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     第62号 2016.01.20発行 by 岡田 充
    中国、緊張回避し安定維持へ
台湾総統選で蔡英文が圧勝
 台湾総統選と立法委員選挙が1月16日行われ、民主進歩党(民進党)の 蔡英文候補が予想通り、国民党の朱立倫候補に約300万票の大差をつけ圧勝した。(写真 勝利宣言で支持者に手をふる蔡氏=中国評論新聞HPから)民進党は8年ぶりに政権を奪還、立法院(国会、定数113)選でも68議席を獲得し、単独過半数を達成。安定した政権運営の基礎を築いた。惨敗した国民党は朱立倫主席が引責辞任を表明。国民党は王金平立法院長ら「本土派」を中心に再分裂の可能性があり、再建の道のりは険しい。選挙戦で明らかになった蔡の対中政策と北京、台北、ワシントンの反応を紹介しながら、民進党政権下の中台関係を展望する。蔡の対中政策に対する北京の反応は比較的穏健であり、新政権に対しては陳水扁時代のような緊張は避け、「平和と安定」維持に向けた政策に出る可能性が高い。
経済格差は中国の責任か
 まず日本のメディア報道の内容を点検する。蔡圧勝の背景は何か。第1は、両岸の接近と経済相互依存の深まりは「統一に有利」と考える中国の期待を裏切り、台湾では「台湾人意識」が高まり、大陸との距離意識を逆に強めた。第2に、立法院を占拠した「ひまわり学生運動」と香港の「雨傘革命」が連動し合い、若者を中心に一党独裁の中国政治に対する忌避感、警戒感を高めた―などであろう。多くの日本メディアの報道も、こうした認識を共有した。
 その一方、経済関係の深化について「恩恵は一部に集中、勤労者の給料は上がらず、息苦しさが増した」(「朝日」17日朝刊)など、経済格差を拡大したことが民進党圧勝につながったことを強調する論調はうなずけない。グローバルな金融資本主義が世界を覆い、寡占化が進んで一部の大企業に利益が集中するのは、世界共通の構造矛盾である。中台経済に限ったことではない。蔡は当選後の記者会見で、環太平洋パートナーシップ(TPP)への参加を強調したが、TPPに加入すれば、零細・中小企業が85%を占める台湾経済はいっそう苦境に見舞われるだろう。輸出の4割を大陸に依存する台湾は、中国市場なしに生存できない。蔡も中国との経済関係の発展を否定しているわけではない。どこの国の選挙でも候補者は争点として「経済苦境」を挙げ、「経済立て直し」を公約に掲げる。メディアもそれをオウム返しで伝えるが、実はほとんど意味のない議論だ。一国の統治では変えられないのが、マネー資本主義だからである。
「挑発せず」など3原則
 蔡英文の中国政策に戻ろう。正式な対中政策は5月20日の総統就任式で明らかにされるが、その骨格は次第に見えてきた。蔡は勝利宣言で「台湾と中国は、互いに挑発や不測の事態を避け、対等な立場で尊厳をもって交流の道を探ることに最大限努力しなければならない」と強調した。蔡は選挙戦開始前から両岸政策として「現状維持」を挙げている。
 勝利宣言の内容は、昨年12月22日開かれた村里長座談会で明らかにされた内容である。両岸関係安定の3原則として彼女は「意思疎通、挑発せず、不測の事態回避」(溝通、不挑釁、不會有意外)」を提起した。具体的には「民進党の両岸政策は明確であり現状維持にある。中華民国の現行憲政体制の下で両岸関係を推進し、双方が良好な意思疎通を維持することを望む。さらに重要なのは相互了解の精神。北京が台湾の民意を尊重すると信じる」と3原則の内容を説明した。
 「台湾独立」を党綱領にうたう民進党候補者として、蔡が配慮しなければならないのは①台湾独立の否定②台湾の主体性の維持③日米の理解―である。①は北京向けメッセージであり②は台湾人向け。相対立しかねない課題だけに、言葉遣いを含め慎重な対応をしなければ「不測の事態」を招く。極めてデリケートなのだ。
 説明にある「中華民国の現行憲政体制の下で両岸関係を推進」の意味は、「一つの中国」を前提にする中華民国憲法体制を維持する意思表明によって、「独立否定」の含みを持たせた。同時に「台湾の民意尊重」は、台湾の主体性を守る意図を込めたものだ。つまり①と②の課題に対する一つの回答であり、同時に③ワシントンと東京の理解を狙った内容と言えるだろう。ワシントンと東京もこの主張に異議はないはずだ。
