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     第53号 2015.05.29発行 by 岡田 充
    政権交代意識した「習朱会談」
「朱は必ず出馬」と台湾元閣僚

 中国共産党の習近平総書記が5月4日、北京の人民大会堂で、国民党の朱立倫主席と会談した。(写真下。笑顔でカメラにポーズする朱氏と習氏)。国共トップ会談は2009年5月以来で、習朱会談は初めて。会談は食事を含め2時間以上に及んだ。2005年の連戦・胡錦濤会談および09年5月の胡・呉伯雄会談は、国民党側が一線を退いた主席だったのに対し、朱立倫は53歳と国民党次世代のホープ。政権交代の可能性がある来年年1月の総統選には「出ない」と公言しているが、党内の「朱立倫でなければ勝てない」との待望論に応え、7月の党大会で出馬する可能性も残る。それだけに、習朱会談に対する台湾民意の動向は、朱の出馬に一定の影響を与えよう。朱は党大会までは「ハムレット」を装う。
「両岸同属一中」は対中すり寄り?
 会談では、習が政権交代を意識しながら、北京の台湾政策の原則論を繰り返す一方で、中台接近に反発が強い台湾の若年層との青少年交流を呼び掛け、台湾民意を意識した発言が目立った。
 新華社電によると、習は会談で「一つの中国」を認めつつ、その解釈はお互いに委ねるとする「92合意」と「台独反対」が両岸関係の政治的基礎と述べるなど、5項目の台湾政策注ⅰを明らかにした。これに対し朱は「両岸が一つの中国に属するという『92年合意』を踏まえ、両岸の対決・混乱を協力・交流に転換した」と応えた。さらに「海峡両岸は共に中華民族であり運命共同体だ」と述べ、習の主張に賛意を表明するのである。
 朱発言で注目されるのは「両岸同属一中」(両岸が一つの中国に属する)の部分。この発言に対し、民進党は5月4日、趙天麟・中国事務部主任が声明を発表「朱発言は、馬英九が主張してきた『92合意、1中各表(一つの中国の解釈はそれぞれに委ねる)』を修正し、『両岸は一つの中国に属する』と、中国側が主張する『一中枠組』にすり寄った」と強く批判した。この声明もまた、総統選挙をにらみ、朱が馬英九以上に「対中傾斜」を強めているとの印象を有権者に与える宣伝戦である。
さて、会談を台湾有権者がどのように受け止めたか。台湾テレビ、TVBSが5月7日行った世論調査によると、朱立倫の大陸訪問については33%が「満足」、「不満」は30%と賛否が拮抗した。朱が北京で述べた「両岸同属一中」については、支持「38%」に対し、不支持「34%」だった。いずれも国民党と民進党支持者の比率が反映された結果であろう。この世論調査では、朱立倫の総統選出馬の是非についても問われ、出馬支持が36%に対し、30%が不支持という結果が出た。一方、国民党支持者の朱出馬支持は67%で不支持が17%だった。
総統選への影響ない
 調査結果から言えるのは①習朱会談への反応は二分され、総統選への影響はほぼなかった②態度を表明しない層が4割弱と最も多く、この層が総統選の帰趨を決める。「支持政党なし」が多数を占める日本と同じ③「両岸は一つの中国に属する」という朱発言についての年齢別調査では、40歳代の支持が最も高く50%。20代の支持は支持33%に対し、不支持が44%。対中ビジネスで利益を得ている中年世代と、その利益にあずからない青年層との差が浮き彫りになった④朱立倫待望論は依然強く、出馬するかどうかは7月党大会まで待たねばならないーであろう。もう一つ付け加えれば、国民党と民進党の支持率は拮抗しており、政権交代の可能性は十分あるが「政権交代に現実味」とメディアが報じるほど、簡単ではない。
 国民党は5月18日、総統選候補者を選ぶ予備選の届け出受付を終えた。名乗りを上げたのは洪秀柱・立法院副院長(写真下)。女性の洪秀柱(立法院副院長)の出馬は、民進党候補の蔡英文を意識したとみられるが今年67歳。本籍は浙江の外省人。「228事件」で父親が逮捕された経験を持つ。89年から立法委員(国会議員)を務めるが、洪の当選の可能性は極めて薄い。国民党の総統選規定では、党員選挙で勝った者が総統選立候補者になる。規定には「党員投票と民意調査で30%の支持を得る者がいない場合,協議を行なう」という項目があり,洪が30%の支持を集められるかどうかが焦点。それに失敗すれば、朱立倫を含め、別の人物を推挙する可能性が残されている。
 朱立倫以外で立候補が取りざたされた王金平・立法院長(国会議長)と副総統の呉敦義は出馬を見合わせた。ただ王金平は、朱が出馬を決めた場合、副総統候補に指名される可能性は完全には否定できない。
政権交代簡単ではない=元閣僚
 以上が、「習朱会談」と国民党の総統選候補をめぐる分析だが、分析だけではあきるだろう。そこで陳水扁時代に、総統府国家安全会議の諮問委員や閣僚を歴任した人物とのインタビュー(4月25日)の内容を紹介したい。
同氏は来年の総統選への出馬が注目される朱立倫・国民党主席について①出馬を否定するが必ず出馬する②政権交代は言われるほど簡単ではない③総統選と同時に行われる立法院選挙では、国民党と民進党の議席は半々になるーとの見通しを明らかにした。
 朱の総統選出馬については、朱が4月17日,新北市の真慶宮を参拝した際、台湾記者の質問に答え「2016年には出馬しない、これでいいか」と,捨て台詞のような言い方をした。台湾選挙研究の第一人者である東京外大の小笠原欣幸准教授は、この発言について「不出馬が確定」と分析した。元閣僚の見立てとは異なる。
 筆者は元閣僚に対し①対中警戒論が強まっている台湾世論から見ると、朱習会談は総統選にマイナスではないか②だから朱は、習金平会談実現の決定を4月24日まで引き伸ばしたのではないかーと質問した。しかし元閣僚は「必ず出馬する」と述べ、その理由として①王金平・立法院長には「黒金」スキャンダルがあるから出馬しない②副総統の呉敦義は人気がなく、出馬をとりやめた③朱は最終的には党内の声に押され出馬するーと分析した。さらに朱の側近である侯友宜・副市長(元中央警察大学校長)が、県や市レベルで活発な選挙運動を開始していることも「出馬」の理由に付け加えた。
 元閣僚は、習近平との会談が、総統選挙に与える影響については「プラス、マイナスは半々だろう」とし、中国に投資している台湾企業は、国民党政権下で両岸関係が安定するのを歓迎する一方、昨年春立法院を占拠した学生ら若い世代は反発を強めるとみる。この見方はTVBSの世論調査結果と完全に一致する。
明確なビジョンない蔡英文
 「北京は民進党の政権交代の可能性は高い」と見ていると聞くと、民進党の総統候補の蔡英文(写真下)について「総統選で簡単に勝てるとは思えない」と述べ、有権者が選挙で期待しているのは経済だが、「蔡は明確なビジョンを打ち出せていない」と分析した。
 彼の蔡分析は興味深い。蔡総統が実現した後で、「緑」陣営からこうした分析があったことは、「民進党政権」の安定性を占う上で参考になると思う。彼の分析の一部を紹介する。
 「彼女は、両岸関係について『現状維持』を主張しているが、その中身はない。彼女は瞬時に反応する力があり頭は良い。しかしよく話してみると失望する」「独身女性ということでちやほやされるが、カリスマ性はない。台湾の選挙では、激しい演説をするほうが人気がでる。例えば陳水扁のように。決断力があるかどうか、その胆力が試されるのだ」「馬英九と比較すると、馬は女形の男。蔡は男型の女だ」などと語った。馬は「ゲイ」の噂が以前からあり、蔡も「レズビアン」という噂をもじったのだ。ただ之はウワサの域を出ないことと付け加える。
 北京は、昨年11月の地方選挙での国民党惨敗を受け、民進党の影響力が強い中南部、中小企業と中産階級を重視し、青年層を重視する「3中1青政策」を強調してきた。果たして、北京の選挙への影響力はあるのだろうか。同氏は「争点は、緑(民進党)と藍(国民党)のどちらを選択するかだ」「メディアは、統一か独立かと報道するが、国民党の統一も、民進党の独立も偽物だ。2012年選挙で馬英九が再選されたのは、現状維持がベストという民意の表れ」「独立の定義が問題。戦争で独立しようとは望んではいないが、平和的に独立できるなら、台湾人のほぼ100%が独立を支持するだろう」とみる。
 北京からみた両岸関係については「習近平はこれから党内の権力闘争を開始しなければならない。内政を最重視しており、台湾問題は独立派が騒ぎを起こさない限り、最重要テーマではない」。
 国民党が敗北した場合、同党は解体を迫られるのではとの質問には「国民党は陳水扁が当選した2000年総統選挙の時点ですでに解体している。ただ巨額の『党産』(党の資産)があるから、完全に分裂させるわけにはいかない」。
 「出馬すべきかどうか」。朱立倫「ハムレット」の政治生命が掛かる“悩み”は、大きな政治的変数が起きない限り7月の党大会で結論が出る。台湾の世論調査と元閣僚の分析は、その結論を占ううえで多くの示唆を与えている。(了)
  
