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     第64号 2016.03.12発行 by 岡田 充
    民進党の政権復帰と両岸関係(上)
安倍政権の台湾カードを懸念
章念馳がみる台湾と国際関係
 中国の上海を3月初め訪れ、台湾問題や東アジア情勢の専門家(写真右 章念馳)と意見交換した。最大の関心事は台湾の政権交代。5月20日にスタートする蔡英文・民主進歩党(民進党)政権への中国の対応と、それが両岸関係にどう影響するのかである。両岸関係は足踏み状態が続く日中関係だけでなく、対立局面が目立つ米中関係にも影響を及ぼす。つまり東アジア情勢全体が様変わりする可能性がある。注目されるのは、大陸の台湾問題専門家の新政権下における日台関係の変化。日台自由貿易協定(FTA)の調印や安全保障協力など、対日関係が強化される可能性に着目している点だ。特に、彼らは安倍晋三首相が対中けん制のため「台湾カード」を切ることに強い警戒心を示した。中国は、日本の南シナ海問題への介入に不快感注ⅰ を露わにしている。民進党政権下での日台関係の行方は、日中関係と東アジア情勢にとって「大変数」になる可能性がある。
 民進党の政権復帰が両岸関係にどのような影響をもたらすか、上下二回にわたって報告する。上は大陸編である。
習近平が原則論
 台湾問題をめぐっては、王毅外相が2月25日米国で、新政権に対し「大陸と台湾は共に、一つの中国に属することを基本にした彼らの憲法体制の条項受け入れを表明するよう期待」と発言したことが、台湾側で大きな波紋を広げた。北京が台湾側の憲法の存在を認め、同時に「中華民国」の存在を認めた、などとする過剰な期待すら生むのである。
 これに対し習近平総書記は、3月5日開幕した全人代の上海代表団との座談会で「我々の台湾への大政治方針は明確で一貫しており、台湾政局の変化によって変わることはない」とし、さらに「92合意(原文は「92共識」=コンセンサス)は両岸関係の性質を明確に定め、両岸関係の平和発展のカギ」と述べた。そして「92合意の歴史的事実を承認しその核心的含意を認めれば、両岸に共同の政治的基礎ができ、良好な双方関係が維持できる」と強調した。
 王毅発言が、台湾側に誤ったシグナルを送った可能性を意識したのだろう。原則論を再び強調したのである。習は王発言には一切触れなかった。蔡英文の正式な対中政策は5月20日の就任演説で明らかにされる。民進党は北京に「密使」を送り、両岸政策のすり合わせをしている。しかし、就任演説までは高いハードルを設けて台湾側に譲歩を迫る戦術で臨むはずだ。「譲歩した側が負け」という感覚が根強い華人文化からすれば、最初は原則論を強く押しだし、交渉の過程で「底値」を探り妥協点を見いだすのが一般的である。「性善説」に立って、交渉相手にも「誠実」を求める日本的基準から、中国式交渉を判断してはならない。
 観客席にいる我々としては、どんなシナリオの変化が舞台裏で進んでいるのかを探らねば、ストーリー展開は理解できない。表面的なセリフをなぞるだけでは劇の意味は分からない。
現状維持を期待する米政府
 本稿で紹介するのは、中国の台湾政策に強い影響力を持つ上海東亜研究所の章念馳所長とのインタビュー(上海 3月4日)である。章はその中で多くの興味深い示唆をした。中国の台湾政策を展望する一助にしたい。インタビューは夕食を挟んで3時間に及んだ。章発言を要約すると(1)米政府は平和安定という台湾海峡の現状維持を目指している(2)安倍政権が台湾カードを使おうとしているのは残念。日本は大局観を持つべき(3)中国は両岸の平和・安定の保持を願っており、自制的に対応(4)王毅の「中華民国憲法発言」は「92合意」の放棄を意味しない。憲法が「一つの中国」に基づくことを強調しただけ(5)民進党との間で未来を切り拓く新たな「共識(コンセンサス)」ができればよいが、それまでは「92合意」を守る―などである。
 章所長注ⅱは、辛亥革命に参加した国学者、章太炎(章丙麟)=写真右下=の孫にあたり、鼻立ちは祖父を彷彿とさせる。両岸の窓口機関、両岸関係協会の故汪道涵会長のブレーンで、台湾問題で穏健な提言をしてきた。江沢民元総書記の台湾政策「江8点」の起草作業に携わり、胡錦濤前総書記の台湾政策「胡6点」(2008年12月)策定にも関与、習近平政権下でも影響力を維持している。同研究所はことし(2016年)設立から19年を迎える。
