘を刺す。国内向けにも、指導部が台湾に譲歩ばかり重ねているわけではないとの姿勢を示す効果を計算している。(一部敬称略)



注1  習近平発言
「習近平指出,增進兩岸政治互信,夯實共同政治基礎,是確保兩岸關係和平發展的關鍵。著眼長遠,兩岸長期存在的政治分歧問題終歸要逐步解決,總不能將這些問題一代一代傳下去。我們已經多次表示,願意在一個中國框架內就兩岸政治問題同台灣方面進行平等協商,作出合情合理安排。對兩岸關係中需要處理的事務,雙方主管部門負責人也可以見面交換意見」(新華社)
注2  蕭万長発言
「蕭萬長表示,過去5年兩岸關係和平發展取得諸多成果,最重要的是確立了“九二共識”作為兩岸制度化協商的基礎,這也是兩岸持續交流互動的核心。面對全球經濟新挑戰,兩岸應擴大深化經貿制度化合作,推動兩岸關係持續發展」(新華社)
注3   「92年合意」 
中国の対台湾交流窓口機関、海峡両岸関係協会と台湾の海峡交流基金会の当局者が1992年、香港での実務協議で達した合意。中国側は「両岸(中台)は『一つの中国』原則を堅持する」ことで合意したと主張。当時、台湾与党だった国民党は「『一つの中国』の解釈は(中台)各自にゆだねる」との共通認識を得ただけとしていた。民進党前政権は合意そのものが「存在していない」としている。
注4  台湾総統府HP
http://www.president.gov.tw/Default.aspx?tabid=131&itemid=30931&rmid=514
注5  「自由時報」電子版
http://www.libertytimes.com.tw/2013/new/oct/11/today-p5.htm
注6   岡田充の両岸関係論 第28号「際立った両岸の深い溝 『一国両区』をどう読むか」
http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/ryougan_30.html
注7  「ワシントン・ポスト


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