ⅰ 習近平の台湾政策。5項目の主張
「九二共通認識」堅持と「台湾独立」反対は、両岸関係の平和的発展の政治基盤。両岸が一つの中国に属する法的基盤に挑戦し、「それぞれ別の国」、「一つの中国一つの台湾」を進めるなら、民族、国家、人民の根本的利益を損ない、両岸関係発展の礎石を揺るがす。
両岸の利益融合を深め、両岸の互恵ウィンウィンを共に築き、両岸同胞の幸福を増進することが両岸関係の平和的発展推進の趣旨。両岸同胞双方の社会の心理的受け止めを十分考慮し、両岸民衆の受益面の獲得感の拡大、特に両岸の末端民衆、中小企業、農漁民の協力発展、若者の起業、就業機会のより多くの提供を図る。台湾のAIIB参加を歓迎。
両岸の交流は人と人の交流であり、最も重要な点は心が通じ合うことである。両岸同胞は心を通わせ、違いを尊重し、理解を増進し、民族、文化、国家のアイデンティティーを強めなければならない。若者は民族の未来であり、また両岸の未来である。われわれは両岸の若者の成長により一層関心を払い、より多くのチャンスと舞台を提供。
国共両党と両岸双方は大局に目を向け、相互尊重の精神で、小異を残して大同につくだけでなく、さらに努力して一致点を探り、違いを乗り越え、政治面の相互信頼を増進しなければならない。
  中華民族の偉大な復興はみなで一緒に取り組まなければならない。
 
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