 章はまず、台湾問題の位置付けについて「台湾自体の問題というより、中米関係とアジア地域全体にかかわる問題だ」と指摘。中米関係の中の台湾問題について「中米間では矛盾も多いが協力できる空間も多く、矛盾より共通利益が勝る」とした上で、米国政府は新政権下の台湾問題を米中関係のポジティブな要因にするか、それともネガティブなものにするのか計算している最中とみる。そして「米国は台湾問題を大きくしたくはない。大きな問題になれば中米間の危険な要因になるからだ」とし、オバマ政権が、馬政権下で進んだ両岸の平和安定という現状維持の継続を希望しているとの見方を示した。
 米国務省の公式見解をみよう。国務省は蔡当選の当日(1月16日)「両岸関係の平和と安定に強い関心を寄せている。蔡氏と台湾の全ての政党とともに、多くの共通利益を推進し、非公式な交流を強化するよう願う」とする声明を出した。さらに馬英九にも敢えて言及、両岸関係改善に向けた「馬の強固な歩みを称賛する」として。両岸関係の安定と平和継続を求める意思を鮮明にしたのである。
岸田外相の声明の意味
 一方、日本政府はどんな対応をしたか。岸田外相は当選直後、祝意を表明する異例の歓迎声明を発表した。台湾総統選の結果について日本政府が声明を発表したのは、1972年の日台断交以来初めてだ。安倍政権がいかに台湾を重視しているかがうかがえる。日本メディアは、これをさらりと報道しただけだった。声明の真意と舞台裏を掘り下げる報道が欲しいところだ。
 岸田は「台湾は我が国にとって,基本的な価値観を共有し,緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナーであり大切な友人。非政府間の実務関係として維持していくとの立場を踏まえ、日台協力と交流の更なる深化を図る」と、関係強化を強調した。これを読むと、台湾はまるで日本の「同盟国」のように映る。米国務省の声明に比べてさらに踏み込んでいることが分かろう。これを中国側は「対中抑止戦略で台湾カードを使う意欲の表れ」(王少普・上海交通大学教授)と読み込む。この見立ては正しいと思う。
 安倍自身も1月18日の参院予算委員会(写真左 日本テレビ)で「(蔡当選に)心から祝意を表したい。日本と台湾の協力がさらに進むことを期待」と述べた。断交以来、日台関係を「非政治関係」に限定してきた日本政府の従来の姿勢から見れば、踏み込んだ発言である。
逆コースなら大きい代償
 一方、蔡英文も当選当夜の記者会見で「日本とは経済、安全保障、文化領域での協力に期待している」と述べ、防衛面協力を二番目に挙げるなど対日重視の姿勢を鮮明にした。王教授はこれら日台双方の発言を踏まえ「一番心配なのは、右派議員が準備している日本版台湾関係法の国会上程。それと兵器技術供与を含む防衛協力だ」と述べた。
 この点について章は「日台関係の複雑性は理解している。しかし日本がこの機会を利用しようとしているのは遺憾。台湾問題を台湾問題として論じてはならず、大局的な思考で対応してほしい。両岸の平和安定は(関係国の)共通利益だ」と述べた。さらに「われわれは蔡の当選以来、かなり自制を保ってきた。それは両岸関係を良好にするためである。もし両岸関係が混乱すれば、蔡は米国と日本に頼ろうとするだろう。蔡は記者会見で日本との安保協力を希望したが、(中国にとって)敏感な問題だ。恐らく日米安保に台湾を関与させたいのだろう。台湾関係法に安保を絡ませようとするのは自制すべき」と、日台安保協力を牽制した。
 では中国はこうした動きにどう対応するのか。章は「中国はかつて正しくない(政策上の)選択をした」と述べ、1996年の台湾海峡危機などと同様の武力威嚇で臨む可能性は否定。さらに日中関係について「最大の利益は日中の密接な協力関係だ。逆コースをたどるなら、東シナ海、南シナ海、台湾海峡問題が焦点化し、日中双方が払う代償は極めて大きい」と、日台関係が日中関係に及ぼす恐れを強く警告した。ここまでが、新政権と国際関係に関する章の見立てである。
「92年」攻防
 ここからは、習近平の原則論に対し舞台裏でどんな「すり合わせ」が進んでいるかを振り返る。民進党政権下で両岸関係がどう展開するかを占う上で、重要なポイントは幾つかある。中でも注目されるのは(1)「92年合意」をめぐる中台の攻防(2)「一つの中国」を前提にして組み立てられた中華民国憲法の扱いーの2点である。習近平は冒頭に紹介した座談会で「92合意の歴史的事実を承認し、その核心的含意を認めれば、両岸に共同の政治的基礎ができ、良好な双方関係が維持できる」と述べ、①「92合意」の歴史的事実の承認②その核心的含意を認める―を現状維持の2前提条件とした。