 現状維持について付け加えるなら、蔡は11月に開かれた「台北市客家後援會成立大会」で「現狀とは台湾の自由民主という現狀であり、台湾海峡の平和的現状だ。この二つが最も重要な要素」と述べている。
「92合意」否定せず―蔡英文
 蔡と朱に加え親民党の宋楚瑜の3候補による第1回TV討論(写真 中央通信)は12月25日行われた。3候補ともまず低迷する経済へのてこ入れなど、それぞれの経済政策を提示。その後、対中政策をめぐる攻防を展開した。攻防の口火は朱立倫が切った。朱は1999年7月李登輝総統が規定した「両岸は特殊な国と国の関係」という「両国論」について「あなたが提唱した両国論と民進党の『台独綱領』はまだ生きているのか?」と蔡に迫った。
 これに対し蔡は「両国論は当時の国民党総統(李登輝)が提起したもの。当時は全ての国民党員と政府官員は賛成したではないか。朱候補も当時立法委員として、両国論を支持する署名をしている」と反撃した。「台独綱領」についての回答は控えた。
 蔡英文は李登輝政権時代の末期、総統府国家安全保障会議の諮問委員として「両国論」の策定に携わった。また第1期陳水扁政権では、対中政策の主管部門の大陸委員会主任(閣僚)を務めている。蔡はTV討論で「92合意」についての次のような見解を明らかにする。民進党政権に移行後も後を引く発言だけに正確に引用しよう。
 「民進党は1992年の兩岸会談という歴史的事実を否定したことはない。また当時、双方が相互了解精神、『小異を残して、大同を求める』(求同存異)に基づいて、両岸関係を前進させようと、対話とコミュニケーションを推進した経緯と事実は認めている。これは両岸交流の積み重ねによる成果の一部である」
 これが「92年合意」への回答である。「両岸交流の積み重ね」という表現は、彼女が大陸委員会主任を務めていた4年間に、金門・馬祖両島と大陸を結ぶ直行航路「小三通」注ⅰを解禁(2001年)したのをはじめ、国民党時代は全面禁止していた両岸交流の法規を緩めるなど、交流推進を自ら主導した注ⅱことを強調する狙いである。民進党政権になっても中国との対話・交流を継続したいという期待表明だ。
92合意の用語「こだわらない」―北京
 民進党圧勝を北京はどう受け止めたか。中国外務省の洪磊・報道官は投票日16日の夜「国際社会が一つの中国の原則を貫き、いかなる形の『台湾独立』にも反対し、実際行動によって両岸関係の平和的発展を支持することを望んでいる」と述べた。注目されるのは「一つの中国の原則を貫き、『台湾独立』に反対し、『二つの中国』や『一中一台』に反対する」と強調する一方、「92合意」という用語を使わなかった。これは「国際社会向け」のメッセージであり、台湾向けではないからだとの解釈もできる。
 同夜発表された国務院台湾事務弁公室の張志軍主任の談話は台湾向け。「われわれは引き続き“92合意”を堅持し,いかなる形式の“台独”分裂活動に断固反対する~われわれは、両岸が一つの中国に属することを認める政党と団体との接触交流を強化する」とし、民進党に「一つの中国」受け入れを迫った。
 「92合意」について、国台弁報道官は昨年12月30日の記者会見で「両岸関係の平和発展を維持するカギは、『92合意』の歴史的事実と、その核心的含意を承認すること」と述べた。「核心的含意」とは「一つの中国」の承認を意味するこの解釈は昨年11月7日のシンガポールでの両岸首脳会談で初めて登場する。習近平は馬英九に対し「過去にどのような主張をした政党、団体であれ、92年の歴史的事実を承認し、その核心的含意を認めさえすれば、われわれは彼らと交流したいと願っている」と述べたのである。「過去にどのような主張をした政党」とは台湾独立綱領を持つ民進党のことだ。
 民進党政権に移行しても、「92合意」の歴史的事実と核心的含意という「二つの前提」を認めれば、交流は可能という意味である。民進党にボトムライン(底線)を示したという意味では、「善意」の表明と言っても良いだろう。特に、「92合意」の核心的含意という表現は、北京が「92合意」という用語には「こだわらない姿勢を示した」(在京中国外交筋)内容として注目される。
 蔡発言は「92合意」の歴史的事実を認めたから「二つの前提」の第1ハードルはクリアーしたが、「一つの中国」については依然曖昧であり「2つの前提を満たしていない」ということになる。「一つの中国」をめぐる92合意は馬政権時代に、主権問題を双方が棚上げし若いと交流を進めるための「マジック・ワード」だった。蔡が民進党政権下で中国と交流する際、どんな新しい「マジック・ワード」を紡ぎ出すかを見守りたい。