 核心的含意とは「両岸はともに一つの中国に属する」(両岸同属一中)という意味であり、北京は「92合意」という用語には必ずしもこだわっていないことを示したものと、私は解釈している。習発言は、民進党政権へのボトムラインを示したという意味で「善意」の表明でもある。
 蔡(写真右 米タイム誌=2015年6月号「She Could Lead The Only Chinese Democracy」の表紙)の対応を振り返る。選挙キャンペーン中の候補者テレビ討論(12月25日)で蔡は「民進党は1992年の兩岸会談の歴史的事実を否定したことはない。当時、双方が『小異を残して、大同を求める』(求同存異)に基づき両岸関係を前進させようと、対話とコミュニケーションを推進した経緯と事実は認めている」と述べた。ポイントは、「合意」ではなく「会議」を使ったことにある。さらに、当選後の台湾紙「自由時報」とのインタビューで「1992年の歴史的事実を理解し尊重する」と一歩踏み込んだ。「92年」とだけ言ったことに注目したい。さらに曖昧にぼかした、と受け取れる表現である。
 蔡には口が裂けても使えない二つの言葉がある。「一つの中国」と「92合意」の二つ。これを認めないのは民進党の党是であり、違反すれば党内だけでなく民進党支持者から見放される。だから蔡は「92合意」ではなく「92会議」「92年」というギリギリの表現を使ったのだ。
「中華民族」だけでは不十分
 章念馳はこの蔡発言をどうみているのか。「蔡の大陸政策は確かに変化している。蔡当選は、多くの台湾民衆が彼女を支持した結果だ。だから彼女は台湾民衆が良好な両岸関係を望んでいるのか、それとも悪化を望んでいるのかを選択しなければならない。両岸関係には地理、歴史、文化と伝統など多くの絆があるが、92年合意は政治的な絆である。その最も重要な意味は、双方は共に中国の一部分であるという認識だ」と述べた。
 筆者はこれに対し、92合意とは、北京と台北では解釈が異なる「国共合作のマジックワード」だったから「共民合作の新マジックワード」をつくる必要があるのではと問うた。これに対し章は「台北市長の柯文哲も2015年、上海に来た時に同じ発言をした。新コンセンサス(共識)が、新たな空間をつくり双方に有利なら、将来を切り開く良いことだ。新たな共識をつくってほしいが、それができるまでは92共識しかない」と述べた注ⅲ。マジックワードについては「就任式まで時間がある。今占うのはまだ早い」と述べた。
 また5月20日の総統就任式まで「われわれは次の点に注目している」とし(1)彼女は現状維持を変えないことを堅持すると言う。民進党内には変えたいと願っている人士がいるが、蔡はそれに賛成しないとしている。その立場は歓迎する。さらにその内容を観察したい(2)新政権にどんな人物が入るか。民進党内の中間派、特に両岸関係を理解している理性的な人物が入るかどうかーを挙げた。
 蔡は対中政策の策定に当たり「意思疎通、挑発せず、不測の事態回避」(溝通、不挑釁、不會有意外)」の3原則を挙げている。北京との意思疎通を通じて「相互信頼関係」を築き、(陳水扁時代のように)独立カードで挑発せず、想定外の事態を招かぬよう危機管理をするという意味である。3原則は既に機能し始めている。2つの例を挙げる。第1は「孫文像を学校から撤去すべきし」と公言した莊瑞雄・民進党立法委員の発言に対し蔡は「大局を考えて発言するよう」否定的な論評をした。「憲法体制の維持」に沿う方針である。第2に民進党が起草した「両岸協議監督條例草案」にあった「中国と台湾」という「2国論」を想起させる表現を止めて「両岸」に変更した。「独立カード」と受け取られぬようとの配慮である。
 就任演説で蔡はどこまで北京向けの善意を示すだろうか。例えば「中国人」の代わりに「中華民族」という表現をすればどうか。これは馬英九も2008年の就任演説で使い、胡錦濤もよく使う言葉だ。「北京はこれを使えば少し安心するのでは」と問うと、章は「それだけでは不十分」と答えた。
「憲法」の核心は領土範囲
 次は難題中の難題である。「一つの中国」について蔡はどんなマジックワードを用意するのだろうか。蔡は2015年6月3日、ワシントンの超党派シンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)での講演で「中華民国憲法体制の維持」を表明した。2016年2月25日、そのCSISで王毅(写真左下)が「彼女が両岸関係の平和発展を追求するとともに、大陸と台湾は共に一つの中国に属することを基本にする彼らの憲法体制の条項受け入れを表明するよう期待している」と「一中憲法」を提起したのは、蔡への「善意」の表明である。筆者は「両岸のすり合わせが予想以上に進んでいる表れ」と見立てた。
 章は「台湾では多くの人士が(王発言を)北京は中華民国憲法の存在を認めたのではと過剰反応した。しかし蔡は王発言の真意(「一中」)について理解していると思う。彼らの憲法は領土の範囲として、台湾本島と金門・馬祖を含む中国大陸全体を前提にしている。これが一中の意味だ。しかし蔡が、台湾の領域として台湾本島と金門・馬祖しか挙げないとすれば愉快ではない。一中憲法であることを尊重するかどうかと見守りたい」とコメントした。
 この説明で王毅発言の真意が分かるだろう。王毅は蔡が「中華民国憲法体制の維持」を表明したことを踏まえた上で「一つの中国に属することを基本にする彼らの憲法体制の条項受け入れ」を迫ったのである。
 章が言うように、蔡がもし領土の範囲を台湾本島と金門・馬祖に限定するなら、それは「憲法一中」ではなくなり、「憲法台独」になってしまうという意味である。もし蔡が共民合作の新マジックワードとして「憲法共識」を打ち出すなら、その核心は領土の範囲にあることを明確にする必要がある。
 
両岸密使はだれか?
 民進党が北京と事前のすり合わせをしていることは何度も指摘した。両岸関係協会の孫亜夫会長は3月5日付けの「環球時報」で、両岸の「特殊なパイプ」について「大陸の学者の民進党系学者の接触と交流は、1月16日の蔡当選以降はストップした」と明らかにした。これが事実かどうか確認は難しい。同時に孫は、このインタビューで「92年合意という政治的基礎が破壊されるなら、両岸の協議は中断されるなど厳重な影響を受ける」と警告したことを付け加えよう。
 しかし昨年秋に、蔡政権の重要ブレーンの邱義仁(右 台湾TVBSの画面)が北京で、中国側と意見のすり合わせをした。さらに民進党創設者の一人で、陳水扁政権下で両岸関係協会会長を務めた洪奇昌、台湾大教授の陳明通・元大陸委員会主任、民進党副秘書長や立法委員を務めた弁護士の邱太三らが頻繁に大陸を訪問している。いずれも陳政権時代は「深緑」とされた人士だが、大陸ビジネスに手を染めるなかで、大陸に取り込まれた洪のような人物もいる。陳は自ら「私こそ密使」と公言している。自ら「密使」と公言する密使など存在しないから、彼は除外しても良い。
 李登輝時代の「密使」は(1)秘書の曽志誠(2)総統資政を務めた曽永賢と張栄豊・中華経済研究院副院長―などが知られている。(1)は役割を終えたが、(2)は曽と張の配下が、民進党系の研究者として健在である。蔡政権下での役割は鮮明ではないが、「深緑」だが蔡の信頼が厚く、国際情勢をきちんと把握し理性的な判断ができる邱義仁の役割は注目すべきである。
 (了)
 中国外務省の洪磊・報道官は3月10日の記者会見で、フィリピンが日本から練習機5機を借りて南中国海をパトロールすると発表したとの報道について「フィリピンの行動が中国の主権と安全保障上の利益を侵害するなら、中国は断固反対する。日本は南中国海の係争の当事者ではなく、その行動を強く警戒している。日本が言動を慎み、情勢を複雑にし、地域の平和と安定を損なうことをしないよう促す」と述べた。
 章とは08年初め東京で会った。その時の意見交換の内容と論文の抄訳を海峡両岸論大8号(http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/ryougan_08.html)から引用する。
 章は2008年初め来日した際、中台統一問題についての筆者の質問に対し「統一は過程に過ぎない。ある日突然実現するわけではない。経済相互依存関係の深まりなどを通し実現する、非常に『長い過程』である。3,40年かかる」と答えていた。いまから考えれば「胡6点」で鮮明になる台湾政策の「平和統一から平和発展への転換」を、あの時点で示唆していたことが分かる。