 北京は総統就任式で明らかにされる「確定版」が出るまでは、ハードルを上げ民進党側に妥協を迫る策略で臨むはずだ。台湾を専門にする北京の識者やメディア注ⅲが「対話と交流の中断」など強硬姿勢を示す可能性もあるが、それは就任式演説までの「ゲーム」の応酬と考えた方がよい。 
 民進党関係者は既に中国を訪問し、新総統就任演説の内容について北京当局と擦り合わせを開始している。12月31日付「 聯合晚報」によると、英国のノッティンハム大学中国政策研究所のマイケル・コール研究員は、ワシントンポスト紙に対し「蔡英文は既に北京の影響力を持つ人士と対話を開始しており、92合意を含む一連の対中政策について検討を開始した」と「すり合わせ」を認めた。「二つの前提」の第1ハードルである「92合意」の歴史的事実の承認も、擦り合わせを経た北京向けの「善意」とみられる。
北京は「善意」で返せ―台湾識者
 続いて台湾側の反応。台湾夕刊紙「聯合晚報」の政治部長、陳敏鳳は15年12月28日付けの「美麗島電子報」に「中共は蔡英文の善意を聞け」と題する文章を寄稿した。彼女は、中国は蔡が示した「92合意」への「善意」を受け入れて、交流を継続すべきだとし「共産党と民進党の交流の道は、双方の指導者にとって良いことであり、両岸の将来にとっても最も良い方向」と主張する。習近平が示した「善意」に対し、蔡も「善意」を表したと解釈するのである。
 その上で「陳水扁時代の轍を踏むな」と強調する。「轍」とは何か。陳水扁(写真 wikipedia)は2000年5月の就任演説で、穏健な対中政策注ⅳを提唱した。中国が懸念する「独立」の色彩を可能な限り薄めた内容である。陳側近らによると、これは米国との事前の政策擦り合わせの結果示した政策という。陳はさらに同年7月の第2回内外記者会見で「92年精神」という用語を使い「対話と交流、争点棚上げによって両岸の対立を解決する」と、関係安定に向けた妥協姿勢を示すのである。
 しかし、当時は相互信頼関係が欠如していたことから、北京は陳水扁の「善意」を理解せず交流は中断。結局、陳水扁を台湾独立の「基本教義派」注ⅴ へと押しやってしまった、と彼女は見る。今回は、蔡の善意を正面から受け止め、陳水扁時代の関係悪化を繰り返すべきではないと主張する。
 先に、北京は「92合意」という用語には「こだわらない姿勢を示した」と書いたが、陳敏鳳も「92合意は,北京が絶対に必要なキーワードではない」と述べ、「民進党政権になれば、92合意の4文字は封印される」と書く。一昨年の統一地方選挙で台北市長に当選した柯文哲は、15年8月に姉妹都市の上海でシンポジウムに参加した。その直前中国メディアの「92合意」に関する質問に答え「両岸の平和発展の基礎だ。わたしは(92合意の)立場に理解と尊重を示す」と答えた。北京も柯発言を肯定的に受け止めた。「92合意」それ自体を「受け入れる」とは言わずに、「理解と尊重」という言葉による巧みな政治的回答である。
台湾問題を副次変数に―北京・ワシントン
 では、新政権誕生後に両岸関係は安定するのか、それとも陳水扁時代のように緊張が再現するのか。これを判断する上で重要なカギは、東アジアの安全保障をめぐる米中関係と日中関係である。米国務省は蔡勝利を受けて声明を発表した。声明は「われわれは台湾人民同様、両岸関係の平和と安定に強い関心を寄せている。われわれは蔡氏と台湾の全ての政党とともに、多くの共通利益を推進し非公式な交流を強化するよう願っている」とした。声明はあえて馬英九総統についても触れ、両岸関係を改善するため「馬氏がとった強固な歩みを称賛する」と述べた。両岸関係の安定と平和の継続を求める意思を鮮明にしたことが分る。
 2000年に誕生した陳水扁政権は、国民党分裂に乗じた「漁夫の利」による当選だった。ブッシュ政権は就任直後の2001年、大量の台湾向け武器供与を発表し北京を怒らせた。台湾カードで対中けん制したのである。しかし陳政権が「台湾名での国連加盟」など、次々と台独路線で中国を挑発すると、米国も日本も陳政権批判に転じ、陳政権は米日という「後ろ盾」の支持を失い「自滅の道」を歩んだ。
 それから16年。東アジアにおける中国の地位は格段に向上した。米国は北京が主張する「新たな大国関係」という用語を嫌うが、実質的には中国の同意なしに東アジア政策の展開はできない時代に変わった。これが大状況の変化である。