 さらに章は「江8点」について「台湾の主流民意とは何か。94年ごろ汪道涵と10数回にわたって研究し、それを4点に絞って中央に提言した。主流民意をまとめれば第1に安定、第2に平和、第3は発展、第4は『しかるべき地位』だった。中央に提言すると4番目は消されていた」という興味深い秘話も明かしてくれた。その後、彼は著作や論文でこのくだりを自ら明らかにしている。
 先の論文「両岸60年 自ら経験した大転変」(以下「両岸60年」と略)の中で、自ら参与した台湾工作の経験を振り返り、現在と将来の台湾政策を12項目に要約している。これを読むと、現在の台湾政策の基調である「平和発展論」の具体的なイメージがつかめると思う。まず胡錦濤時代の台湾政策の特徴と、馬英九政権誕生に至る経緯などについて章は次のように書く。少し長いが以下に抄訳を載せる。

 ―われわれは2008年に台湾で再度政権交代させることを、間接的に促した。そして「92年合意」を再確立し、未曾有の「三通」の新時代を切り開いた。「国共協議」「国共フォーラム」は「第3次国共合作」の役割を発揮、両岸は「平和発展」の新時代に入った。
 両岸の要因は台湾の選挙情勢を左右するようになり、「反中」は民進党が票獲得のための唯一の選択肢ではなくなった。両岸関係を改善することは、逆に有権者の普遍的要求になる。グローバルな経済危機に直面して、台湾は中国に依拠してこそ危機から脱出出来るのであり、両岸が共同利益を求める道こそが危機脱出の出口だ。
 両岸が「平和発展時代」に入り、「三通」を実行し大交流、大協力の時代に入り、対話と交渉が対立と対抗に替わり、経済融合が軍事的対立に替わることは、両岸が共同利益と共同の意識、共同文化と共同の価値と共同の民族主義を育み、創造する好機である。
 「平和発展期」は「平和統一期」に向けて必ず通過しなければならない過渡段階である。この段階は決して短期ではない。必ず「先経後政」、「先易後難」から始め、両岸の解けない政治的な結び目をほぐし、政治的和解を獲得することである。台湾で再び政権交代が起きる可能性はあるが、台湾が李登輝、陳水扁の時代に戻ることは民衆が許さない。その時代は終わった―
 この現状認識を基に、章は12項目の政策提言にまとめている。全体についてはネットの原文に当たって欲しい。(2009年9月28日(中国評論新聞網「兩岸六十年 親歴滄桑変」)ここでは幾つかのポイントに絞って読み込む。
 第一のポイントは、繰り返しになるが「台湾問題を必ず中華民族の復興の偉大なプロセスの中から考慮し、中国の未来と運命という大局から考慮し、民族の根本利益と国家の核心的利益を把握しなければならない」(第1項)という点である。彼は続いて「台湾問題を台湾問題として論じてはならない。単純な台湾問題は存在しない」とする。さらに大局から台湾問題をとらえることによって「統一か独立か」という二項対立を脱し、「陳水扁の挑発に踊る」ことから脱したとも書いている。
 第二は、「繁栄し富強で文明的な民主的で近代化した強国を建設することが、統一の保障」(第2項)とし、統一の条件として「繁栄と民主化」を挙げる。さらに、台湾問題を「中国、米国、台湾の三角関係の互動の産物」(第3項)としてとらえ、「統一に影響を与えるこの三要素のうち、中国大陸が自分の事を良くやることこそ鍵である。中国を「大」、台湾を「小」と考えるべき」だとする。馬政権との良好な両岸関係の下で、台湾問題の優先度が後退したことをうかがわせている。
 第三は、武力統一の事実上の否定である。第4項で「平和統一こそが唯一正確な道である。中国人民の反分裂能力と中華文化の統一を維持する能力は、戦争では勝ち取れない」と書く。さらに平和統一も「一朝一石にはできない。平和統一もプロセスであり、各段階にはそれぞれの歴史的使命があり、漸進的な融合を進めることだ」(第5項)とし「先易後難、先経後政」の原則を繰り返す。さらに「政治的な分岐は両岸関係の最も先鋭的矛盾」と位置づけた。北京も台北も、メディアを中心に「政治協議入り」の展望を競って報道するが、彼は、早期の政治協議入りには懐疑的な見通しを示している。
 以上が章念馳の「両岸60年」の要点である。「開明派」と書いたように、彼の提言や見通しがそのまま北京の政策に直結するわけではない。中国経済が極度に落ち込んだり、国内の安定に大きな動揺が生じれば、対台湾強硬派が台頭する可能性は充分ある。
 中国評論月刊2015年9月号「柯文哲訪滬的政治意涵」
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