 米中関係に詳しい台湾学者、陳一新氏(15年12月10日付「旺報」)によると、パリで行われた国連気候変動会議で、習近平はオバマ大統領と会談した際、台湾総統選には米中とも介入しない意向を確認したという。これは10月上旬に米中双方が「国民党の劣勢は明らかであり、いかなる介入も役に立たない」との認識で一致したことを踏まえたのだという。台湾問題をめぐる米中協調の一例と言ってよい。
 北京の台湾政策を占う上でもう一つの発言を紹介する。中国の胡耀邦元総書記の息子、胡德華氏は1月4日、北京で「旺報」記者に対し「両岸は過去60数年積み上げてきた前進の事実を無視してはならない。両岸の兄弟が争えば、漁夫の利を得るのは米国と日本だ」と述べた。この二つの発言から導き出される中米の共通利益は「両岸関係の平和と安定」にあるのは明らかであろう。
 北京もワシントンも、台湾問題を米中関係のトゲにしないことで一致する。つまり台湾問題を、「主要変数」としての米中関係の「副次変数」にしたいという意味である。在京の中国外交筋は「北朝鮮が核実験をした。中東情勢やテロは相変らず危機的状況だ」と筆者に述べ、北京にとって台湾問題の優先順位は高くないとの見方を示した。同筋は民進党政権への北京の対応については「聴其言、看其行」(言動を見守る)と答えた。陳政権登場直後にも北京が同じ表現を使ったのを記憶している。
 陳水扁政権と次期民進党政権をめぐる周辺環境の変化をまとめれば①米中関係の比重が格段に高まった②民進党と北京の間に意思疎通のパイプができ北京、台北とも危機管理のシステムが機能③中国の経済減速が顕著になり、北京にとっても安定が優先課題―である。北京は蔡英文政権との経済交流を維持するのは間違いない。同時に、政治面でも関係緊張を避け、「平和と安定」維持に向けた努力を継続しなければ、台湾問題を「副次変数」にできない。これが北京が蔡政権との緊張激化を避け、「平和と安定」の維持を進めるという展望の理由だ。今後は蔡が編み出すだろう「一つの中国」に関する「マジック・ワード」と、どんな折り合いをつけるかが最大の焦点となる。
安部は台湾カードを使うか―日台関係
 最後は日台関係である。安倍首相(写真 2011年安倍が訪台、蔡と握手した=中国評論新聞)は1月18日の参院予算委員会で、蔡勝利に「心から祝意を表したい。今後、日本と台湾の協力がさらに進むことを期待している」と述べた。「台湾は古くからの友人。自由な言論のうえに選挙でリーダーを決める。総統選は自由と民主主義の証し」とも指摘した。
 さらに蔡当選直後、岸田外相は当選に祝意を表す談話を発表した。台湾総統選の結果を受けて外相談話が発表されたのは初めてだ。馬英九が当選した2008年には、対台湾窓口機関、交流協会が祝電を送っただけだった。談話は「台湾は我が国にとって,基本的な価値観を共有し,緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナーであり大切な友人。政府としては,台湾との関係を非政府間の実務関係として維持していくとの立場を踏まえ,日台間の協力と交流の更なる深化を図っていく」と関係強化を強調した。安部政権が対中抑止戦略で台湾カードを使いたい意欲を見せたとも解釈できる。
 一方、蔡も16日夜の内外記者会見で、「日本とは経済、安全保障、文化領域での協力に期待している」と述べ、尖閣諸島(釣魚台)問題では「主権は台湾にあるが、争いが日台関係に影響しないよう希望する」とも述べ、防衛面での協力を含む対日重視の姿勢を鮮明にした。
 先の在京中国外交筋は筆者に対し、新政権誕生に伴う日台関係の変化について強い関心を示した。彼は「馬英九は親米だ。第1期の就任演説の外交政策の中で『親美、友日、和陸』と表現した。民進党はそれに対し親日と言えないか」というのだ。そして集団的自衛権の行使容認と安保法制を急いだ安倍政権がその「親台」姿勢から、台湾カードを使って対中けん制するのではとの懸念を何度も口にした。具体的には、安倍が昨年来日した李登輝と蔡英文に密会したこと。蔡が安倍の実弟の案内で、安部の故郷山口を訪問したことを挙げた。
 中国の研究者も同様の懸念を抱いている。一例を挙げる。上海国際問題研究院台湾香港マカオ研究所の厳安林所長は昨年10月9日、マカオで開かれたシンポジウムで「米日台の安保協力の動向と趨勢は、両岸の和平發展と深化に直接影響し、将来の両岸統一への重大な挑戦になる」と警告した。厳は「中米関係が発展を続ける中で、中米二国間関係における台湾問題の比重は低下したが、一方で米日の安保協力の中で台湾問題の地位は上昇した」との見方を示した。
 厳は「台湾の安全保障枠組みの中で、台日協力は台米安保協力に次ぐ部分を占めている。台湾は日中関係が緊張した時期に台日関係を強化して、『保釣』(釣魚島=尖閣諸島を守る)共同行動をせずに、『日台漁業取り決め』(2013年の日台漁業協定)に署名し、双方の政治・経済と安保協力を強めた」と批判した。漁業協定が結ばれた際、北京は馬批判を抑えたが、本音は腹が煮えくり返ったはずだ。厳コメントはそれを表している。
 在京中国外交筋は「安倍政権が日本版台湾関係法を上程する可能性は?」などと、日台関係の変化について筆者に質問した。これに対し筆者は「新たな日台関係のカギは日中関係が握っている。日中関係が良好なら安部政権も露骨な親台政策は出せない。しかし、悪化すれば台湾カードを切るかもしれない」と答えた。安倍側近の一人、萩生田光一官房副長官は「台湾関係法」について1年後の上程をほのめかす発言をしている。中台緊張が激化する事態になれば、「親台派」議員が台湾関係法の国会上程を真剣に検討し、安倍政権も許容する可能性がある。そうなれば日中関係は、尖閣国有化の際の対立をはるかに超え、火花が散る事態になる。
  両岸関係の平和・安定は、米中、米台、日中、日台という重層的な二国間関係の中で、台湾問題の緊張リスクを低減させた。日台関係でいえば、2011年の「投資協定」と「漁業合意」は、両岸関係が良好だったからこそ実現できたのである。関係が悪化すれば、北京が横やりを入れる恐れは十分ある。その意味で、良好な中台関係は日本にとっても大きな利益をもたらす。
 台湾海峡の現状維持と良好な中台関係は、東アジアにおける共通利益の鍵である。北京も決して台湾統一を急いでいるわけではない。経済成長の勢いが鈍り、暴動多発など内政安定が最優先課題であり、習政権は台湾問題を国際政治で焦点化させない努力をするはずだ。
 (了)
「小三通」中台間の「三通」とは中国と台湾の直接的な通信、通商、通航を指す。1949年に国民党が台湾に敗走して以来、双方は軍事的対立を続けたが、中国は70年代末から柔軟姿勢に転換、三通の解禁を呼び掛けた。蒋経国総統(当時)は中国と接触しない政策を取ったが、80年代末に台湾人の大陸訪問が許可されると人的交流が増加。対中投資が増えるにつれ、台湾経済界もコスト減などのため早期実現を要求。陳水扁(ちん・すいへん)政権は2001年、金門、馬祖両島と福建省を結ぶフェリー航路を意味する「小三通」解禁に踏み切った。
「両岸交流に関する法規を緩めた」とは、第1期陳水扁時代の2001年8月26日、対中経済政策の見直しを検討していた超党派の総統諮問機関、経済発展諮問委員会は、中国への直接投資や「三通」の解禁を盛り込んだ36項目の答申を指す。答申は李登輝時代の対中投資原則である「戒急用忍」(急がず忍耐強く)を放棄して「積極開放、有効管理」の原則を採用。①直接投資の開放と投資額の上限廃止②台湾の世界貿易機関(WTO)加盟後の中国との直接貿易解禁③空と海の中台直航解禁④中国資本による不動産投資の開放―などを列記したのである。①と②は陳政権時代に開放されたが、③、④は馬英九時代に実現した。これらの提言を主導したのは蔡英文だったという自負を表明したのである。
メディア報道
 例えば「人民日報」傘下の「環球時報」は12月28日付けの社説で「もし『92合意』を『92年事実』に変えるとするなら両岸対立を拡大するだけでなく、『対立』と『合意』を並列し、「求同存異」の出発点に後退させることになる」と批判。「蔡英文は当選後も『92合意』を無条件に受け入れる可能性は低く、両岸間で新たな駆け引きが再現されるのは避けがたい」と論評した。
「4不1没有」①独立を宣言しない②「二国論」を憲法に盛り込まない③国名は変更せず④独立の住民投票は行わずーの「4不」と「国家統一委員会と同綱領は廃止しない」の「1没有」を指す。
「基本教義派」 台湾独立イデオロギーに忠実なグループ。民進党内では約3割を占めるとされる。
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